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アーバスキュラー菌根菌(AM菌・VA菌根菌)とは? 減肥にも繋がる農業資材の最新情報

アーバスキュラー菌根菌(AM菌・VA菌根菌)とは? 減肥にも繋がる農業資材の最新情報
出典 : 川村恵司 / PIXTA(ピクスタ) igorr / PIXTA(ピクスタ)

多くの植物は菌根菌というカビの仲間と共生し、根から水や養分をより効率的に吸収していることが、最近の研究で明らかになりました。中でもアーバスキュラー菌根菌(AM菌・VA菌根菌)は多くの農産物の生育に影響するため、その活用が期待されています。

作物の生育を促進する効果を持つアーバスキュラー菌根菌(AM菌・VA菌根菌)を資材として活用するための研究が進められています。現在は価格が高くなかなか普及しませんが、培養に成功すれば手頃な価格での販売が可能となり、減肥に繋がるかもしれません。

アーバスキュラー菌根菌(AM菌・VA菌根菌)とは?

Mycorrhizal fungi 菌根菌

Mycorrhizal fungi 菌根菌
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アーバスキュラー菌根菌は、太古の昔、植物が海から陸へ上がり地面に根を張るように進化した頃から存在し、植物に感染することで相利共生の関係を維持していると考えられています。

もともと土壌に存在するアーバスキュラー菌根菌を効果的に活用して収量を上げるために、まずはその生態を詳しく解説します。

植物の根と一体になり、養分吸収を助けるカビの仲間

菌根菌はカビの仲間で、植物の根に感染して「菌根」を形成し、共生することで増殖します。菌根とは菌と植物の根が一体となったものを指し、これを形成する菌類を「菌根菌」と呼びます。アーバスキュラー菌根菌はその一種です。

植物がアーバスキュラー菌根菌に感染すると、根の内部に「樹枝状体(arbuscule)」と呼ばれる先端が細かく枝分かれした特徴的な構造が形成されます。この構造がアーバスキュラー菌根菌(Arbuscular Mycorrhizal Fungi)の名前の由来であり、頭文字を取って「AM菌」と呼ばれています。この記事でも、以降「AM菌」と表記します。

AM菌は植物の根に感染すると、土壌中に張り巡らせた菌糸からリン酸を吸収し、樹枝状体を通して共生する植物(宿主といいます)に供給します。その一方で、植物が光合成で生成する糖などのエネルギーを受け取ることで、互いに利益のある相利共生を行います。

AM菌以外にも植物と共生する菌根菌は多数ありますが、共生できる植物の種類が限られており、多くの植物に応用できません。AM菌だけが、陸上植物のおよそ80%以上と共生可能なため、特に農業への活用が期待されています。

なお、AM菌と共生しない植物もあり、また、共生する植物でも種類や品種によって依存度に差があることがわかっています。

主要な農作物の中でAM菌への依存度が高いとされているのはとうもろこしや大豆、小豆、ヒマワリで、それに次いでジャガイモ(馬鈴薯)、ニンジン、ネギ類、小麦などがあります。きゅうりやトマト、ナスなどの果菜類とも共生します。

AM菌への依存度が高いとされている作物の例 とうもろこし、大豆、ヒマワリ、ジャガイモ(馬鈴薯)、ニンジン、ネギ

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ) igorr / PIXTA(ピクスタ)

一方で、キャベツや大根などのアブラナ科、てんさいやほうれん草などのヒユ科、ソバなどのタデ科はAM菌と共生しません。AM菌は宿主と共生しないと増殖できないため、これらのほ場の土壌中では次第に減少してしまいます。

「AM菌」と「VA菌根菌」は同じもの!

AM菌という略称は近年になって使われ始めた言葉で、もともとは「VA菌根菌」と一般的に呼ばれていました。AM菌の仲間は300種ほどあると推定されており、その中の多くの種は、樹枝状体のほかに養分貯蔵器官と考えられている「嚢状体(ベシクル、vesicle)」を形成します。

そのため、vesicleとarbusculeの頭文字を取って「VA菌根菌」と呼ばれていました。しかし近年、すべての種が嚢状態を形成するわけではないことがわかったため、現在ではアーバスキュラー菌根菌またはAM菌という呼び名が主流になりました。

とはいえ、少し古い文献ではVA菌根菌と表記されており、また、法律用語としては現在も使われているため、資材の名前はVA菌根菌となっているものもあります。

農業資材としてのAM菌(VA菌根菌)の活用

AM菌を農業資材として活用しようという動きが高まっています。すでに土壌改良資材が販売されており、現在ではより活用できるよう、研究が進められています。

AM菌(VA菌根菌)による土壌改良効果と、現在販売されている微生物肥料

小麦ほ場の土壌

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土壌中に含まれる水や養分の中でも、特にリン酸は土壌中の移動が遅いため、動くことのできない植物は根に接した部分からしか吸収できません。また、根の周囲の土壌にはリン酸欠乏帯が生じてしまい、根からだけでは効率的なリン酸の吸収が困難です。

一方、AM菌が共生している植物は、土壌中のより広い範囲から菌糸を通してリン酸を吸収し供給されるため、土壌に含まれるリン酸を格段に吸収しやすくなります。リン酸を効率的に吸収した場合、特に作物の初期成育が促進されることが、試験により確認されています。

この性質を農業で効率的に活用するため、AM菌は、バークたい肥などと並んで、地力増進法による政令指定土壌改良資材にも指定されています。

実際に、AM菌の胞子から生菌を取り出し、迅速に植物と共生して効果を発揮できるようにした「パラップマーク」などの農業用微生物製剤が現在販売されています。

土壌中の菌糸

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AM菌(VA菌根菌)が共生した作物は、収量を保ったまま減肥が可能に?

