空豆(そらまめ)の失敗しない栽培方法|品質を上げるコツと収益化のポイント
空豆(そらまめ)は春から初夏にかけて、旬の野菜としての需要が高く、価格の安定した作物となっています。その栽培について、おすすめの作型や品種、収益の目安から水田裏作として栽培する方法、基本的な栽培のポイントなど、多角的に空豆の魅力を伝えるとともに失敗しない栽培方法を説明します。
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水田裏作として栽培されることが多い空豆について、その特徴から水田裏作に向く理由を説明し、栽培方法や注意点、病害虫とその防除方法について解説します。また、大きな実をつける品種や栽培のコツにも触れ、収益を上げるための方法についても紹介していきましょう。
空豆(そらまめ)の作型・栽培時期
ヨシヒロ / PIXTA(ピクスタ)
空豆は発芽適温15~20℃、生育適温16~20℃と幅が狭く、暑さにも寒さにも弱い野菜です。また、花芽分化させるには低温に遭遇することが必要です。そのため環境によって播種・収穫時期が限られます。
栽培北限は東北で、北海道は栽培に向きません。また、暑すぎる環境でも育たないとされています。
「夏まき冬どり」は年間の平均気温が18℃前後で冬期の平均最低気温5℃を下回らず霜が降りない暖地での露地栽培に向いています。霜に当たると枯れてしまうため、冬場は防寒対策が必須です。
「秋まき春どり」は年間の平均気温が17℃以下の地域で行われている最も一般的な作型です。ハウスでも露地でも栽培可能で、冬の低温期に花芽分化し、春の暖かい時期に開花・結実します。
「春まき夏どり」は東北以南の高冷地など冷涼な土地で、春から夏にかけての適温期に生育します。育苗はハウスで行い、露地に定植して低温に遭遇させることで花芽分化させます。
水田の裏作として空豆栽培を検討しているのであれば、「秋まき春どり」の露地栽培に適した品種・作型を選ぶとよいでしょう。
「秋まき春どり」の露地栽培に適した空豆(そらまめ)の品種例
「秋まき春どり」の露地栽培におすすめの品種は「仁徳一寸(にんとくいっすん)」、「三連(さんれん)」、「陵西一寸(りょうさいいっすん)」です。いずれも育てやすく安定した収量が見込めるうえに、3粒以上の莢(さや)の発生比率も高いのが特徴です。
「仁徳一寸」は豆・莢とも鮮やかな濃緑色で色つやに優れ、「三連」は栽培しやすい多収種で3cmほどの大きな実がなりやすく、「陵西一寸」は食味が非常によく長期間にわたって多収穫できます。
変わった品種としては、鮮やかな小ぶりの赤い実のなる「越前赤(えちぜんあか)」も、「秋まき春どり」品種として人気があり、おすすめです。
春どり空豆(そらまめ)の平均流通単価
2018~2020年の4~7月の空豆の平均取引量と平均価格を東京都中央卸売市場のデータでみると、以下のようになります。
出典:東京都中央卸売市場「市場統計情報」よりminorasu編集部作成(対象:全市場、類別検索野菜>豆科野菜類>そらまめ)
このデータから、空豆は毎年5月の取引量が最も多く、暑くなる7月には流通量・価格とも下がること、毎年ピーク時から終盤まで400円前後の比較的安定した価格で取り引きされていることがわかります。
水田裏作の活用で高収益化!品質の高い空豆(そらまめ)の栽培方法
ヨシヒロ / PIXTA(ピクスタ)
水稲栽培をしている農家であれば、水田裏作として空豆の栽培を検討されているのではないでしょうか。初夏の旬の野菜として人気があり、道の駅などの直売所で販売すればより効率よく収益を上げることが期待できます。
この章では、水田裏作に空豆が適している理由や、水稲収穫後の水田を有効活用した空豆の栽培方法について解説します。
水田は空豆栽培に適した環境・土壌
空豆が水田裏作と相性がよい理由は、「秋まき春どり」の作期が水田裏作に合うことだけではありません。空豆は乾燥に弱く多くの土壌水分を必要とし、耕土の深い土壌での栽培が適しています。このような空豆栽培に適した土壌の条件を、水田の土壌は満たしているのです。
空豆は連作障害が発生しやすく、通常は4~5年の休栽期間が必要になります。しかし、水田で水稲を栽培している場合は、夏には、連作障害対策の1つである「湛水処理(たんすいしょり)」の状態になります。これによって連作障害が発生するリスクを軽減できる点もメリットです。
稲刈り後のほ場準備(土作り・施肥設計)
空豆は直播き(直播栽培)、移植栽培のどちらも可能です。水稲の収穫後、播種または定植の2週間前までにほ場全面に苦土石灰を散布して耕起し、1週間前までに元肥を施してよく耕し畝立てを行います。
施用量は、元肥として10a当たり、完熟たい肥3,000kg、苦土石灰100kg、BM熔リン20gを目安にします。そして、畝を作ったあとに窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の三要素を含む化成肥料40kgを散布してよく撹拌します。
