菜の花(食用ナバナ)の栽培方法|大規模化をめざす際の品種選定のコツとは?
菜の花(食用ナバナ)は、関東や四国を中心に、主に水田裏作の作物として栽培されています。今回は、日本における菜の花(食用ナバナ)の生産状況や基本的な栽培方法、加工用・業務用向けの大規模栽培への適応などを紹介します。
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目次
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
菜の花(食用ナバナ)は水田裏作に適し、販売単価が高めで収入増を期待できる作物です。市場出荷だけでなく、加工用・業務用向けの大規模栽培も可能です。今回は菜の花(食用ナバナ)の栽培方法や、大規模化する際における品種選定のコツを紹介します。
日本の菜の花(食用ナバナ)生産の現状
まずは菜の花(食用ナバナ)の定義や収量の統計などを紹介し、日本において花を食する菜の花の現状について詳しく紹介します。
作付面積と収穫量の最新統計
mizuzo / PIXTA(ピクスタ)・ララ / PIXTA(ピクスタ)・Nana / PIXTA(ピクスタ)
「菜の花」の用途:種子油、食用ナバナ、観賞用菜の花
本来「菜の花」はアブラナ科植物の総称であり、白菜やキャベツ、ブロッコリー、小松菜、野沢菜の花などもすべて「菜の花」です。
一方、日本では通常「菜の花」と呼ばれてはいるものの、本来の名称は「ナタネ」であり、油も絞れるため「アブラナ(油菜)」とも呼ばれています。
この菜の花は観賞用として栽培されているもののほか、おひたしなどの食用になる「ナバナ」、油を搾る「アブラナ」があり、どれも品種が違います。今回は、食用の菜の花(食用ナバナ)の生産状況について紹介します。
農林水産省の統計によると、2018年における「なばな(主として花を食するもの)」の収穫量は全国で4,343t、作付面積は720haです。生産が盛んな地域は関東と四国で、関東は全国の収穫量の50%、四国は35%を占めており、この2つの地域だけで全体の85%を誇ります。
出典:農林水産省「平成30年産地域特産野菜生産状況」の「 なばな(主として花を食するもの)」よりminorasu編集部作成
なかでも千葉県は収穫量が1,946t(45%)と圧倒的に多く、次いで徳島県の715t(16%)、香川県の588t(14%)と続いています。
出典:農林水産省「平成30年産地域特産野菜生産状況」の「 なばな(主として花を食するもの)」よりminorasu編集部作成
主要産地の千葉県では、水稲裏作としての菜の花栽培が盛ん
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菜の花(食用ナバナ)の主要産地である千葉県の安房地域では、水稲の裏作としての栽培が盛んです。農閑期の労働力を有効活用する方法として菜の花の栽培が行われてきました。
JA安房や支援センターでは、栽培の継続的なアドバイスなども行われています。
【早晩性別】菜の花(食用ナバナ)の栽培暦
菜の花(食用ナバナ)を暖地で露地栽培する場合、播種時期は早生が8月下旬~9月中旬、中生が9月上旬~10月上旬、晩生が9月下旬~11月いっぱいとなっています。また収穫は早生が10月下旬~1月上旬、中生が11月末~3月頭、晩生が1月下旬~4月いっぱいです。
雑草対策や追肥、害虫対策は作型を問わず10~11月頃に行います。早生の場合、生育期が害虫の発生時期と重なるため、初期防除の徹底が必要です。また、10月上旬頃には特に害虫が発生しやすいため注意しましょう。
作業手順は? 菜の花(食用ナバナ)の栽培方法
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次に、菜の花(食用ナバナ)の栽培方法について、土作りから収穫までの流れを紹介します。
1. 土作り
土作りには堆肥と苦土石灰、基肥を準備します。完熟した堆肥を播種の2週間以上前に施用して耕うんし、基肥は播種の1週間前を目安に施用してください。有機肥料は肥効が緩やかであるため、化学肥料の窒素分を10a当たり10kg施用して初期生育を確保するのがよいでしょう。
