大根農家が大規模経営で成功するには? 耕作放棄地の活用による規模拡大と省力化
大根農家が経営規模を大きくすることにより収益性を高め、所得増をめざすことは可能です。大根農家の収入や抱える課題や、大規模経営を成功させるための耕作放棄地の活用・再生方法について解説します。
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大根農家が大規模経営に取り組めば、収益性を高め、所得を増やすことが期待できます。大規模経営を実現する方法として、耕作放棄地や遊休農地の活用、スマート農業の導入、輪作などについて解説します。
大根農家の収入は?
yama / PIXTA(ピクスタ)
市場や統計をみると、大根は、出荷時期によって「春大根」「夏大根」「秋冬大根」に区分されています。まず、作型と出荷時期の関係を整理したうえで、「春大根」「夏大根」「秋冬大根」別の経営収支をみていきます。
大根の作型と「春大根」「夏大根」「秋冬大根」の関係
大根の作型と、4~6月に出荷される春大根、7~9月の夏大根、10~3月の秋冬大根の区分を重ね合わせると、春大根は保温育苗の保温育苗の作型、夏大根は冬春播きと寒地での夏まき、秋冬大根は秋播きが主であることがわかります。
出典:タキイ種苗株式会社「野菜の作型と品種生態 栽培の幅を広げるために 12 アブラナ科各論4 ダイコン(タキイ最前線 2013年冬春号)、独立行政法人農畜産業振興機構「だいこんの需給動向(野菜情報 2013年1月号)」よりminorasu編集部作成
画像出典:Tony / PIXTA(ピクスタ)・川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
大根の経営収支
農林水産省ではかつて、農家の経営状態を作物別に調査する「品目別経営統計」を実施していました。
この統計から、春大根・夏大根・秋冬大根の区分で10a当たりの経営収支をみると、粗収益・所得率とも春大根が高いことがわかります。
出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計|農業経営収支(1戸当たり)|だいこん」よりminorasu編集部作成
農林水産省の作況調査で出荷量の内訳をみると、秋冬大根が全体の約6割を占め、その産地は全国に分散しています。夏大根は北海道・青森県・岩手県で8割を占め、産地は寒冷地に集中しています。春大根は。千葉県のシェアが突出していますが、夏大根ほど地域は集中していません。
このことから、夏大根以外は各地で栽培可能といえるでしょう。
出典:農林水産層「作物統計|作況調査(野菜)| 確報 令和2年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
大根農家の10a当たりの農業所得をほかの露地野菜と比べると、春大根以外は、ニンジンや里芋など根菜類の中でも、低い方に属します。
大根農家が農業所得を増大させるには、大規模化することが早道といえますが、ほかの作物との複合経営、生食用以外の実需先を開拓し加工後に出荷する、などの方法も考えられます。
出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成
大根農家が収益性を向上するためには?
大根農家の収益性向上のために検討したいポイントとしては、次の2点が挙げられます。
・大根は大規模経営に向いている
・耕作放棄地や遊休農地の活用がカギ
それぞれについて解説します。
大根は大規模経営に向いている
mits / PIXTA(ピクスタ)
大根やジャガイモ(馬鈴薯)、キャベツ、玉ねぎは、いずれも特に消費量の多い「指定野菜」の品目であり、規模の大きな産地が国によって指定されています。
1戸当たりの経営規模が大きい「土地利用型大規模野菜生産」「土地利用型園芸」といわれ、加工しやすく売れやすい点が共通しています。
▼指定野菜についてはこちらの記事をご覧ください。
日本の農業は、農家の高齢化と担い手不足が問題となっていますが、この状況は、大根などの露地野菜の販売農家でも変わりません。農林業センサスの「露地野菜部門」の作付農家数をみると、2000年に45万戸だった作付農家数は、2020年には23.2万戸、5割近く減少しています。
対して、作付面積は5%程度の減少にとどまっており、露地野菜でも農地の集約化が進んでいることがわかります。
出典:農林水産省「農林業センサス」よりminorasu編集部作成
耕作放棄地や遊休農地の活用がカギ
高齢化や人手不足により、耕作放棄地が増えています。耕作放棄地とは、以前耕作していた土地で、過去1年以上にわたって作物を栽培していない土地のことです。
出典:農林水産省「農林業センサス累年統計(総農家等 5-16耕作放棄地面積)」よりminorasu編集部作成
労働力不足のために耕作放棄地となる例が5割近くを占めますが、そのほかにも、生産性の低さや農地の受け手がいないことなども原因となっています。
出典:国土交通省「第4回集落課題検討委員会」所収「参考資料 管理放棄地の現状と課題について(平成21年11月)」よりminorasu編集部作成
増えている耕作放棄地を大根などの露地野菜類の大規模化に活用する方法があります。
例えば、神奈川県三浦市では、耕作放棄地を畑地に造成し整備することと高収益作物の導入で、農家1戸当たりの販売額を大幅に増やすことを実現しています。
三浦市には三浦半島特有の入り組んだ狭い水田「谷戸田(やと)」農地が多く、昭和50年代以降、耕作放棄地が増加していました。そこで1990年から基盤整備促進事業を開始し、「谷戸」を埋めて畑地を造成し、灌漑施設や農道の整備に取り組んできました。
