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農家のお嫁さんから農業経営者に! 農業女子プロジェクトで活躍する、ファームいしばし石橋正枝さんの挑戦

農家のお嫁さんから農業経営者に! 農業女子プロジェクトで活躍する、ファームいしばし石橋正枝さんの挑戦
出典 : ファームいしばし

農業経営の拡大に必要なビジネスチャンスをどこから見つけ、どのようにつかめばよいのでしょうか。そのヒントとなるお話を、千葉県山武市で落花生を生産・販売する「ファームいしばし」の石橋正枝さんから伺うことができました。

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ファームいしばし 石橋正枝(いしばしまさえ)さんプロフィール

ファームいしばし 石橋正枝さん

ファームいしばし 石橋正枝さん
写真提供:ファームいしばし

農業とは無縁な都会育ちながら、ご主人が実家の落花生農家を継いだことを機に就農。

農林水産省が運営する「農業女子プロジェクト」をはじめ、企業と連携したさまざまなイベントに参加したことから、独自に農業経営に乗り出す。現在、若手女性農業者の地域活性化組織「ぼっちチェルリーズ」の創設メンバーの一員として活動中。

農家のお嫁さんから経営に取り組む農業女子へ

「農家のお嫁さん」になる

ご主人が脱サラして実家の農家を継いだことで、図らずも農家のお嫁さんになったという石橋さん。100年以上の歴史ある農家で、米、ウリ、落花生、ネギなどを栽培しています。

ファームいしばし 石橋正枝さん(以下農園名・敬称略) 私の父母は蕎麦屋を経営していましたし、私も結婚前は、有名テーマパークのキャストやリゾートホテル業、テレビ局など、農業とは縁のない仕事をしていました。

夫が家業を継いでもしばらくは農業に興味を持てず、パートタイマーで働いたりしていました。

台風被害をきっかけに農業ビジネスの可能性に気づく

そんな石橋さんが農業を面白いと感じたのは、台風で近隣の露地栽培の作物に大きな被害が出たことがきっかけだったといいます。

石橋 これまでにない豪雨に見舞われて、露地栽培の葉菜類に大きな被害が出たことがありました。ほかの農家さんたちは通常出荷ができなくなり、地域の葉菜類の販売量が減ってしまったと耳にしました。

そこで、家での消費にあてているハウス栽培のほうれん草を販売してみたらどうか?と提案してみたところ、地域の方々に大変喜ばれて、予想以上に需要があることがわかったのです。

自分たちの農産物は地域に必要とされているのだ、と初めて実感できました。

閉じられた農業を知り、このままではいけないと思った

それからパートタイマーをやめ、本格的に農業を手伝うようになったという石橋さんですが、間もなく、ある問題意識を持つようになったそうです。

石橋 昔ながらの農家は、横とのつながりがあまりないのかもしれないと思いました。周りを見回しても、近所や親戚とのお付き合いがある程度です。

積極的に外から新しいものを取り入れることはあまりなく、引き継いだ栽培や出荷の方法を守り続ける、いわば閉じた世界なのです。

石橋さんは、農業以外の世界では当たり前の「情報収集や情報交換がビジネスを発展させる基本である」という考え方が、農業には定着していないことに気づいたのです。

ファームいしばし ご主人の実家は、100年以上続く農家

ご主人の実家は、100年以上続く農家
写真提供:ファームいしばし

情報を交換できる仲間を求めて「農業女子プロジェクト」に行きつく

石橋 それから、情報を交換できる仲間やコミュニティはないものかとインターネットで検索するようになりました。間もなく「農業女子プロジェクト」というサイトにたどり着きました。

「農業女子プロジェクト」は、女性農業経営者への支援を目的に農林水産省が運営するサイトで、情報交換はもちろん、さまざまな企業と連携したイベントに参加できると書いてありました。そこでさっそく、サイトの募集要項に農業生産品目や出荷先、経営規模などの必要項目を記して加入することにしました。

