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菊栽培農家は儲かるのか? 花き栽培の現状と課題を解説

菊栽培農家は儲かるのか? 花き栽培の現状と課題を解説
出典 : Rhetorica / PIXTA(ピクスタ)

花き栽培は、個人経営において比較的高い農業所得を期待できるとして、若い世代の参入者も多い作物として注目を集めています。今回は、国内花きの最大生産品目である菊栽培に焦点を当て、現状と収益性、課題を解説します。

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何を目的に農業を営むかは人それぞれですが、少しでも儲かる作物を栽培したいと考える方は多いでしょう。

今回は、新規就農や新規作物への挑戦を考えている方に向けて、国内花き栽培の中でも最大品目である菊栽培の現状や農家が抱えている課題について解説します。

菊栽培農家の現状

まずは菊栽培農家の現状について紹介します。栽培農家の平均農業所得や菊の農業産出額はどれぐらいなのか見ていきましょう。

花き栽培農家の平均農業所得

農林水産省の「営農類型別経営統計( 野菜作経営、果樹作経営、花き作経営)」によると、令和元年度の個人経営体における施設花き作経営の平均農業所得は314.2万円でした。

野菜作・果樹作・花き作の農業所得(2019年 個人経営)

出典:農林水産省の「営農類型別経営統計( 野菜作経営、果樹作経営、花き作経営)」よりminorasu編集部作成

金額だけを聞いてもピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、これは野菜作・果樹作・花き作の営農類型の分類で施設野菜作経営の403.7万円に次いで高い所得です。

その一方で、法人経営体の農業経営収支は323万円の赤字となっており、営農類型の分類の中で最も悪い数値となっています。経営費の内容をみてみると、雇入費の割合が高く、繊細な作業が多い花き栽培での大規模化の難しさをうかがわせます。

出典:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計」

国内の花き生産のトップは菊

花き栽培の中でも国内産出額のほとんどはユリやバラなどに代表される切り花類が占めています。

その中でも最も多いのは菊で、2019年産の切り花類の産出額1,971億円のうち597億円、およそ30%を占めています。

これは2位のユリ(190億円)のおよそ3倍にあたる数値で、いかに花き産出額における菊の存在が大きいかわかるでしょう。

菊はこれまで仏花や供花として国内のさまざまな地域で用いられており、花き農業を牽引してきた作物だといえます。

花き栽培は若い世代に人気が高い

若手の菊栽培農家

cba / PIXTA(ピクスタ)

日本農業では高齢化に伴う後継者不足などの影響で、農家数は減少傾向にあり、その影響は花き栽培にも及んでいます。

しかし、農林水産省が2021年9月に公表した「花きの現状について」という資料では、45歳未満の花き栽培農家の割合が稲作と比べて約2倍というデータが示されました。

また、新規就農者のうち85%は園芸作物(野菜・果樹・花き)をメイン作物として選択しており、若者にとって園芸作物が魅力ある分野であることがわかります。

出典:農林水産省「花き振興コーナー」所収「花きの現状について(令和3年9月)」

菊栽培農家の課題

花き栽培の最大品目である菊は比較的温暖な地域を中心として日本の各地で栽培可能ですが、経営を左右する内外の課題があります。

この章の出典:
農林水産省
「令和元年度花き産業成長・花き文化振興調査報告書」
「花き振興コーナー」所収「花きの現状について(令和3年9月)」

国内生産の減少・輸入割合の増加

菊は切り花の中でも、仏花としてのニーズが高い品目です。しかし、時代の変化とともに葬儀の縮小や価値観の多様化による洋花への代替によってこれまでに比べるとニーズが減っており、国内における出荷量、産出額のいずれも減少傾向にあります。

菊の出荷数量推移

出典:農林水産省作物統計調査 作況調査(花き)」よりmiorasu編集局作成

また、近年ではスプレーギクを中心として海外からの輸入割合が増えているのも懸念事項の1つです。

花きはもともと輸送中の日持ちの問題から、あまり輸入量は多くありませんでした。しかし、品種改良によって日持ちや品質が向上した結果、コロンビアやマレーシア、中国をはじめとする輸入品の割合が増えつつあります。

これから菊栽培に取り組むのであれば、そうした海外産に負けない品質を保つ作物の栽培が求められるでしょう。

エネルギー価格の高騰

電照菊栽培

TM Photo album / PIXTA(ピクスタ)

菊は施設を利用すれば周年栽培が可能です。実際に菊栽培が盛んな愛知や千葉、静岡などでは施設による電照菊の周年栽培が広く行われています。

周年栽培にあたっては花芽分化に適した温度を保つ必要があり、冬季の暖房は必須です。そこで、課題になるのが暖房機の稼働に必要となる重油代や電照のための電気代といったエネルギーコストです。

エネルギーコストが高くなればなるほど農業所得が減少する恐れがあるため、近年では電照を省エネタイプのLEDに変えたり、重油を使わないヒートポンプを導入したりするケースも増えてきました。

しかし、農家がそうした努力をする一方で、エネルギー価格は発展途上国の需要増などの影響を受けて近年上昇傾向が続いており、今後も経営を圧迫するリスクの1つとして認知されています。

市場の変化による従来ニーズの減少

先述のように菊はこれまで主に仏花として市場から安定したニーズがありました。しかし、価値観の多様化や新型コロナウイルスによる影響もあって、菊の切り花としての消費量が減少しています。

特に葬祭における洋花の代替はかなり進んでおり、一部農家の間では同じ施設で栽培できるトマトやイチゴなどへの転作を検討している方がいるのも事実です。

菊の花祭壇・洋花の花祭壇

yosuke7311 / PIXTA(ピクスタ)・KOHEI 41 / PIXTA(ピクスタ)

そうした動きがある一方で、これまでとは違う市場で新しいニーズを作りだそうと取り組んでいる産地もあります。

大産地の愛知県の生産組合やJAでは、花もちがよくアレンジしやすいことを活かして生活にうるおいを与える花としての提案をしたり、花言葉の「高貴」「真の愛」「清浄」というイメージを訴求して結婚式での使用を提案したりしています。

菊はもともと皇室の紋章として使用されるなど、日本国民にとって身近な存在の花です。需要の減少に対抗するためにも、今後はマム(洋菊)のような華やかなイメージを利用して新たな市場を開拓するなど、消費者のニーズに沿った販売戦略を立てることが重要になるでしょう。

全国のマム生産者により組織され、マムの花の普及とPRをする団体「OPTIMUM(オプティマム、事務局:愛知県田原市)では、11月6日を「いいマムの日」とて、さまざまなアレンジや利用シーンを提案している。

全国のマム生産者により組織され、マムの花の普及とPRをする団体「OPTIMUM(オプティマム、事務局:愛知県田原市)では、11月6日を「いいマムの日」とて、さまざまなアレンジや利用シーンを提案している。
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(OPTIMUM ニュースリリース 2021年10月28日)

花きの個人経営は、数ある栽培系の農業の中でも比較的高い所得を見込める経営方法です。特に菊栽培は花きの中で最も農業算出額が多く、主力となっています。

45歳未満という若い年代で取り組んでいる農家も多いので、これから新規就農や転作を考えている人でも参入を検討しやすいのは大きな魅力でしょう。

国内生産量の減少やエネルギー価格の高騰など、いくつか不安な点はあるものの、それは花きに限らず、ほかの作物を栽培する場合も同じです。菊栽培に興味を持った方はお近くのJAや農業改良普及センターなどに相談してみてはいかがでしょうか。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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