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幻の「練馬大根」とは? 伝統野菜の復活をめざす、東京都練馬区の取り組み事例

幻の「練馬大根」とは? 伝統野菜の復活をめざす、東京都練馬区の取り組み事例
出典 : トラック/ PIXTA(ピクスタ)・ころころ / PIXTA(ピクスタ)

伝統野菜である「練馬大根」は、現在「幻」と呼ばれるほど生産量が少なく、復活をめざした取り組みが行われています。そこで今回は、これまでの歴史や栽培の現状、練馬区で行われている具体的な取り組み事例や栽培方法の概要、コツなどを紹介します。

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幻とも呼ばれる伝統野菜の練馬大根は、現在練馬区が復活をめざした取り組みを行っています。そこで今回は、具体的な取り組み事例や、幻と呼ばれるようになった原因、栽培方法などを紹介します。

幻の伝統野菜「練馬大根」とは?

「練馬大根」は、練馬区で栽培されている伝統野菜です。まずは練馬大根が有名になった背景や、なぜ現在幻と呼ばれるようになってしまったのかについて、概要を紹介します。

300年以上前から存在する、伝統的な白首系大根

東京都練馬区春日町、昭和15年東京市長揮毫「練馬大根碑」(手前)と練馬大根の品種改良と普及育成に生涯をささげた「鹿島安太郎翁の顕彰碑」(奥)

東京都練馬区春日町、昭和15年東京市長揮毫「練馬大根碑」(手前)と練馬大根の品種改良と普及育成に生涯をささげた「鹿島安太郎翁の顕彰碑」(奥)
イデア / PIXTA(ピクスタ)

練馬大根は、尾張大根と練馬の地大根との交配によって生まれたもので、江戸時代の元禄期頃に定着しました。練馬周辺の土壌は、関東ロームと呼ばれる褐色の赤土に枯れ葉の腐植でできた黒ボク土で大根の栽培に適していたことから、栽培が盛んになります。

その人気は「大根の練馬か、練馬の大根か」と言われるほどで、練馬は江戸100万人の人口を支える野菜の供給地として栄えました。練馬大根は白首系大根で、肉質が緻密で水分が少なく、身が締まっていて歯ごたえがよいのが特徴です。乾きやすいため干し大根に適しており、主にたくあん漬け用として栽培されています。

練馬区内で天日干しされている練馬大根

しんた / PIXTA(ピクスタ)

また、地中深くまで根を張る性質があり、中央部が膨らんでいることから引き抜くときは青首系よりも3~5倍の力が必要です。ちなみに純粋な練馬大根は、たくあん漬け専門の「練馬尻細大根」と、煮物などに適した生食用の「練馬秋づまり大根」があります。

その後、品種改良を行ってきた結果、現在は多くの練馬系大根が存在しており、これらの大根も広い意味では「練馬大根」といえるでしょう。

現代までの生産量の推移

練馬大根の生産量は、明治から大正にかけて増加していき、昭和12年ごろには軍需用たくあんの需要が高まったことによって栽培のピークを迎えました。しかし、昭和30年代からは干ばつや西洋化などいくつかの要因が原因となって生産が衰退し、ほとんど栽培されなくなっていきました。

こうした状況を受け、練馬区は1989年にJA東京あおばや練馬区内の農家と協力し、練馬大根の保存・育生事業を開始したのです。

この事業が功を奏し、2018年には19の農家が1万4,200本の練馬大根を生産しました。現在でも市場に出ることはあまりありませんが、直売イベントを中心に販売されています。

なぜ幻に? 練馬大根の生産量が激減した理由

大根栽培は青首大根が主流に

大根栽培は青首大根が主流に
sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)

練馬大根の生産量が激減した理由としては、大干ばつやモザイク病の大発生、食生活の洋風化、収穫の困難さなどが挙げられます。まず昭和8年の大干ばつにモザイク病の蔓延が重なったことで、生産量ががた落ちしました。

また、戦争が始まった当初は軍需用たくあんの需要がありましたが、国の統制経済によって大根栽培から米や麦の栽培に切り替えるように迫られたことで、練馬大根はさらに生産量が減少していきます。

