菌核病とは?有効な農薬や防除方法、特に注意が必要な作物を解説
菌核病はキャベツやレタスなどの葉菜類、きゅうりなどの果菜類、豆類、稲類、果樹、花きなどさまざまな作物に深刻な被害をもたらす病害です。その症状や原因、効果的な防除方法について解説します。さらに近年開発された「ヘソディム」という土壌病害管理システムも紹介します。
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葉菜類や果菜類などさまざまな野菜、果樹、花きを栽培する農家を悩ませる菌核病は、感染が広がると防除が難しくなります。
予防を適切に行うとともに、症状を知り早期発見・早期対処することが大切です。この記事では、最新の予防システムにも触れ、菌核病の症状や防除方法について解説します。
キャベツやきゅうりなど、多くの作物が罹病する「菌核病」とは
tamayura/ PIXTA(ピクスタ)
菌核病は、糸状菌(カビ)の一種である菌類が寄生することによる植物の病害です。菌核とは菌類が寄生した植物の組織内や土壌中に、菌糸が密集してできる塊のことです。
菌核病は多犯性で、大豆などの豆類、葉菜類、果菜類、果樹、イネ科の植物などさまざまな植物に被害をもたらします。その特徴や症状、特に注意が必要な作物について解説します。
菌核病が発生する原因
病原となる菌核は宿主の植物から地面に落ち、土壌中で越冬します。土壌中では、菌核は2~3年生き延びるといわれます。やがて適温(15~20℃)で適度な湿度になる春や秋に発芽し、子のう盤を形成して胞子を作ります。
胞子は風に運ばれて近隣の植物に付着し、湿度があると発芽して傷口などから内部に侵入します。これが一次感染で、感染株から菌糸を伸ばしながら近隣株に伝染していきます。
比較的低温の3~5月または9~11月の時期で降雨が続く場合は、温度・湿度とも条件が整い子のう盤が活発に形成されるので要注意です。暖冬の場合は1~2月に発生することもあります。
菌核病の主な症状
菌核病のきゅうり 白色綿状のかびが生じている
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状は茎に発生することが多く、茎の枝分かれしている部分や地際などに茶褐色や灰褐色で水浸状の病斑が現れます。病斑は広がって茎葉が軟化して萎れ、やがて腐敗して白いふわふわとしたカビ(菌糸)に覆われます。腐敗部分に悪臭はありません。
さらに進行するとカビの上にネズミの糞のような黒い塊が形成されます。この塊が菌核です。
菌核病に注意したい作物例
菌核病はさまざまな作物に感染し、寄生する作物の種類は64科361種以上ともいわれます。特にかかりやすく注意が必要な作物はキャベツ・レタス・チンゲンサイなどの葉菜類、きゅうりやナス、トマト、イチゴ、スイカ、メロンなどの果菜類、ネギ、稲類、大豆・いんげんなど豆類、大根、果樹、キクやヒマワリなどの花きなど多岐にわたります。
キャベツなど結球する野菜では、結球期以降に病斑が発生します。初期には下葉から病斑が広がって萎れ、進行すると結球部分全体が白灰色に腐敗してしまいます。葉をめくると結球の内側に白いカビが発生していたり、被害部の上に黒い菌核が形成されたりします。
果菜類や果樹では、茎葉のほか果実にも感染します。果実の場合は咲き終わった花弁などから感染し、がくの付近に病斑が多くみられます。
菌核病と間違えやすい病害と、その見分け方
作物の病害は、病害の種類を正確に見極め、適した防除を行うことが大切です。以下に、菌核病とよく似た病害について、原因・症状と菌核病との見分け方、罹病しやすい作物を解説します。
灰色かび病
発生する作物の種類がきゅうりやナス、キャベツ、レタス、豆類、果樹など多様です。病原もカビの一種で病核を形成し、胞子が飛散することで伝染するなど、多くの点で菌核病と似ています。発生時期も春や秋の同じ時期です。
主な発生部位は、菌核病は茎に多く発生し、灰色かび病は葉や花・果実に発生しやすいという特徴があります。とはいえ、菌核病が葉や果実に発生したり、灰色かび病が茎に発生したりすることもあるので、部位だけでは判断が難しいでしょう。
灰色かび病の症状 イチゴ 発病進展果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
明確に異なる点は症状で、菌核病は白いふわふわとした綿状のカビに覆われますが、灰色かび病は名前の通り粉っぽい灰色のカビが密生します。ネズミの糞のような菌核は形成されません。病変部に発生するカビの状態で区別ができます。
疫病
疫病の病原菌にはさまざまな種類があり、作物ごとに異なる病原菌に感染して罹病します。病原菌は違っても、症状や対処法は同じです。降雨が続く多湿時に発生しやすく、感染すると葉や茎、果実に水浸状の病斑が発生し、やがて広がって腐敗、枯死します。
葉に病斑が発生した場合は葉の裏にカビが生じ、果実に発生した場合も病斑に白粉状のカビが生じます。茎に感染する場合は地際から病斑が見られることが多い点も菌核病に似ています。
菌核病との違いは、
・疫病は主に果菜類や果実に見られる
・18℃以下の低温で発生する
・ネズミの糞状の菌核が形成されない
などの点が挙げられます。
トマト 疫病の発病果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
