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洋ラン農家の現状と課題、成功事例

洋ラン農家の現状と課題、成功事例
出典 : pearlinheart / PIXTA(ピクスタ)

華やかで見栄えのする洋ランは、冠婚葬祭を中心としてさまざまなシーンで使われています。これらの洋ランは、実は、花きの中で販売単価が高い品目でもあります。今回は、収益性の高い栽培品目を探している花き農家のために、洋ラン栽培の現状や課題、成功事例などを紹介します。

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贈答用やお祝いの場を華やかに彩る花として人気がある洋ランは、花き類の中でも需要が高く、生産額で菊に次ぐ2位を誇ります。また、栽培に適した環境を整えるためのコストはかかるものの、その分高単価で取引されている点も特徴です。この記事では洋ラン農家の現状について詳しく解説するので、花き栽培で収益性を高めたい方はぜひチェックしてみてください。

日本の洋ラン栽培の特徴と現状

胡蝶蘭 洋ラン ビニールハウス

プルースト / PIXTA(ピクスタ)

洋ランは日本の花きの中で生産額の多い品目ですが、全国で栽培されているわけではありません。実際に栽培に取り組むことを検討しているなら、まずは洋ラン栽培の特徴と現状をよく確認しておきましょう。

菊に次ぐ生産額と高い販売単価

農林水産省が2019年12月に発表した「花きの現状について」という調査報告によると、洋ラン(鉢物)の産出額は菊の625億円に次ぐ364億円です。仏花などでニーズの高い菊に比べると、およそ60%程度の生産額しかありませんが、ここでは販売単価に注目してみましょう。

農林水産省「令和2年産花きの作付(収穫)面積及び出荷量」によると、菊の出荷量は13億本であるのに対し、洋ラン(鉢物)は1230万鉢となっています。つまり、洋ラン(鉢物)の出荷量は菊の1%程度にすぎません。

それにもかかわらず、生産額は菊の約60%もあるという事実が、洋ランの販売単価が非常に高いことを示しています。

出典:
農林水産省「花きの現状について」
農林水産省「令和2年産花きの作付(収穫)面積及び出荷量」

洋ラン産出額の都道府県別ランキング

洋ランの出荷形態には鉢物と切り花の2種類があり、それぞれに産出額の多い都道府県が異なります。鉢物と切り花それぞれの都道府県別産出額は以下の通りです。

洋ラン(鉢物)の都道府県別産出額ランキング上位7位まで(令和2年産)

都道府県出荷量出荷量のシェア収穫面積
愛知県2.94万鉢23.90%4,210a
熊本県1.11万鉢9.00%880a
福岡県1.10万鉢8.90%1,620a
千葉県0.78万鉢6.30%558a
山梨県0.73万鉢5.90%916a
埼玉県0.64万鉢5.20%897a
静岡県0.59万鉢4.80%833a
全国12.30万鉢100.00%17,400a

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(花き)」

洋ラン(切り花)の都道府県別産出額ランキング上位7位まで(令和2年産)

都道府県出荷量出荷量のシェア作付面積
徳島県2.01万本15.20%2,270a
福岡県2.00万本15.20%1,110a
埼玉県1.24万本9.40%883a
沖縄県1.21万本9.20%1,350a
静岡県1.09万本8.30%804a
千葉県0.99万本7.50%655a
鹿児島県0.70万本5.30%450a
全国13.20万本100%10,900a

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(花き)」

上記の通り、ランキング上位7県だけで鉢物は64.1%、切り花は70%を占めています。栃木や岡山、徳島で鉢物が、栃木、群馬、神奈川などで切り花の洋ランが栽培されているものの、市場におけるシェアはそれほど大きくありません。

鉢物で産出額ランキング上位の県では切り花の生産が少ないといったデータからも、洋ランは栽培管理の難しさなどが理由で、限られた地域で栽培される傾向の強い品目であることがわかります。

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(花き)」

国内で生産されている主な洋ランの品種

:ファレノプシス(コチョウラン) シンビジウム デンドロビウム

Ystudio / PIXTA(ピクスタ)

