「フルボ酸」による土壌改良で収量アップ!? 期待できる効果とは
農業の土台ともいえる土作りにおいて近年、「フルボ酸」の活用が話題になっています。本記事では、土壌改良効果があるといわれるフルボ酸について解説します。
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近年、土壌中の腐植物質の1つである「フルボ酸」が、化粧品やサプリメント、抗菌用品などのさまざまな分野で注目され、農業分野では土壌改良を目的として利用され始めています。
そこで今回は、フルボ酸を含む腐植物質の分類を整理したうえで、フルボ酸施用で期待されるメリットについて解説します。
「フルボ酸」とは?よく聞く「フミン酸」とは違う?
sasanuma masato / PIXTA(ピクスタ)
フルボ酸とは?
フルボ酸とは、土壌中の「腐植物質」の一種です。
腐植物質とは?
では、腐植物質とは何なのでしょうか。
土壌中には、さまざまな有機物が存在しています。そのうち、動植物遺体や排泄物(すき込まれたたい肥などを含む)を除いた部分を「土壌有機物(腐植)」と呼びます。
この土壌有機物(腐植)は、さらに「非腐植物質」と「腐植物質」に分けられます。
非腐植物質は、動植物遺体や排泄物などに由来するものですが、腐植物質は土壌中で新しくできた有機物のことをいいます。
では、新しくできるとはどういうことでしょうか。
土壌中の動植物遺体や排泄物などの有機物は、微生物などによって分解されていきますが、分解されずに残るものもあります。この残った有機物が重縮合して高分子化したものを、腐植物質といいます。
一般に、土壌有機物の7~8割が腐植物質で、耕地の土壌はその割合がより高いといわれています。
土壌中の有機物の分類と腐植酸(フルボ酸とフミン酸)の位置づけ
出典:帯広畜産大学「有機物の分類と役割とは?:腐植物質も土の化学性や物理性に大きく影響」、タキイ種苗株式会社「2018 タキイ最前線 春種特集号 最近よく耳にする腐植酸について教えてください」よりminorasu編集部作成
腐植物質の分類
この腐植物質は、含まれる化合物の粒子サイズや、アルカリや酸に対する溶けやすさなどによって、便宜的に大きく3つに分類されています。
・「フルボ酸」:粒子サイズが小さく、アルカリにも酸にも可溶
・「フミン酸」:中間的な粒子サイズで、アルカリに可溶・酸に不溶
・「ヒューミン」:粒子サイズが大きく、アルカリにも酸にも不溶
土壌の機能に大きな影響を与えているのが、フルボ酸とフミン酸で、併せて「腐植酸」と呼ばれています。
フルボ酸の機能
腐植酸(フルボ酸とフミン酸)には、鉄や亜鉛などの金属と結合してキレート構造をつくることで水に溶けないミネラル(微量要素)を植物が利用できる形にする「キレート作用」と、酸とアルカリの反応を穏やかにする「pH緩衝作用」が認められています。
特にフルボ酸のキレート作用は高いことが知られています。
出典:
北海道協同組合通信社「ニューカントリー 2019年1月号」所収「有機物の分類と役割とは?:腐植物質も土の化学性や物理性に大きく影響(帯広畜産大学 谷昌幸教授)」
タキイ種苗株式会社「2018 タキイ最前線 春種特集号 最近よく耳にする腐植酸について教えてください」
たい肥に含まれているのでは?
