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伊勢茶の魅力を伝えたい! 茶農家の一貫協業経営~後編:農家が協業するメリットとマネジメント手法
出典 : 深緑茶房ホームページ
  • 農業経営

伊勢茶の魅力を伝えたい! 茶農家の一貫協業経営~後編:農家が協業するメリットとマネジメント手法

前編では伊勢茶の魅力を消費者に伝えるための挑戦を伺いました。その核となるのは「品質」です。栽培から販売まで一貫して伊勢茶の品質を高め維持するために、深緑茶房では茶園の運営体制の見直しから始めていきました。後編ではHACCP導入やJGAP・ASIAGAP認証取得につながる取り組みについてお話を伺います。

有限会社深緑茶房 代表取締役 松倉大輔(まつくらだいすけ)さんプロフィール

有限会社深緑茶房 代表取締役 松倉大輔さん

有限会社深緑茶房 代表取締役 松倉大輔さん
出典:深緑茶房ホームページ

三重県松阪市飯南で緑茶の栽培に従事。平成11年(1999年)に同地域の茶農家と共に「有限会社深緑茶房」を立ち上げる。

深緑茶房にて栽培から加工までの一元管理が始まってからは、農場や茶工場の管理を務める。現在は代表取締役として深緑茶房全体の経営に携わっている。

従来の茶農家の協業経営システムが抱えていた課題

深緑茶房が小売だけではなく、茶葉の栽培・加工までを一元管理するようになったのは、深緑茶房の設立から2年後の平成13年(2001年)のことでした。

一般的な茶農家の協業の形

有限会社深緑茶房 代表取締役 松倉大輔さん(以下役職・敬称略) 複数の茶農家が1つになって法人を運営する場合、各農家がそれぞれで茶葉を栽培・収穫し、共同の茶工場に納入という形が一般的です。

深緑茶房で協業経営を始めるに当たって、静岡にある実際に複数農家が協業経営を実施している組織をいくつか視察しましたが、やはり栽培・収穫は各農家で行うのが一般的でした。

しかし、このやり方にはいくつかの問題点があり、それによってトラブルがおきた事例も耳にしました。

茶葉の質が揃わない

摘採後に再び伸び始めた芯芽

摘採後に再び伸び始めた芯芽

松倉 茶葉の摘採は芯芽が成長している間に行われるのですが、その摘採日が1日でもずれると茶葉の品質には大きなばらつきが出てしまいます。

というのも、成長に伴い葉が硬化し芯芽の成長が止まってしまうと、カフェインなどの成分が減少し品質が落ちてしまうからです。

ところが、協業経営では摘採のコントロールが非常に難しいのです。なぜなら摘採のタイミングはそれぞれの農家に委ねられているからです。

摘採に限らず栽培の裁量権がそれぞれの農家にあるままだと、均一な品質のお茶を製造することは困難なのです。

市況に合わせた生産管理ができない

松倉 摘採のタイミングを1日でも遅らせればその分茶葉も成長し、当然収量も増えます。しかし、栽培・摘採の主導権がそれぞれの農家にあるということは、茶工場に納入される茶葉の量をコントロールできないということです。

繁忙期やイレギュラーな受注で多めに必要なときや、逆に受注が少ないために生産量を押さえたいときに、農家の都合で納入されていると受注に対応できなくなったり、在庫を抱えてしまうリスクが生まれてしまいます。

視察を繰り返してたどり着いた「一貫協業経営」

松倉 前回もお話しましたが、三重県の茶農家は、業界内での立場は強くはありません。それでもなんとか質のよいお茶を作り、少しでも卸売業者との力関係をフラットにするためには、従来の協業経営システムをそのまま踏襲するのでは意味がないと考えました。

複数の協業経営茶農家を視察したことで深緑茶房がたどり着いたのが、「栽培から小売までの一貫協業経営」でした。

加工サイドから見ると、栽培から協業していることで、これまで納入する農家の生産量に左右されていた茶工場の稼働をコントロールすることができるようになります。

また栽培サイドから見ると、加工まで協業していることで、作業を計画的に平準化して行うことができます。例えば、摘採ならば、決まった日時にどれくらい摘採するかを決めて作業できるようになり、それは茶葉の品質の均一化につながります。

