害虫「トマトハモグリバエ」とは?作物への影響と防除対策、適用農薬まとめ
ハモグリバエの一種である「トマトハモグリバエは」中南米原産の害虫で、日本国内では比較的新しい害虫といわれています。ほかのハモグリバエよりも情報は少ないですが、共通点も多いため、特徴を正しく把握し早期発見・防除を心がけましょう。
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トマトハモグリバエは葉のみを食害するため、果菜類への被害は深刻になりにくいといえます。しかし、多発すると葉が枯れ収量減につながるので要注意です。本記事ではトマトハモグリバエの生態と防除方法、効果的な農薬などを詳しく解説します。
ナス科やウリ科など多くの作物に寄生! 害虫「トマトハモグリバエ」とは?
トマトハモグリバエ成虫(体長1.6mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマトハモグリバエは1999年に確認された新しい害虫
作物の葉の内部に潜り込んで食害する代表的な害虫として、ハエの仲間であるハモグリバエ類がいます。その一種であるトマトハモグリバエは中南米原産といわれ、日本では1999年に沖縄県で初めて確認されました。国内においては比較的新しい害虫ですが、西日本を中心に分布範囲を広げています。
日本にもともといたマメハモグリバエ、ナスハモグリバエの近縁種で、幼虫・成虫ともにそっくりなうえに、生態や被害状況も酷似しているので、見た目で見分けるのはかなり困難です。確実な識別には、実体顕微鏡で成虫を観察する必要があります。
トマトハモグリバエについての生態や被害状況、防除対策については後述しますが、ほかのハモグリバエ類に共通することが多くあります。すぐに種類を判断せず、確実に特定したい場合には都道府県の農業センターなどで調べてもらうとよいでしょう。
被害症状と作物への影響
トマトハモグリバエ 成虫の産卵痕(トマト)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマトハモグリバエの雌成虫は、トマトに飛来すると発達した産卵管を突き刺して葉面に穴を開けて、そこから汁液を摂取したり産卵したりします。その痕は1mmほどの白っぽい小斑点として残りますが、作物の生育への影響はほとんどありません。
葉の内部に産み付けられた卵が孵化すると、幼虫は葉の内部を食害しながら成長し、葉にはくねくねと曲がった不規則な線状の食害痕が残ります。この食害痕はほかのハモグリバエ類でも同様に見られるもので、別称として「絵描き虫」とも呼ばれます。
トマトハモグリバエ幼虫による食害痕(トマト)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ハモグリバエ類の被害は主に下葉に発生しますが、トマトハモグリバエの場合は部位に関係なく被害が見られます。果実には寄生しないため、発生が少なければ実質的な被害は少ないですが、多発すると葉が枯れ、生育が悪くなって収量が減少します
食害を受けやすい作物の例
トマトハモグリバエ インゲンの被害葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
名前にトマトを冠するトマトハモグリバエですが、トマトをはじめとしたナス科だけでなく、ウリ科、マメ科、アブラナ科などさまざまな作物に広く寄生することが確認されています。特にきゅうり、メロンなどウリ科への被害は、トマトハモグリバエによるものが多いといわれています。
キク科の花きへの被害もあり、果菜類よりも実害が大きく深刻です。多くの雑草にも発生するので、ほ場の周囲の雑草の管理も重要です。
トマトハモグリバエ キンセンカの被害葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマトハモグリバエの被害に遭う可能性のある作物は、以下の表のように多岐にわたっています。
国内でトマトハモグリバエの寄生が確認されている主な作物
科名 | 作物名 |
---|---|
ナス科 | 野菜類:トマト、ナス、ピーマン、トウガラシ、ジャガイモ(馬鈴薯)など 花き類:ペチュニアなど |
マメ科 | インゲン、そら豆、大豆、小豆、ササゲなど |
ウリ科 | きゅうり、メロン、カボチャ、スイカ、ズッキーニ、ヘチマ、シロウリなど |
アブラナ科 | 白菜、キャベツ、小松菜、チンゲンサイ、大根、カブ、ブロッコリー、ミブナなど |
キク科 | 野菜類:春菊、ゴボウなど 花き類:マリーゴールド、小菊、アスター、キンセンカ、ダリア、ヒャクニチソウなど |
アオイ科 | オクラ など |
出典:以下資料よりmiorasu編集部まとめ
岩手県病害虫防除所「平成20年度病害虫発生予察情報特殊報第2号」
栃木県農業環境指導センター「平成14年度病害虫発生予察特殊報第1号」
農林水産省 植物防疫病害虫情報 第63号「新害虫トマトハモグリバエの発生情報(京都府病害虫防除所)」
奈良県農業技術センター 研究報告 第37号「奈良県におけるトマトハモグリバエの分布と発生消長および捕食寄生蜂群集」
高知県病害虫防除所「新しい病害虫VOL.1 トマトハモグリバエ」
鹿児島県病害虫防除所「ハモグリバエ類の見分け方」
国立研究開発法人国立環境研究所「侵入生物データベース」内「トマトハモグリバエ」