菌核病を防ぐには?有効な農薬&防除対策について
うどんこ病や炭疽病のように植物上にしか存在しない病原菌と異なり、菌核病の病原となる菌核は植物から地面に落ち、土壌中で湿度に触れなくても2~3年の間生き延びます。
そのため、一度菌核病が発生したほ場やその周辺では収穫後の土壌も含め、適切な防除が大切です。発生する前の防除方法と、発生してしまった場合の対処法について解説します。
菌核病の化学的防除(農薬)
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
菌核病の対策としては、農薬による防除が有効です。耐性菌が発生することがあるので、同じ系統の農薬を連続して使用せず、複数の農薬をローテーション散布します。また、春から秋にかけて発生する可能性があるので、一度きりではなく定期的な散布を行いましょう。
殺菌剤としては、野菜類・豆類・果樹の菌核病に有効で残効性に優れる「カンタスドライフロアブル」や、幅広い病害に対して高い防除効果を持ち訪花昆虫や天敵などの益虫への影響が少ない「シグナムWDG」などがあります。これらの農薬では、灰色かび病との同時防除が可能です。
なお、上記の農薬は2020年10月現在、菌核病に登録のある農薬です。菌核病はさまざまな作物に発生するので、ラベルをよく確認し、発生した作物に適用のある農薬を使いましょう。
菌核病の耕種的防除
野菜ハウスの太陽熱消毒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
農薬による化学的防除と組み合わせて耕種的防除をすることで、農薬使用の頻度を下げ、菌が農薬に対する抵抗性を持つリスクを軽減できます。
前年に菌核病が発生した場合は、菌核を残さないように、作物の残渣をできる限り除去します。次の作付け前に、ほ場の「天地返し」をしたり、新しい土を入れたりして地表に落ちた菌核を地中深くに埋めてしまうとよいでしょう。
湛水ができれば、菌核病の病原菌は死滅します。湛水できない場合は、夏場のほ場にたっぷり灌水してから透明マルチを被せ、太陽熱消毒をしましょう。
また、畝を高くしたり排水をよくしたりすることで、多湿になるのを防げます。
施設園芸の場合は夏場にハウスを密閉して太陽熱消毒をすると効果的です。また、施設内全面にマルチを張ることで、胞子の飛散を防ぐことができます。
菌核病が発生してしまった場合の対処法
菌核病が発生してしまった場合は、まず菌核が形成され落下する前に、被害株をこまめに除去することが重要です。除去した株は周辺にそのまま放置するとそこから胞子が飛んでしまうので、胞子が飛ばないようにビニール袋で密封し、ほ場の外に持ち出して処分します。
広範囲に病害が広がってしまったら、「ベンレート水和剤」などの農薬を散布し感染拡大を抑えましょう。その際は、菌核病が発生する株の地際までしっかり丁寧に散布しましょう。
ほ場の発病ポテンシャルに応じた防除を行うことが大切
azz / PIXTA(ピクスタ)
菌核病は、前の章で紹介した各種の耕種的防除と農薬による化学的防除を組み合わせることで抑制していきますが、すべてを行うことは困難でしょう。
どのくらいしっかり防除対策を行えばよいかという防除レベルは、ほ場の発病ポテンシャルに応じて決めると、効果的かつ効率的に行うことができます。
ほ場の発病ポテンシャルを知るためには、「ヘソディム」という「健康診断に基づく土壌病害管理」を行います。
ヘソディムとは、人間が健康診断をして体の状態を知り、注意するべき病害に備えるように、土壌の健康診断をしてさまざまな病害に対しての予防を適切に行うという新しい土壌病害管理技術です。国立研究開発法人農業環境技術研究所が技術情報を提供しています。
このシステムでは、土壌を採取して菌核残存を調べ、前作の発病株率の調査を行って診断します。問診結果から算出した点数に応じ、発病ポテンシャルレベル(1~3)を推定します。
例えば、「兵庫県におけるレタス菌核病のヘソディム」の事例では、合計点数が「レベル1」の場合の防除策は「各作型の必須防除適期に1回防除」ですが、合計点数が「レベル2」に値する場合の防除策は「各作型の必須防除適期に1回+その後30日後の防除」となっています。
この取り組みの背景には、兵庫県淡路地域のレタス産地で発生した菌核病の問題がありました。菌核病を効果的に防除するために、ほ場ごとに適した防除対策の指針としてヘソディムを活用した事例の1つです。
これにより、ほ場の発病ポテンシャルレベルがわかり、発病リスクに応じた防除対策を提案できるようになりました。このほかにも、各地で黒腐病や炭そ病、萎黄病、そうか病などの土壌診断が実施されています。
地域単位や大規模なほ場で菌核病が慢性的に発生に悩んでいる場合は、このような新しいシステムを取り入れてみるのもよいかもしれません。
出典:国立研究開発法人農業環境技術研究所「土壌消毒剤低減のためのヘソディムマニュアル」
菌核病は作物に深刻な被害をもたらすうえに、菌核が土壌に入り込んでしまうと防除も難しいやっかいな病害です。早期発見して菌核が広がる前に除去することが基本ですが、農薬や耕種的防除、新しいシステムなどを取り入れて効果的に防ぎましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。