前述したように、腐植酸(フルボ酸とフミン酸)は、土壌中の動植物遺体などを微生物が分解する過程で長い時間をかけて生成され、土壌の腐植層に広く分布していきます。
しかし、耕地の場合、作物の生育に伴って消耗していき不足しがちです。腐植酸の量を増やすには、たい肥の多量施用も考えられますが、適正量を超えて施用すると、肥料成分の過多や未分解部分による障害といったデメリットが生じます。
そこで、たい肥は適正量の施用に抑え、腐植酸(フルボ酸とフミン酸)を抽出した農業資材で補うという方法が考えられたのです。
農業資材として利用されるフルボ酸やフミン酸は、直接森林の腐葉土を原料にしたり、木材チップを人工的に発酵させたりした有機物を、前述のアルカリや酸への溶けやすさを利用して分離・抽出して製造されます。通常は液体状に加工され、肥料ではなく、植物活性液などの呼称で販売されています。
栽培におけるメリットは? フルボ酸施用で期待される効果
somprasong / PIXTA(ピクスタ)
ここからは、野菜類などの栽培にフルボ酸を導入することで期待できる効果について解説します。
フルボ酸が土壌中で作用することで多面的な効果があり、作物の収量アップや品質向上につながると考えられています。
なお、フルボ酸やフミン酸の農業利用については、国内外でさまざまな試験研究が行われていますが、まだ研究開発途上の技術であり、その効果が全て実証されているわけではないことにご留意ください。
直接的な効果
フルボ酸の作用によって、作物に直接的にもたらされる効果は以下の2つです。
ミネラル(微量要素)の供給
フルボ酸は、前述したキレート作用によって、ミネラル(微量要素)を作物に利用しやすい形にして供給する役割を持っています。
フルボ酸はフミン酸より粒子サイズが小さく水に溶けやすいため、土壌の水の中を容易に移動する性質を持っています。そして土壌中の水に溶けないミネラル(微量要素)と結合しキレートを作り、土壌の水を通して、作物にミネラル(微量要素)を供給するのです。
発根・根毛形成の促進
フルボ酸には、発根・根毛形成を促進する植物ホルモンに似た作用があることが国内外の研究によって示されています。
間接的な効果
フルボ酸を施用することによって、土壌の構造が変わり、間接的に土壌改良効果がもたらされると考えられています。
リン酸固定の軽減
肥料に含まれるリン酸は、土壌中で難溶性化合物に変化し、植物が吸収しづらい状態になることがあります。
フルボ酸を施用すると、フルボ酸がリン酸とキレートを作り、土壌中の水を通して作物に吸収されやすい状態になります。結果、リン酸の固定化が軽減され、土壌中のリン酸の有効活用が期待できます。
保肥力の向上
フルボ酸やフミン酸は、マイナス電気を帯びており、カリウムやマグネシウムなど作物の生育にかかわる陽イオン元素が土壌から溶出するのを抑制します。
団粒構造の形成促進
ヒトネコデザイン研究所 / PIXTA(ピクスタ)
フルボ酸やフミン酸の投入によって、土壌中の微生物や有用菌類の活動が活発になります。こうした生物の分泌物などが接着剤の働きをすることによって、土壌中に団粒構造が形成されやすくなります。
団粒構造が発達している土壌は、軟らかくフカフカしており(膨軟)、通気性・保水性・透水性がよく、作物の根が張りやすくなります。
塩害を受けた耕地の除塩にも!
津波などの被害によって海水を被り、塩類が多量に蓄積した耕地の復元にもフルボ酸が利用されています。
塩害を受けた耕地にフルボ酸を散布することで、土壌に吸着している塩類を溶出させ、土壌外で再結晶化させることで除塩するという技術です。
内閣官房による「国土強靭化」政策の中で、参考となる民間取り組み事例を紹介していますが、その中に、東日本大震災で津波の被害を受けた千葉県山武市の水田のフルボ酸散布による除塩事例が掲載されています。
東日本大震災で津波の被害を受けた千葉県山武市では、塩害により水田での米の収量が10a当たり1俵にまで落ち込みましたが、フルボ酸散布による除塩によって、10a当たり9俵にまで改善したことが報告されています。
出典:内閣官房「国土強靭化 民間の取組事例集(平成29年4月)」所収の「森林資源を利用したフルボ酸生成技術による除塩(国土防災技術株式会社)」
フルボ酸やフミン酸が含まれる腐植が多い土壌は、昔から農業に適した肥沃な土壌だといわれてきました。
その腐植の中にわずかに含まれ、作物への作用機能を持つ腐植物質だけを抽出したのがフルボ酸やフミン酸です。
たい肥を十分に施用しているのに微量要素が不足しているなどの悩みがある方は検討してはいかがでしょうか。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。