【令和版】農地法改正の歴史とは? 平成21年以降の変更をわかりやすく解説
農地法は土地の売買や貸借を制限し、安定した生産と耕作者の経済的安定につなげるための法律です。農地法はこれまでも時代の変化に合わせて頻繁に改正されています。そこで当記事では農地法における歴史や変更点、最新の改正点などについて解説します。
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目次
そもそも「農地法」とは? 概要をわかりやすく解説
kelly marken / PIXTA(ピクスタ)
「農地法」を十分に理解していると、農地の取得や賃借をスムーズに行うことができます。農地法はこれまでも頻繁に改正されており、その歴史や改正の目的を知ることは農地法の本質を理解するうえで非常に重要です。農地法の概要について見ていきましょう。
農地転用や売買などを制限し、農地として効率的に利用することを目指した法律
農地法は農業生産の基盤ともいえる農地を守るための法律で、1952年(昭和27年)に制定されました。農地法では農地は耕作者が所有することが適当であると定めており、耕作者の権利や地位の安定を目的としています。
また、農地の転用や売買についても規制があるため、これらの行為には届出や許可が必要です。つまり、農地法とは、農地は農地のままに利用することを目的とした法律だといえるでしょう。
農地法第一章第一条では、以下のように定めています。
『この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もって国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。』
出典:総務省「農地法第一章 総則 第一条」
そもそも農地法は、戦後の農地改革でいわゆる「地主制」の解体を推し進め、農地は耕作者が所有するものとして、耕作者の安定と農業生産力の向上を目的に制定された法律です。農地を耕作以外に転用することや売買や貸借に関することには許可や届出が必要としたのです。
農地を効率的に利用し、安定的な食料供給を確保するために定められた法律といえます。
参考:農林水産省「改正農地法の概要」
対象になる土地は?農地法による「農地」の定義
農地の分類
出典:農林水産省「荒廃農地の現状と対策について(令和2年4月)」「農地法に基づく遊休農地に関する措置の概要」「農林業センサス等に用いる用語の解説」「令和元年 耕地及び作付面積統計」「平成30年農地の利用状況調査」「令和元年の全国の荒廃農地面積」「2015年農林業センサス」よりminorasu編集部作成
農地法による分類
(注1)2号遊休農地:利用の程度が周辺の地域の農地に比べ著しく劣っている農地
(注2)1号遊休農地:現に耕作されておらず、かつ、引き続き耕作されないと見込まれる農地
農林業センサスによる分類
(注3)何も作らなかった田・畑: 災害や労働力不足、転作などの理由で、過去1年間全く作付けしなかったが、ここ数年の間に再び耕作する意思のある田・畑
(注4)耕作放棄地:以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地
農地法の対象となる「農地」とは、耕作のために使用されることを目的とした土地、つまり「田」や「畑」です。農地法第一章第二条でも、以下のように定めています。
『この法律で「農地」とは、耕作の目的に供される土地をいい、「採草放牧地」とは農地以外の土地で、主として耕作又は養畜の事業のための採草又は家畜の放牧の目的に供されるものをいう。』
出典:総務省「農地法第一章 総則 第二条」
登記簿の地目の「田」や「畑」が、農地法の「農地」に当たります。注意したいのが、その土地がどのように使われているのかという利用形態によって判断されるため、農地とされていても現在は耕作されていない「遊休農地」も農地法の対象になることです。
現在、農地ではない土地を開墾することに制限はありませんが、土地の現状について農業委員会が「農地」と判定した場合は規制の対象となります。そのため農地を購入したり、賃借したりする場合にも、農地法第3条に基づいて農業委員会の許可が必要です。
出典:農林水産省「農地取得にかかる基礎的知識」
大きく変わったのはいつ? 農地法改正の歴史・履歴
NOV / PIXTA(ピクスタ)
農地法は、時代の流れとマッチするように一部が頻繁に改正されています。
近年行われた農地法の改正で農家が特に注目すべきなのは、平成21年と平成27年の改正です。平成21年には「農業への参入を促進するための規制緩和」が行われ、平成27年には「農地を所有できる法人要件の見直し」に関する改正がありました。
令和以降には、農地法の一部改正として「農地中間管理事業の推進に関する法律等の一部を改正する法律」が施行されています。
特に注目するべき、平成21年と平成27年の農地法改正の歴史とポイントや、令和以降に施行された「農地法の一部を改正する法律」の詳しい内容について、次項以降で解説します。
効率的な農地活用をめざした、平成21年農地法改正
tsukat / PIXTA(ピクスタ)
平成21年に行われた農地法の改正では「農地の権利取得」、「農地の貸借」、「農業生産法人要件」の3点が抜本的に見直されました。改正後、農業に参入した一般法人は急速に増加しています。平成21年の農地法改正のポイントや成果を解説します。
平成21年の改正で変更になったポイント
平成21年12月15日に施行された「農地法等の一部を改正する法律」において、特に重要なポイントは以下の4つです。
・農地法の目的の見直し
・農業生産法人にかかる要件の見直し
・農地の貸借にかかる規制の見直し
・農地の権利取得にかかる許可要件の見直し
農地法の目的の見直し
「農地法の目的の見直し」では、一般法人による貸借での参入規制の緩和と取得できる農地の下限面積などが見直され、農業への新規参入と農地の有効利用の促進が図られました。
農業生産法人にかかる要件の見直し
「農業生産法人にかかる要件の見直し」では出資制限が緩和され、農協による農業経営の制限が見直されています。加工業者などからの出資についても、一定の者についてはその制限を従来の4分の1以下から2分の1未満まで緩和されています。
農地の貸借にかかる規制の見直し
