令和6年(2024年)度「水田活用の直接支払交付金」制度の改正内容と農家への影響
令和6年(2024年)度の「水田活用の直接支払交付金」制度が改正されました。この改正では、これまで転作に取り組んできた農家への配慮が一定程度見られる一方、引き続き生産性向上と高収益作物への転換が推進されています。本記事では、改正内容のポイントと影響を受ける農家の具体例、農家に求められる今後の対応策について解説します。
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目次
水田活用の直接支払交付金(水活交付金)とは?
kinpachi / PIXTA(ピクスタ)
令和6年(2024年)度の改正ポイントについて触れる前に、水田活用の直接支払交付金とはどのような制度なのか、改めて概要をおさらいしましょう。
米の安定供給や食料自給率向上を目的に、水田を持つ農家を支援する制度
農林水産省のホームページでは、この制度の趣旨を次のように書き表しています。
出典 農林水産省「水田活用の直接支払交付金」「国土が狭く、農地面積も限られている我が国において、国民の主食である米の安定供給のほか、食料自給率・自給力の向上、多面的機能の維持強化等を図るためには、持続性に優れた生産装置である水田を最大限に有効活用することが重要」
こうした狙いのもとで、「水田活用の直接支払交付金」は繰り返し改制が続けられています。令和2年(2020年)度から最新の令和6年(2024年)度の推移は、以下の通りです。
令和2年(2020年)度から令和6年(2024年)度の「水田活用の直接支払交付金」の推移
出典:農林水産省の以下資料よりminorasu編集部作成
「予算、決算、財務書類等」掲載の各年度「農林水産予算概算決定の概要」および「農林水産予算概算決定の主要項目『水田活用の直接支払交付金』」
上記の表と合わせて、次に「水田活用の直接支払交付金」の令和2年(2020年)度から令和5年(2023年)度までの主な改正ポイントを振り返ります。
令和2年(2020年)度:基本計画の改訂
2020年3月に「食料・農業・農村基本計画」が閣議決定され、水田の有効活用を推進するための施策が強化されました。これにより、米政策改革の推進と水田での高収益作物への転換が重点的に進められました。具体的な施策は以下の通りです。
出典:農林水産省「食料・農業・農村基本計画」 所収「食料・農業・農村基本計画(令和2年(2020年)3月31日 閣議決定)」(49~50ページ)「③ 米政策改革の着実な推進と水田における高収益作物等への転換」よりminorasu編集部まとめ(画像出典:SA555ND / PIXTA(ピクスタ))
令和3年(2021年)度:高収益作物等の拡大加算
高収益作物の定着促進支援、畑地化支援などの交付金が引き上げられたほか、都道府県連携型助成も始まりました。
令和4年(2022年)度:交付対象水田の要件の厳格化および新市場開拓用米の支援
過去5年間に一度も水張り(水稲作付)を行っていない農地は、令和9年(2027年)度以降、交付対象外となる5年水張りルールが導入されました。また、新市場開拓用米の複数年契約が奨励され、10,000円/10aの支援が行われはじめました。
令和5年(2023年)度:畑地化の促進および高収益作物への転換支援強化
畑地化による高収益作物等の定着を促進するための支援が、さらに拡充されました。
出典:農林水産省の以下資料より
「予算、決算、財務書類等」掲載の各年度「農林水産予算概算決定の概要」および「農林水産予算概算決定の主要項目」所収「水田活用の直接支払交付金等」
令和6年(2024年)度「水田活用の直接支払交付金」制度の主な改正点
HiroHiro555 / PIXTA(ピクスタ)
令和6年(2024年)度の改正点として、以下の3つに注目して紹介します。
- 高収益作物等への作付転換の推進
- 飼料用米の支援単価の見直し
- 5年水張りルールの継続
それぞれ見ていきましょう。
1. 高収益作物等への作付転換の推進
畑地化促進助成には、引き続き、畑地化支援と定着促進支援、産地づくり体制構築など支援、子実用とうもろこし支援を設ける一方で、畑地化支援の高収益作物(野菜、果樹、花きなど)への支援単価は畑作物と同額の14.0万円/10aに引き下げられました。
2. 飼料用米の支援単価の見直し
飼料用米の一般品種に対する標準単価が7.5万円/10a(数量に応じて5.5~9.5円/10aの範囲)に引き下げられました。これは令和6年(2024年)度から8年度にかけての段階的な引き下げ施策の一環で、多収品種への転換が奨励されています。
なお、多収品種は、従来通り数量に応じて5.5万円~10.5万円/10aとなります。
3. 5年水張りルールの継続
令和4年(2022年)度から導入された、5年間で一度も水張りが行われない農地は交付対象から外すという5年水張りルールは継続されています。
この方針の目的は、麦や大豆など転換作物の作付けが固定化している場合はそのまま畑地化を促し、水田機能を維持しながら転換作物を輪作している場合は、ブロックローテーション体系の再構築を促すというもの。
なお、災害復旧や基盤整備などの事業が行われた農地については、一定の条件を満たせば例外として交付対象となります。
出典:農林水産省「【事業のご案内】畑地化促進事業について」所収「令和5年(2023年)産 水田活用予算に係るQ&A(令和5年(2023年)1月 27日時点)」
農林水産省「予算、決算、財務書類等」掲載の令和6年(2024年)度「農林水産予算概算決定の概要」
「農林水産予算概算決定の主要項目」所収「水田活用の直接支払交付金等」
制度変更による影響が予想される農家の例
水田活用の直接支払交付金制度の変更により、影響を受ける農家の事例を見ていきましょう。ここでは、以下の4つの事例を取り上げます。
