指定野菜とは? ブロッコリー追加で注目の「野菜指定産地制度」と農家の視点から見る課題
栽培作物を選定するに当たり、経営の安定を図れる指定野菜は有力な候補です。しかし、指定野菜とはどんな野菜でどんなメリットがあるか分からない方も多いと思います。今回は、指定野菜やその制度について紹介します。また2026年にブロッコリーが指定野菜に追加される背景や影響についても触れていきます。
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指定野菜とは? その意味と、現在の生産状況
まずは「指定野菜」とは一体何かを紹介します。なぜ国によって指定された野菜があるのか、その目的や実際の品目、作付面積についても紹介しているので参考にしてください。
野菜指定産地制度によって指定された、「国民生活上極めて重要な野菜」
指定野菜とは、1966年に「野菜生産出荷安定法」によって指定された野菜の種別や、その野菜を栽培する産地のことをいいます。種別は野菜の中でも特に消費量の多いものを、産地はその野菜を毎年作る規模の大きな産地を、それぞれ国が定めているのです。
また指定産地には、指定野菜の出荷数量における2分の1以上を指定された消費地域に出荷する義務が存在します。一方で、出荷価格が一定以下に下落した場合は、補給交付金が支給される「野菜指定産地制度」もあります。
これらの制度が定められた理由としては、野菜の価格変動の激しさがあります。作物の収量は天候の影響を大きく受けやすく、市場への供給量も変動します。そのため時期によって市場価格が激しく高下します。
野菜指定産地制度は、これを避けて野菜の安定的な供給を確保することを目的に設定されました。
指定されている品目と、2022年度の作付面積
指定野菜として定められている品目は以下の14品目で、産地は2024年2月時点で873産地が指定されています。
- 葉茎菜類
- キャベツ、ほうれん草、レタス、ネギ、玉ねぎ、白菜、ブロッコリー(2026年追加)
- 果菜類
- きゅうり、ナス、トマト、ピーマン
- 根菜類
- 大根、ニンジン、里芋、ジャガイモ(馬鈴薯)
R-DESIGN / PIXTA(ピクスタ)
2022年産の指定野菜の生産状況をみると、野菜全体の作付面積約44万haの67%、収穫量 1,284万t・出荷量 1,114万tの約83%を占めており、指定野菜が重要な地位を占めていることがわかります。
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 令和4年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
2026年度からブロッコリーが指定野菜に追加
2026年から、新たにブロッコリーが指定野菜に追加されることが決定しました。1974年のジャガイモ以来、約50年ぶりの新規追加品目となります。
農林水産省によると、2022年のブロッコリーの出荷量は15万7100トンで、2012年と比べて28%増加しています。指定野菜になることで、生産者は価格安定対策事業の支援を受けやすくなり、消費者には安定した価格と供給が期待されます。
ブロッコリーはビタミンCやベータカロテンを豊富に含むため、健康志向の消費者に人気があります。また、電子レンジで簡単に調理できることから、忙しい家庭での需要が増加、さらに、高タンパク食品として鶏肉と一緒に消費されることが多い点が、生産増加の背景とされます。
「指定野菜」と「特定野菜」の違い
指定野菜と混同されやすいものに「特定野菜」があります。両者には明確な違いがあります。特定野菜とは指定野菜に準じた重要性を持つ野菜のことで、ブロッコリーやチンゲンサイ、かぼちゃなどの35品目が指定されています。
この特定野菜についても「特定野菜等供給産地育成価格差補給制度」があり、価格が大幅に下がった場合には価格差を考慮した補給金が交付されます。
栽培するべき? 指定野菜を導入する農家のメリット
指定野菜についての概要を把握できても、農家にとって気になるのは、指定野菜を栽培することでどのようなメリットが得られるかでしょう 。
そこで、次に指定野菜を栽培するメリットについて、先ほどの制度なども交えながら紹介します。
高需要で安定した売り上げが見込める
指定野菜にどの程度の需要があるかについては、農林水産省が策定している「指定野菜の需給ガイドライン」に表記されています。
それによれば、2024年度の秋冬野菜については、玉ねぎは約130万t、ジャガイモは約174万t、秋冬大根は約69万tが需要量とされています。
また、キャベツに関しては年間を通して需要量が高い点に注目です。冬キャベツが約42万t、春キャベツが約25万t、夏秋キャベツが約34万tと常に高い水準で推移しており、年間合計105万tの需要があります。
そのほか、指定野菜の中で比較的需要量の少ない春ネギや夏秋ピーマンでも、それぞれ約6.4万tと約6.5万 tの需要量があることから、指定野菜は14品目すべてが非常に高需要であり、安定した売上が見込めるといえるしょう。
出典:
農林水産省「令和6年度夏秋野菜等の需給ガイドライン」
農林水産省「令和5年度冬春野菜等の需給ガイドライン」
DREAMNIKON / PIXTA(ピクスタ)
補給金で、作物価格下落時の収入が補填される
先述したように、指定野菜は野菜指定産地制度によって作物の価格が下落した際に補給金が交付されます。
この補給金は農家や道府県、国が積み立てた資金が財源であり、販売した野菜の市場平均価格が保証基準額(平均価格の90%)を下回った場合、その差額を出荷数量に応じた割合で補填してもらえるものです。
出典:独立行政法人 農畜産業振興機構「指定野菜価格安定対策事業の概要」
天候などによって収益が左右されることがなくなるため、経営が安定しやすいのが指定野菜を栽培する大きなメリットです。ただし、指定野菜は農林水産大臣が指定する産地で生産することが条件となるため、自身のほ場が指定産地になっているかを確認してください。
また、指定野菜を栽培する場合は、「農協、事業協同組合及びその連合会」もしくは「対象野菜の作付面積が2ha以上の者」の要件を満たす必要があります。これらの要件を満たしているのであれば、対策事業を運営する農畜産業振興機構に登録手続きを行ってください。
出荷先に関しては、機構が定める市場のみが対象となっているので注意が必要です。全国の中央・地方卸売市場か、JA全農青果センターに出荷した野菜以外は対象となりません。ちなみに資金積み立ての負担額は農家、道府県、国で2:2:6の割合となっています。ただし、一部の対象野菜については農家や道府県の負担を軽減する措置もあります。
出典:独立行政法人 農畜産業振興機構「指定野菜価格安定対策事業のご案内」
yukimi / PIXTA(ピクスタ)
指定産地における戦略キーワードは「連作障害対策」と「差別化」
農家にとって大きなメリットのある野菜指定産地制度ですが、安定経営が見込める一方、課題があることも忘れてはなりません。
連作障害対策
指定産地では、まとまった量の指定野菜を継続して出荷するために連作している場合が少なくありません。そのため、連作障害による地力低下や病害虫の多発をどう抑えるかが課題になっています。
差別化戦略
生産量・出荷量とも8割を占める指定野菜の中で、産地としての差別化をどう図っていくかも大きな課題です。付加価値の高い品種や端境期に出荷できる作型の導入などが有効な施策になってきます。
例えば千葉県では、特産の落花生を輪作体系にとりいれることや、生産技術のマニュアル化、夏ネギや春だいこんなど高い販売価格を狙える作型の確立などに取り組んでいます。
出典:千葉県「千葉県農林水産業振興計画(2018~2021)について」
Tony / PIXTA(ピクスタ)
今回は指定野菜とは何か、また、制度が作られた目的や指定野菜を栽培するメリット、指定産地の課題について紹介しました。
指定野菜の栽培は安定経営のベースとなり得ますが課題もあります。連作障害対策や地域の産地としての差別化戦略をしっかり把握したうえで、上手く経営に取り入れましょう。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。