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枝豆農家は儲かるのか? 収益アップを実現する方法と成功事例

枝豆農家は儲かるのか? 収益アップを実現する方法と成功事例
出典 : LMC296 / PIXTA(ピクスタ)

枝豆には夏のイメージがありますが、実は、夏以外もニーズがあり、市場でも安定した高値を期待できる作物です。日本の幅広い地域で栽培可能で、近年は水稲の転作・輪作作物としても注目を集めています。この記事では枝豆農家の経営指標と収益性をアップさせる方法について紹介します。

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生枝豆の袋詰め出荷

Ystudio / PIXTA(ピクスタ)

農業を営むに当たっては、できるだけ作業効率がよく、収益性が高い作物を栽培したいと考えている方も多いでしょう。そうした要望に応えられる作物として近年期待が高まっているのが枝豆です。

この記事では枝豆農家の経営指標や収益性をアップさせる方法、取り組みが成功した事例について紹介するので、新しい作物の導入を検討している方は参考にしてください。

枝豆農家は儲かるのか? メリットや特徴を解説

枝豆栽培の特徴として、「幅広い地域で栽培できる」「栽培しやすく、時間当たりの所得が高い」「ほ場環境に適した品種を選べる」の3点が挙げられます。まずは、枝豆栽培のメリットについて解説します。

枝豆は幅広い地域で栽培可能

枝豆は日本の気候に適した作物であり、九州から北海道まで全国各地で栽培されています。中でも栽培が特に盛んな地域として挙げられるのが、関東や東北、北海道です。枝豆の出荷量が多い都道府県は以下の通りとなっています。

都道府県別 枝豆の出荷量(2020年産)

都道府県出荷量シェア作付面積
北海道6,690 t13.1%1,300 ha
群馬県6,260 t12.2%1,100 ha
千葉県4,850 t9.5%756 ha
山形県4,430 t8.7%1,470 ha
埼玉県4,280 t8.4%672 ha
秋田県3,910 t7.6%1,340 ha
新潟県2,610 t5.1%1,560 ha
そのほか18,170 t35.5%4,602 ha
全国51,200 t100.0%12,800 ha

出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(野菜)|令和2年産野菜生産出荷統計」よりmiorasu編集部作成

上記の都道府県別出荷量ランキングでは、上位7位までで全体の64.5%を占めています。また、作付面積の大きい地域が必ずしも出荷量が多いとは限らないのも枝豆栽培の特徴です。

例えば、千葉県と山形県の出荷量の差は約400tですが、作付面積は倍近い差があります。日本では枝豆の栽培に適さない地域はほとんどありませんが、その一方で地域ごとの栽培方法や品種の違いによって面積当たりの収量に大きな差があります。

栽培しやすく、時間当たりの所得が高い

枝豆はほかの露地作物と比べると、反収は低いものの、年間作業時間は短くて済み、作業時間当たりの所得が高い点が特徴的です。枝豆は病害虫による被害も比較的少なといわれており、初めて栽培する方でも取り組みやすい作物といえるでしょう。

例えば、群馬県の農業指標(野菜10a当たり)によると、枝豆(トンネル・普通・中山間)の想定所得は30万1,000円と低いものの、作業時間は297時間で、露地栽培ナスの831時間や、雨除け栽培のトマトの733時間と比べると少なくなっています。

作業1時間当たりの所得を見ると、枝豆の1,013円は、露地栽培ナスの1,682円や雨除け栽培のトマトの1,371円より低いですが、露地栽培ニガウリの1,006円や露地栽培・秋冬どりホウレンソウの766円より高いことがわかります。

また、山形県の農業経営指標(10a当たり)では、枝豆の想定所得は12万7,000円と低いものの作業時間は61時間と、トマト(大玉)の698時間などと比べるとかなり少なくなっています。

作業1時間当たりの所得は、枝豆が2,082円なのに対して、トマト(大玉)は1,408円で、枝豆が高くなっています。

枝豆の経営指標例(群馬県・山形県)

作物収量所得労働時間1時間当たりの所得
群馬県ナス(露地)7,000 kg139.7万円831 h1,681円
群馬県トマト(雨除け)10,000 kg100.5万円733 h1,371円
群馬県枝豆(露地)800 kg30.1万円297 h1,013円
群馬県ニガウリ(露地)3,000 kg36.4万円362 h1,006円
群馬県ホウレンソウ(露地)1,200 kg23.3万円304 h766円
山形県枝豆(露地)500 kg12.7万円61 h2,082円
山形県トマト(大玉)10,000 kg98.3万円698 h1,408円

出典:群馬県農政部ぐんまブランド推進課 運営「ぐんまアグリネット」内「農業経営指標」のページ 所収「R2農業経営指標(野菜10a当たり)」、公益財団法人やまがた農業支援センター「あなたも『新・山形農業人』(平成28年度版)」よりminorasu編集部作成

