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農業におけるメガファームの定義とは? 農家が大規模化するメリットとデメリット

農業におけるメガファームの定義とは? 農家が大規模化するメリットとデメリット
出典 : ひなママ / PIXTA(ピクスタ)

農家の高齢化や耕作放棄地の増加といった日本の農業が抱える問題の解決策として期待されているメガファーム。分散した農地を集約し、生産性向上と高収益化をめざす方法をご紹介します。

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農家の高齢化による担い手不足やTPPなどの自由貿易化への対応に迫られている日本農業の現場では、これまでと違ったアプローチで作物を作ることが求められています。

そうした日本農業の変化に対応できる方法として注目を集めているのが、農地の集積によるメガファーム化です。

そこで今回は、農業の大規模化に興味がある人に向けてメガファーム化のメリットやデメリット、実際にチャレンジした農家の事例を紹介します。

そもそも「メガファーム」とは?

北海道の大規模ほ場

かめまも / PIXTA(ピクスタ)

一般的に大規模な経営を行っている農業法人のことをメガファームと呼びますが、具体的にどれぐらいの規模なのかピンとこない人もいるでしょう。まずはメガファームの定義や、近年注目されている理由を紹介します。

どこからが大規模? 耕種農業における「メガファーム」の定義

結論からいうと、メガファームと呼ばれるための具体的な耕作面積などの定義は決められていません。
一般的には「100ha以上の経営面積を持つ農業法人」を指しますが、経営面積が80haや90haでもメガファームと呼ぶケースはあります。メガファームとは、あくまでも「経営規模の大きい農業法人」を指す総称として用いられます。

なお、日本においてメガファームという呼称は「年間生乳生産量1,000t(もしくは3,000t)以上」の大型の酪農家を指すケースもありますが、この記事では作物を栽培する農家をメインに取り扱って解説します。

日本農業がめざす「分散した農地の集約」のためにも、大規模化は推進されている

近年、メガファームが注目されている理由には、「日本農業が直面している課題」が関係しています。

具体的には、農家の高齢化による後継者不足です。日本では、主に土地持ち非農家を中心として耕作放棄地が増加しており、この傾向は今後も続くと考えられています。

農地は国民にとって大切な食料を生産する基盤であり、そのまま耕地面積や作付面積が減少していくことは国として大きな損失です。

そうした状況を受け、政府は農地流動化を高めることを目的として、「農用地利用増進法」の制定や「認定農業者制度」の創設を実施するなどして、一定の成果を上げてきました。

しかし、農業において生産性をアップさせるためには、面的集約が欠かせません。どれだけたくさんの農地を確保しても複数箇所に分散していては、ほ場間の移動で時間がかかったり、農業用機械の稼働効率が悪くなったりしてしまいます。

農家経営の安定化を図り、後継者不足を解消していくための切り札として考えられているのが、スケールメリットを生かしたメガファーム化というわけです。

メガファームをめざすのは何のため? 農家が大規模化するメリット・デメリット

大型の田植え機

トゥラミーン / PIXTA(ピクスタ)

メガファーム化は日本農業を守るために国が積極的に推進しています。同時に、当事者である農家自身にもメリットがなければ、これほどまでに注目を集めることはなかったでしょう。ここからは、農業の大規模化における農家にとってのメリットとデメリットの両方を詳しく解説します。

メガファーム化で期待される最大のメリットは「効率化による生産性の向上」

メガファーム化を行うと作業効率が改善され、小規模経営と比較した場合に面積当たりのコストが小さくなります。結果的に生産性が向上し、農業所得向上を期待できる点が最大のメリットです。

例えば、農林水産省が公表している「令和元年産 米生産費(個別経営)」には、作付規模ごとに米60㎏(1俵)当たりにかかる生産費が記載されています。

米の作付け規模別60Kg当たり生産費

出典:農林水産省「農業経営統計調査 / 農産物生産費 確報 令和元年産農産物生産費(個別経営)」よりminorasu編集部作成

それによると、作付面積が0.5~1.0haの場合は米60㎏(1俵)当たり2万1,490円の費用がかかるのに対して、5.0~10haの場合は1万2,519円と6割弱の生産費で済む計算です。

