【キャベツ黒腐病対策】防除に使える農薬&耐病性品種一覧
黒腐病は、キャベツなどのアブラナ科の野菜類で発生する病害です。本記事では、キャベツの黒腐病の症状や原因、発生しやすい時期、似た病害との見分け方、使える農薬を含めた防除対策、耐病性品種を解説します。
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キャベツ黒腐病とは?
キャベツの黒腐病(くろぐされびょう)は幼苗期から収穫期まで、生育中のあらゆる段階で発生する恐れがある病害です。病原菌が種子伝染や風雨で飛散することで感染が拡大するため、農薬などを用いた適切な防除が欠かせません。
キャベツ黒腐病の症状
キャベツ黒腐病の発病葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
播種から発芽初期に感染した場合、子葉の水孔から病原菌が侵入し、先端部が黒変したあとに急速に縮れて枯死します。
定植後の場合、葉に付着した病原菌が葉の傷や水孔を通じて侵入し、4~6日で葉柄や茎に病変を引き起こします。
具体的な症状は、まず下葉から発生し、葉裏の葉脈に沿って暗緑から黒色の水浸状の病斑が現れます。その後、葉の表側は灰緑色から淡黄褐色へと変色していきます。
さらに、葉脈に沿ってV字型の黄褐色の病斑が生じるのが、特徴です。病斑が拡大すると、病斑内の葉脈は褐色から紫褐色へと変色し、葉は乾燥によって破れ、最終的には枯死します。
症状が激しい場合は、葉だけではなく根や茎の道管部(茎の中心部)も黒変します。次第に腐敗して根茎内に空洞ができることもありますが、株の崩壊や悪臭は生じません。
黒斑病を発病したキャベツの進展株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
キャベツ黒腐病の病原菌
キャベツ黒腐病の病原菌は「学名:Xanthomonas campestris pv. campestris(キサントモナス・カンペストリス)」という細菌の一種です。
この病原菌は、キャベツに限らずほかのアブラナ科の野菜類にも寄生するため、一度発生すると被害が広がりやすいという特徴があります。また、乾燥に強いため、土壌中や種子に付着した状態でも1年以上生存します。
キャベツ黒腐病が発病する原因
キャベツ黒腐病は、土壌伝染や種子伝染などによって引き起こされます。
土壌伝染は、土壌中に生存した病原菌が降雨や頭上灌水によって雨滴や水滴とともに跳ね上げられることで、葉傷や水孔から侵入し、導管を伝って広がります。
種子伝染の場合は、種皮に付着した病原菌や汚染された育苗培土から育苗段階で感染を引き起こします。さらに、感染苗が定植時に持ち込まれることで、ほ場全体に被害が拡大する場合があります。
そのほか、ほ場に放置された被害残さが病原菌の伝染源になったり、害虫の食害痕や風雨による傷が病原菌の侵入ルートになったりすることがあります。ほ場周囲のアブラナ科の雑草が病原菌の潜伏場所になることもあります。
キャベツ黒腐病が発生しやすい条件
発病適温は15~30℃で、5~6月あるいは9~10月に気温が低い時期が続くと発病が多くなります。
春播き、初夏播き、夏播きでは発病が多く、晩夏播きや秋播きでは比較的発病が少ない傾向にあります。
キャベツ黒腐病と似た病害の見分け方
キャベツ黒腐病のように、病斑が現れ腐敗や枯死を引き起こす病害はほかにもあります。病害を見分けて適切な処置をすることが大切です。キャベツ黒腐病と類似する症状を引き起こす病害として、以下の3つが挙げられます。
- 黒斑病
- 黒すす病
- べと病
黒斑病を発病したキャベツの葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
黒斑病
黒斑病(こくはんびょう)は、キャベツの代表的な病害の1つです。黒腐病と同様、キャベツをはじめとするアブラナ科の作物に発生します。
キャベツの黒斑病は、春と秋の低温で雨が多い時期に発生しやすい点が黒腐病と類似していますが、最適な見分け方は、葉脈に病斑が見られるかです。
キャベツの黒斑病は、葉の全体に病斑が見られますが、黒腐病は葉脈に沿って病斑が現れます。
▼キャベツの黒斑病については、以下の記事で詳しく紹介しています。
黒すす病
黒すす病も、黒腐病と同様に、キャベツをはじめとするアブラナ科の作物に発生する病害です。
キャベツの黒すす病と黒腐病を見分ける際は、発病時期と病斑の特徴に注目することがポイントです。黒すす病は夏期の高温多湿の環境で多発しますが、黒腐病は5~6月あるいは9~10月と黒すす病より気温が低い時期に発生します。
また、黒すす病は黒斑病と似た黒っぽい輪紋が初期に発生し、一方の黒腐病の病斑は、葉の葉脈に沿って病斑が現れます。
▼黒すす病については、以下の記事で詳しく解説しています。
べと病