枝豆の品種は400種類以上

枝豆は全国の幅広い地域で栽培できるため、収量や品質向上のために新品種開発が各地域で行われてきました。現在では400を超える品種があるといわれており、栽培が盛んな地域を中心に数々のブランド枝豆が登場しています。

枝豆には主に白毛豆(青豆)・茶豆・黒豆の3種類があり、それぞれ特徴が異なります。

白毛豆(青豆)

青豆(白毛豆)の代表的品種 サッポロミドリ

gobou3 / PIXTA(ピクスタ)

白毛豆(青豆)は癖がないことから国内で最も流通量が多い枝豆として全国的に栽培されています。主要産地は関東地方で、ブランド品種としては、枝豆生産団体・はねっ娘会(はねっこかい)が栽培した「早乙女」や「毛豆(けまめ)」などが有名です。

青森県産の「毛豆」

flyingv / PIXTA(ピクスタ)

茶豆

薄皮が茶色い茶豆

MIKO / PIXTA(ピクスタ)

茶豆は東北地方を中心に栽培されている品種で、外見は一般的な枝豆と変わりませんが、サヤの中にある実が茶色の薄皮に覆われていることが名前の由来となっています。白毛豆よりも収穫時期がやや遅く(8月上旬から9月中旬頃)、強い甘みがあるのが特徴です。

茶豆のブラント品種には、「だだちゃ豆」や「黒埼茶豆(くろさきちゃまめ)」などがあります。

黒豆

丹波篠山黒枝豆(たんばささやまくろだいず)

白熊 / PIXTA(ピクスタ)

黒豆は関西地方で主に栽培されており、おせち料理でよく消費される品種です。成熟すると黒大豆になりますが、その手前に収穫したものが枝豆として流通します。収穫期は9月下旬から10月中旬と短く、生産量もそれほど多くないため市場に出回ることは少ない種類です。

黒豆のブランド品種としては「紫ずきん(むらさきずきん)」、「丹波篠山黒大豆(たんばささやまくろだいず)」が挙げられます。

▼枝豆の新品種についての記事もご覧ください。

枝豆の収益をアップさせる栽培方法

枝豆は日長や温度によって生育や花芽分化が進む作物で、一般地の露地栽培では3~4月頃にかけて播種し、6~7月頃にかけて出荷する作型です。ただし、トンネルやビニールハウスを利用して、播種時期や収穫時期をずらすこともできます。

枝豆の価格が高いのはいつ?

東京都卸売市場の枝豆の取扱数量と1kg当たりの価格を月別にみると、7~9月の取扱数量が特に多く、価格が安くなっているのがわかります。この時期の産地は、主に関東地方、北海道・東北地方、中部地方です。

取扱数量が少なく、単価が高い時期の枝豆は、主に暖地での抑制栽培・促成栽培によって出荷されています。

東京都中央卸売市場 2021年 枝豆の取扱数量・平均価格

出典:東京都中央卸売市場「統計月報」よりminorasu編集部作成

次項から、単価が高い時期を狙って出荷する、抑制栽培・半促成栽培について解説します。

遅出しで高単価が見込める抑制栽培

枝豆 露地トンネル栽培

CRENTEAR / PIXTA(ピクスタ)

枝豆の抑制栽培は、早生・中早生品種の夏播き(冷涼地では7月頃、一般地・暖地では8~9月上旬頃)をすることで収穫時期を10月まで遅らせる栽培方法です。

前述したように、一般的に枝豆の単価は出荷最盛期にあたる7~9月頃に低くなり、その後は出荷量の減少に応じて上がりやすくなります。抑制栽培は単価の上がった10~11月にかけて出荷できるので、収益性アップに貢献するでしょう。

抑制栽培のポイントは、高温対策を十分に行うことです。例えば、「移植栽培は活着不良を起こしやすいので、直播栽培を行う」「白黒ダブルマルチを用いて地温上昇を防ぐ」などが挙げられます。また、季節柄、ほ場が乾燥しやすいので潅水管理にも注意が必要です。

早出しで高単価を狙う半促成栽培

枝豆のハウス栽培

kita / PIXTA(ピクスタ)

抑制栽培とは反対に7月よりも前に収穫してしまうのが、枝豆の半促成栽培です。抑制栽培と同様に収量の多い時期をあえて避けることで、高単価が狙えます。

ただし、播種時期が2月中旬から下旬になることから、一般地であっても無加温で栽培するにはハウスもしくはトンネルを利用する必要があります。

栽培のポイントも抑制栽培とは反対の低温対策です。例えば、「発芽や育苗は温床線などを利用して適切な温度を保つ」「定植前には地温をキープするために畝にあらかじめマルチを張っておき、その後トンネルを設置する」などが挙げられます。

なお、5月は外国産の枝豆が市場に多く出回っているので、差別化を図るために枝付き300gで出荷すると単価アップにつながりやすくなります。

機械化による作業の効率化・省力化

枝豆の選別作業

nagare / PIXTA(ピクスタ)

