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安納いもの産地「種子島」から学ぶブランド化の取り組み

安納いもの産地「種子島」から学ぶブランド化の取り組み
出典 : チリーズ / PIXTA(ピクスタ)

「安納いも」の産地は鹿児島県の種子島。その甘さと焼いたときの独独の食感が話題を呼び、人気となっているサツマイモ(甘藷)です。安納いものブランド化に当たり、安納いもの産地の種子島では全島を挙げて質基準の統一化や加工品の開発などさまざまな取り組みを行ってきました。

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「安納いも」のブランド化は、産地である種子島が全島を挙げて取り組む一大プロジェクトです。ブランド化のために行われている取り組みは、今後の農業に活用できるヒントが詰まっています。この記事では、それらの取り組みについて詳しく紹介します。

全国で人気の 「安納いも」とは?

種子島 安納いも hatake

さくら/PIXTA(ピクスタ)佐竹美幸/PIXTA(ピクスタ)

「安納いも」発祥の地は種子島

鹿児島県にある種子島は、九州の南に連なる大隅諸島を構成する比較的大きな島です。この島は 古くはボルトガルから火縄銃が伝えられた地であり、現在では日本最大のロケット発射場「種子島宇宙センター」がある地として知られています。

また、日本で最初にサツマイモ(甘藷)が持ち込まれた地としても、日本史にその名が刻まれています。

日本甘藷栽培初地の石碑

日本甘藷栽培初地之碑
写真提供:一般社団法人安納いもブランド推進本部

「安納いも」は種子島が発祥であり、焼き芋にしたときに蜜が出るほどの甘さと独特の食感から、芋好きの間では知名度も人気も高いサツマイモ(甘藷)です。その人気の秘密は何なのでしょうか?

「安納いも」の名前の由来

安納いものルーツには諸説あり、東南アジアから伝来したという説が有力です。第二次世界大戦 後にスマトラ島北部から兵士が持ち帰った1個の芋を、種子島の安納地域で栽培し始めたのが発祥といわれています。

その食味のよさから種子島のほかの地域でも栽培されるようになりましたが、最初に栽培された安納地域の名をとって「安納いも」と呼ばれるようになりました。

「安納いも」はなぜ甘い?

安納いもは、極めて甘味が強く、食感は粘りがあってしっとりとしているのが特長です。
安納いもにはほかのサツマイモ(甘藷)よりもずっと多くのショ糖が含まれ、それが独特の甘さを生み出しているのです。

安納いもの糖質含有率

出典:一般社団法人安納いもブランド推進本部ホームページよりminorasu編集部作成

「安納いも」の食感の秘密

また、安納いもは、ほかのサツマイモ(甘藷)より、物質の粘りを増してゲル化を促す多糖類を多く含んでいます。これが、安納いも特有の「しっとり」「ねっとり」した食感を生み出しているといわれています。

「安納いも」の品種

種子島の安納いもは、第二次大戦後から在来種として栽培されてきましたが、鹿児島県農業試験場(現:鹿児島県農業開発総合センター)が1989年から優良品種選抜による育種を行い、1998年10月に2品種が正式に品種登録されました。

1つは「安納紅」と呼ばれる表皮が赤い品種で、もう1つは表皮が白い「安納こがね」です。それぞれ品種登録名とは別に、JA種子屋久が商品登録している別名があり、「安納紅」は「島あんのう」、「安納こがね」は「安納もみじ」と呼ばれることもあります。

いずれも、生の状態で糖度が16度というメロンと同等の甘さを誇り、焼き芋にすると糖度は40度に届くとされています。熱を加えるとクリーム状になる食感も人気の秘密です。

「種子島産安納いも」が地域ブランドとして確立するまで

安納いも 焼き芋

KY/PIXTA(ピクスタ)

これだけ味にインパクトがあれば、1つのブランド野菜として有名になるのは当然かもしれません。ただし、安納いもがブランドとして確立するまでには、紆余曲折がありました。

安納いもはその人気のゆえに、「種子島の安納いも」としての地位がゆらぐほどの危機を経験しています。それを救ったのが「安納いもブランド推進本部」を中心に推進した本格的なブランド化の取り組みです。

種子島の「安納いも」を襲った危機

安納いもは品種登録以前から、おいしさが人気を呼んで、2008年前後から生産量が急激に増加しました。同時に鹿児島県や各市町村、JAなどに消費者から安納いもについて、味や外観についての苦情が寄せられるようになりました。

出典:鹿児島大学「奄美ニューズレター 2013 年 3 月号『安納いもの地域ブランド化戦略に関する課題―ブランド形成過程の相違に着目して―』

原因の1つ目は、安納いも人気で一気に生産者が増え、栽培農家の間に技術的なギャップができてしまったことです。同じ安納いもを栽培しても、生産する農家によって品質のばらつきが生まれてしまったのです。

原因の2つ目は、安納いもの産地が種子島の外にまで広がったことです。鹿児島県が品種登録した安納いも2品種については種子島以外での栽培に制約を設けていましたが、人気が高まるにつれ苗が島外に持ち出され栽培されるケースも出てきました。

また、1998年10月に安納の名を冠して品種登録された2品種は1998年12月24日以前に品種登録されたため、育成者権の存続期間は15年、2013年秋までであり、2014年以降は、ほかの地域でも栽培ができるようになるという事情もありました。