べと病とは、多くの作物に発生する病害です。
キャベツのべと病と黒腐病を見分ける際は、葉の裏側に灰白色のカビが発生しているかどうかで判断できます。キャベツのべと病は、まず葉の表面に淡黄褐色の不定形の病斑が現れます。
次第に病斑が広がって融合するとともに、表面はややへこみ、その裏面に汚白色で霜状のカビがびっしりと生じます。
一方の黒腐病は、葉裏の葉脈に沿って暗緑から黒色の水浸状の病斑が現れますが、カビは生じません。
▼べと病については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
【耕種的防除】黒腐病からキャベツを守る4つの対策
キャベツを黒腐病から守るには、耕種的防除を徹底することが重要です。主な防除対策として、以下の4つが挙げられます。
- ほ場の環境を整える
- 種子や育苗培土を消毒する
- 害虫の侵入を防ぐ
- 連作を避ける
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
ほ場の環境を整える
大雨や台風のあとに土壌が過湿状態になると葉に病原菌が付着しやすくなるため、土壌の排水対策を行うことが重要です。水はけの悪いほ場では高畝にするなど、ほ場の排水を良好にしましょう。
また、前述したように、黒腐病の被害を受けた残さをほ場に放置すると翌年の営農に影響を及ぼします。そのため、発病残さを速やかに処理することも大切です。
万が一、黒腐病に感染した作物や葉が見つかった場合は、翌年の感染を引き起こさないよう速やかにほ場外に撤去し、土中深くに埋める、もしくは焼却処分を行います。なお、黒腐病の病原菌は51℃以上で10分以上加熱すると死滅します。
種子や育苗培土を消毒する
キャベツ黒腐病を育苗段階から防ぐには、種子の乾熱消毒が有効です。具体的には40℃で24時間の予備乾燥後、75℃で5~7日間乾燥させることによって、病原菌を完全に死滅させます。
ただし、乾熱消毒後の種子を長時間貯蔵すると発芽率が低下する恐れがあるため、乾燥処理後は早めに播種します。
また、育苗培土を介したほ場への土壌伝染を防ぐため、育苗培土は必ず消毒して病原菌を死滅させておくことが大切です。苗床で感染が見つかった場合は、いち早く発病株を取り除くことがポイントです。
害虫の侵入を防ぐ
黒腐病では病原細菌が葉の傷口から侵入するため、モンシロチョウやコナガなどの食害で葉が傷つかないよう、害虫の侵入を防ぐことも大切です。
防虫ネットや寒冷紗の活用は害虫侵入対策として効果的なだけでなく、風害対策にも効果を発揮します。防虫ネットを張る際は、土との間にすき間ができないように張り、トンネル栽培にします。
また、害虫対策として株元に「ダントツ粒剤」や「プレバソンフロアブル5」、「アベイル粒剤」などの殺虫剤を散布することも有効です。
連作を避ける
アブラナ科の作物を連作すると黒腐病の発生リスクが高まるため、2~3年程度の休栽期間を設けることも大切です。過去に黒腐病が発生したほ場では、後述する耐病性の高い品種の導入を検討するとよいでしょう。
また、輪作も効果的な方法の1つです。キャベツとほかのアブラナ科作物を避けるために、豆類や穀物との輪作が推奨されます。
キャベツ黒腐病に適用のある農薬例
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
キャベツ黒腐病の防除に使用できる、代表的な農薬と散布時期・使用回数を紹介します。具体的には「カスミンボルドー」や「キノンドーフロアブル」のほか、定植時の「オリゼメート粒剤」などが利用できます。
農薬や展着剤を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。
なお、ここに記載する農薬は、2024年8月1日現在登録があるものです。実際の使用に当たってはラベルをよく読み、用法・用量を守りましょう。
また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、農薬登録情報提供システムで検索できます。
農薬名 | 使用時期 | 使用回数 | 使用量 | 有効成分 |
---|---|---|---|---|
オリゼメート粒剤 | 定植時に全面土壌混和または作条土壌混和 | 1回 | 10a当たり6~9kg | プロベナゾール |
カスミンボルドー | 収穫7日前まで | 4回以内 | 10a当たり100~300L | カスガマイシン・銅 |
キノンドーフロアブル | 収穫14日前まで | 3回以内 | 10a当たり100~300L | 有機銅 |
バリダシン液剤5 | 収穫7日前まで | 5回以内 | 10a当たり100~300L | バリダマイシン(抗生物質) |
農薬散布のコツと作業時期
農薬の使用に当たっては、耐性菌の出現リスクを考慮し、以下の3つの点に留意する必要があります。