出典:農林水産省「農業経営統計調査 / 農産物生産費 確報 令和元年産農産物生産費」

これは、大規模化によって大型農機を購入して生産量をアップさせても採算が取りやすくなることや、ほ場間の移動時間削減による省力化などが影響していると考えられます。

生産品目を絞ることでさらに大きな恩恵を得ることも可能です。生産品目を絞ればほぼ同時期に同じ作業を複数のほ場で行えるため、作業効率が上がるからです。

生産性が向上することで、これまでと同じ作業時間でもより多くの作付をできるようになり、結果的に高収益化につながります。

一方で、歩留まりの維持と経費率削減が叶わない場合は利益が上がらないデメリットも

メガファーム化は広大な農地を確保することによるスケールメリットが大きな魅力ですが、日本ならではの事情によってそれを十分に活かせないケースもある点には注意しましょう。

具体的には、農地のある場所が中山間地域などの山あいにあり、集積が難しいケースです。日本の農地面積のおよそ4割は中山間地域が占めており、アメリカのような大規模農場を実現して効率化を図るのは難しい場合があります。

仮に大規模な農地を所有していても、それぞれが別々の場所にあっては経費がかかって利益向上にはつながらないかもしれません。

また、農業所得は収量だけでなく、「歩留まり(良品率)」にも大きな影響を受ける点を忘れないようにしましょう。

メガファーム化を実現すれば収量アップは期待できますが、歩留まりが悪いようではトータルでの利益が少なくなる恐れもあります。大規模経営においては「いかにして広大な農地の全てで満足のいく品質を保った作物を収穫できるか」が大きなテーマとなるでしょう。

そのほかにも頭に入れておきたいのが、異常気象などによる災害です。スケールメリットを活かすには、農地の集積や特定品種の栽培に注力することが欠かせませんが、一方で台風などの悪天候や病害虫の影響を大きく受けやすい点はデメリットになるといえます。

万が一のことを考えて、市町村による補助金や助成金、農林水産省が実施している農業保険などの情報を集めておくこともポイントです。

台風通過後の水田 倒伏被害

sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)

メガファームをめざすかどうかは「具体的な数値目標」によって決めるのが◎

上述したように、メガファーム化にはメリットとデメリットの両方があります。

そのため、大切なことは「メガファーム化したときに利益が上がる体制を築けるかどうか」を経営者の視点からよく考えて実行することです。

ただし、農業経営には悪天候などの事前に予想することが難しいリスクもあるため、漠然としたイメージだけで実行すると失敗する可能性は高くなるでしょう。

そこで重要になるのが、具体的な数値目標をあらかじめしっかり立てておき、余裕を持った経営を行うことです。

例えば、現状の1ha当たりの売上や所得の平均値を算出したうえで目標額を設定し、それを実現するために必要になる農地規模を検討するといった具合です。

ただし、利益は基本的に「売上-コスト」で計算するため、検討する際には大規模化によってかかるコストがどの程度変わるかもよくシミュレーションしておく必要があります。

いずれにしても、メガファーム化を果たすと農家個人で運営していくことは難しく、従業員を雇う社長として経営をリードしていかなければいけません。作物を栽培するセンスやスキルに加えて、経営者としての手腕も問われます。

売上とコストのシミュレーション

CORA / PIXTA(ピクスタ)

【参考】「茨城モデル水稲メガファーム育成事業」による、メガファーム化事例

メガファーム化に興味を持った人の中には具体的な事例を知りたいという人もいるのではないでしょうか。そこで最後に、メガファーム化を応援している茨城県のプロジェクト内容とそれを活用した農家の事例を紹介します。

地域一丸となって「メガファーマー」の育成を支援するプロジェクト

茨城県の稲作地域

うっちー / PIXTA(ピクスタ)

茨城県では2018年度に県独自で「茨城モデル水稲メガファーム育成事業」という制度を創設し、大規模化をめざす水稲農家の応援を始めました。

具体的には、公募によって選ばれた農家に対して「農地中間管理事業を活用した農地の集積・集約化」「効率的な農業経営を実現する省力化作業体系の確立」などを支援してくれる制度です。