昭和26年には統制経済が撤廃され、練馬大根の栽培を再開できるようになりました。その一方で青首大根の品種開発が進んだことで農家の多くが青首系の大根に移行しました。

練馬大根は地中深くに根を張るため長さが70~80cmほどもあり、引き抜きには強い力が必要です。
加えて、練馬大根は根が細いため折れやすく、1本を2人がかりで行うほど収穫が難しい野菜です。さらに食生活の洋風化が進み、漬物の需要が減ったことも相まって練馬大根の栽培が激減した結果、練馬区では現在、キャベツが主要農産物となっています。

練馬区 住宅街に散在するキャベツ畑

練馬区 住宅街に散在するキャベツ畑
CHAI / PIXTA(ピクスタ)

練馬大根の復活をめざす、練馬区の取り組み事例

現在練馬区では練馬大根の生産量を増やすため、行政と農協、農家が力を合わせ種子の保存と配布、販売経路の確保と拡大、練馬大根引っこ抜き競技大会の実施などで練馬大根の育生事業を行っています。

例えば、練馬大根引っこ抜き競技大会という練馬大根の収穫の難しさを逆手に取り、練馬大根をどれだけ早く引き抜けるかを競う大会を開催するなど、さまざまなイベントを行っています。練馬区の伝統野菜である練馬大根の魅力を、全国に向けて発信しているのです。

練馬区 Youtube公式チャンネル「ねりまほっとライン(第9回練馬大根引っこ抜き競技大会)平成28年1月前半号」

また、練馬大根をJA東京あおばの農業祭や農産物販売所などで販売しています。さらには練馬区の役所や大学の食堂、レストランなどに練馬大根を販売し、料理として提供してもらうことで知名度を向上させ、販売の確保を図っています。

そのほか、歴史的な風景である練馬大根の干し風景をJA東京あおばの農業祭の会場で再現するなどして、地産地消の促進や食育の推進など農業への理解を醸成しているのです。

練馬区は、練馬産農産物のマルシェを積極的に開催するほか、農家などが行うマルシェも「ねりマルシェ」として支援。練馬大根をはじめとした農産物セットがプレゼントされるキャンペーンも実施している。

練馬区は、練馬産農産物のマルシェを積極的に開催するほか、農家などが行うマルシェも「ねりマルシェ」として支援。練馬大根をはじめとした農産物セットがプレゼントされるキャンペーンも実施している。
出典:株式会社PR TIMES (練馬区 広聴広報課 ニュースリリース 2021年11月8日)

イベントで大人気! 練馬大根の伝統的な栽培方法

最後に、練馬大根をどのように栽培していくべきか、その栽培方法や上手く栽培するためのコツなどを紹介しましょう。乾燥の仕方なども紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

練馬大根の栽培暦

練馬大根の基本的な作型は「秋まき冬どり」で、整地は播種前7~10日、播種時期は8月中旬~9月20日程度、播種後3週間目に間引きを行い、播種後100~120日後の11月下旬~12月いっぱいまでに収穫を行います。

その後10~20日ほど乾燥させ、干し上がった大根は干大根として出荷する、もしくは直接たくあん漬けとして加工を行うことも可能です。

栽培に適した土壌と土作り方法

播種の1ヵ月前、ほ場に大根専用の肥料をまき、耕運機で攪拌します。整地は播種前7~10日に、深さ60cm以上を丁寧に耕しましょう。畔幅は63~66cm、東西の方向に畝立てしてください。株間は35~45cm程度です。

栽培中の土壌に関しては、土壌消毒をしっかり行うことがポイントです。アブラムシなどによる病害虫を徹底して防除しましょう。灌水については基本的に降雨に頼り、特に行わないようにします。

ちなみに、ここ数年夏から秋にかけて東京で頻発するゲリラ豪雨では、冠水被害なども増加していますが、練馬区の農地では雨水が地面に吸収されてあふれることもないため、大きな被害は発生していません。

播種・間引き・土寄せ

播種を行う際は縄ズリをして条をつけ、その線の上に足跡を踏みつけることで株間になる「足っこ」が伝統的な方法とされています。足跡に基肥を施し、種子は爪先よりも少し離した状態でまきます。

