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“水田活用の直接支払交付金”が厳格化! 改正のポイントと農家がすべき対応

 “水田活用の直接支払交付金”が厳格化! 改正のポイントと農家がすべき対応
出典 : masy / PIXTA(ピクスタ)

水田活用の直接払交付金制度はこれまでも見直されてきましたが、令和4(2022)年度の見直しでは、交付対象となる水田の要件が厳格化され、多くの農家が交付を受けられなくなります。本記事では、制度改正の内容や具体的な影響、農家に求められる対応などを解説します。

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主食用米の需給バランス維持や農地の基盤強化、戦略作物の増産など、多くの課題に向けた対策の1つに「水田活用の直接支払交付金」制度があります。令和4(2022)年度にこの制度の見直しが行われ、水田活用に取り組む農家への影響が懸念されています。

水田活用の直接支払交付金(水活交付金)とは?

水田活用 WCS用米 出荷

kinpachi / PIXTA(ピクスタ)

令和4(2022)年の改正ポイントについて触れる前に、水田活用の直接支払交付金とはどのような制度なのか、改めて概要をおさらいしましょう。

米の安定供給や食料自給率向上を目的に、水田を持つ農家を支援する制度

農林水産省のホームページでは、この制度の趣旨を次のように書き表しています。

「国土が狭く、農地面積も限られている我が国において、国民の主食である米の安定供給のほか、食料自給率・自給力の向上、多面的機能の維持強化等を図るためには、持続性に優れた生産装置である水田を最大限に有効活用することが重要」

出典 農林水産省「水田活用の直接支払交付金」

この制度のベースには、2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」で「農業の持続的な発展に関する施策」の1つである「米政策改革の着実な推進と水田における高収益作物等への転換」があります。

この基本計画の中で、米・麦・大豆を通じて以下のような具体的な施策が示されています。

「食料・農業・農村基本計画」内「農業の持続的な発展に関する施策」の1つである「米政策改革の着実な推進と水田における高収益作物等への転換」の内容

出典:農林水産省「食料・農業・農村基本計画」 所収「食料・農業・農村基本計画(令和2年3月31日 閣議決定)」(49~50ページ)「③ 米政策改革の着実な推進と水田における高収益作物等への転換」よりminorasu編集部まとめ(画像出典:SA555ND / PIXTA(ピクスタ))

今後も、米の消費量減少、担い手不足が続くと予測される中、地域ぐるみでできる限り農地を集約し、農業の生産性を上げ、国際競争力のある強い農業を実現させたいという狙いがあります。

令和4年度より、対象となる水田の要件を厳格化する方針が示された

米の需要減少が進むなか、生産を抑制するための転作を促す政策の一環で、収支の逆転を補填する支援策が取られてきました。「水田活用の直接支払交付金」もその1つで、これまでにも改正を重ねてきました。

実際に、令和3(2021)年度の見直しでは、助成単価の増額や対象の拡大、追加支援の新設などの拡充がありました。

水田活用の直接支払い交付金 交付単価の推移

※令和5年度については予定
出典:農林水産省の以下資料よりminorasu編集部作成
「予算、決算、財務書類等」 掲載の各年度「農林水産概算決定の概要」および「農林試算関係補正予算の概要」
「食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料(令和3年7月29日開催)」 所収「ホームページより「米をめぐる関係資料(令和3年7月)」(37ページ)「令和3年度における水田活用の直接支払交付金の見直し全体像」
「食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料(令和4年7月27日開催)」 所収「米をめぐる関係資料(令和4年7月)」(32ページ)「令和4年度における水田活用の直接支払交付金の拡充・見直し全体像」

ところが、令和4(2023)年度の見直しは、転作による米の生産縮小ではなく、輸出を含む新規市場を開拓し、生産性の向上を強く促す方向へ舵を切っていくことを示したものになりました。

変更内容をみると、新規市場開拓米や地力増進作物(緑肥)への産地交付金の新設がある一方、拡大加算の廃止や、対象となる水田の要件の厳格化など、これまで支援を受けてきた農家にとって不利となる改正もあります。

