【キャベツの病気(病害)一覧】被害の特徴と、生育時期別の効果的な防除方法
キャベツは需要が高く、大規模栽培する農家も増えています。広いほ場では病気(病害)の被害も広がりやすいため、より慎重な予防と早期の対応が重要です。病気(病害)についての基礎知識を蓄え、異変に気づいたら早期に対応できるよう、普段から備えておきましょう。
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目次
キャベツの病害は収量低下を招く恐れや、品質を大きく損なう危険もあり、予防と早期発見・防除が不可欠です。この記事では、春から秋にかけて複数回作付けが行われるキャベツについて、かかりやすい代表的な病害を取り上げ、特徴や防除方法を詳しく説明します。
収量・品質に影響大! キャベツ栽培で注意すべき主な病気(病害)
keiphoto/PIXTA(ピクスタ)
キャベツ栽培では、栽培行程の段階ごとに注意すべき病害があります。まず、播種から定植までの育苗中には「苗立枯病」や「黒すす病」「黒腐病」「べと病」などの発生が懸念されます。そして、定植後に結球して収穫するまでの間では、「軟腐病」や「菌核病」などの病害に注意が必要です。
ここでは、キャベツ栽培で特に重要な病害である上述6つの病害について、それぞれの具体的な症状や防除対策について詳しく解説します。
なお、この記事で紹介する農薬はすべて、2021年10月現在、キャベツで登録のあるものです。実際の使用に際しては、必ずその時点での登録状況を確認の上、ラベルをよく読んで、決められた用法・用量を守ってご利用ください。また、地域で定められた農薬使用の基準があれば、それに従ってください。
苗立枯病:種子や苗に腐敗・立枯れの症状が現れる
キャベツ 立枯病 地際部がくびれた苗
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
はじめに、苗立枯病について解説します。主にキャベツの育苗初期から注意を要する病害です。原因と症状、防除対策に分けて、整理していきましょう。
病害の原因と症状
キャベツが感染する苗立枯病の病原は糸状菌(カビ)です。土壌や被害植物の残さの中で数年間生存し続けます。
病原菌には、リゾクトニア菌とピシウム菌の2種類が存在します。それぞれ後述するように、感染条件や症状の特徴、有効な農薬が異なるので注意しましょう。そのため、もし感染が疑われる場合はまずよく観察し、「病原菌がどちらなのか」を見極めることから始めてください。
リゾクトニア菌は地表近くの浅い土壌に多く存在します。生育適温は25~30℃で、9~11月の高温期に比較的乾燥した状態で被害が多発します。
ピシウム菌の生育適温は種類によって幅があり、夜温が25~35℃と高温を好む種類や15~28℃を好む種類がありますが、いずれも「多雨や湿度の高い条件で多発すること」が特徴です。
症状の特徴も病原菌によって異なります。リゾクトニア菌が原因の場合は発芽不良になります。また発芽後に幼苗がこれに感染・発症すると、地際部の胚軸が褐色に変化し、細くくびれて倒伏したり萎れたりします。
ピシウム菌の場合は、地際部の胚軸が水浸状にやわらかくなって倒伏します。そして、やわらかくなった胚軸の周りには、白い綿毛状のカビが見られることもあります。
有効な防除対策
幼苗期のキャベツは、病害への抵抗力が弱いので特に気をつけましょう。
感染予防には、「育苗用土は新しいものか殺菌・消毒したものを使う」「苗床は過湿・乾燥状態にならないように適切な灌水をする」「過密にせず通気をよくすること、そして外から土を持ち込まないように衛生に注意する」などの対策が大切です。
土壌消毒としては、太陽熱消毒、土壌還元消毒、または蒸気・熱水消毒が有効です。
発症した場合は、すみやかに罹病苗を抜き取って周辺の土壌も取り替えましょう。
リゾクトニア菌の場合は感染の拡大・進展がそれほど早くないので、発生初期なら農薬による防除が有効です。防除するなら、「ホクサンフロンサイドSC」や「モンカットファイン粉剤20DL」を土壌に混和します。