AM菌はもともと土壌中に存在しているため、これを増殖することでも、効率的に効果を得ることができます。その有効な方法とされているのが「前作効果」です。

前作効果とは、土壌中のリン酸が少ないほ場にとうもろこしや大豆、ネギなどAM菌と共生する作物(宿主)を植えた場合に、AM菌の感染率や作物の収量に対して前作の作物がもたらす効果のことです。

前作効果について、農研機構北海道農業研究センターが行った調査をまとめた資料によると、資料用とうもろこしを作付けた場合、前作に宿主を栽培した宿主跡地では、非宿主跡地に比べて初期生育が明らかに促進されました。

また、宿主跡地ではとうもろこしのAM菌感染率、地上部のリン含有率ともに非宿主跡地よりも高い結果が得られました。

そのほか、前作効果によるリン酸減肥可能量を調べるための試験の結果からは、宿主跡地の土壌ではリン酸を半分以下に減肥しても収量がほとんど変わらないが、非宿主跡地では減収してしまうことがわかりました。

こうした効果は大豆やジャガイモ(馬鈴薯)、小麦など共生依存度が高いほかの作物でも見られます。とはいえ、連作を推奨するものではありません。

AM菌の宿主のひまわりと非宿主の大根

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)

さまざまな作物をバランスよく作付けながら、非宿主作物を栽培した場合には、後作に宿主となる緑肥を栽培することで、AM菌の量を保つ方法も有効でしょう。

実験結果では土壌型の違いや、作物の品種の違いによって感染程度が異なることも示されており、土壌や植物側の条件も考慮する必要があります。試験の結果を踏まえながら、ほ場の状態や作物の種類などに合わせて調節することが大切です。

出典:
農研機構北海道農業研究センター「『「根菌:リン酸肥料を減らせる根の秘密』 アーバスキュラー菌根菌とは」
農研機構北海道農業研究センター・平成28年度農研機構シンポジウム「菌根ーリン酸肥料を減らせる根の秘密」

リン酸は作物への過剰障害が出にくく、また価格も安く利用しやすいため、これまでは過剰に施用する傾向がありました。

しかし、リンは有限の資源であり枯渇が心配されることや、田畑の過剰なリンが近隣の河川や湖沼に流れ込むことで富栄養化を招き、周辺の環境に負荷を与えているという問題もあります。

リン酸の施肥量を削減し、それらの問題を軽減するためにも、AM菌の効果的な利用が期待されています。

田畑と隣接した河川や市街地

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一方で普及には課題も。農業用AM菌(VA菌根菌)資材が抱える問題点

AM菌の効果が注目されるようになってから、AM菌を使った土壌改良資材が複数のメーカーから農業用に供給され、その量は一時、年間50tを超えました。

しかし、近年では生産量が10tを下回るほどに落ち込んでいます。

その主な原因は、資材が非常に高額であることです。特に、とうもろこしや大豆、小麦などの大規模栽培では、AM菌資材を全面散布することは現実的ではありません。

AM菌資材が高額になる理由は、AM菌が植物に共生することでしか増殖しないため純粋培養ができず、大量生産が難しいことにあります。

さらに、土壌型や作物の品種によって、どの程度感染率に変化があるのかはっきりしないため、効果が安定しないという理由もあり、高額な資材に手を出しにくいのが現状です。

出典:農研機構北海道農業研究センター・平成28年度農研機構シンポジウム「菌根ーリン酸肥料を減らせる根の秘密」

「培養」の課題を解決?! AM菌(VA菌根菌)にまつわる最新動向

AM菌の農業利用は研究機関でも注目されており、有効活用に向けてさまざまな研究が続けられています。2019年には、大阪府立大学等からなる共同研究チームが、AM菌の純粋培養に世界で初めて成功したことが、「Nature Microbiology」で発表されました。

この研究が進めばAM菌を大量生産できる可能性があり、微生物資材として農業へ本格的に活用できるようになるかもしれません。

菌の培養

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AM菌は古代から植物と相利共生していながら、未だその実態が解明されておらず、農業への活用にも課題が山積みです。

しかし、次第に効果的な活用方法や実用的な資材の開発も進んでおり、近い将来、とうもろこしや大豆などの大規模農業を支える頼もしい存在になる可能性を秘めています。

作物の生育を助けてくれるAM菌の存在を意識してほ場を見直してみるのもいいかもしれません。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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