農業女子プロジェクト」に参加して広がったビジネスチャンス

この「農業女子プロジェクト」への加入が、石橋さんにとって本格的に農業経営へ乗り出す転機となりました。

国や企業と連携した農業イベント情報をインターネットで収集

石橋 加入したメンバーには、メール配信でさまざまな情報が届きます。国や参画企業、大学とのコラボレーション企画やイベント参加の誘いなどです。

参加希望者は自らエントリーして、人気がある場合は選抜になります。

参画している企業は、アパレルや食品メーカー、自動車メーカーなど30社以上に及び、大学との連携も多種多彩です。

今まで私が知らなかっただけで、こんなに多くの方々が農業に関心を寄せているのだと改めて気づかされました。もっと早く情報を得ていればと後悔したほどです。

「丸の内農園」への参加で広がった、企業や農業経営者とのつながり

石橋 そうした企業が参画する企画の1つに、都心で農業や和食文化を楽しめる「丸の内農園」というイベントがあります。

「農業女子プロジェクト」に参加して間もなく、「丸の内農園」から「農業女子マルシェ」に参加してみないかという呼びかけがありました。自動車メーカーさんが無料提供してくれる軽トラをお店にして野菜を直売するというイベントです。

石橋さんは参加することに決め、栽培している落花生をパッケージ化して販売したところ、たちどころに完売という好成績を得ました。そして、参加して得たものは収益だけにとどまりませんでした。

石橋 たまたま隣で販売していたトマト農家(三須トマト農園)の方と仲よくなり、うちの落花生をその方の直売所で販売してもらえるようになったのです。

三須トマト農園のFacebookページでのファームいしばしのQなっつの乾煎りと落花生アイス販売のお知らせ

石橋 「農業女子マルシェ」は、自ら育てた作物を対面販売するという初めての経験でした。得られたのは販売売り上げや宣伝効果だけではなく、こうした「つながり」です。やはり外に出て顔を売らなければ、こうした次の販売につながるような交流や人脈が広がらないことがわかりました。

「農業女子マルシェ」では、持ち込んだ落花生が即日完売

「農業女子マルシェ」では、持ち込んだ落花生が即日完売
写真提供:ファームいしばし

成果発表から生まれた企業や団体とのオンラインプロジェクト

「丸の内農園」での体験が、さらに多くの企業とのコラボレーションにつながるきっかけとなりました。

石橋 農業女子プロジェクトでは推進会議が定期開催されるのですが、そこで成果発表に参加したり、さまざまな企業の方と交流する機会があります。私も名刺交換した企業の方から相談いただくことがあり、コラボレーションしたことが何度かあります。

最近では、農業資材を取り扱っている株式会社カクイチと連携して、オンライン料理教室で使う材料としての落花生を提供し、その際に「ファームいしばし」のことを取り上げていただきました。

カクイチのA-SITE 竜ヶ崎店でのお料理教室「Qなっつの簡単マシュマロラスク」

カクイチのA-SITE 竜ヶ崎店でのお料理教室「Qなっつの簡単マシュマロラスク」
出典:ファームいしばし Facebookページ

石橋 また、一般社団法人全国農業観光協会さんが主催したマルシェに参加した際は、ふと思いついたことを主宰者の方に伝えたところ、そこから新たなイベントに発展したこともありました。

それは、落花生がどのように栽培され、収穫されているかを知らない人が多いという石橋さん自身の気づきから出た発想だそうです。

石橋 都内やオンラインで収穫を体験してもらってはどうだろうかと提案しました。株式会社JTB主催の「ジャパンハーヴェスト2020」のオンライン収穫体験メニューでは、落花生がどのような状態で実をつけているかを映像で説明しながら収穫し、それをご購入いただくという流れでイベントを開催することになりました。