農地の集積・集約化はメガファームを実現するための必須要件ではありますが、既存の地権者の承諾などが必要なこともあり、実際には難しいケースもあるでしょう。

しかし、この取り組みでは集積のために農地を貸し出した地権者に上限8万円、集約のために農地を交換した耕作者に2万円(いずれも10a当たり)の協力金が交付されます。

また、地域の農業委員会の協力を得られるため、農家個人の力だけでは解決することが難しい状況でも、農地の集積・集約化の交渉がスムーズに進みやすい点がメリットです。

事業の目標は3年間で100ha規模の農家を育成することであり、短期間のうちにメガファーム化を実現するために適した支援が受けられる制度になっています。

「茨城モデル」から見る成功のポイントと、メガファーム化の課題

茨城モデル水稲メガファーム育成事業の第一号として認定されたのが、「YAMAGUCHI farm株式会社」です。

代表である山口貴広氏が同事業に参加したのは、「周囲で後継者がいない農家が増えてきた現状を目の当たりにし、地域を支える米づくりの担い手として規模拡大できないか」と考えていたからでした。

もともと、事業参入前から32haの作付面積を誇る大規模農家ではありましたが、2020年産では当初の2倍である65haまで増やすことに成功しています。

短期間にこれほどの規模拡大を成し遂げた場合、作業に携わる人員も作付面積に比例して2倍程度に増えると考えるのが自然でしょう。しかし、この事例ではもともと働いていた山口氏本人とそのご両親に加え、新たに従業員1名と繁忙期のみ働いてもらうパート従業員1名の合計2名しか増やしていません。

これは、同社が農林水産省の実施する「スマート農業実証プロジェクト」という取り組みに参加していることも大きく影響していると考えられます。

農地の集約によるスケールメリットに加え、自動運転田植機や収量コンバイン(注)などのIT技術を駆使したスマート農業を積極的に導入したことによって生産性が向上し、低コストで大規模な作付が可能になったのです。

(注)収量コンバイン:GPSを搭載し、収量センサ・食味センサなどを備えたコンバイン。収穫・脱穀しながら、収量・食味などを計測し、メッシュマップデータとしてクラウドシステムに送信する。これを分析することで、翌年の施肥や移植時期、水管理などをほ場ごとに適切に設計できる。

つまり、今回のケースにおける成功のポイントは、「行政が間に入ったため、個人が行うよりも農地集積が比較的スムーズにできた」「スマート農業の導入による作業効率化を実現した」の2つだといえます。

一方、一見すると順調に規模拡大を成し遂げているように見える同社ですが、課題がないわけではありません。

その課題とは「2020年8月時点で目標の作付面積に達していない」ことです。原因は、事業エリア内のおよそ1,300戸もの地権者との交渉が進んでいないことです。

予測不可能であった新型コロナウイルス感染症の拡大が重なったこともあり、対応が難しかった面もあるかもしれません。

しかし、もともと小さい農地ばかりであった日本では、行政が介入しても農地の集積・集約化を進めていくのに時間がかかるという事実に変わりはありません。本事例は、日本農業全体が抱える問題を改めて浮き彫りにしているともいえます。

YAMAGUCHI farm 株式会社 ホームページ

出典:筑波総研株式会社「筑波経済月報2020年4月号」所収「研究員レポート|水稲農業における茨城県の新たな取り組み 「茨城モデル水稲メガファーム育成事業」を通じた「担い手」の育成」(主任研究員 山田浩司)

収量コンバインの例:ヤンマーアグリ株式会社「収穫量マッピング仕様コン バインYH6115」

収量コンバインの例:ヤンマーアグリ株式会社「収穫量マッピング仕様コン
バインYH6115」
出典:株式会社 PR TIMES(ヤンマーホールディングス株式会社 ニュースリリース 2020年6月2日)

今回はこれからの農業の未来を背負って立つ可能性のあるメガファームについて紹介してきました。

高齢化による後継者不足やTPPなど自由貿易化によって、今後の日本農業を巡る環境は大きな変化を余儀なくされるかもしれません。メガファームはそのなかで日本の農業を守るための解決策の1つといえ、行政もさまざまな支援を提供して積極的に推進しています。

メガファーム化を考えている人は、まず経営の大規模化によるメリット・デメリットをよく理解し、「きちんと収益が上がるかどうか」をしっかりシミュレーションすることから始めてみましょう。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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