【土壌消毒】石灰窒素×太陽熱でセンチュウ類を防除!収量を上げる土作り法
連作障害の抑制のために行われる土壌消毒には、さまざまな方法がありますが、今回は、農薬としても登録されている石灰窒素を用いた太陽熱消毒「太陽熱・石灰窒素法」について解説します。
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目次
連作障害を避けるためには休栽期間を設けるのが有効ですが、連作せざるを得ない場合もあります。
この記事では、連作によって発生する病害虫の防除と良質な土作りの双方に効果的な石灰窒素を用いた太陽熱による土壌消毒の方法を紹介します。
施設栽培だけでなく露地栽培に応用する方法や、「バスアミド微粒剤」などの土壌消毒剤との併用についても解説します。
連作障害や病害虫の防除に有効な土壌消毒法「太陽熱・石灰窒素法」
太陽熱による土壌消毒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
太陽熱による土壌消毒の効果をアップさせるために有効なのが石灰窒素を用いる方法ですが、「そもそも石灰窒素とは何か」をよく理解していない人もいるかもしれません。
適切な活用方法を検討するために、まずは石灰窒素の特性を把握したうえで、太陽熱を用いた土壌消毒の概要を確認しましょう。
そもそも石灰窒素とは?農薬効果と肥料としての役割
石灰窒素の原料は、「石灰石」「炭素材」「窒素」であるため、主成分は「カルシウム」「炭素」「窒素」で、作物の肥料として使われることのある成分のみで構成されている点が特徴です。
農薬としての効果
石灰窒素を土壌に散布した時点では「カルシウムシアナミド」や「酸化カルシウム」などが農薬としての効果を発揮し、土壌病害虫や雑草を防除してくれます。
※石灰窒素は農薬として登録されています。病害虫の防除を目的として用いる際は、必ず適用のある作物や病害虫、雑草を確認し、ラベルに従って正しく使用してください。
肥料としての役割
石灰窒素は土壌中で分解される際に有毒なシアナミドが発生しますが、その後は数日~10日程度かけて窒素肥料としての効果を発揮します。同時にカルシウム欠乏対策にもなります。
石灰窒素の肥料としての特徴は、緩効性であるため肥持ちがよく、土壌の塩分濃度が上がりにくい点です。また、アルカリ性の石灰分が多く含まれているため、土壌の酸性矯正効果も期待できます。
但し、土壌消毒後の窒素分・カルシウム分の残留を考慮に入れ、その後の施肥量を調節する必要があります。
太陽熱・石灰窒素法は、太陽熱消毒に石灰窒素の作用を掛け合わせた土壌消毒方法
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
太陽熱・石灰窒素法は、「石灰窒素などの資材をすき込んだ土壌に対して太陽熱による土壌消毒を実施する方法」です。太陽熱による土壌消毒は以前から行われてきましたが、石灰窒素と有機質資材をすき込んでから実施することで、より効率的に病害虫や雑草を抑制できます。
前述した石灰窒素の肥料としての効果とともに、同時にすき込む有機質資材による土壌改良効果も期待できる点がメリットといえるでしょう。(詳細後述)
ただし、一般に太陽熱による土壌消毒には高い地温を一定期間キープする必要があり、そのための要件はクリアしなければいけません。土壌に悪影響を及ぼす病害虫を死滅させるには十分な高温が必要で、地温が低いほど効果を得るまでの時間を要します。
太陽熱・石灰窒素法でも同様で、十分な防除効果を発揮するには地温40℃以上を20~30日間(積算で40℃を約100時間)継続・維持することが求められます。
そのため実施する時期は、日照時間が長く全国的に気温が高くなる梅雨明け後が理想です。もしも、作付け時期などの影響により梅雨明け後の実施が難しい場合は、できるだけ日射量が多い時期を選んだうえで処理日数を長くするなどの工夫をしましょう。
土作りへの影響は?太陽熱・石灰窒素法による土壌消毒に期待できる効果
農家の方が気になるのは、石灰窒素を用いた土壌消毒が「具体的にどのような病害虫の防除に役立つのか」ではないでしょうか。
ここからは、太陽熱・石灰窒素法で防除できる病害虫や土壌改良効果の具体例を紹介します。
太陽熱・石灰窒素法で期待できる病害虫の抑制効果
※この項で紹介する効果は、日本石灰窒素工業会の技術情報、各地の農業試験場などの試験結果などを根拠に紹介しています。石灰窒素の農薬としての効果ではないことにご留意ください。
※太陽熱・石灰窒素法によらず、石灰窒素を土壌消毒を目的として土壌に混和して用いる際は、必ず農薬としての適用のある作物や病害虫、雑草を確認し、ラベルに従って正しく使用してください。
ナスの半身萎凋病 発病株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