このオンライン収穫体験は、今後、インターネットを活用した新しい直販ビジネスとして活用していきたいと考えています。


「ジャパンハーヴェスト2020」公式ホームページ内「ファーム いしばし 落花生(Qなっつ)の収穫体験」のページ

農業女子プロジェクトの成果発表会への参加が、多企業とのコラボに発展

農業女子プロジェクトの成果発表会への参加が、多企業とのコラボに発展
写真提供:ファームいしばし

「ラクマ ファーマーズマーケット」に加入しネット販売を本格化

インターネットを活用したビジネスは、さらに広がります。「農業女子プロジェクト」と楽天株式会社が運営するフリマアプリ「ラクマ」がコラボレーションして立ち上げた「ラクマ ファーマーズマーケット」に、参加資格のある石橋さんも加入し、ネット販売を始めたのです。

石橋 ネット販売は、個人でサイトを立ち上げても埋もれてしまう可能性が高いので、そもそもサイトにたどり着いてもらうまでに費用も手間もかかります。

その点、「ラクマ ファーマーズマーケット」は、ラクマの特設ページとして構成されているため、「ラクマ」に農産物を買いに来たお客様の目に留まりやすいとういうメリットがあります。

お客様はラクマで買い物をするのと同じ感覚で、農業女子プロジェクトメンバーの農産物を買うことができ、私たちは「ラクマ」というブランド力を追い風に自身の農産物への認知度や信頼度も高められます。

入会費は不要で、売り上げが出たらその数%を手数料として払えばいいだけなので、自社で通販サイトを構築し宣伝するよりもコストを抑えられます。


ラクマ内特設ページ「農業女子×ラクマの最強タッグで、美味しいをお届け! ラクマ ファーマーズマーケット」

ラクマ内のファームいしばしのページ
インタビュー
商品販売ページ

外に開いて発信し人とつながることが新たな商機を呼び込む

人とつながることの大切さに気づき、地域コミュニティにも顔を出すように

石橋さんはこのような活動や体験を重ねることで、できるだけ外に出て多様な人たちとつながることが、これからの農業ビジネスには必要であることに気づいたと語ります。

石橋 私は「農業女子プロジェクト」を皮切りに、地元の方々ともつながりを持つようになりました。近所に農業レストランを見つければ、努めて顔を出すようにし、地元の主婦の方々が集ういくつかのコミュニティにも参加しました。

そうして地元の顔なじみになれば、気が合うといったつながりだけでなく、やりたいことや目的が似ている仲間が少しずつできてきます。そうした新たな人と人とのつながりから、新たなビジネスのつながりが生まれてくるのだと思います。

「ぼっちチェルリーズ」を結成し、6次産業化を実現

新たなビジネスを生む、新たな人たちとのつながり。石橋さんにとっては、若手女性農業者の地域活性化組織「ぼっちチェルリーズ」の結成がまさにそれでした。

6次産業化に意欲を燃やす「ぼっちチェルリーズ」

6次産業化に意欲を燃やす「ぼっちチェルリーズ」
写真提供:ファームいしばし

石橋 この組織は、「何かもの作りをして販売したい」「それぞれが農作物を持ち寄れば、独自にマルシェを開催できるよね」といった声とともに生まれたサークルです。

最初は、それぞれの農産物を持ち寄ったお料理教室や経営の勉強会などを開いていましたが、次第にもの作りへの熱が高まり、6次産業化への興味が強まってきました。

そこで6次産業化プロジェクトを立ち上げ、何を商品化するかを皆で話し合いました。議論のポイントは、地元ならではの製品であること、しかもあまりほかの地域に出回らず差別化しやすい品種であること、の2つです。

さまざまな議論をへて「おおまさり」というジャンボ落花生を取り扱ってはどうかという話になりました。この品種は、茹でるとすぐに鮮度が落ちるため、茹で落花生としては地元でしか流通していないのです。