空豆の生育には、日当たりがとても大切であるため、畝は広めに作ります。畝幅は少なくとも120cm、できれば150~180cmほどあるとよいでしょう。
播種~育苗、定植
tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)
直播きの場合は、種子が腐敗するのを防ぐため雨天日を避けましょう。株間35~50cm・植え穴の直径5cm前後のシルバーマルチを施すとアブラムシの飛来を抑えることができます。
育苗する場合は、床播きかビニールポットで行います。床播きの場合、播種量は10a当たり10~12L、約2,200~2,400粒が目安です。
種子は一晩流水に浸し、オハグロ(空豆の黒い部分)を斜め下か横に向けて種の頭部が見えるくらいに浅播きします。灌水の後、薄く土をかけるか、わらやもみ殻で被覆します。播種後2週間ほど、草丈5~6cm、本葉2~3枚になった頃が定植の適期です。
追肥~支柱立て
定植後、越冬前に1回目の除草、中耕、土寄せをして生育を促進します。2月頃に2回目の除草、中耕、土寄せを行います。このときに1回目の追肥を併せて行い、3月下旬頃に2回目の追肥を行います。追肥は化成肥料を10a当たり10kgほどが目安です。
茎が伸びて混み合ってきたら、良好な茎を残して切り取り1株7~8本立ちにします。茎を整理し日当たりが偏らないようにすることが、莢を大きくするコツです。
草丈が60~70cmほどになったら、倒伏防止のため、伸びすぎた茎を、最初の着莢節位から15~20節で摘芯します。その後、直径3cm、高さ150cmほどの支柱を畝の外側に4mごとに立て、紐で株を囲むようにまとめて縛ります。
収穫の時期・タイミング
空を向いていた莢が横向きまたは下を向き、光沢が出てきたら収穫適期です。11月半ば頃に定植したものであれば6月半ば頃に収穫期になります。
収穫後は冷暗所にむしろを敷き、重ならないように並べましょう。蒸れを防ぐため、出荷までは麻袋を利用するとよいでしょう。
空豆栽培で失敗しないためのポイント
空豆栽培で特に気を付けるべきポイントを説明します。
【病害虫防除】アブラムシ対策が必須
空豆に多い病害は、葉に淡黄色の斑が入って萎縮したりモザイク状に退色や黄化したりする「モザイク病」や、葉に黒い粉のようなものが発生する「すす病」などがあります。それぞれ病害に適した農薬の散布が有効ですが、どちらの病害もアブラムシが媒介するので、アブラムシの防除が重要です。
育苗期にアブラムシから守るにはシルバーマルチを使いましょう。防虫シートの利用も有効です。また、ほ場周縁の雑草からの飛来を防ぐために周縁の除草も大切です。
ほかにも、「立枯病」や「さび病」など、カビが原因の病害にも要注意です。病変はできるだけ早く発見し、速やかに株ごと取り除いてほ場外に持ち出して処分します。
アブラムシの繁殖、病害の発生を認めたら、速やかに農薬を用いて防除しましょう。
※農薬の使用にあたっては、「そらまめ」と該当する病害・害虫に適用のある農薬を、製品ラベルに記載された使用方法に従って正しく散布してください。
【越冬】低温に耐える幼苗期に越冬させる
空豆は寒さに弱く、本葉数が5枚以上に生長すると寒害を受けやすくなり、-5℃で枯死することもあります。
しかし、幼苗期はかなりの低温にも耐えられるので、越冬の前に生長しすぎないように播種・定植のタイミングを計るのがコツです。また、寒害を防ぐため寒冷紗などで覆うといった温度管理も大切です。
【施肥量】肥料をやりすぎない
基肥、追肥は施用の時期や回数、適量を守り、与えすぎに注意します。
肥料を与えすぎると枝葉が成長しすぎて実が付きづらくなる「つるボケ」になりやすく、栄養過多や不足によって「曲がり莢」になりやすくなります。日照不足も曲がり莢の原因となるので、枝を整理するなどして日当たりにも常に気をつけましょう。
【連作障害】同じほ場での連作を避ける
豆類は、連作すると次第に生育が悪くなる「連作障害」が起きやすいのですが、特に空豆は連作に弱い作物で、栽培の失敗につながります。できれば4〜5年、少なくとも1年は同じほ場での連作を避ける必要があります。
ただし、前述したように水稲の裏作で、夏季に水を張った状態が1か月以上あれば、連作障害のリスクは小さくなります。
連作障害について、より詳しい解説はこちらを参照
shimanto / PIXTA(ピクスタ)
空豆は、春から初夏にかけて旬を味わうことのできる人気の高い作物で、価格も安定しています。連作障害に弱く生育適温の幅が狭いなどの特性を知り、実の太った高品質の空豆の収穫をめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。