太陽熱・石灰窒素法を用いた土壌消毒は、青枯病菌、半身萎凋病のバーチシリウム菌や委凋病のフザリウム菌といった、いわゆる難病土壌病原菌の死滅に効果があるとされています。
フザリウム菌に代表される難病土壌病原菌の多くは土壌の深さ30cm程度まで生息していますが、土壌中に一定量以上の水分を含んだ状態では熱に弱くなるのが特徴です。
太陽熱・石灰窒素法では散水や湛水によって湿らせた土壌に対し、夏場の強い日射と有機物による発酵熱を利用して高い地温をキープできることから難病土壌病原菌の防除効果が期待できます。
また、連作障害の原因として多いネコブセンチュウやネグサレセンチュウなどの悪玉センチュウ類は、フザリウム菌に比べて低い温度で死滅することが知られています。つまり、フザリウム菌が生息できない温度まで地温を上昇させれば、必然的にセンチュウ類が原因で起こる連作障害の抑制にも役立つということです。
出典日本石灰窒素工業会
「太陽熱・石灰窒素法」
「技術情報 Q&A(4)太陽熱・石灰窒素法」
イチゴのネグサレセンチュウ被害株
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
実際に太陽熱・石灰窒素利用による土壌消毒を行ったところ、萎凋病・株腐病・青枯病などの罹病率が大幅に下がったというデータもあります。
出典:奈良県農業研究開発センター「太陽熱とハウス密閉処理による土壌消毒法について」
有機物のすき込みにより、土壌改良効果も
太陽熱・石灰窒素法の大きなメリットとして挙げられるのが、土壌消毒と同時に土壌改良効果も期待できることです。
農薬を用いた土壌消毒は高い効果があるものの、それ自体には土壌改良効果はありません。
それに対して、太陽熱・石灰窒素法では、稲わらなどの有機物や石灰窒素を用いるため、地力を上げる効果も期待できます。
有機物は、一般に、土壌の通気性・透水性の向上(物理性の改良)、保肥力の向上(化学性の改良)、微生物を活性化・多様化する効果(生物性の改良)があるとされています。
すき込んだ有機物は発酵熱によって高い地温を保つことに貢献したあとで、微生物によって分解され地力の向上に役立つ有機物として機能するのです。
【施設栽培・露地栽培】太陽熱・石灰窒素法の具体的な手順と注意点
太陽熱・石灰窒素法の概要やメリットを知って、導入に興味を持った方もおられるのではないでしょうか。ここからは太陽熱・石灰窒素法を用いた土壌消毒の具体的な手順や注意点を解説します。
施設栽培における、基本の土壌消毒手順
太陽熱・石灰窒素法による土壌消毒は露地栽培にも応用できますが、基本となるのは密閉空間を作ることで地温を高く保ちやすい施設栽培です。
切りわらと石灰窒素のすき込み
具体的な作業の手順はまず、軽く散水しておいた切りわらを10a当たり1~2tを目安に散布します。
次に切りわらの上に石灰窒素を10a当たり100kgほど散布し、土壌へすき込んでください。
稲わらは土中で発酵して熱を放出するため、トラクターや耕運機を利用してできるだけ深くまですき込みましょう。
なお、石灰窒素には用途に応じて「粒状石灰窒素」「粉状石灰窒素」「防散石灰窒素」の3つがありますが、使用するときは均一に散布しやすい粒状石灰窒素や粉状石灰窒素を選ぶことをおすすめします。
畝立てとマルチング、湛水
稲わらのすき込みが終わったら高さ30cm、幅60~70cm程度の小畔を立て、その上を透明ビニールフィルムで完全マルチし、熱を逃がさないように土壌表面を密封したら畦間に一時湛水を行います。
水漏れの多い場所では土壌の湿り具合によって2回目の湛水を行うこともありますが、地温上昇の妨げになる可能性もあるので水を張り続けることは避けましょう。
20~30日間放置
湛水後は天候や季節に応じて20~30日間放置しますが、施設を覆う被覆材に破れがあると隙間風が侵入してしまい、地温が十分に上がらないかもしれません。施設を点検し、破損個所は修理しておくのもポイントです。
詳細は、日本石灰窒素工業会「太陽熱・石灰窒素法」のページをご覧ください。
使用に適した有機物の種類と量について
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
太陽熱・石灰窒素法では、地温上昇のために太陽熱だけでなく有機物が土中で分解される際に発生する発酵熱も利用します。
前述した手順では稲わらを石灰窒素と一緒にすき込む方法を紹介しましたが、理論的には稲わら以外の有機物を使用することも可能です。ただし、窒素の含有率が高すぎる代替品を選ぶと、定植後の生育不良につながる恐れもあるので注意しなければいけません。
10a当たりにおける具体的な施用量の目安は、「もみ殻0.5~1t」「おがくず(生)1.5t」「飼料作物(青刈)生草5~7t」「きゅう肥(豚ふん)0.5~1t」です。
ただし、一般的に稲わらを用いたほうが地温は高くなるため、可能であれば稲わらを使用することをおすすめします。
マルチで密閉すれば露地栽培でも!