予防的な散布
発病前からの予防散布により、初発を抑制することが可能です。ただし、連用は避け、ほかの防除法とのローテーションを心がけます。
適期・的確な散布
台風や大雨のあとを避けるなど、発生予察情報などを参考に、適期に的確な農薬を選択して散布することも大切です。
また、キャベツの葉には薬液が付着しづらいため、薬液を作る際は展着剤を混合し、下葉を含めまんべんなく散布します。
系統のローテーション
同一系統農薬の連用は耐性菌を生みやすいため、作用機作の異なる農薬をローテーションで使いましょう。
以上を押さえつつ、計画的かつ総合的な視点から黒腐病対策に取り組むことが安定したキャベツの生産につながります。
黒腐病に強い! キャベツの耐病性品種一覧
KrimKate / PIXTA(ピクスタ)
黒腐病に耐性を持つキャベツの主な品種として、以下の5つが挙げられます。
- 涼峰
- BCR龍月
- 夢いぶき
- 新藍
- ふうりん
品種によって作型や感受性が異なりますが、キャベツ黒腐病を遺伝子レベルで完全に予防することは困難です。栽培に当たっては、前述の防除対策に加えて品種に適した防除を実施することが重要です。
涼峰
涼峰は定植から75日程度で収穫期を迎える中早生種で、初夏~夏どりの作型に適しています。黒腐病に高度な耐病性を示し、萎黄病・バーティシリウム萎凋病にも耐病性があります。
茎が短いため、倒伏による玉尻からの腐敗が少なく高収量を実現できます。菌核病・株腐病に対する十分な防除が必要なほか、べと病や根こぶ病と合わせて総合的な防除が求められます。
追肥が遅れると収穫期に裂球する恐れがあるため、早めに追肥することが重要です。
製品ページ:タキイ種苗株式会社「品種カタログ|涼峰」
BCR龍月
BCR龍月は、一般地や暖地での秋どり、初夏どりだけでなく、冷涼地での初夏どり、夏秋どりが可能で作型が広い点が特徴です。
黒腐病と根こぶ病に高度な耐病性を示し、萎黄病にも耐病性があります。
生育初期の外葉形成が収穫期の品質を左右するため、極度の密植栽培を避けて基肥をメインに生育を促進していきます。
また、結球初期から球内の肥大が進むため収穫が遅れないよう注意が必要です。涼峰と同様に、総合的な防除を実施することがポイントです。
製品ページ:タキイ種苗株式会社「品種カタログ|BCR龍月」
夢いぶき
夢いぶきは一般地や暖地での栽培に特化した品種で、低温期の12月下旬~1月に品質のよいキャベツを出荷できるのが特徴です。
黒腐病への高度な耐病性と、萎黄病の耐病性を兼ね備えています。
低温期になると生育が緩慢になるため、遅くとも8月下旬には定植を終える必要があります。
倒伏による玉尻からの腐敗は少ないものの、菌核病・株腐病に対する十分な防除と従来通りの黒腐病の防除を合わせた実施が必要です。
製品ページ:タキイ種苗株式会社「品種カタログ|夢いぶき」
新藍
新藍は一般地や暖地での初夏どりや年内どり、冷涼地での夏どりや秋どりに対応した品種です。黒腐病と根こぶ病に耐病性があり、萎黄病には遺伝子レベルでの抵抗性があります。
年内どりで栽培する場合、播種が遅いと結球不良が懸念されるので播種時期の遵守が重要です。
比較的早い段階で結球が始まるので、外葉形成から結球初期には速効性の化成肥料を施肥します。
ハイマダラノメイガ(ダイコンシンクイムシ)やオオタバコガの被害を防ぐため、定植前から計画的に害虫防除を実施しましょう。
製品ページ:株式会社 サカタのタネ「キャベツ 「新藍」」
ふうりん
ふうりんは、2023年1月に発売された新品種であり、優れた耐暑性を持つ中生・平玉品種です。一般地や暖地での秋どりや、冷涼地での夏どりや秋どりに適しています。
一般地や暖地の10~11月どりは黒腐病の発生が問題になりやすく、栽培に大きな影響を与える作型ですが、ふうりんは黒腐病に高度な耐病性を示しているため、安定した収穫が見込めます。
製品ページ:株式会社 サカタのタネ「キャベツ 「ふうりん」」
以上のように、キャベツの品種によって黒腐病をはじめとする病害への耐性が異なります。栽培品種の特性をよく理解したうえで、適切な防除対策を講じることが、安定生産のカギを握るといえるでしょう。
キャベツ黒腐病は、土壌のほかに種子を介して感染する場合もあり、播種から収穫まで生育期を通じて発生するリスクがあるため、適切な対策を行うことが重要です。
被害を最小限に抑えるには、ほ場の環境の整備、種子や育苗培土の消毒、農薬散布などの防除対策を総合的に行いましょう。
また、キャベツ黒腐病の耐病性が強化された品種の導入を検討することも1つの手段です。
さらに、キャベツ黒腐病は、黒斑病などの症状が類似した病害があります。ほかの病害との違いを把握し、早期に病害を発見しましょう。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。