ネキリムシ類の対策におすすめの農薬や天敵は? 被害の特徴と防除方法を徹底解説
大豆や野菜など多くの作物にとって、若い芽や株を食害するネキリムシ類は注意すべき代表的な害虫です。被害が大きくなる前に、ネキリムシ類の生態の特徴を把握し、有効な農薬や防除策を知って予防や早期発見・早期防除に備えましょう。
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目次
ネキリムシ類は作物の若い株の茎葉を地際から切断するように食い荒らす害虫です。少ない個体数でも深刻な被害をもたらすネキリムシ類から作物を守るために、この記事では被害の特徴や要因、天敵農法を含む有効な防除策について詳しく解説します。
苗を食べる農家の敵、やっかいな害虫「ネキリムシ類」とは?
カブラヤガ成虫(前翅長22mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
まずは、ネキリムシ類とはどのような害虫か知るために、その特徴や生態、被害を受けやすい作物について解説します。
ネキリムシ類の特徴と発生しやすい条件
ネキリムシ類とは
ネキリムシ類とは、特定の虫の名称ではありません。全国に分布するヤガ科に属する害虫の総称で、カブラヤガ、タマナヤガの2種を主体とし、オオカブラヤガ、センモンヤガ、シロモンヤガなどが含まれます。
ほとんどの被害はカブラヤガかタマナヤガによるもので、この2種の特徴や防除策はほぼ同じと考えてよいでしょう。どちらも日本全国で見られ、西日本にはカブラヤガ、東日本にはタマナヤガが多いといわれます。
発生時期と生態
寒さには弱く、寒冷地では越冬はできませんが、春~秋の暖かい時期に成虫が長距離飛来して発生します。どちらも、猛暑の年に多発する傾向があるので、特に注意が必要です。
成虫は春から秋の間に2~4回発生します。雌は植物の地際部に1、2個ずつ卵を産み、総産卵数は約1,000個という多産です。卵は25℃前後の適温下では4~5日でふ化します。
若齢期の幼虫は植物の下葉の裏などに潜んで葉を食べますが、1株に1、2匹しかいないため食害が目立たず、この時点ではほとんど気づくことができません。
中齢以降、昼間は土中に潜り、夜間に株の地際をかじったり、茎を噛み切って土中に引き込み食べたりするようになります。1匹の幼虫が一晩で数株、多いときには5株程度も加害するほど旺盛な食欲で、ふ化後1ヵ月ほどで蛹化し、2~3週間で羽化します。
発生原因
発生原因としては、周囲の雑草から成虫が飛来し卵を産みつけることがほとんどです。ほ場周辺の除草が重要ですが、タイミングが悪いと、周囲に雑草がないためほ場内に集中的に産卵されることもあります。播種や定植の前から、成虫が周囲を飛ばないように環境を整えましょう。
カブラヤガ 幼虫は土中に潜む
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ネキリムシ類の被害に遭いやすい主な作物
ネキリムシ類は雑草も含め、あらゆる植物を食べます。
作物への被害は、豆類の大豆、イネ科のとうもろこしのほか、ほうれん草、小松菜、キャベツ、白菜、ジャガイモ(馬鈴薯)、大根、カブ、トマト、ナス、きゅうり、ネギなど、科を問わず多くの種類に及びます。
野菜類だけでなく、牧草や花きへの被害も見られます。どのような作物でも、ネキリムシ類に油断は禁物といえるでしょう。
ネキリムシ類の特徴は、発芽したばかりの若い芽や定植直後の苗を好むことです。生長し硬くなった葉や茎は食べません。そのため、十分に生育した株が被害を受けることはありませんが、育苗中や定植後しばらくは、注意を払いましょう。
苗が倒伏していたら要注意! ネキリムシ類被害の特徴と見分け方
カブラヤガ食害 発芽直後の大根
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ネキリムシ類という呼び名の由来は、被害作物の状態にあります。作物の茎葉を地際で食害するため、イモムシ類のように、葉に食べ跡が見つかることはほとんどありません。被害株は株元から切断され、まるで根を切られたように見えることからネキリムシ類と呼ばれるようになりました。
