農業協同組合監査士とは? 資格の概要と、農協法改正による今後の動向
農業協同組合監査士(農協監査士)とは、農協などの会計や業務監査を行うための国家資格です。具体的にはどのような資格なのか、資格の難易度や合格率について解説します。また農協法の改正により、農協監査士の資格にどのような変化が生じたのかについても見ていきましょう。
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目次
農業協同組合監査士(農協監査士)は農協などの会計や業務監査を行うための資格で、合格率約20%の難易度の高い国家資格です。
農協法の改正により、農協監査士の資格で担当できる仕事に変化が生じています。
どのような変化が生じたのか、受験意義は何なのかについて解説します。
会計&法律の専門家! 「農業協同組合監査士(農協監査士)」とは?
EKAKI / PIXTA(ピクスタ)
農協監査士とは、主に農協の会計監査を行う会計と法律の専門家です。どのように認定されるのか、また農業協同組合内部監査士とは何が異なるのかを解説します。
農協の会計監査を行うために必須だった国家資格
農協監査士は国家資格です。受験資格の条件はなく、誰でも受験することができます。
ただし、資格試験に合格するだけでは農協監査士になれません。試験に合格した上で全国農業協同組合中央会の監査事業を担当する部課に1年以上在籍し、監査に関する補講を受け、なおかつ次のいずれかの条件を満たして農業協同組合中央会の規定に基づく選任を受けることで農協監査士になることができます。
・全国農業協同組合中央会の監査事務を担当する農協監査士に付き、2年以上補助した経験がある(監査に関する補講を受ける1年とは重複して数えることはできない)
・全国農業協同組合中央会の監査事務を担当する部課以外で、組合の指導に関係する事務に2年以上従事した経験がある
・組合で貸付や債務保証などに関わる事務、内部監査に関する事務に2年以上従事した経験がある
なお、農協法が改正されたことにより、農協監査士になることは農業の監査における業務の責任者としての必須条件ではなくなりました。
しかし、資格自体は廃止されていないため令和3年時点でも試験は行われ、試験に合格して上記の条件を満たすことで農協監査士になることは可能です。
農協職員を対象とした資格「農業協同組合内部監査士」とは異なる
農協監査士と似た名称の資格に、「農業協同組合内部監査士」があります。この資格は受験資格に条件がない農協監査士とは異なり、農業協同組合や農業協同組合連合会、農業協同組合中央会の職員だけが受験できる資格です。主な違いについては以下をご覧ください。
出典:JA全中 (一般社団法人 全国農業協同組合中央会)「令和3年度 農業協同組合監査士資格試験 受験案内」、JA全中JA教育部教育企画課 「JA全中人づくり」のページよりminorasu編集部作成
なお、受験者数も異なります。年によってもばらつきがありますが、農協監査士は300人程度であるのに対し、内部監査士は4,000人以上と多くの職員が受験しているようです。
難易度や合格率は? 農協監査士試験の概要
asaya / PIXTA(ピクスタ)
農協監査士試験の出題内容と合格基準について解説します。また、平成31年度以降の合格率から試験の難易度について探っていきましょう。
出題内容と合格基準について
農協監査士の試験は、監査論と財務会計、経営管理、農協制度、関係法(法人税法と民法)の5科目6教科で行われます。科目ごとにそれぞれ200点満点(関係法は法人税法と民法のそれぞれが100点満点)で、全部で1,000点が満点です。
合格するためには、200点満点の各科目で80点以上(法律は2つで200点満点)、かつ総点数600点以上を獲得する必要があります。
また、当該受験で合格しなかった場合でも、200点満点の教科で120点以上(100点満点の教科では60点以上)を獲得し、それが4教科以上ある場合に関しては、申請によって次回と次々回に当該科目の受験が免除されるので覚えておきましょう。
教科免除が適用された場合は、次々回までの受験は残りの教科(1教科か2教科)だけの受験になります。さらに詳しい情報や願書については、農業協同組合中央会の教育部教育企画課に問い合わせてください。