特に問題となっているのが、補助金の交付対象となる「水田」の要件が厳格化されたことです。具体的な改正内容は、次項で詳しく解説します。

この改正により、これまで制度に沿って水田から大豆や麦、飼料作物などへの転作に取り組んできた多数の農家が、支援の対象外となります。

そうなれば、離農や耕作放棄地の増加につながりかねず、農業者、農業関係者、地方自治体などからは懸念の声があがっています。

参考:水田活用の直接支払交付金の改正についての各地の報道例
全国農業共済協会「水田活用交付金見直し/水張りルール厳格化に懸念の声/営農の持続性に配慮を」(農業共済新聞 2022年6月15日)
株式会社秋田魁新報社「水田活用交付金 厳格化、農家戸惑い 「今後5年間コメ作付けなし」対象外 一律に疑問、経営へ影響も」(秋田魁新報 2022年4月27日 朝刊)
株式会社岩手日報社「転作農家 広がる不安 水田活用交付金の要件厳格化 県内 離農や耕作放棄の恐れ」(岩手日報 2022年4圧14日 朝刊)
株式会社熊本日日新聞社「水活交付金、厳格化に危機感 県内中山間部 米から転作の生産者 」(熊本日日新聞 2022年9月5日 朝刊)

「水田活用の直接支払交付金」の見直しにおける3つのポイント

令和4(2022)年度に行われた見直しのうち、特に注目すべき3つのポイントについて解説します。

1. 今後5年間、水張りをしない水田は補助金の対象外となる

水田の水張り

HiroHiro555 / PIXTA(ピクスタ)

最も問題視されているのが、交付対象となる水田の要件に関する変更点です。

もともと、平成29(2017)年度における見直しで、「畦畔などの湛水設備のない農地」や「用水供給設備のない農地、または土地改良区内にあって賦課金が支払われていない農地」は対象外とする基準が追加されていました。

しかし、これまでその基準が守られていない地域があったため、今回の見直しでこのルールが再徹底されています。

それとともに、令和4(2022)~令和8(2026)年の5年間に一度も水張りが行われない、つまり水稲作付けされない農地は令和9(2027)年度以降、交付対象水田としない方針が加えられました。

今回の見直しでこの方針を加えた目的は、麦や大豆など転換作物の作付けが固定化している場合はそのまま畑地化を促し、水田機能を維持しながら転換作物を輪作している場合は、ブロックローテーション体系の再構築を促すというものです。

そうすることで、より事業が有効に活用され、効果的な水田活用につながることが期待されています。

しかし、農業の現場では、これまで制度の趣旨に沿って戦略作物に転作したものの、畑作の収量が思うように上がらず、交付金なしには耕作を続けることが難しいケースや、ブロックローテーション体系を構築したものの6年以上の期間が必要なケースなども見られます。

そのようなケースに対応するために、災害復旧や基盤整備などの事業が行われた農地については、一定の条件を満たせば5年間水張りが行われなくても交付対象とする、という例外規定が設けられる見込です。

出典:農林水産省「【事業のご案内】畑地化促進事業について」 所収「令和5年産 水田活用予算に係るQ&A(令和5年1月27日時点)」

2. 高収益作物への転換に向けた交付金の新設

緑肥作物

Cybister / PIXTA(ピクスタ)・Tiny Nature / PIXTA(ピクスタ)・hiro / PIXTA(ピクスタ)・たかきち / PIXTA(ピクスタ)・fox☆fox / PIXTA(ピクスタ)・あひる / PIXTA(ピクスタ)

今回の見直しでは、産地交付金として2つの支援が新設されました。

そのうちの1つは、畑地化の推進にも関わる「地力増進作物による土づくりの取組」に対する支援です。具体的には、「有機栽培や高収益作物等への転換に向けた土づくり」が対象で「地力増進作物」(緑肥)の作付面積に対して交付単価が設定されています。

この支援の活用によって、水田から転作作物に適した土づくりを十分に行えるため、畑地化後の収量・品質の向上、経営の安定化が期待できます。

もう1つ新設された交付金は、「新市場開拓用米の複数年契約の取組」への支援です。こちらは水田のまま、主食用米から新市場開拓用米を実需者との複数年契約に基づいて生産する場合に受給できます。