ピシウム菌による苗立枯病の場合は、降雨などを介して急速に被害が拡大するため、2021年10月現在、農薬は使えません。
黒すす病:葉に形成された病斑上に黒いすす状のカビが密生する
四季写彩/PIXTA(ピクスタ)
キャベツのほかブロッコリーや大根、白菜などのアブラナ科作物にも発生する、黒すす病。その発生原因や症状の特徴、防除方法について解説します。
病害の原因と症状
黒すす病は種子伝染性の病害で、病原は糸状菌(カビ)です。発症すると葉に1~3センチほどの円形で灰色の病斑を形成し、病斑上には黒色ですす状のカビが密生します。
このすす状のカビがあることと、高温時に発生することが、黒斑病との違いです。両者の症状自体は似ていますが、この点に注意して見分けてみてください。
病原菌の発生適温は25~30℃前後で、高温多湿の環境で多発します。そのため、春夏収穫の栽培では十分に生育しており、発症しても収穫部位への被害はそれほど深刻ではありません。
ただし、秋冬収穫用のセル成型育苗の場合、育苗期が夏場の高温期になるため、幼苗の状態で発病する恐れが高まります。幼苗が発病すると、まず子葉に黒色の小斑点が形成され、病斑が拡大して胚軸にまで拡がり、苗の生育不良や苗立枯症状まで生じてしまうため、深刻な被害となってしまうのです。
有効な防除対策
黒すす病の病原菌は前作の被害作物上や種子上に生存するので、「罹患株やその周囲の株を確実に撤去すること」や「消毒済みの種子を使うこと」が、有効な防除策です。
特にセル成型育苗の場合は、子葉に小さな黒い斑点を見つけたらすみやかに防除し、農薬も散布して、被害の拡大を食い止めましょう。
育苗の際、灌水によって胞子が飛散し、蔓延してしまうので底面給水がおすすめです。キャベツの黒すす病には、「ポリオキシンAL水溶剤科研」を用いて灌注処理を施すと有効です。
べと病:葉に淡黄褐色の病斑を生じる
べと病は多くの作物に発生しますが、病原菌はそれぞれ異なります。ここでは、キャベツべと病に特有の症状や防除対策について詳しく紹介します。
キャベツ べと病 発病葉 裏
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
病害の原因と症状
病原は糸状菌(カビ)で、常に宿主の植物に寄生している純寄生菌です。キャベツのほかにも、ブロッコリーやカリフラワーなどのアブラナ科植物に寄生します。
同じアブラナ科でも属が異なる小松菜や白菜などに寄生する菌は系統が異なり、キャベツには寄生しません。
発生適温は10~15℃、または20℃くらいなどと言われ、「春先や晩秋の比較的冷涼で多湿」という条件で多発します。
発症すると外葉の葉脈間に不整形でやや不明瞭な、淡黄褐色の病斑を形成し、そして病斑の裏には汚白色で霜状のカビが生えます。さらに悪化した場合は、葉の全体が白っぽくなります。
生育して十分に結球してから発生すれば収穫部分にまでは被害が及びにくいとされています。しかし、育苗中の幼苗に発生してしまったケースでは、子葉の裏側に同様のカビが生じて生育が大きく阻害され、枯れてしまうことすらあります。
有効な防除対策
べと病の病原菌は高温多湿を好むので、湿度を下げ通気をよくするため適正に株間を取りましょう。また、キャベツだけでなく同じアブラナ科の作物の連作は避け、発生が予測される場合には、あらかじめ予防的な農薬散布をしましょう。
有効な殺菌剤としては、「シグナムWDG」「ジマンダイセン水和剤」「ピシロックフロアブル」などがあります。
黒腐病:発芽直後の苗や定植後の葉に病斑が現れ、変色・枯死する
キャベツ 黒腐病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真
黒腐病(くろぐされびょう)の原因となるのは、キャベツのほか、ほとんどのアブラナ科の作物に広く寄生する細菌です。その特徴と防除のポイントについて解説します。