枝豆は露地栽培の中でも1時間当たりの所得が高い品種ですが、収穫や選別・袋詰めといった作業にはそれなりの時間がかかります。特に規模が大きくなるとそのすべてを手作業で行うのは難しいでしょう。

そこで、機械を活用してさらなる効率化を図ると収益性アップにつながります。枝豆の収穫作業の機械化はかなり進んでいて、もぎ取り作業の手助けになる自動脱莢機や、選別作業が楽になるコンベアがすでに商品化されています。

導入に当たって費用はかかりますが、枝豆の作付拡大を考えている方は機械化を前向きに検討してください。

▼枝豆の収穫機についてはこちらの記事をご覧ください。

枝豆産地の取り組み事例

ここまで枝豆栽培の特徴やメリットについて紹介してきましたが、栽培管理の負担があまりかからない点や高単価が期待できる点に興味を持った方もいるのではないでしょうか。そこで最後に、枝豆栽培に取り組んで成功した産地事例を2つ紹介するので参考にしてください。

事例1:多くの農家が高所得を実現!北海道中札内村

北海道中札内村 とうもろこしなどの畑作と中札内村産枝豆

ととと / PIXTA(ピクスタ)・どんべい / PIXTA(ピクスタ)

農協による協力を得て適切な輪作体系を導入し、枝豆栽培で日本一の農業所得を実現したのが北海道中札内村です。

もともと北海道中札内村は排水不良地が多く、効率的な輪作ができないことが課題として挙げられていました。そこで、新たな輪作作物の導入を検討していた農家がJAに相談し、地域に合う作物の候補となったのが枝豆です。

具体的には枝豆や小麦、てん菜、スイートコーンなどを作付けする5年5輪作を農家に提示し、それを実現するために区画整理や排水の整備を行いました。

また、生産した枝豆をそのまま出荷するだけでなく、加工品として周年販売したのもポイントです。冷凍加工場を新設したほか、JA女性部と地元企業の協力のもと60種類以上の加工品を開発し、安定収入の確保に成功しました。

加工・販売による枝豆の6次産業化はスタート当初こそ思うように販路を確保できず赤字が続きましたが、JA組合長自らの熱心なセールスにより、大手外食店などの契約がとれ、黒字化を成し遂げています。

現在ではシンガポールやUAEなど、外国へ向けて安心安全な日本産の「EDAMAME」をアピールし、冷凍枝豆の輸出を推進するまでになりました。

出典:
一般社団法人北海道開発協会 広報誌「開発こうほう バックナンバー 2013年所収「枝豆の生産輸出と今後の展望~国際競争に生き残る地域農業の展開~(2013年7月号 通巻600号 事例レポート2)」
農林水産省「農村振興プロセス事例集」所収「高収益な枝豆の安定生産・加工・販売を通じた日本一の農業所得の実現」

事例2:地域ぐるみで効率化と品質向上を目指す新潟県弥彦村

弥彦村の観光情報。キャラクターや、やひこ競輪とともに、枝豆の新ブランド「伊彌彦えだまめ」「伊彌彦ちゃまめ」がアピールされている

弥彦村の観光情報。キャラクターや、やひこ競輪とともに、枝豆の新ブランド「伊彌彦えだまめ」「伊彌彦ちゃまめ」がアピールされている
出典:株式会社PR TIMES(株式会社アルビレックス新潟 ニュースリリース 2021年9月6日)

もともと盛んであった枝豆栽培を地域全体でさらに盛り立て、成功した事例が新潟県弥彦村です。

弥彦村は枝豆を農業振興の柱に据え、独自のブランド品種「弥彦むすめ」「伊彌彦(いやひこ)ちゃまめ」などを次々に開発しました。

開発に並行して国内の販路拡大を図るのはもちろん、ふるさと納税の返礼品に加えて知名度の向上を図るなど、さまざまな工夫をした結果、栽培面積を2021年度の30haから2022年度には66haまで増やすことを検討しています。

ただし、栽培面積の拡大には作業効率の向上も必要です。そこで、弥彦村では国の補助を活用して総事業費約4億5,000万円、延べ床面積約875平方メートルを誇る枝豆の共同選果場を整備しました。

UX新潟テレビ21 Youtube公式チャンネル「枝豆で1億円プレーヤー目指して 弥彦村から スーパーJにいがた9月2日OA」

出典:
新潟県弥彦村産枝豆特設サイト
株式会社新潟日報社「弥彦枝豆振興へ一歩 共同選果場きょう始動 出荷増で所得向上期待(新潟日報 2021年9月3日)」

枝豆は、栽培しやすく、ほかの露地作物より時間当たりの所得が高い作物です。

日本のほぼ全域で栽培可能なので、単価の高い時期に出荷できる抑制栽培や半促成栽培を導入したり、ブランド品種を栽培する、といった工夫をすれば、さらなる収益アップも期待できるでしょう。

水稲の輪作・転作に適した品種を探している方は、今回紹介した事例を参考に枝豆栽培について検討してみてください。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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