畑作から水田に戻す際には、新市場開拓用米を栽培することも選択肢として持っておくとよいでしょう。

出典:農林水産省「食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料(令和4年7月27日開催)」 所収「米をめぐる関係資料(令和4年7月)」(32ページ)「令和4年度における水田活用の直接支払交付金の拡充・見直し全体像」

3. 飼料作物(多年草牧草)に対する交付金が大幅に減額

多年生牧草 オーチャードグラスの収穫風景

HiroHiro555 / PIXTA(ピクスタ)

もう1点、支援対象の農家に深刻な影響を及ぼす見直しがあります。それは戦略作物助成のうち、飼料作物の多年生牧草への交付金が実質減額となったことです。

戦略作物である麦・大豆・飼料作物への交付単価は、10a当たり3.5万円と従来通りで、多年生牧草以外の飼料作物には変更ありません。

ところが、多年生牧草については、当年産において播種から収穫まで行う年が3.5万円で、収穫のみを行う年は1万円に減額されます。

例えば、令和3(2021)年秋に播種した牧草を、令和4(2022)年度内に出荷した場合、出荷した年に10a当たり3.5万円の交付金がもらえます。しかし、令和5(2023)年度以降に出荷した場合、交付金は1万円になります。

実際に何が変わる? 影響を受ける農家の例

それでは、実際に支援を受けている農家では、どのような影響があるのでしょうか。以下で具体的に解説します。

水田転作で麦・大豆等を栽培し、水稲の作付け予定がない農家

水田転換畑での小麦栽培

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

現在、水田転換畑で麦や大豆、そばなどを栽培しており、今後も水田へ水を張る予定がない農家は、そのままでは水田活用の直接支払交付金の対象外となってしまいます。

令和8(2026)年までは引き続き交付金を受けられますが、令和9(2027)年以降は交付金がなくなるので、それまでに十分な収益が得られるように経営改善を行ったり、地域の助成も含めて、ほかに受けられる支援を探したりする必要があります。

水稲を含めた、6年以上の輪作体系を組んでいる農家

<ブロックローテーションの例>

ほ場によって6年以上の田畑輪換になっているブロックローテーション例

a:移植水稲は固定
a-d:水田畑輪換は乾田直播の水稲
b:ほ場によっては6年以上の田畑輪換になっている
e:離れたほ場では畑作のみの輪作
出典:北海道農政部「水田活用の直接支払交付金の見直しに係る関係機関連絡会議」 第2回会議資料「ブロックローテーションの実践事例について 」よりminorasu編集部作成

水稲とそのほかの作物との輪作体系を構築しており、水田機能も維持している農家でも、6年以上の期間でローテーションを組んでいる場合は、上記と同様に令和9(2027)年以降、交付を受けられなくなります。

この場合も、5年以内の期間でブロックローテーションを再構築するか、それによって大幅な収量減が懸念される場合には、交付金を諦めるかの選択が必要です。

多年生牧草や飼料用とうもろこしなどを栽培している農家

飼料用とうもろこし(デントコーン)と牧草の畑作地

kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)

多年生牧草や飼料用とうもろこしなどは、国が作付けを推進している戦略作物ではありますが、転作後5年以上水を張らない場合は交付金の対象から外れます。

さらに、多年生牧草を栽培している農家では、水を張って交付金の対象水田として維持したとしても、収穫だけの年には交付金額が10a当たり2.5万円も減額してしまいます。

近年では、配合飼料の輸入原料価格の高騰により、国産飼料の自給率向上が求められています。そのため交付金が減額されれば、飼料生産農家の経営に大きな影響を及ぼす恐れがあります。

また、この減額については酪農や畜産にも大きな影響があるため、酪農の盛んな北海道などでは深刻な問題として対応が検討されています。

出典:
北海道農政部「水田活用の直接支払交付金の見直しに係る関係機関連絡会議」
株式会社北海道新聞社「営農計画見直し急ぐ*農家 転作交付金支払い厳格化で*今後5年 水路維持や品目課題(北海道新聞 2022年5月6日 朝刊)「転作交付金厳格化 3町で説明会*農業者「納得できぬ」(北海道新聞 2022年3月26日 朝刊 空知地方版)」

