苦土石灰は土壌消毒に使える?石灰資材の種類と目的別の上手な使い方
石灰資材は主に、土壌消毒やpH値の調整のために使われます。土壌が酸性に偏りやすい日本では、強いアルカリ性を持つ石灰資材は良質な土作りに不可欠です。効果が強すぎて、使い方を誤ると作物に悪影響を及ぼす恐れもあるため、各種石灰の用途に合わせ適切に活用しましょう。
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土作りに欠かせない石灰資材には、消石灰・生石灰・苦土石灰・有機石灰があり、それぞれ成分や用途が異なります。
当記事では、各石灰資材の違いや効果、施用するときの注意点など石灰を効果的に使いこなすコツを、苦土石灰を中心にご紹介します。
農業における石灰資材の役割
農業に使う石灰資材は、主に消石灰・生石灰・苦土石灰・有機石灰の4種類で、用途によって使い分けます。
良質な土作りには欠かせない資材ですが、その効果や作物への影響を正しく理解して使わないと、かえって作物の病害や生理障害を引き起こしたり、土壌の成分バランスを崩したりする恐れがあります。
以下ではまず、石灰の効果と施用方法について簡単にご紹介します。
酸性に傾きすぎた土壌のpHを中和する
kolonko / PIXTA(ピクスタ)
アルカリ性の成分であるカルシウムは水に溶けやすいものが多く、雨が多い日本では特に、土壌からアルカリ成分が溶け出て酸性に傾きやすい傾向にあります。そこで、強いアルカリ成分を持つ石灰資材を投入することで、酸性に傾いた土壌を中和し、作物の生育しやすいpH値に調整します。
作物によって適切なpH値は異なります。pH6.5~7.0の微酸性~中性で生育するほうれん草やえんどう、pH5.5~6.0の弱酸性で生育するサツマイモ(甘藷)やジャガイモ(馬鈴薯)のほか、ほとんどの野菜類がpH5.5~6.5の範囲で生育します。
土壌のカルシウム分を補給する
カルシウム不足によるきゅうりの「落下傘葉」
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
石灰資材の主な成分はカルシウムなので、施用すると当然ながら土壌中のカルシウムの量は増えます。ただし、カルシウムの補給を目的として施用できるのは、石灰資材の中でも苦土石灰のみです。
ほかの石灰はアルカリ性が強く、しかも植物に吸収されにくいため、作物へのカルシウム補給には向きません。土壌をアルカリ性に傾けたくない場合は、中性の硝酸カルシウムなど、石灰以外の資材で補給しましょう。
また、土中のカルシウム成分は十分なのに、作物が「カルシウム欠乏症」になる場合があります。これは土壌の乾燥や、窒素過多による肥料バランスの崩れによって、根からカルシウムを十分に吸収できないことなどが主な原因です。
そこに石灰を入れると、むしろカルシウム過剰状態になり、作物に障害が出ます。石灰を施用する前には、本当に土壌のカルシウム成分が低いのかどうか、必ず土壌診断で調べましょう。
野菜類の栽培で使える石灰資材の種類と特徴
Thanthima / PIXTA(ピクスタ)
石灰にはさまざまな種類があり、農業では生石灰・消石灰・炭酸カルシウム・苦土石灰(炭酸苦土石灰)・石灰窒素・カキ殻といった有機石灰が使われます。その中でも、比較的よく使われる苦土石灰・消石灰・有機石灰について、特徴や使い方をご紹介します。
苦土石灰
「苦土」とは炭酸マグネシウムのこと、「石灰」とは炭酸カルシウムのことをそれぞれ表します。この2つの成分を含む苦土石灰は、農業で最も一般的に使用される石灰資材です。どちらも植物に不可欠な成分で、施用によって同時に補給できる利点があります。
アルカリ分は約50%で、緩効性のため過剰施肥による害が起きにくいのが特長です。施肥後はすぐに播種・定植できます。
ただし、肥料と同時に施肥した場合、石灰成分が肥料に含まれる窒素と反応してアンモニアガスを発生させ、窒素分が消失したり作物の酸素不足が生じたりします。それを避けるため、肥料とは少なくとも1週間の間を置いて施用しましょう。
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
消石灰
主成分は水酸化カルシウムで、肥料用の消石灰のアルカリ成分は70%前後に調整されており、アルカリ性への高い矯正力があります。殺菌力があるため、消毒効果も期待できます。