病害の原因と症状
病原菌は罹患株の残滓や土壌中に生息しています。そのため根の傷口から感染したり、雨滴の跳ね上げで植物に付着して茎枝の傷や水孔から感染したりします。
また、種子伝染で発芽後に急速に感染拡大し、本圃に移ってから発病する可能性があることも覚えておきましょう。
5月または9~10月頃で、低い気温や降雨など湿度の高い条件が重なると多発します。特に、台風などで作物に傷がついたときに発症しやすいので、注意しましょう。
発芽してから結球期まで、どの生育段階でも感染・発症し、感染すると道管を通して葉、茎、根など体内の各部に移動します。
幼苗期に感染してしまうと、子葉の先端のへこみから黒く変色し、悪化すると縮れて枯死します。
生育した株では主に下葉で発生しやすく、葉縁にV字型または不整円形の病斑を生じます。発症部分の葉脈は暗紫色になり、悪化すると茎や根の維管束も黒く変色します。
有効な防除対策
品種による発病差があり、発生が予想される場合は抵抗品種を栽培するとよいでしょう。土壌中の病原菌を増やさないようにアブラナ科の連作を避けることがまず大切です。
また、傷口から菌が侵入するので、根を傷つける害虫(ネコブセンチュウ類など)が発生しない環境を整備することも、防除策として大切です。
農薬も有効で、「ナレート水和剤」や「カセット水和剤」、「コサイド3000」などが使えます。また、拮抗細菌が有効成分となっている生物農薬では、「ベジキーパー水和剤」も有効です。
軟腐病:結球部の葉に水浸状の斑点が生じ、株全体が腐敗する
キャベツ 軟腐病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
雑草も含め、さまざまな植物で発生する軟腐病(なんぷびょう)について、感染原因と症状、有効な防除対策を解説します。
病害の原因と症状
軟腐病の原因となるのは、雑草根圏も含めて、一般の土壌中に常在している細菌です。これは、非常に多様な植物に寄生し病害を発症させます。
灌水や降雨によって土から跳ね上がり植物の表面に付着し、葉や茎の傷口から体内に侵入し急速に増殖します。
6~10月にかけて高温の時期に高湿度条件で発生しやすく、台風や除草などで作物に傷が付いていると多発します。特に温暖な地域で高温期に収穫する作型では、被害が大きくなりやすいので注意しましょう。
多くは結球期に発症し、はじめは下葉の芯部分に淡褐色や灰色で水浸状の病斑ができ、進行すると結球部の頭部や地際部がべとべとして腐敗し、悪臭を放ちます。
これを放置すると腐敗は急速に広がり、短期間で株が消失してしまうのです。また、収穫後に流通過程で発病し、周囲の商品も感染して大きな損害をもたらすこともあります。
有効な防除対策
感染を防ぐためには、「作物をできるだけ傷つけないこと」「ほ場の排水をよくして水に浸らないようにすること」「株間を適切にとって風通しをよくすること」などが大切です。
台風が発生した後は作物が傷ついているので、早めに「カスミンボルドー」「スターナ水和剤」「ナレート水和剤」「マスタピース水和剤」などの農薬を散布しましょう。
菌核病:病斑部が腐敗。ネズミの糞のような菌核が生じる
キャベツ 菌核病 ネズミ糞状の菌核
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
菌核病の原因となるのは糸状菌(カビ)で、多くの作物に寄生しますが、特にキャベツではよく発生する病害です。ここでは、キャベツにおける菌核病の症状や防除策について詳しく解説します。
病害の原因と症状
病原菌は被害作物の表面に菌核を形成し、作物の残さとともに土壌へ混入することで、数年間生存します。菌核は発生適温である15~16℃の頃、春と秋に子のう盤を地表に形成し、胞子を発生させて雨風に乗せて飛散させます。
この胞子が作物の茎葉に付着すると、その株は感染して発症します。