「農地の貸借にかかる規制の見直し」については一定の要件を必要とするものの、農業生産法人以外でも農地借入が可能になりました。事後に許可を取り消すなどの措置が取れる制度も創設されています。
農地の権利取得にかかる許可要件の見直し
「農地の権利取得にかかる許可要件の見直し」では権利取得の見直しがあり、特例措置を定める主体が都道府県知事から農業委員会に変更されました。
さらに、地域の貴重な資源である農地を最大限に有効活用するために賃借の規制等が見直されたことも改正のポイントでしょう。農地の減少を食い止めるために「農地の権利を有する者は農地の効率的な利用を確保しなければならない」という責務規定が追加されたのです。
これらによって、個人の場合は効率的かつ適切な利用を目的とするならば、農地を取得して農業に参入できるようになり、法人の場合には貸借であれば全国どこでも参入できるようになりました。
改正によって期待される効果
平成21年に行われた農地法の改正により、個人が農業に参入しやすくなりました。また、株式会社でも農地が借りやすくなったため、施行後の約1年10ヵ月で618もの一般法人が農業へ参入しました。
また、施行後の約3年6ヵ月の間に、農地法が改正される前のおよそ5倍のペースにあたる1,261法人が、新たに農業経営に参入しています。平成21年の改正による農地法の抜本的な見直しは、国の農地を最大限に有効利用するために大きな効果があったといえます。
農地面積の集積も推進され、農地が放棄化されずに次の担い手のもとへ引き継がれる「農地利用集積円滑化事業」のしくみも整備されました。
出典:
農林水産省「一般法人の農業参入について」
農林水産省「一般法人の農業参入の動向」
農地を所有できる法人の制限が緩和! 平成27年農地法改正について
こしあん / PIXTA(ピクスタ)
平成27年に行われた農地法の改正では、「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」が見直されました。この改正によって法人が6次産業化などを取り入れ、経営を発展させやすくなりました。また、資金調達のハードルが下げられ、農業の関係者と一般企業との協業などが促進されています。
ここでは平成27年の法改正における改正ポイントや成果について解説します。
この改正で変更になったポイント
平成28年4月1日に施行された「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」における重要なポイントは、「農地を所有できる法人の要件」が見直された点です。
これまで農地を所有できる法人は「農業生産法人」と呼称されていましたが、この改正によって「農地所有適格法人」へと変更され、法人の要件として重要な項目である「構成員の比率」は、当該法人の営む農業との関係性がない者でも構成員として認めるなど、大幅に緩和されています。
「農地転用許可」についても、従来の4ha超の許可権限を国から県へ移すことや、「農業委員会法」において農業委員会の業務は「農地等の利用について最適化を推進すること」と明確化しました。これらの改正は、農業における農地の集積や経済活動しやすい地盤整備が目的です。
改正によって期待される効果
この改正による成果には、「農地を所有できる法人(農地所有適格法人)が6次産業化を図る」ことが挙げられ、経営規模の拡大が期待されています。
ほかにも一般企業や金融機関等による農地所有適格法人に対する投資、農地所有適格法人を間に挟んだ農業関係者と一般企業との協業などの促進も同様に期待されているのです。
キーワードは農地集積! 令和以降に施行された「農地法の一部を改正する法律」について
skipinof / PIXTA(ピクスタ)
令和元年に施行された「農地法の一部を改正する法律」において変更となった点について解説します。ポイントは、農地集積をさらに進めるために、関係機関が一体となって取り組みの支援や事務手続きの簡素化を図ったことです。
まず、事務手続きの簡素化を図るため、集積手法全体のスキームが変更されました。
改正前の事務手続きでは、市町の集積計画と機構の配分計画の2つが必要でしたが、「集積計画一括方式」の創設により、出し手と受け手がマッチングしていれば、集積計画のみで機構への借入れや転貸が可能なしくみが構築できるようになったのです。
再配分は配分計画で実施するなど、集積手法そのものを見直しています。
「配分計画の県認可」についても、改正前は配分計画には県認可が必要でしたが、「集積計画一括方式」では県協議・県認可に変更され、事務手続きの簡素化が図られています。
農地法以外にも、関連する「農地中間管理事業の推進に関する法律」で、農地中間管理機構による農地の貸付けは機構側が借受けと貸付けを同時に行う場合に限り、農用地利用集積計画に基づいて実行できるようにしました。
また、「農業経営基盤強化促進法」の一部も改正され、青年等就農資金の償還期限が12年以内から17年以内へ、公庫に対する利子の補給金支給は15年度以内から20年度以内へと延長されたのです。
この改正により、令和5年度までに農業の担い手に対する農地の集積面積シェアを8割とする目標が掲げられています。
農地法の変更は農業経営に大きく影響する
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農地法は時代の流れに応じて頻繁に変更されており、農業経営に携わる人にとって大きな流れを掴んでおくことは重要です。「農地法」が制定された目的や農地の定義についても再度確認しておきましょう。
平成21年に行われた「農地法の目的に関する見直し」によって農業法人が大幅に増え、平成27年に施行された「農業協同組合法等の一部を改正する等の法律」によって、6次産業として経営しやすい環境の整備、一般企業による投資が促されるようになりました。
最新の令和元年の改正では、よりスピーディーな農地集積を促進するために煩雑な事務手続きが大幅に簡素化された点がポイントです。農地の取得による大規模化を考えている農家や、就農に当たって農地の取得を考えている人にとって必須の知識となるのでぜひ覚えておきましょう。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。