これらに加えて、協業による大きなメリットであるコスト削減、設備投資による省力化・省人化も可能になります。

深緑茶房式「一貫協業経営」のメリット

深緑茶房では一貫協業経営によって、栽培と加工の両面で協業のメリットを最大限実現しています。

農地面積は減らさず、農機を最小限にして実現したコストカット

松倉 それまでそれぞれの農家で農機を複数所有していましたが、一貫協業化に当たり2台までに削減しました。

農機の性能を最大限活用すれば、茶農家3つ分の茶畑の管理は十分対応可能ということもわかりました。農機の所有台数が減ることで維持費も削減することができます。

茶工場のファクトリーオートメーション化

ファクトリーオートメーションを導入した深緑茶房の茶工場 

深緑茶房の茶工場

松倉 茶工場を共同運営している場合、茶葉の加工のために最低でも5人程度で作業をするのが一般的です。

深緑茶房では、茶工場での加工作業を自動化し、1人でも管理可能にしています。より効率よく作業を進めるために必要な機械はできる限り導入することで、省人化を可能にしています。

協業で大切な組織マネジメント

協業経営を行うに当たり、難しいのが参加する農家の足並みを揃えることです。上手く揃わないとトラブルになるケースもあります。

深緑茶房では、茶畑や農機、茶工場の所有主は会社とし、収入も年俸制として平等に確かな収入を得られるようにしたといいます。

松倉 栽培・収穫を会社側で管理することで、農家の得られる利益を均等にすることができます。茶畑ごとに収量の差があっても、収入に差が出なければ、余計なトラブルは生まれません。

「高品質」というブランディングを保証するHACCP(ハサップ)導入

茶工場のすぐ近くに深緑茶房の茶畑がある

茶工場のすぐ近くに深緑茶房の茶畑がある

深緑茶房では、いち早くHACCPを導入し、工程を可視化することでより高いレベルでの品質管理を可能にしています。これは「深緑茶房のお茶の品質について、お客様に対して何も後ろめたいことはない。」という深緑茶房の核となるブランディングを保証することにもなりました。

松倉 HACCPとは簡単にいえば、栽培から出荷までの工程を可視化し、その中でトラブルが起きる可能性があるポイントを工程別に分析して対処法を検討、問題なく製造できているかどうかを細かく記録する管理方法です。

深緑茶房の場合ですと、異物混入への注意が特に必要です。道路に面した茶畑には多いと思いますが、残念なことに昔からゴミをポイ捨てされることが多く、機械による摘採の際に細々としたゴミが混ざってしまうことがあります。

深緑茶房で取り扱いのある「煎茶」や「かぶせ茶」は、製品の細菌量などを厳しくチェックされることがあまりなく、加えて異物混入は昔から当然のようにあることなので、HACCPを導入するまでは正直いって気にしたこともありませんでした。

しかし、よりよい品質のお茶をお客様に提供するためにはこのままだとよくないと考え、HACCPの導入を進めました。

これにより、どの工程で異物が混入しやすいかを分析し、その工程に携わる従業員が適切な対処ができるようになりました。細かく気にしなければならない工程とそうでない工程が分かると、作業にメリハリをつけることができます。

作業に関する情報もデータ化しているので、後任者への引継ぎも容易で正確です。

参考:HACCPは国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会から発表され、各国にその採用を推奨している国際的に認められたものです。