一口に洋ランといっても、その種類は膨大で、それぞれに特徴が異なります。

日本で最もポピュラーな品種として知られているのは、一般的にコチョウランとも呼ばれるファレノプシスです。縁起のいい花言葉(幸福が飛んで来る)や、エレガントな見た目の美しさなどから、開業祝いのギフトなどによく利用されています。

また、シンビジウムやデンドロビウムなども比較的栽培されることの多い品種です。

ファレノプシスに比べて落ち着いた印象を与えるシンビジウムは、寒さに強く花持ちがよいのが特徴です。

一方、デンドロビウムは光沢のある花をたくさん咲かせるうえ、原種が1,000種類以上あるとされるほどバリエーションに富んでいることから消費者に人気があります。

そのほかにも、さまざまなサイズがあるカトレアや、かわいらしい黄色い花が印象的なオンシジウムなどがあるので、栽培を検討している方はあらかじめどのような品種があるか確認しておきましょう。

洋ラン栽培農家の課題

洋ランは、高い販売単価と市場からの一定のニーズを期待できる品目です。ただし、洋ラン栽培にも注意点がないわけではありません。ここからは、洋ラン栽培農家が抱えている課題について紹介します。

花き全体の需要減少

洋ランは結婚式に利用されることが多い

KOHEI 41 / PIXTA(ピクスタ)

近年は花き業界全体の需要が減少しています。農林水産省の「花きの現状について(令和4年2月)」によると、花き・花木類の産出額は1998年の6,300億円をピークに右肩下がりが続き、2019年には3,484億円まで減少しました。

出典:農林水産省「花きの現状について(令和4年2月) 花き生産の現状①(産出額・作付面積)」

花き・花木類の産出額が減少した理由には農家の高齢化による廃業や、切り花類を中心とする輸入量の増加なども挙げられますが、いずれにしても花きの需要自体が減りつつあるのが現状です。

特に冠婚葬祭の簡素化は今後も続く可能性が高く、結婚式で利用されることも多い洋ランの需要にも悪影響が及ぶことが予想されます。

また、一般的に花きは洋ランに限らず、景気がよいときに需要が高まる傾向にあります。いまだ続く新型コロナウイルスによる景気への影響も、洋ラン栽培農家にとっては悩ましい問題といえるでしょう。

綿密な作付計画やコスト管理の必要性

洋ランの栽培施設

TM Photo album / PIXTA(ピクスタ)

洋ランはもともと東南アジアなど暖かい地域に自生している植物なので、日本で栽培するにはそれなりの施設が必要です。また、品種によって異なりますが、栽培期間が3~5年というものも珍しくなく、出荷までの間は暖房代などのエネルギーコストがかかり続けます。

暖房に必要な重油などの価格は、近年の国際情勢や為替などの影響を受けて乱高下することが多く、栽培農家の悩みの種となっています。

そのため、洋ランは定植から出荷まで3~6ヵ月程度の菊と比べても、計画的な作付けやコスト管理の必要性がとても高い品目です。洋ラン栽培を軌道に乗せようとするなら、年単位で作付け計画を作成するなどの長期的視点が必要となります。

販売形態の硬直化による流通コストの高さ

東京都中央卸売市場大田市場花き棟

kawamura_lucy / PIXTA(ピクスタ)

花き栽培は品種が非常に多い一方で小売構造があまり発達していないことから、およそ8割が卸売市場を経由して流通しています。洋ランもそのほかの花きと同じく卸売市場を経由するケースが多く、それに伴って流通コストが高くなりがちなのが課題です。

販売形態の硬直化による影響は市場での花き需要が減少しつつある近年でも変わっておらず、生産農家の経営を苦しめる要因となっています。

高齢化による人口減少が進み、花き需要の減少が予想される将来の日本において、洋ランによる収益性をキープし続けるためには、自ら販路を拡大していくなどの対策も必要になります。