生産基盤の整備にあわせて、大消費地に近い立地を活かした高収益作物の導入を推進し、青首大根や早春キャベツ、三浦かぼちゃ、スイカなどを年に2~3回作付けされるようになっています。その結果、130戸の農家について、基盤整備前に10a当たり57万円だった販売額は約180万円に増えました。
出典:農林水産省「農村振興プロセス事例集」のページ 所収「農村振興プロセス事例集(第2弾)」27~28ページ「大都市近郊の⽴地を活かした露地野菜の⽣産拡大【神奈川県・三浦市】」
また、地域や条件によっては耕作放棄地の再生利用に際して交付金が出ることもあります。自治体にも相談し、耕作放棄地や遊休農地を活用した規模拡大を考えてみてはいかがでしょうか。
Tony / PIXTA(ピクスタ)
大規模経営で成功するためのポイント
大規模経営で成功するためのポイントとして、次の3つが挙げられます。
・収獲・調整を自動化する
・6次産業化を組み込む
・輪作体系を確立し、効率的な営農をめざす
それぞれのポイントについて解説します。
収獲・調整を自動化する
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
農林水産省の品目別経営統計の作業別労働時間によれば、大根栽培において収穫・調整・出荷の作業時間が多く、約7割を占めています。
出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成
収獲の作業時間短縮には、収穫機の導入が考えられますが、価格はいずれも数百万円以上です。作付面積とそこから得られる粗収益、収獲・調整にかかる時間や雇用労賃と考えあわせて導入を検討してください。
大根の調整 葉切りと洗浄
yama / PIXTA(ピクスタ)
調整機は100万円台、洗機は50万円台の商品が販売されていますので、人を雇用しての収穫が必要になる規模になるまでは、洗浄・調整の自動化を先に検討してみてください。
以下に製品例を紹介します。
ヤンマーホールディングス株式会社 Youtube公式チャンネル「だいこん収穫機」
製品ページ:ヤンマーホールディングス株式会社「だいこん収穫機HDシリーズ」
株式会社クボタ Youtube公式チャンネル「クボタだいこん収穫機 GRH1700」
製品ページ:株式会社クボタ「クボタだいこん収穫機 GRH1700」
株式会社岡山農栄社(イリノ) Youtube公式チャンネル「イリノ(岡山農栄社) 大根アジャスター」
製品ページ:株式会社岡山農栄社「野菜関連」内「大根アジャスター」
6次産業化を組み込む
SORA / PIXTA(ピクスタ)
6次産業化とは、1次産業である農業や水産業などに2次産業である加工業、3次産業である販売業までを担うことです。大根では、カット野菜、漬物生産などの6次産業化を推し進めることで、収益増をめざせるでしょう。
例えば、茨城県笠間市の有限会社ナガタフーズでは、大根を大根つまと大根おろしに加工し、主に業務用に販売することで業績を伸ばしました。つまは主に卸売市場の水産仲卸やスーパーへ、おろしは主に食品メーカーへ直接販売し、基本的に青果用の出荷はしていません。
そのベースには、機械加工に向いた大根を安定的に調達できていることがあります。自社農場では、機械一環体系を確立し、自社農場で生産できない時期は、各地の大規模生産者から加工・業務用品種を指定して仕入れているのです。
農業生産法人有限会社ナガタフーズ
出典:独立行政法人農畜産業振興機構「調査・報告|大規模野菜作経営による加工事業への6次産業化(野菜情報 2022年1月号)」
長野県のJAあづみ女性部西穂高支部では信州の伝統野菜である牧大根を漬物に加工し、販売することで収益増をめざしています。
出典:
農林水産省「6次産業化の取組事例集(平成28年2月)」157ページ「信州の伝統野菜である牧大根を次世代へ伝承するとともに、地域農業の活性化への取組」
JAあずみ|女性部 「信州の伝統野菜「牧大根」 次世代へ」
JA長野県「県の伝統野菜「牧大根」 12000本収穫(2022年11月16日)」
信州地大根のたくあん漬け
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
輪作体系を確立し、効率的な営農をめざす
大根は連作障害が問題となる作物でもあります。大根農家が収益性をあげていくためには、農業所得を最大化できる輪作体系を導入することが挙げられます。
福島県浜通り地方北部は大根で国の指定産地に指定されていますが、近年、農家の高齢化に伴う耕作放棄地の増加が問題になっていました。そこで福島県農業試験場では、大根産地の維持・強化のため、大根にヘイオーツ、ジャガイモ(馬鈴薯)とウドを組み合わせた4年輪作体系の経営モデルを策定しました。
この経営モデルでは、大根の播種と収獲搬送を自動化することを前提に、家族3名・雇用3名で経営耕地を17.6haまで増加でき、農業所得は1,800万円を確保できるとされています。
出典:農研機構「秋冬ダイコンを中心とした土地利用型野菜の輪作大規模経営モデル」(研究成果情報|平成13年度)
まめつん / PIXTA(ピクスタ)
大根は大規模栽培に適した作物です。耕作放棄地などを活用し、栽培規模の拡大をめざしてみてはいかがでしょうか。自治体によっては、耕作放棄地を活用することで補助金が支給されることもあります。
また、スマート農業の導入による作業効率の向上や6次産業化も組み込み、大根栽培をより収益性のある魅力的な事業へと育成していくことも大切です。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。