令和3年6月1日からは、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理の実施が義務付けられます。

深緑茶房は平成21年(2009年)にJGAP認証を取得。ついで平成29年(2017年)にはASIAGAP認証を取得しています。

お客様に「安心感」という付加価値を伝えるために取り組んだGAP認証取得

深緑茶房はJGAP認証・ASIAGAP認証を取得している

深緑茶房はJGAP認証・ASIAGAP認証を取得している

深緑茶房は平成21年(2009年)にJGAP認証を取得。ついで平成29年(2017年)にはASIAGAP認証を取得しています。

JGAP認証取得の目的は「お客様に安心感を伝える」こと

「JGAP認証取得へ動き出したきっかけは、お客様に安心して購入してもらえるお茶だと伝えるためだった」と松倉さんは言います。

松倉 茶葉の価格は全体的に下落傾向ですが、「玉露」や無農薬の茶葉はまだあまり値崩れしていません。特に無農薬の茶葉はオーガニック野菜や無添加食品に注目が集まっていることもあり、需要はむしろ高まっています。

しかし、無農薬で茶葉を栽培しようとすると、企業や農家単位ではなく地域全体で取り組まないと実現は不可能です。

深緑茶房では規定の肥料制限値の中でどうすれば美味しいお茶ができるか、各種メーカーの勉強会や他の茶園への視察を行い、研究を重ねました。

無農薬栽培以外の方法でお客様に安心感を与える方法はないかと考えたときに、深緑茶房が着目したのがJGAP認証です。

松倉 JGAP認証基準をクリアしていることで、製造環境や製造方法、商品の品質に関して安心していただけるものだとわかっていただけるのではないかと考えました。

実際には、まだ、私たちの商品を購入されるお客様が「深緑茶房のJGAP認証・ASIAGAP認証のことを知っている」というわけではありません。

しかし、GAP認証取得で得られた「安心感」という付加価値をお客様にお示ししていくことで、ゆくゆくはブランド力の向上につながるのではないかと期待しています。

GAP認証取得は自分たちの「働きやすさ」にもつながった

松倉 お茶のJGAP基準が発表されてすぐに取り組んだので、三重県の中では最も早くJGAP認証を取得したと自負しています。製造管理にHACCPを取り入れていたこともあり、JGAP認証も円滑に進めることができました。

JGAP認証基準を満たす経営体制は従業員がより働きやすくなるものだったので、結果的に自分たちのためになったと感じます。

今後の法人取引のアドバンテージにも

深緑茶房がJGAP認証を取得したおよそ5年後、ペットボトル飲料業界でJGAP取得農家の製品を優先的に取り扱う流れが始まりました。

松倉:おそらく2020年に開催予定であった東京オリンピックに合わせてのことだと思います。初めはほかの茶農家に「そんな取り組み、なんになるの?」と言われたこともありましたが、結果的にほかの茶農家より先んじることができ、深緑茶房の大きなアドバンテージとなりました。

目標は、新たなアイディアに挑戦できる余白を作ること

アントシアニンを含む赤い日本茶品種「サンルージュ」の栽培に2016年に挑戦

アントシアニンを含む赤い日本茶品種「サンルージュ」の栽培に2016年に挑戦、2020年初収穫を迎えた
出典:深緑茶房・本店 Facebook

6次産業化や経営体制の整備などに精力的に取り組んできた深緑茶房。今後の取り組みに関しても伺いました。

松倉 自分たちが働く環境をよりよいものにするために、やれることは当然します。その上で従業員が楽しいと思える農業ができる余白を作りたいと考えています。

茶葉の栽培の傍ら、コーヒー豆を栽培してみるとか、新しい商品を開発してみるとか。何かに挑戦できる余白を作って、自分たちやお客様が楽しめることを見つけていけたらと思います。

深緑茶房の理念や事業の詳細はホームページやSNSをご覧ください。

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深緑茶房飯南本店には初代社長である松本会長の夢だった日本庭園のある喫茶店が併設されている

深緑茶房飯南本店には初代社長である松本会長の夢だった日本庭園のある喫茶店が併設されている

真に伊勢茶を愛してくれるお客様に、おいしいお茶を届けられるように、そして自分たちが満足できる農業を実現するために、深緑茶房は挑戦を続けています。

伊勢茶の魅力を伝えたい! 茶農家の一貫協業経営」の前編「消費者の心をつかむお茶の売り方」もご覧ください。

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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