- 高収益作物への転換を検討している農家
- 一般品種の飼料用米を栽培している農家
- 水田転作で畑作物を栽培中で、水稲作付けの予定がない農家
- 水稲を含めた、6年以上の輪作体系を組んでいる農家
高収益作物等への作付転換を検討している農家
Cybister / PIXTA(ピクスタ)・Tiny Nature / PIXTA(ピクスタ)・hiro / PIXTA(ピクスタ)・たかきち / PIXTA(ピクスタ)・fox☆fox / PIXTA(ピクスタ)・あひる / PIXTA(ピクスタ)
水田で野菜や果樹、花きなどの高収益作物の生産をこれから始めようとしていた農家は、畑地化支援の単価が14.0万円/10aに引き下げられたことで、作付転換のインセンティブが弱まる可能性があります。
高収益作物への転換には施設や機械の導入、基盤整備などの初期投資が必要です。地域の関係者と協力し、基盤整備や施設・機械の導入を共同で行うなど、コストを分担し、効率的な農業経営を実現することが重要です。
一般品種の飼料用米を栽培している農家
飼料用米の一般品種を生産している農家は、支援単価が7.5万円/10aに引き下げられたため、収入減少の影響を受けます。
このような農家は、経営の安定化を図るために多収品種への転換や、地域の畜産農家との連携強化を検討してください。
水田転作で畑作物を栽培中で、今後も水稲作付けの予定がない農家
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
水田転作で麦や大豆、そばなどの畑作物をすでに栽培しており、今後も水稲作付けを行う予定がない農家は、令和9年(2027年)度以降、交付対象外に。畑地化を進めるか、水稲を組み入れた輪作体系を検討する必要があります。
水田転作に取り組んできた農家の中には、畑作物の生産性が安定しており、水稲作付けを行うことが難しいケースもあるでしょう。今後の経営方針を見据えつつ、地域の支援策なども活用しながら、対応を検討していくことが求められます。
水稲を含めた、6年以上の輪作体系を組んでいる農家
ブロックローテーションの例
a:移植水稲は固定
a-d:水田畑輪換は乾田直播の水稲
b:ほ場によっては6年以上の田畑輪換になっている
e:離れたほ場では畑作のみの輪作
出典:北海道農政部「水田活用の直接支払交付金の見直しに係る関係機関連絡会議」 第2回会議資料「ブロックローテーションの実践事例について 」よりminorasu編集部作成
水稲とそのほかの作物との輪作体系を構築しており、水田機能も維持している農家でも、6年以上の期間でローテーションを組んでいる場合は、上記と同様に令和9年(2027年)以降、交付を受けられなくなります。
この場合も、5年以内の期間でブロックローテーションを再構築するか、それによって大幅な収量減が懸念される場合には、交付金を諦めるかの選択が必要です。
転作を進めてきた農家は、5年水張りルールにどう対応すべきか?
HiroHiro555 / PIXTA(ピクスタ)
令和4年(2022年)度の改正以降、転作に協力してきた農家を悩ませている5年水張りルール。ここでは、交付金が交付されなくなる令和9年(2027年)度までに、求められる対応方法を解説します。
5年以内に水稲を作付けるか、交付金を諦めるかの経営判断
これまで交付を受けていた農家には、収量減を覚悟してでも交付対象となるために一度水稲を作付けするのか、交付金を諦めて畑地化するかの選択が迫られます。
4年4作のブロックローテーションの例
出典:北海道農政部「水田活用の直接支払交付金の見直しに係る関係機関連絡会議」 第2回会議資料「ブロックローテーションの実践事例について 」よりminorasu編集部作成
例えば、一度水田に戻しても、その後の収量に大きな影響がなければ5年に一度水を張って水稲栽培をすることで、支援を受け続けることも可能です。
ただし、ほ場の特性などから、水を張るとその後の畑作で大幅な収量減が懸念される場合は、支援を受け続けることと、畑作を固定化することのメリットをよく比較し、より高い収益を維持できるほうを選びましょう。
また、6年以上のブロックローテーションを組んでいる農家にとっては、5年以内の期間で再構築するのか、交付金を諦めて現状の期間を維持するのかの選択が迫られます。
多年生牧草の生産農家は、牧草の栽培体系を見直すか、牧草の代わりに水張りをして、飼料用米やWCS用米を作付けるという方法を選択する必要があります。
見直し内容がさらに見直される可能性も? 引き続き動向に注目を
「水田活用の直接交付金」には課題や反対意見も多く、政府や自民党も引き続きヒアリングを行っており、これまで需給バランスの調整に向けて努力を重ねてきた生産現場の意見を尊重し、農業を続けていく意欲をくじかないような配慮が求められています。
今後、交付対象となる水田の要件に例外規定が設けられ、制度の内容が変更になる可能性は十分にあります。
改正の影響を受ける農家は、適切な対応を検討しつつ、今後の制度の動向にも注意しましょう。また、地域で協力し、必要な現場の意見をまとめて国に伝えることも、続けていく必要があります。
bigtora / PIXTA(ピクスタ)
令和6年(2024年)度の「水田活用の直接支払交付金」制度の改正は、高収益作物への作付転換の推進や飼料用米の支援単価の見直しに加えて、5年水張りルールの継続など、これまでの農業経営に大きな変化をもたらす可能性があります。
こうした変化に対応するためには、地域の実情に合わせた支援策の活用や、農業機械の導入、基盤整備の計画的な実施が重要です。また、地域の関係者との協力や合意形成を通じて、効率的な農業経営をめざすことが求められます。
引き続き、今後の動向に注目しつつ、適切な支援策の活用と経営の見直しを進めていきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。