【キャベツの黒腐病対策】発生原因や防除方法・利用可能な農薬や耐病性品種を解説
黒腐病は、キャベツなどのアブラナ科の野菜類で発生する病害です。種子伝染や雨風による病原菌の飛散によって感染が拡大するため、農薬などを用いた適切な防除が欠かせません。この記事では、黒腐病の症状・発生原因や防除対策について解説します。黒腐病に強い品種も紹介するので、営農の参考にしてください。
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黒腐病は、アブラナ科の野菜類で発生する病害ですが、特にキャベツやカリフラワーなどで多くみられます。収量低下につながる病害ですが、適切な防除を実施することで感染拡大を最小限にとどめられます。
黒腐病とは?
黒腐病とは、アブラナ科野菜の葉や茎・葉柄の変色・枯死を引き起こす病害で、生育中の全期間で発生する恐れがあります。まずは黒腐病の症状・原因、発生しやすい時期について確認しておきましょう。
黒腐病の症状
キャベツ 黒腐病 発病葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
黒腐病の病原菌は、細菌の一種である「Xanthomonas campestris(キサントモナス・カンペストリス)」です。
黒腐病の病原菌は、キャベツだけでなく、白菜・大根・カリフラワー・ブロッコリーなどアブラナ科の野菜類にも寄生するため、一度発生すると被害が広がりやすいのが特徴です。
この病原菌は、乾燥に強く、土壌中だけでなく種子に付着した状態でも1年以上生存します。
播種から発芽初期の感染では、子葉の水孔から病原菌が侵入し、先端部が黒変した後に急速に縮れて枯死します。
定植後は、葉に付着した病原菌が葉の傷や水孔を通じて侵入し、侵入後4~6日で葉柄や茎に病変を引き起こします。
葉脈から葉の外側にかけてV字型に黄褐色の病斑が生じるのが特徴です。病斑が拡大すると葉脈が暗い紫色に変色し、最終的には枯死して葉が破れてしまいます。
また、根茎部に発病すると道管部(茎の中心部)が黒変するだけでなく、次第に腐敗して根茎内に空洞が発生しますが、株の崩壊や悪臭は発生しません。
キャベツ 黒腐病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
黒腐病の発生原因
黒腐病は、病原菌が土壌伝染や種子伝染によって移動することで引き起こされます。
発病適温は15~30℃で、5~6月あるいは9~10月に気温が低い時期が続くと発病が多くなります。春蒔き・初夏蒔き・夏蒔きでは発病が多い一方、晩夏蒔き・秋蒔きでは比較的発病が少ない傾向です。
土壌伝染は、土壌内の病原菌が降雨や頭上灌水によって水滴と共に葉に付着して発生します。発病すると、病斑部から風や雨で病原菌が飛散して、ほかのほ場や作物に二次感染を引き起こします。
黒腐病の被害を受けた残さをほ場に放置すると、病原菌が土壌に侵入したり他のほ場に拡散したりして翌年の営農に影響するので注意が必要です。
また、害虫の食害や風雨による細かい傷も病原菌の侵入ルートになるため、害虫防除や強風・豪雨などの対策も欠かせません。ほ場周囲のアブラナ科の雑草にも病原菌が潜伏していることがあるため、除草などのほ場管理も大切です。
種皮に病原菌が付着していたり、育苗培土に病原菌が混じっていると、育苗段階で感染し、定植時に苗と一緒に病原菌が土壌に運ばれてほ場全体に被害が拡大する恐れがあります。
t.kawada / PIXTA(ピクスタ)
キャベツの黒腐病の防除対策と代表的な農薬を紹介
食葉性害虫の防除や適切な農薬散布などを実践すれば、キャベツ黒腐病の発生を未然に防げます。アブラナ科作物の連作を避けるのも効果的です。キャベツ黒腐病に効果的な防除対策や農薬散布時期を解説します。
耕種的防除
種子や育苗培土の消毒
キャベツ黒腐病を育苗段階から防ぐには、種子の乾熱消毒が有効です。40℃で24時間の予備乾燥後、75℃で5~7日間乾燥させると病原菌は完全に死滅します。乾熱消毒後の種子を長時間貯蔵すると発芽率が低下する恐れがあるため、乾燥処理後は早めに播種します。
育苗培土を介したほ場への土壌伝染を防ぐため、育苗培土は必ず消毒して病原菌を死滅させておくことが大切です。苗床で感染が見つかった場合は、いち早く発病株を取り除きます。
連作を避ける
アブラナ科の作物を連作すると黒腐病の発生リスクが高まるため、2~3年程度の休栽期間を設けるようにします。過去に黒腐病が発生したほ場では、後述する耐病性の高い品種の導入を検討するとよいでしょう。
防虫ネットなどで害虫の侵入を防ぐ
モンシロチョウやコナガなどの食害で葉が傷つかないよう、防虫ネットや寒冷紗の活用も効果的です。風害対策にも効果を発揮します。
※キャベツの害虫防除については、こちらの記事をご覧ください。
ほ場の排水をよくする