露地栽培で太陽熱・石灰窒素法を用いた土壌消毒を行いたい場合は、フィルムによるマルチングが重要です。
太陽熱・石灰窒素法において大切なのは高い地温をキープすることなので、しっかりと土壌を密閉すれば、施設栽培と同じような防除効果を発揮することが期待できます。
ただし、常に風雨にさらされる露地栽培では、地中深くまで地温を上昇させることが難しく、深層の病害虫までに効果が及びにくい点に注意しなければいけません。そのため、消毒後に表層部と深層部の土を混ぜないようにする必要があります。
マルチをする際にあらかじめ基肥も加えておき、なるべく土を動かさずに、そのまま植え付けや播種を行うなどの工夫をするとよいでしょう。
太陽熱・石灰窒素利用による土壌消毒を実施する際に注意すべきポイント
太陽熱・石灰窒素法による土壌消毒の注意点は主に4つあります。
1:必ず石灰窒素を利用すること
太陽熱だけでは土壌深くの地温が十分に上昇しないため、病原菌や害虫を防除する効果が薄くなる恐れがあります。防除効果を十分に発揮するには有機物による発酵熱も重要なポイントになるので、腐熟促進効果のある石灰窒素を忘れずに使用しましょう。
2:土とすき込む有機物を湿らせておくこと
難病土壌病原菌のなかには耐熱性を持っているものがあります。これらの菌は乾燥した状態での高温に強い一方、多湿化での高温には弱くなる性質を持っているため、すき込む段階から土壌とすき込む有機物を湿らせておきます。
3:消毒実施前に精密機器はハウス外に出しておくこと
消毒中の施設内は60~70℃といった高温になるため、熱に弱い精密機器などは故障の原因になる恐れもあります。高額な修理代がかからないように、精密機器がある場合は覆いをかけて断熱するか、別の場所に移動させましょう。
4:消毒実施後の施肥量
消毒実施後は、土壌中の肥料や塩分濃度などが変わっている可能性があります。
一般に、消毒実施後30日程度が経過してから定植する場合には、基肥は基準量で問題ないといわれています。しかし、それより早く植え付ける場合、基肥は控えめにしたほうがよいケースがあります。
必要に応じて、ECの測定など土壌診断を実施してから基肥量を決めましょう。
防除効果を上げるには「バスアミド」などダゾメットを含む土壌消毒剤との併用もおすすめ
農薬による土壌消毒を太陽熱・石灰窒素法と併用するのもおすすめです。
土壌消毒に用いる農薬は多数ありますが、太陽熱・石灰窒素法と併用することで特に高い効果が期待できるのが、ダゾメットを主な有効成分としている農薬(バスアミド微粒剤・ガスタード微粒剤)です。
土壌に混和したあとに発生するメチルイソチオシアネートという成分が病原菌やセンチュウ類などに作用しますが、このガスは土壌中の水分に反応して発生するため、湛水が必要な太陽熱・石灰窒素法との相性が良好です。
併用する場合は石灰窒素と均一になるように散布しますが、ガス抜き期間が10~14日程度と比較的長いことから、被覆していたフィルムの除去後はできる限り土壌が乾燥した状態まで待ってから、施肥や畝立てなどの作業を行ってください。
hamayakko / PIXTA(ピクスタ)
この記事では石灰窒素と太陽熱を用いた土壌消毒の方法を紹介しました。太陽熱・石灰窒素法は土壌消毒とともに肥料としての効果が得られ、土壌改良も期待できる点がメリットです。
土壌消毒後の窒素分・カルシウム分の残留を考慮に入れ、その後の施肥量を調節する必要がありますが、収量増・高品質化も期待できるでしょう。土壌消毒剤と併用してさらに高い効果を発揮することも可能です。
土壌病害虫による連作障害などに悩んでいる方は、太陽熱・石灰窒素法による土壌消毒を検討してみてはいかがでしょうか。
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minorasuをご覧いただきありがとうございます。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。