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農業におけるマーケティングとは? 経営戦略のポイントと成功事例

農業におけるマーケティングとは? 経営戦略のポイントと成功事例
出典 : fox☆fox / PIXTA(ピクスタ)

農業の世界とは無関係だと思われていたマーケティングを、これからの農業に活用する動きが広がっています。主な目的は、流通ルートの拡大と農産物のブランド化です。多くの顧客に対して、より効率的に販売するためのマーケティングについて、その活用法を紹介します。

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これからの農業には、戦略的な考え方も必要になってくると考えられています。そこで、農業におけるマーケティングが重要視されるようになってきました。この記事では、儲かる農業のマーケティング手法と、具体的な成功事例について解説します。

「農業で儲ける」ためのマーケティングの考え方

野菜 売り場

naka/PIXTA(ピクスタ)

流通におけるマーケティングとは、市場のニーズを的確に把握して、効率よく商品を流通させることをいいます。農業の世界でも、基本的な考え方は変わりません。

より簡潔にいうと、誰に買ってもらいたいかを考えて、農産物を上手に売ることが農業におけるマーケティングです。

ポイントは「流通ルートの拡大」と「ブランド化」

農産物の売上を上げたいのなら、販売する場所を増やすことが最も簡単です。販路を広げられれば、直接的に農産物の販売量を増やせます。

もう1つのポイントは、販売するうえでの付加価値、つまり利益率を高めることです。そのために有効な手段が、農産物のブランド化を図ることです。

流通ルート拡大とブランド化の2つについて、これから詳しく解説します。

流通ルートを拡大する直接販売戦略

野菜 売り場

yasu/PIXTA(ピクスタ)

まずはマーケティングの第1戦略として、流通ルートの拡大によってより収益を上げる方法を考えてみましょう。

農産物における従来の流通のしくみ

これまでのように農家が直接、または、JAなどを通じて卸売市場に出荷し、市場から小売店に卸されるルートでは、その各段階で中間手数料が発生します。

また、卸売市場では、農産物の需給バランスによって取引価格が決まるので、価格変動が農家の収益に大きな影響を与えることがあります。

例えば、端境期に出荷すれば、供給より需要が高いため高い取引価格が付きますが、逆に、収穫最盛期に需要よりも供給が多くなりすぎると、農産物の価格は下落します。

直売できる販路を増やして収益を増やす

市場への出荷に加え、農家から直接消費者に販売するルートが開拓できれば、手数料や販売価格の面で卸売市場出荷より有利になる場合もあります。

直販であっても、農家が自分で直接販売する以外の方法では、当然ながら手数料が発生します。

では、具体的にはどこに売ればよいのか、直販を実践している農家が取っている代表的な販路を見てみましょう。

1. インターネット販売を利用する

自分でインターネットショップを開いたり、大手のオンラインモールに出品したりする方法があります。

2. 直売所に出荷する

近隣に直売所や道の駅があれば、直接農産物を持ち込むこともできます。基本的に委託販売なので、農家にとっては利益率が高いことも魅力です。

3. 飲食店に直接納品する

食材にこだわるレストランでは、農家から直接野菜や果物を仕入れる店も増えています。自分が栽培している農産物に自信があれば、ぜひとも試してみたい方法です。

ほかにもスーパーなどの小売店で、地元産農産物コーナーなどを設置して、そこで販売してもらう方法もあります。

6次産業化も選択肢のひとつ

自ら販売する商品に付加価値をプラスするなら、6次産業化も考えるべきでしょう。6次産業化とは、農家が農産物の加工と流通・販売も行うことです。

例えば、今までは作物として出荷していた野菜を使い、漬物を作ってそれを直接販売すれば、野菜を単独で出荷していたときよりも大きな利益を上乗せすることができます。

6次産業化は政府による支援の対象にもなるので、補助金や助成金などのサポートも受けられます。地域の農家で1つの組織を作り、6次産業化をアピールすることも、1つのマーケティング戦略といえるでしょう。

「マーケティング・サイクル」を回してブランド化をめざす戦略

料理 野菜選び

Mills/PIXTA(ピクスタ)

次にマーケティングの第2戦略として、農産物のブランド化によって、より多くの収益を上げる方法を考えてみましょう。

マーケティング・サイクルとは?