出典:農林水産省「花きの現状について(令和4年2月) 花き生産の現状①(産出額・作付面積) 花き流通の現状」

生産から販売まで。自社サプライチェーンを構築した洋ラン農家の事例

洋ラン 直売

TM Photo album / PIXTA(ピクスタ)

洋ラン栽培にはいくつかの課題もありますが、それらを克服できれば高い販売価格という利点を活かして、農家所得向上に貢献する可能性があります。そこで、最後に先進的な取り組みを実行し、洋ラン栽培を軌道に乗せている事例を2つ紹介するので、参考にしてください。

森田洋蘭園

埼玉県川越市にある「有限会社森田洋蘭園」は、50aの施設で年間12万株を生産しています。

森田洋蘭園の特徴は、栽培の効率化を図るための独自の環境制御システムをメーカーと協力して開発したり、販売管理業務の簡素化をめざして経理システムの導入を図ったりするなど、常に新しい取り組みにチャレンジしている点です。

中でも特筆すべきは産地直送の流通システムで、生産者主体のサプライチェーンを構築して成功しています。

具体的には、自社でICTを活用したWEB受注システムを構築し、都内の販売店へ直接配達を行うための運送会社を設立しました。その結果、生産した洋ランは高い鮮度を保ったまま消費者のもとへ直ちに届けられ、森田洋蘭園のブランド力を保つのに一役買っています。

出典:
有限会社森田洋蘭園ホームページ
農林水産省「園芸作物(野菜・果樹・花き) 施設園芸のページ」内「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例集」の項に所収の「令和 2年度データ駆動型農業の実践・展開支援のうちスマートグリーンハウス展開推進事業報告書 (別冊1)大規模施設園芸・植物工場実態調査・事例調査」

森田洋蘭園が、花きの通販サイトHitoHana(ひとはな)に提供している胡蝶蘭

森田洋蘭園が、花きの通販サイトHitoHana(ひとはな)に提供している胡蝶蘭
出典:株式会社PR TIMES(株式会社Beer and Tech ニュースリリース 2016年4月20日)

宮川洋蘭

熊本県宇城市で約半世紀にわたって地域に根差した洋ラン栽培を行ってきたのが、「有限会社宮川洋蘭」です。

宮川洋蘭の強みは、ITを活用した栽培方法とECサイトの運営を自ら手掛けることで、生産から販売までのすべてで自社管理を実現したことです。自社管理によって流通コストの削減に成功し、もともと高い販売単価を誇る洋ランの出荷において、さらに収益率を高めることに成功しました。

また、宮川洋蘭は洋ラン栽培を通じて、地域活性化に積極的に貢献する姿勢を示しているのも特徴です。1984年に「五蘭塾」を創設して洋ラン栽培のノウハウを地元農家と共有した結果、現在では全国でも有数の生産者グループになりました。

こうした地元に貢献する姿勢や先進的な取り組みの数々はさまざまな機関から評価されており、メディアに取り上げられる機会も多い生産者として知られています。

出典:
有限会社宮川洋蘭ホームぺージ
五蘭塾ホームぺージ
九州農政局「『令和元年度九州農政局農山漁村男女共同参画推進セミナー』の概要について(令和2年1月31日開催)」のページ所収「事例発表2 ~ 花で笑顔を届けたい!女性が活躍する元気な農業を目指して 有限会社宮川洋蘭 インターネットショップ店長 宮川水木」

宮川洋蘭のハウス内に集まったスタッフ

宮川洋蘭のハウス内に集まったスタッフ
出典:株式会社PR TIMES(有限会社宮川洋蘭 ニュースリリース 2019年4月24日)

洋ランは販売単価が高く、花きの産出額の中では2位を誇る品目です。栽培期間が長いことによるエネルギーコストについては注意しなければいけませんが、自社で販路を確保すれば流通コストの課題を解決できる場合もあります。

実際に洋ラン栽培で成功している法人の中には、インターネットを活用して直接販売を行っている事例もあります。これから洋ラン栽培を始めようとしている方は栽培方法だけでなく、「どのようにして顧客へ生産物を販売するか」までシミュレーションしたうえで取り組んでみてください。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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