石橋さん率いる「ぼっちチェルリーズ」は試行錯誤を重ね、真空パックと冷凍保存の技術でジャンボ茹で落花生の商品化に成功。地元をはじめ、ほかの地域でも人気を博しているそうです。

また石橋さん個人でも、「ぼっちチェルリーズ」のネットワークを利用して6次産業化に取り組みんでいます。

「ぼっちチェルリーズ」の活動については、農林水産省「農業女子プロジェクト」のページ所収の「ぼっちチェルリーズ」の活動紹介」プレゼンテーション資料をご覧ください。

石橋 メンバーの中にトマトをアイスクリームとして製品化させた方がいました。聞くと、協力業者である牧場の方を教えてくれたので、さっそく連絡を取り、落花生を使ったアイスクリームの製品化を進めました。

実際に仕上がってみると、ピーナッツバターアイスクリームのようなコクと風味があり、とてもおいしいの です。好評を得たので、次は落花生ドレッシングの製品化を考えています。

ファームいしばし「Qなっつアイス」

「Qなっつアイス」
写真提供:ファームいしばし

ホームページ開設や直売を経験する中で芽生えた、ブランディング意識

石橋さんは、こうした企業とのコラボレーションやネット販売、ホームページ開設や直売を経験する中で、ブランディング意識を持って生産や販売に臨むことがいかに重要かを知ったと話します。

可愛くて洗練されたパッケージが製品の価値を上げる

石橋 「丸の内農園」については先にお話ししましたが、初回は価格を150g500円にしていましたが、2年目に参加した際は180g900円に上げ、その分パッケージデザインをおしゃれにして売り出しました。

すると、1年目に来てくださったお客様がいて、こう言ってくださいました。

「去年はすごく田舎臭いパッケージだったけど、今年はすごく可愛いじゃない。これなら手に取ってみたくなるわよ」

思い返せば、自分が商品を選ぶ時も、可愛いらしく洗練されたデザインのものにまず手が伸びます。お客様に第一印象を与える商品の顔づくりは、やはり重要なのだと気づかされました。

ファームいしばしの「Qなっつ」のパッケージ

ファームいしばしの「Qなっつ」のパッケージ
写真提供:ファームいしばし

自分自身の第一印象もブランドの一部!

石橋 さらに言えば「自分自身も、商品に対するお客様の第一印象を変える、農園の顔なのだ」という自覚を持つようになりました。やはりさまざまな人に接していると、成功しているなと感じる人ほど、身ぎれいにしている場合が多いですね。

野菜を作っている人がもっさりしていれば、野菜作りに対する意識も低く、おいしくないのではと感じてしまいます。自分もパッケージと同じようにブランドの一部なのだと自覚して、ダイエットも含めて清潔な印象を与えるように心がけています。

市場卸と直売・ネット販売をビジネスの両輪に

最後に、今後の目標について話を伺ってみました。

石橋 現在、農業経営のメインは市場への卸しが9割で、残り1割を「ラクマ ファーマーズマーケット」による販売と、直売所での販売で2分しています。この1割を、3~4割まで引き上げ、市場卸に次ぐ第2、第3の柱に育て、農業経営を安定化させる、というのが当面の目標です。

市場への卸売りやJAへの出荷だけでなく、いくつかの販売チャネルを開発し育てていくことも、経営基盤を安定させる方策の1つであるというわけです。

石橋さんは、それを、インターネットと「農業女子プロジェクト」で知り合ったトマト農園などの仲間の直売所での販売に見出そうとしています。

石橋 そのためには、社会の動きを知ることと、商機を見いだすための情報がもっと必要だと思います。「農業女子プロジェクト」ももちろんですが、今後は「ぼっちチェルリーズ」など農業を通じた地域コミュニティとの連携をもっと密にして、さまざまな考えや視点に触れるように努めていきたいです。

そしてゆくゆくは、自らマルシェを主催し、地元の農業を活性化する一助になれればと考えています。

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松崎博海

松崎博海

2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。

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