農業のマーケティングで基本になる要素は、農産物・価格・流通・販促の4つです。この4つをコントロールしながら、農産物販売で収益をアップする考え方を「マーケティング・サイクル」といい、次に挙げる5つの取り組みが主な要素になっています。

1. 農家の取り組みと、販売する農産物に対する評価を分析する。
2. 分析をもとにして、今後の栽培計画を練る。
3. こだわりのある農産物を栽培する。
4. 農産物を売るためのしかけ作りを行う。
5. 顧客との信頼関係を深めていく。

この5つを1つの周期で繰り返すことが、マーケティング・サイクルの流れです。

マーケティング・サイクル実施の手順

マーケティング・サイクル実施に当たって、一般的にとられている手順を紹介します。以下の6つのステップを、1つの流れと捉えてください。

ステップ1  市場分析(顧客・競合者・協力者を分析する)

ステップ2  商品コンセプトの開発(今後の栽培計画の策定をする)

ステップ3  試作品作成と商品テスト(将来に向けての栽培実験を行う)

ステップ4  商品情報の伝達(SNS・ブログなどを使って農産物のPRを行う)

ステップ5  販売チャンネル開拓とテスト販売(積極的に販促活動を行う)

ステップ6  顧客の評価・意見の把握(顧客の反応を把握・分析する)

農業経営アドバイザーの支援を受けるのもおすすめ

農業のマーケティング実践に不安を覚えるときには、「農業経営アドバイザー」に相談することをおすすめします。この制度には、金融機関職員、税理士、中小企業診断士などが参加しています。

企業としての農業経営や、融資に関する相談をはじめ、マーケティングに関するアドバイス全般が受けられるので、積極的に利用してみるとよいでしょう。

農産物マーケティングの成功事例

最後に、農業マーケティングを活用して、成功をおさめた事例を2つ紹介します。今後の農業経営の参考にしてみてください。

生産農家が農産物販売のための企業を立ち上げた事例

1992年、群馬県昭和村の野菜生産農家3人が、多数の農家の作物をとりまとめ大口需要先に販売する事業を立ち上げました。現在の「株式会社野菜くらぶ」です。

農家が1次産業である生産を担い、野菜くらぶが3次産業である流通(情報流・物流・商流)を担うという6次産業化モデルです。

具体的には、農家は野菜くらぶに登録し契約栽培を行います。一方、野菜くらぶは、需要先を開拓し(情報流)、農家の栽培した農産物をとりまとめて需要先に出荷し(物流)、代金を回収し農家に支払います(商流)。

野菜くらぶが農家と大口需要先の間に入ることで、農家と大口需要先の双方にメリットが生まれます。農家にとっては、個人では難しい直販で大ロットの受注が可能になるという大きなメリットが得られます。また、大口需要先との口座開設、代金回収の負担が軽くなります。

大口需要先にとっては、野菜くらぶの品質基準が明確にされているため、調達する農産物の品質を担保できます。また、複数の農家を取引先にもつ野菜くらぶから調達することで、安定した調達が可能になります。

現在の登録農家・農業法人は61、登録ほ場数は約1,350枚・約415ha、需要先は生協・宅配業者・小売業者・外食業者・仲卸業者など60~80社という事業規模に成長しています(2020年9月現在)。

出典:
株式会社野菜くらぶ ホームページ
野村アグリプランニング&アドバイザリー株式会社「刊行物」所収「6次産業化の実践モデル~成功にむけた連携のポイント~」(平成28年3月版)
中小企業家同友会全国協議会「すべての人の幸せにつながる感動農業めざして~農業生産法人 グリンリーフ(株)社長 澤浦彰治氏(群馬)」

▼株式会社野菜くらぶ 代表取締役 澤浦 彰治さんのインタビュー記事もご覧ください。

ブランド化戦略で高級フルーツ産地として全国に定着した事例

マンゴー ブランド化

株式会社デザインメイト/PIXTA(ピクスタ)

宮崎県では特産のマンゴーを使って、農家とJA、そして県が一体となった取り組みが進められています。マーケティングのポイントは、高級フルーツであるマンゴーのブランド化です。

1993年には、宮崎県果樹振興協議会亜熱帯果樹部会が発足して、栽培技術の確立と販路拡大や販売方法の見直しを進めました。マンゴーのブランド名も公募して「太陽のタマゴ」が誕生しました。「みやざきマンゴーの日」も制定するなど、地域が一体となってPR活動を推進しています。

その結果ブランド導入前は年間100t程度だった生産量が、現在は10倍の1,000t程度にまで増加しました。

出典:
株式会社宮崎日日新聞社「みやざきマンゴー物語(中)」「みやざきマンゴー物語(下)(宮崎日日新聞 2017年5月8日・5月16日)
株式会社インフォマート 運営「FOODS CHANNEL」内「「特産品ブランド化のお手本。「太陽のタマゴ」が全国区になったワケ~太陽のタマゴ(JA宮崎経済連)」

今後は農業とマーケティング、農業と経営戦略を結びつけて考え、実践する農家が増えていくのではないでしょうか。成功事例が増え収益向上につながることが実証されていけば、農業が産業として活気を取り戻す日も近いかもしれません。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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