その名の由来が示す通り、順調に生育していた苗や若い株のいくつかが、ある朝急に倒伏したり萎れたり、葉が落ちたりしていたら、ネキリムシ類の発生を疑いましょう。
被害株の株元がかじられていれば間違いないでしょう。周辺の土を浅く掘り、45mm前後の土色の芋虫が丸まっていたら、それがネキリムシ類です。速やかに捕殺しましょう。
ネキリムシ類は発生数が少なくても、気づいたときには株の多くの茎が根元から失われ、一夜にして欠株となることもあるため、被害は深刻です。ヨトウムシ類などのように群生することはありませんが、離れて点在することがあるので、ほかにも被害株がないか、注意する必要があります。
カブラヤガの老齢幼虫とジャガイモ(馬鈴薯)の被害茎
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
野菜栽培でネキリムシ類被害を防ぐには? 効果的な防除対策2つ
ネキリムシ類の被害を防ぐには、何よりも成虫の飛来を防ぐことと、1匹でも発生を確認したら速やかにほ場全体を防除することが肝心です。そこで、予防と発生後の防除について、それぞれ説明します。
【予防】防虫ネットや除草で物理的に防除
予防の基本として、ほ場周辺に発生源となる雑草を発生させないことが大切です。すでに雑草の中で発生してから除草すると畑への移動を助長してしまうので、日ごろからこまめな除草を行いましょう。
ほ場周辺をきれいにしても、成虫は長距離を移動できるため、卵を産み付けられることがあります。そのため、毎年被害が出る地域では、防虫ネットを張って物理的に産卵を防いだり、播種時や苗の定植時に殺虫効果のある粒剤を施用したりするといいでしょう。
【発生後の防除】多発ほ場や広範囲の被害は農薬散布で対応
発生を確認したら、被害を広げないために、農薬による防除が有効です。ネキリムシ類に有効な農薬は多くありますが、適用作物がそれぞれ異なるので、購入前に適用を確認しましょう。
ここでは、オススメの農薬を2つ紹介します。なお、この記事で紹介する農薬はすべて2021年2月25日現在で登録のあるものです。農薬の使用に当たってはラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく施用してください。
1つめのおすすめは、ネキリムシ類の防除に特化した「ガードベイトA」です。有効成分は合成ピレスロイドのペルメトリンで、扱いやすい粒状です。播種時~生育初期に株元に散布することで、ネキリムシ類を誘引して薬剤を摂食させ、優れた殺虫効果を発揮します。ただし、蚕やミツバチに影響があるので、周りに養蚕用の桑があったりミツバチを使用したりする場合は十分な注意が必要です。
もう1つのおすすめは、「ダイアジノン粒剤5」です。ダイアジノンを有効成分とする粒状で、多種類の作物に適しています。ネキリムシ類をはじめ、タネバエ、ケラ、コガネムシ類の幼虫など、多種の害虫に幅広く効果を発揮します。使用方法は、幼虫に薬剤が接触するよう播種時や定植時に散布し、地表を浅く混和します。やはりミツバチに影響があるので注意しましょう。
自然環境への影響が少ない「微生物農薬(天敵製剤)」の使用もおすすめ!
最近、自然への影響が少ないことや、害虫の抵抗性が発達しにくいことから、天敵(生物)農薬が注目されています。ネキリムシ類に有効な天敵農薬もあります。
「バイオトピア」は、スタイナーネマ・グラセライというセンチュウを利用した微生物製剤です。ネキリムシ類では野菜類、豆類(種実)、いも類の作物適用があります。微粉および微粒状で、発生初期に土壌表面に散布します。
周辺の生態系や人体への影響も少ないのが特徴で、ミツバチにも影響がなく翌日からの使用が可能です。ミツバチを使用する場合に便利です。
kita / PIXTA(ピクスタ)
ネキリムシ類は、1匹で複数の苗や若い株に致命的な損害を与えるやっかいな害虫です。発生させないためにほ場周辺の雑草を管理し、防虫ネットを利用することも効果的です。
発生した場合には、有効な農薬が複数あるので、作物や環境にあったものを選び、適切に施用して早期に防除しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。