原因の3つ目は、消費者にとって「安納いも」はどれなのかわかりにくいということでした。

前述したように品種「安納紅」「安納こがね」には、地域のJAが商品登録している別の名称が存在しています。また、同時期に品種登録され種子島の名を冠する「種子島ゴールド」「種子島ろまん」という安納いもではない品種もあります。

消費者にとっては、どれが「種子島の安納いも」なのかわかりにくかったのです。

「安納いもブランド推進本部」の設立

この危機を乗り切るために2010年に、生産農家、鹿児島県・西之表市・中種子町・南種子町とJA種子屋久が「安納いもブランド推進本部」を設立し、栽培技術の向上、品質基準の統一などを図ることとしました。

現在では、一定の品質基準・生産基準を満たしたほ場で生産された安納いもだけを「安納いも」としてブランド認証しています。

品質の統一基準「ブリックス値」

2010年に安納いもの食味検査を行ったところ、人がおいしさを判断した食味検査の結果と、甘さの指標であるブリックス値(注)には明確な相関がみられました。

そこで、安納いもブランド推進本部では、ほ場ごとにサンプルを採ってブリックス値を測定し「10.7%以上」であることをブランド認証の条件としています。

(注)ブリックス値:果物や野菜に含まれる糖分の含有率を糖度といいます。糖度の値として広く用いられているブリックス値は、屈折率糖度とも呼ばれ、水にショ糖を溶かした溶液は光の屈折率が水よりも大きくなるという原理を利用しています。

生産・出荷体制の確立「K-GAP」導入

生産者(農家や農業法人など)は、自分が生産した安納いもを「安納いも」として出荷するためには、安納いもブランド推進本部に加入しなければなりません。

その加入の条件として、K-GAP(かごしま農林水産物認証制度)の認証を取得していることが求められます。

K-GAPの認証を取得しているほ場で生産した安納いものみに「安納いも」のブランド認証を与えることで栽培技術による品質のばらつきを防いでいるのです。

具体的には、安納いもブランド推進本部では、会員農家の生産履歴と、前述のブリックス値を分析することで、低ブリックス値の原因を突き止め、高品質の安納いも生産に適したほ場選定指導をしています。

農家は、ほ場ごとの生産履歴とブリックス審査結果をみて次のシーズンの改善に活かすことができるようになりました。

ウイルスフリー苗の供給

品質を確保するために、安納いもブランド推進本部では会員農家にウイルスフリー苗を供給しています。毎年行われる「安納いも品評会」で入賞した安納いもはウイルスフリー苗の優良系統育成のために活用されています。

「安納いも認証シール」による証明

前述の条件を満たしたほ場のみに「安納いも認証シール」を貼って出荷することを許可しているので、消費者に対しても「安納いも」はこれだ、と明確に示せるようになりました。

安納いも認証シール

「安納いも認証シール」
画像提供:一般社団法人安納いもブランド推進本部

一般社団法人「安納いもブランド推進本部」の活動の詳細はホームページをご覧ください。

種子島の安納いもを全国へさらに広めるための課題と取り組み

安納いもグラッセ 西田農産

安納芋グラッセ
写真提供:有限会社西田農産

「甘さの審査」「K-GAP導入」「ウィルスフリー苗の供給」「安納いも認証シール」といったブランドの認証の取り組みのほか、種子島では、安納いもの販路拡大を推し進めてきました。最後にその取り組みについてご紹介します。

付加価値を高める「冷凍焼きいも」の商品化

安納いも 冷凍焼き芋

安納いもをつかった冷凍焼き芋
写真提供:大東製糖株式会社

種子島では安納いもの商品価値を高めるため、積極的な加工品作りも行っています。その1つの成功事例が、安納いもを使った冷凍焼きいもの販売です。

安納いもを焼いてから急速冷凍した商品は、現在全国に向けて販売されています。また、加工すれば付加価値が高まるため、種子島では加工品コンテストなどを通して、新しい加工商品の開発にも力を入れています。

「安納いもグラッセ」の開発

冷凍焼きいものヒット以降、種子島では安納いもの知名度アップのため、新しい加工食品の開発を模索してきました。その1つの成果として生まれたのが、西之表市と地元商工団体などが共同開発した「安納いもグラッセ」です。

安納いもグラッセは、ANAや日本エアコミューターの機内販売商品に採用されて話題になり、この先も安定的な受注が見込めるようになりました。一方で、大量の商品を生産・販売するシステムが新たに必要となりました。

西之表市では加工品生産に対応するため、「強い農業づくり交付金」を活用して、地元に新しい加工処理施設を整備しました。その結果、販売数量の増加と、契約取引割合の増加という2つの目標を達成しています。

また、製造方法などで協力を得た取引企業との関係が深まり、それらの企業を通じた新たな販路の拡大にも成功しました。

安納いも グラッセ

日本エアコミューターの機内販売に採用された「安納芋グラッセ」
写真提供:有限会社西田農産

農産物のブランド化は、単に品質がよいだけではできず、多くの課題と困難を伴うものです。しかし、種子島の安納いもブランド確立の道のりを知ることは、産地や作物のブランド化・6次産業化を進めるうえで貴重なヒントとなるのではないでしょうか。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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