また、大雨や台風の後に土壌が過湿状態になると葉に病原菌が付着しやすくなるため、土壌の排水対策も重要です
発病残さを速やかに処理する
黒腐病に感染した作物や葉が見つかった場合は、翌年の感染を引き起こさないよう速やかにほ場外に撤去し、土中深くに埋めるか焼却処分を行います。なお、黒腐病の病原菌は51℃で10分以上加熱すると死滅します。
代表的な農薬と散布時期
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
キャベツ黒腐病の防除に使用できる、代表的な農薬と散布時期・使用回数を紹介します。黒腐病の予防を前提に散布計画を立てますが、台風や大雨の後は感染リスクが高まるため早めに農薬散布を行いましょう。
キャベツの葉には薬液が付着しづらいため、薬液を作る際は展着剤を混合し、下葉を含めまんべんなく散布します。
農薬や展着剤を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。
キャベツの黒腐病に適用のある農薬例
農薬名 | 使用時期 | 使用回数 | 使用量 | 有効成分 |
---|---|---|---|---|
オリゼメート粒剤 | 定植時に土壌混和または作条土壌混和 | 1回 | 10a当たり6~9kg | プロベナゾール |
カスミンボルドー | 収穫7日前まで | 4回以内 | 10a当たり100~300L | カスガマイシン・銅 |
キノンドーフロアブル | 収穫14日前まで | 3回以内 | 10a当たり100~300L | 有機銅 |
バリダシン液剤5 | 収穫7日前まで | 5回以内 | 10a当たり100~300L | バリダマイシン(抗生物質) |
また、病原菌の侵入経路となる害虫の食害痕をできる限り少なくするため、害虫防除も育苗期から行うとよいでしょう。「アベイル粒剤」「プレバソンフロアブル5」などが育苗期から使用できます。
黒腐病に強いキャベツの品種とは
KrimKate / PIXTA(ピクスタ)
キャベツ黒腐病の耐病性が強化された品種を紹介します。品種によって作型や感受性が異なりますが、遺伝子レベルで黒腐病を完全に予防できるわけではありません。
栽培に当たっては前述の防除対策に加えて品種に合った防除を実施しましょう。
涼峰
涼峰は定植から75日程度で収穫期を迎える中早生種で、初夏~夏どりの作型です。黒腐病に高度な耐病性を示し、萎黄病・バーティシリウム萎凋病にも耐病性があります。
茎が短いため、倒伏による玉尻からの腐敗が少なく高収量を実現できます。菌核病・株腐病に対する十分な防除が必要なほか、べと病・根こぶ病と合わせて総合的な防除が必要です。追肥が遅れると収穫期に裂球する恐れがあるため、早めに追肥するようにしましょう。
タキイ種苗「涼峰」
BCR龍月
BCR龍月は一般地・暖地での秋どり・初夏どりだけでなく、冷涼地での初夏どり・夏秋どりが可能で作型が広いのが特徴です。黒腐病と根こぶ病に高度な耐病性を示し、萎黄病にも耐病性があります。
生育初期の外葉形成が収穫期の品質を左右するため、極度の密植栽培を避けて基肥をメインに生育を促進していきます。また、結球初期から球内の肥大が進むため収穫が遅れないよう注意が必要です。涼峰と同様に、総合的な防除を実施しましょう。
タキイ種苗「BCR龍月」
夢いぶき
夢いぶきは一般地・暖地での栽培に特化した品種で、低温期の12月下旬~1月に品質のよいキャベツを出荷できるのが特徴です。黒腐病への高度な耐病性と、萎黄病の耐病性を兼ね備えています。
低温期になると生育が緩慢になるので、遅くとも8月下旬には定植を終える必要があります。倒伏による玉尻からの腐敗は少ないものの、菌核病・株腐病に対する十分な防除と従来通りの黒腐病の防除を合わせた実施が必要です。
タキイ種苗「夢いぶき」
新藍
新藍は一般地・暖地での初夏どり・年内どりや、冷涼地での夏どり・秋どりに対応した品種です。黒腐病と根こぶ病に耐病性があり、萎黄病に遺伝子レベルでの抵抗性があります。
年内どりで栽培する場合、播種が遅いと結球不良が懸念されるので播種時期の遵守が重要です。比較的早い段階で結球が始まるので、外葉形成から結球初期には速効性の化成肥料を施肥します。
ハイマダラノメイガ(ダイコンシンクイムシ)やオオタバコガの被害を防ぐため、定植前から計画的に害虫防除を実施しましょう。
サカタのタネ「新藍」
DREAMNIKON / PIXTA(ピクスタ)
黒腐病の感染経路は、土壌のほかに種子を介する場合もあり、播種から収穫まで生育期を通じて発生するリスクがあります。
被害を最小限に抑えるには、種子や育苗培土の消毒、防虫ネットの利用、害虫防除、農薬散布などの防除対策を総合して行うことが重要です。黒腐病の耐病性が強化された品種の導入を検討することも選択肢となります。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。