即効性があり、すぐに効果が出ますが、施用の時期に留意する必要があります。
ほかの肥料に含まれる窒素と反応してアンモニアガスを発生させるので、ほかの肥料とは2週間以上の間隔をあけて施用しましょう。また、アルカリ性が強すぎて植物に害を及ぼす恐れがあるため、播種や定植は散布から2週間以上の間をあけましょう。
消石灰が皮膚や粘膜に直接触れると炎症を引き起こす可能性があり、過去には目に入って失明した事例もあります。施用の際には必ず、ゴーグルや手袋、マスクを着用しましょう。
Oleksii / PIXTA(ピクスタ)
有機石灰(カキ殻、卵の殻など)
主成分は炭酸カルシウムで、マグネシウムは含まれません。アルカリ成分は50%前後。水に溶けにくく、緩効性なので、散布後すぐに播種・定植が可能です。
ただし、ほかの肥料とは期間をあけて施用しましょう。なお、ほかの石灰資材と比較してコストはやや高めです。
dazhong / PIXTA(ピクスタ)
苦土石灰は土壌消毒に使える? 目的別の上手な使い分け方
カルシウムに加えマグネシウムも含み、使い勝手がよく入手も簡単な苦土石灰ですが、土壌のpH値の調整以外に使い道はあるのでしょうか。ほかの石灰との使い分けにも触れながら解説します。
農具・農機などの消毒に使える「消石灰」
sunny / PIXTA(ピクスタ)
強いアルカリ性には、細菌やウイルスなどの病原菌、カビ・ダニなどの防除効果があります。しかし、残念ながら苦土石灰はアルカリ成分が低く、そこまで強い殺菌効果は望めません。
アルカリ成分の高い消石灰は、農具や農機、畜舎などの消毒に使うことができます。
しかし、土壌消毒にはおすすめできません。土壌の消毒に消石灰を使うと、極端なアルカリ性に傾いてしまうため、施用後は長期間置かないと作付けできなくなります。また、石灰の多量施用は「団粒構造」を壊す恐れもあります。
土壌消毒目的なら、太陽熱消毒や農薬による土壌消毒を行いましょう。
消石灰を消毒に使う場合は、倍量の水に溶かして「石灰乳」を作り、農具や農機、畜舎の壁や床などに塗布します。
土壌消毒後の栄養補給には「苦土石灰」が使える
土壌消毒を繰り返したほ場は硝酸態窒素(注)が減り、それによって土壌中のカルシウムやマグネシウムの量も少なくなってしまいます。
そうなると、作物が吸収するカルシウム・マグネシウムが不足し、トマト・ナス・ピーマンの尻ぐされや、白菜・キャベツの芯ぐされなどの「カルシウム欠乏症状」が出やすくなります。
(注)硝酸態窒素:大気中の窒素は、微生物などによって土壌に取り込まれ、硝酸態窒素に形を変えます。植物は大気中の窒素を直接吸収できないので、この硝酸態窒素を根から吸収することで窒素を取り込み、体内に蓄積します。
土壌消毒後は土壌診断を実施し、不足している成分があれば、苦土石灰や硝酸カルシウムなどの施用で補いましょう。
カルシウム不足によるトマトのしり腐れ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
「消石灰」と「苦土石灰・有機石灰」は作物によって使い分ける
酸性土壌が苦手なほうれん草やえんどう豆、アスパラガスなどの土作りでは、pH6.5~7.0の微酸性~中性に調整します。野菜類の中では適性酸度がややアルカリよりのため、速やかに土壌酸度を矯正したい場合はアルカリ性の強い消石灰を用いてもよいでしょう。
一方、ジャガイモ(馬鈴薯)やサツマイモ(甘藷)などは酸性を好むので、強いアルカリ性の石灰資材を使うのは避けましょう。
特にジャガイモは、アルカリ性に傾きすぎるとかさぶた状の病斑を生じる「そうか病」などを発症する恐れがあります。効果がゆるやかな苦土石灰・有機石灰や、中性の硝酸カルシウムなどを施用するほうが安心です。
ジャガイモ(馬鈴薯)のそうか病病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
石灰資材は、土壌の酸度の調整に欠かせない便利な資材です。しかし、使いすぎると土壌中の酸度バランスだけでなく、作物に必要な成分のバランスが崩れ土壌にダメージを与えかねません。必ず土壌診断を行ってから、適切に施用しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。