近年の合格率から見る、試験の難易度
農協監査士の合格率は20%前後とされていますが、年によってばらつきが大きいという特徴があります。これは合格の基準を点数だけで決めていることと無関係ではありません。試験問題が比較的易しいときは合格率が高くなり、問題が難しくなると合格率が低下する傾向にあります。
出典:JA全中 (一般社団法人 全国農業協同組合中央会)「農業協同組合監査士資格試験結果」(各年)よりminorasu編集部作成
令和2年度においては、合格者50名のうち41名が農業協同組合中央会の所属、6名が農協所属、3名が農業協同組合連合会の所属でした。このことから、受験資格に条件がないものの、実質的に農協の職員以外はあまり受けない資格であることがわかります。
農協監査士の試験は記述形式の出題が多いため、実際に関連業務に携わっていない方には難しい内容です。さらに試験対策の問題集もあまり流通していないため、農協の外部からの受験は容易ではないといえるでしょう。
しかし、農協や連合会、中央会の職員として働いている方にとっては情報を入手しやすく、試験範囲に関わる内容を日々実地で学んでいるといえます。監査や会計に関する部署で働いているのであれば、業務内容と試験内容に乖離が少なく、効率よく受験勉強をしていくことができるでしょう。
取得をめざすべき? 農協法改正による農協監査士の今後と、資格の必要性
ふじよ / PIXTA(ピクスタ)
農協改革により、平成31年度(2019年度)以降、JAと農業協同組合連合会は、公認会計士法にもとづいて監査法人による監査を受けることになりました。このため、農協監査士は公認会計士の資格を取得していない限り、農協の会計監査の責任者に就くことができなくなっています。
令和元年も令和2年も農協監査士の資格試験は実施されていますが、合格したとしても会計監査の責任者にはなれません。責任者をめざす方にとっては受験意義を見い出しづらく、受験者数も減少傾向にあります。
とはいえ、農協法改正後も農協監査士は業務監査を行うことが可能です。また、法定監査の対象外である単位農協の一般監査については、従来と同様に農協監査士が担当するため、農協内で監査業務を希望する方にとっては必要な資格といえるでしょう。
農協法では、農協監査士が公認会計士の試験に合格した場合、農協監査士としての実地経験が評価され、円滑に公認会計士の資格を取得できる旨が定められています。農協に関する知識、あるいは会計や監査業務の知識を深め、なおかつ公認会計士の資格取得もめざす方にとっては、現在も農協監査士の資格はメリットがあると考えられるでしょう。
幅広い知識を習得できる点も、農協監査士の資格をめざすメリットです。農協に関する詳しい知識だけではなく、会計や経営、民法、法人税法など、農協以外の仕事に従事する場合にも必要になる知識を得られます。
これらの知識は公認会計士などのほかの資格勉強にもつながるので、農協監査士の資格を足がかりとして、関連資格の取得をめざせるでしょう。自分の可能性を広げたい方、資格を通してさまざまな業務にチャレンジしたい方も、資格取得を前向きに検討してみてください。
農協で監査業務をめざす方は農協監査士の資格取得を検討しよう
CORA / PIXTA(ピクスタ)
農協監査士の試験に合格し、規定の条件を満たすと農協監査士になることができます。合格率は20%前後と難易度が決して低くはない資格ですが、取得することで農協内の業務監査に携われるので仕事の幅が広がるでしょう。
農協監査士の資格を保有し、なおかつ公認会計士の試験に合格すると、円滑に公認会計士の資格を取得できるというメリットもあります。民法や法人税法など法律の知識だけではなく、財務会計や経営管理など幅広い知識の習得にもつながるので、監査業務に関心のある方や法律・会計の資格を取得したい方も農協監査士の資格をめざしてみるとよいでしょう。
農協監査士の資格は難易度が高く、出題範囲も広いですが、取得することで専門性を持って農協などで働くことができます。
また、公認会計士になるために必要な実務経験を積む際にも役立つので、資格取得をめざしてみることもできるでしょう。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。