トマトハモグリバエの生態と、発生しやすい時期
トマトハモグリバエの成虫は体長約2mmの黄色いハエで、第1世代は苗についてきたり、前項に挙げた作物や近隣の雑草から飛来したりして発生します。
幼虫(ウジ)は淡黄色で成熟期には3mmほどになり、3齢を経過すると葉から脱出して葉の上、または地表で蛹になります。
トマトハモグリバエ幼虫(体長1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
きゅうりの葉上のトマトハモグリバエの蛹
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
発生適温は20~30℃で、9.6℃以下になると成育しなくなるため、露地では4~11月、施設栽培では周年で発生します。1世代は20℃で約27日間、25℃で約17日間、30℃で約14日間と、比較的短期間のサイクルで成長します。産卵数は一定ではなく、植物や環境によって異なるようです。
成虫は黄色に集まる性質があるので、黄色粘着版を設置すると発生状況が把握できます。
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
効果的に防除するには? トマトハモグリバエの防除対策
トマトハモグリバエは比較的新しい害虫ですが、基本的には、ほかのハモグリバエ類と同様の防除方法によって効果が期待できます。
トマトハモグリバエに登録のある農薬もあるので、農薬防除と天敵による防除、耕種的防除を組み合わせて対策を講じましょう。
なお、ここで紹介する農薬は、2022年3月27日現在登録のあるものです。使用にあたっては、必ず使用する時点の登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。また、地域に農薬の使用に関する決まりがあれば、従ってください。
天敵に影響の少ない農薬をローテーション散布する
トマトハモグリバエとトマトに登録のある農薬は「カスケード乳剤」「モスピラン粒剤」「アグリメック」の3種類です。
ただし、モスピラン粒剤は散布ではなく、定植時に土壌混和して使用します。このほか、ハモグリバエ類に登録のある農薬は多数あります。これらを適切な時期に使用することで、高い防除効果を期待できます。
トマトハモグリバエは幼虫の期間が短いので、葉の表面に産卵痕や食害痕が見られたらすぐに農薬散布を開始すると効果的です。
また、世代交代が早いため、同じ農薬を使い続けると薬剤抵抗性が発達してしまいます。同系統農薬の連続使用は避け、複数系統をローテーションで散布しましょう。
また、トマトハモグリバエには、イサエアヒメコバチ、ハモグリミドリヒメコバチなど天敵となる在来生物が多く存在します。「カスケード乳剤」のように、これらの天敵への影響が少ない殺虫剤を選ぶことも大切です。
施設栽培では、防虫ネットと天敵製剤の活用が有効
yukiotoko / PIXTA(ピクスタ)
施設栽培では、換気窓などの開口部に侵入防止の防虫ネットを設置することで飛来を物理的に防げます。防虫ネットは目合い1mm以下のものを選びましょう。
発生初期にイサエアヒメコバチ剤の「ヒメトップ」、ハモグリミドリヒメコバチ剤の「ミドリヒメ」などの天敵製剤を放飼すると効果的です。
農研機構九州沖縄農業研究センターによる研究「促成栽培トマトのハモグリバエ類およびオンシツコナジラミの体系防除」によると、特に、9~10月に定植する促成栽培のトマトで発生した場合は、10月下旬~11月に2~3回の放飼で防除効果が高いとされています。
その後、春季に追加放飼をしなくても4月まで密度を低く抑えられ、5月以降も発生した幼虫の死亡率が高まるので、被害は防げると見られています。
出典:農研機構九州沖縄農業研究センター 「促成栽培トマトのハモグリバエ類およびオンシツコナジラミの体系防除」
なお、天敵製剤は多発してから使用してもあまり意味がありません。多発してしまった場合はあらかじめ農薬で密度を下げる必要があります。そのうえで放飼しましょう。
また、施設栽培ではオンシツコナジラミなどの害虫防除も重要です。そのために殺虫剤を使用する場合は、放飼1ヵ月前には天敵に影響のない選択性殺虫剤を使用するなど、初めから天敵を使うことを考慮しておきましょう。
ほ場周辺の雑草除去や残さの処理も徹底を
発生した場合、農薬や天敵によって密度を下げることが効果的ですが、まずは発生させないことが重要です。そのためには、寄生元となるほ場周辺の雑草除去や、寄生された作物残さの処理を徹底しましょう。
寄生された作物の残さは、必ずほ場の外に持ち出し、土中深く埋めるかビニールで覆って中の蛹や幼虫を死滅させます。
また、発生したほ場では、収穫が終わったら天気のよい日に施設を密閉して蒸し込み処理を行い、地表や作物残さに残った害虫を死滅させて次作の発生源としないことが大切です。
ajcespedes - stock.adobe.com
トマトハモグリバエはトマトなどの果菜類にはそれほど深刻な影響はないものの、収量の維持や向上を図るなら、確実に防除したい害虫です。発生した場合でも、天敵や農薬を組み合わせれば比較的低コストで密度を抑えられます。早期発見できるように、日頃から葉など作物の様子をよくチェックしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。