キャベツでは結球期の発生が多く、はじめは下葉外側の地際部に飴色で水浸状の病斑ができるのが特徴です。この病斑が徐々に拡大していくと、結球部全体が腐ることもあります。悪臭がしない点で、軟腐病と区別が可能です。
降雨があり多湿の状態で腐敗は進行しやすくなります。芯葉まで腐敗した場合は、表面に白色や灰色のカビが発生したり、ネズミの糞状の菌核を生じたりします。
有効な防除対策
菌核病の予防対策としては連作を避け、ほ場の排水や通気性を常に良好に整えることが大切です。窒素過多も菌核病の発生を促すので気をつけましょう。
もしも発生してしまったら、被害株を周辺の土ごと取り除きます。発生の予防や発生後に処置するためには、状況をよく見ながら農薬を効果的に施用しましょう。菌核病に有効な農薬には、「シグナムWDG」「トップジンM水和剤」「パレード20フロアブル」などがあります。
キャベツの病気(病害)を防ぐ、栽培管理のポイント3つ
瑞鳳/PIXTA(ピクスタ)
最後に総括として、キャベツの病害を予防するために栽培管理で気をつけるべき3つのポイントについて解説します。
高温期の育苗は暑さ対策が必須
「夏まき秋冬どり」作型の場合、育苗期は高温期になります。
高温期の育苗では、生育初期に苗立枯病や黒すす病などの病害が発生したり、苗の軟弱徒長が起こったりしやすい環境になります。
病害の被害を防ぐためには、寒冷紗などで被覆するなどの高温対策を徹底しましょう。また夏播きには、耐暑性の高い品種のキャベツを選ぶとよいでしょう。
対策の一例を紹介すると、愛知県では、セルトレイをスポットクーラー(冷風機)で冷やす「クーラー催芽」などの方法も行われています。今後も夏の暑さが厳しいことが予想されるため、このような新しい技術を取り入れることも検討しましょう。
参考:愛知県 農業水産局 農業経営課「ネット農業あいち」内「技術と経営(露地野菜)」所収「スポットクーラーによる夏まきキャベツの発芽促進対策(クーラー催芽)」
品質・収量の向上をめざすなら、「適期作業」を心がけて
病害虫の防除や生育不良の抑制の基本は「適期作業」です。例えば、中耕のタイミングが遅れるとキャベツが生長しすぎてしまい、作業により外葉や細根に傷が付きやすくなります。この傷が、生育の遅れや軟腐病の原因となってしまうのです。
作物の生育や環境の変化に気を配りながら、適切な時期に適切な作業ができるようにプランニングしましょう。
また、「台風で作物に傷が付いたら、すみやかに適切な農薬を散布して軟腐病などの感染を防ぐ」「育苗中に病害虫が発生したらすぐに被害苗を取り除いて処分するとともに、水や土を取り換える」など、不測の事態にすみやかに対処する柔軟性も大切です。平時からこうした事態への対処方法を整理しておきましょう。
カルシウム欠乏などの生理障害にも注意
菌やウイルスが原因で発生する病害のほか、特定の栄養素が欠乏することにより発生する生理障害にも注意が必要です。
例えば、カルシウム欠乏やホウ素欠乏では、キャベツの上位葉の生育が抑制されてしまい、さらに悪化すると、水浸状の枯死斑まで生じます。
カルシウム欠乏は土壌中の養分不足ではなく、土壌中の窒素やリン酸の過剰により、キャベツの吸収バランスが崩れることで起きるとされています。
また、ホウ素の欠乏に際してはホウ素の施用が主な対処方法となります。ただしホウ素は、土壌pHが高い場合に欠乏しやすいため、pHの調整にも気を配りましょう。
土壌診断を定期的に行い、カルシウムやホウ素などの微量要素量、窒素やリン酸などの多量要素量を確認しながら、バランスのよい土づくりを心がけましょう。
※キャベツの施肥設計についてはこちらの記事をご覧ください。
キャベツは需要の高い作物で年間を通して作付けできますが、作型によって発生しやすい病害が異なります。季節によって栽培の注意点も異なるので、本記事も参考にしつつ、病害の発生しやすい環境を作らないよう適切な栽培管理を行い、収量アップを目指していきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。