播種は1ヵ所に5~6粒程度を目安としましょう。覆土は厚さ2cm程度、大根種子は腰が弱いために覆土してからクワなどの背で圧迫すると、発芽しにくくなるため注意してください。また播種時期は乾燥しやすいため、注水を必要とする場合も多くなっています。

播種後3週間目に、本葉6~7枚となった時点で間引きを行います。ほかにも、1回目の間引きを本葉3枚で2本立てにし、その10日後に1本立てにするという方法もおすすめです。

間引き後は、株の周囲に高さ10cm、周囲20cmほどの土寄せを行います。寄せた土は両手で締めますが、強く締めすぎないように注意しましょう。ただし、この土寄せは省略することも可能です。マルチシートと風よけ・日よけのための寒冷紗をかけるだけでも問題ありません。

練馬区 大根畑

SHOGO KAWAMURA / PIXTA(ピクスタ)

肥・中耕

追肥は間引き前か、土盛り直後に1回目、収穫の20~30日前に2回目を行います。追肥を行う場合は、1株おきに穴を堀って施してください。土盛りと追肥を行った日か、その翌日には1回目の中耕を行います。

1回目の中耕は、南から北に土寄せする「日陰切り」で、中耕の溝の深さは6cm程度を目安としましょう。2回目の中耕は1回目から10日後前後で行います。2回目は1回目とは逆に、北から南に向けて土寄せする「日向切り」で行ってください。

溝の深さは10cm程度、大根の北側を背にして、土盛りより少し高く盛り上げるように行うのがポイントです。大根の北側を背に土を多く盛り上げ、溝を深くすることによって太陽光線の射入が強くなり、根の太りを促進できるようになります。

収穫・乾燥

練馬区独立70周年記念『I ❤ 練馬あるある』キャンペーンで制作された絵本にも練馬大根のページがある

練馬区独立70周年記念『I ❤ 練馬あるある』キャンペーンで制作された絵本にも練馬大根のページがある
出典:株式会社PR TIMES(東京都練馬区 ニュースリリース 2017年6月13日)

収穫のタイミングは、土の上に伸びた葉が左右に開いた頃です。傷をつけず、根を折らないよう細心の注意を払って抜き取ってください。抜き終わったらその場で葉っぱとお尻を切り落とします。

切り落とした葉っぱとお尻はそのままほ場に残し、あとで土にすきこみましょう。収穫した大根はその日のうちかその翌日に水洗いします。このとき洗浄機を活用すると効率よく洗えます。洗った大根はたくあん漬けを行う前の乾燥作業に入ります。

大根をロープで編んでしっかりと固定した状態で吊り下げ、10~20日ほど干してください。練馬大根は11~12本を繋げる「たて編み」と呼ばれる伝統の技で干されます。乾燥期間中の雨は厳禁であるため、降雨が予想されるときは必ず雨覆いを行って、絶対に雨に当てないようにしてください。

乾燥作業の完了は、大根の水分が抜け、しなびてくるりと輪をつくれる状態になったタイミングを目安とします。このまま干し大根として出荷もできますが、たくあん漬けとして加工することもできます。

漬け樽には塩と米ぬか、砂糖(ざらめ)などを入れ、干し終わった大根と混ぜて重しを乗せます。大根から沁み出る水分を丁寧に取り除きながら管理すれば、1ヵ月程度でたくあん漬けが完成します。

脱プラスチックをめざす直売所の看板になった「練馬大根」

脱プラスチックをめざす直売所の看板になった「練馬大根」
出典:株式会社PR TIMES(ノウ株式会社 ニュースリリース 2019年12月19日 )

今回は練馬大根が日本で栽培されてきた背景や、なぜ現在生産量が減少して幻と呼ばれるまでになったのか、また、練馬区が復活のために取り組んでいる事例などを紹介しました。練馬大根は収穫が難しい野菜ではありますが、区の取り組みもあって現在知名度が上昇しています。

毎年開催されるイベント「練馬大根引っこ抜き競技大会」は練馬区の冬の風物詩ともなっています。

都市近郊の伝統野菜の復活とブランド化の事例として参考になるのではないでしょうか。

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