「水田活用の直接支払交付金」の今後と、農家に求められる対応

令和4(2022)年の見直しでは、転作に協力してきた農家にとって厳しい内容となりましたが、交付金が実際に交付されなくなる令和9(2027)年までに、農家側でもできる限りの対策を取ることが重要です。ここでは、今後農家に求められる対応について解説します。

5年以内に水稲を作付けるか、交付金を諦めるかの経営判断

<4年4作のブロックローテーションの例>

<4年4作のブロックローテーションの例>

出典:北海道農政部「水田活用の直接支払交付金の見直しに係る関係機関連絡会議」 第2回会議資料「ブロックローテーションの実践事例について 」よりminorasu編集部作成

今回の見直しにより、これまで交付を受けていた農家には、収量減を覚悟してでも交付対象となるために一度水稲を作付けするのか、交付金を諦めて畑地化するかの選択が迫られます。

一度水田に戻しても、その後の収量に大きな影響がなければ、5年に一度水を張って水稲栽培をすることで、支援を受け続けることも可能です。

ただし、ほ場の特性などから、水を張るとその後の畑作で大幅な収量減が懸念される場合は、支援を受け続けることと、畑作を固定化することのメリットをよく比較し、より高い収益を維持できるほうを選びましょう。

6年以上のブロックローテーションを組んでいる農家にとっては、5年以内の期間で再構築するのか、交付金を諦めて現状の期間を維持するのかの選択が迫られます。

多年生牧草の生産農家は、牧草の栽培体系を見直すか、牧草の代わりに水張りをして、飼料用米やWCS用米を作付けるという方法を選択する必要があります。

畑作や園芸作物で「水田リノベーション事業」の助成を受けていた農家は「畑地化促進事業」へ

令和4(2022)年度までは、「水田活用の直接支払交付金」とは別枠で「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」があり、麦・大豆、高収益作物と新市場開拓用米には10a当たり4万円、加工用米には3万円の助成がありました。

令和5(2023)年度から、このうち、新市場開拓用米と加工用米が「水田活用の直接支払交付金」の新たな枠「コメ新市場開拓等促進事業」に移り、麦・大豆、高収益作物などは新しい「畑地化促進事業」に移行します。

ただし、この事業の目的は「畑作本作化への円滑な移行を促すもの」とされており、今後継続されるかは未定です。

今のところ取組みの対象は、「畑地化支援」について令和4(2022)または令和5(2023)年度に畑地化した面積、「定着促進支援」について令和5(2023)年度の取組みに限られています。

出典:農林水産省「【事業のご案内】畑地化促進事業について」 所収「畑地化促進事業」

見直し内容がさらに見直される可能性も? 引き続き動向に注目を

今回の制度見直しについては、課題や反対意見も多く、政府や自民党も引き続きヒアリングを行っており、これまで需給バランスの調整に向けて努力を重ねてきた生産現場の意見を尊重し、農業を続けていく意欲をくじかないような配慮が求められています。

今後、交付対象となる水田の要件に例外規定が設けられ、制度の内容が変更になる可能性も十分にあります。

影響を受ける農家は、交付金の対象外となる令和9(2027)年度までに対応を検討しつつ、今後の制度の動向にも注意しましょう。また、地域で協力し、必要な現場の意見をまとめて国に伝えることも、続けていく必要があります。

転作作物の1つ そば

bigtora / PIXTA(ピクスタ)

米の需要減少が進むなか、生産を抑制するための転作を促す政策の一環で、収支の逆転を補填する支援策が取られてきました。今回取り上げた「水田活用の直接支払交付金」もその1つです。

今回の改正は、転作による米の生産縮小ではなく、輸出を含む新規市場を開拓する方向へ舵を切っていくことを示したものでした。そのために生産性の向上を強く促し、国際競争力を高めようといういう狙いがあります。

しかし、これまで転作に取り組み、持続可能な水田農業に貢献してきた農家にとってはかなり厳しい内容です。

今、農家は、最大限の経営改善は進めつつ、地域で協力して当面の対応策と地域農業の未来を考えていく地点に立っているといえそうです。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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