また、菜の花(食用ナバナ)の収穫後に水稲を作付けする場合、窒素の残効による倒伏リスクがあるため、窒素の施用量に十分注意します。できるだけ倒伏に強い品種を選んでください。
堆肥量の目安は、それぞれ10a当たり牛糞堆肥(窒素1~1.5%)を2t、豚糞堆肥(窒素1~2%)を1t、鶏糞堆肥(窒素2~3%)を0.7tです。
基肥は牛糞堆肥の2tに対して苦土石灰を100kg、食用菜花化成(窒素16kg、リン酸20kg、カリウム14kg)を10a当たり100kgとしてください。
2. 播種・間引き・中耕
播種量の目安は、品種を問わず10a当たり1dLとし、栽植密度は2条播きの場合に株間30cm、条幅50cm、通路幅50cm、ベッド幅100cmを基本とします。除草剤は播種前に散布しておきます。
直播の場合、1ヵ所に4~5粒程度を点播きして覆土鎮圧します。
間引きと中耕の1回目は播種後2週間ごろ、本葉2~3枚時に3本立ちとして株元に土寄せします。2回目は播種後4週間ごろ、本葉5~6枚時に1本立ちとして中耕し、土寄せを行ってください。
間引き時のベッド部に2条に播種した条間へ土寄せして中耕除草します。雑草の発生に応じて除草剤の畦間散布を行います。
3. 追肥
めいおじさん / PIXTA(ピクスタ)
菜の花(食用ナバナ)は、肥切れさせないことで花蕾を多く発生させられることから、収量を上げるために施肥量や施用時期には注意が必要です。
1回目は播種後4週間ごろ、2回目の中耕と土寄せの後に燐硝安加里1号を10a当たり10~20kg(10a当たり窒素1.5~3kg)施肥します。鶏糞堆肥の場合は10a当たり30kg(10a当たり窒素0.75kg)です。
2回目は、霜の降り始める11月下旬までに燐硝安加里1号を10a当たり20~30kg(10a当たり窒素3~4.5kg)施肥します。鶏糞堆肥の場合は10a当たり30kg(窒素10a当たり0.75kg)です。
追肥1回目の量が多すぎると花腐細菌病が発生しやすくなるため、草勢を確認しながら調整してください。
4. 収穫
小野真志 / PIXTA(ピクスタ)
収穫はつぼみが締まった状態で、作業は枝が傷まないようはさみやナイフなどを使用して行います。
15~20cm程度が標準的な長さですが、出荷の形態(束、バラなど)によって適した長さが変わるため、事前に出荷規格を確認してください。
また、開花間近のものを出荷しないように注意しましょう。菜の花(食用ナバナ)は暖かい場所に保管すると開花してしまい、クレームの原因となるからです。収穫後は直射日光を避け、日陰に保管します。
収穫直後の菜の花(食用ナバナ)
菜の花(食用ナバナ)に発生する主な病害虫と防除対策
菜の花(食用ナバナ)は、花茎部分のみを収穫することから一部の葉の食害や病斑病害を過度に気にする必要はありませんが、発生する病害虫は多く、収量や品質を保つためには初期防除が非常に重要です。
根こぶ病
根こぶ病に罹患すると、水の吸収が阻害され生育不良となって減収します。根こぶ病は、地温が18~25℃で発生しやすくなるので注意しましょう。
防除対策としては、土壌をアルカリ性寄りにしたり暗渠や高畝で水はけをよくするなどの耕種的防除と、農薬による防除とが挙げられます。土壌pHの矯正目安は最低でも6.0以上、可能であれば7.2以上です。10a当たり100kg程度の苦土石灰を施用するなどして調整します。
農薬を使う場合は、播種や定植前に「ネビジン粉剤」「フロンサイド粉剤」を土壌混和または作条混和します。
罹病株は、病原菌を分散させないよう注意してほ場の外で処分してください。また、根こぶ病の発生ほ場で使用した耕運機はしっかり洗浄し、病原菌をほかのほ場に持ち込まないようにします。
可能ならば、根こぶ病の発生したほ場での連作は避けるとよいでしょう。
白さび病
ナバナ 白さび病 白色病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
白さび病の罹病株は、葉や茎に乳白色の病斑が発生し、その部分が肥大して湾曲します。
暖地では11月上旬~3月下旬に発生し、0~25℃の間で発生しやすいため注意しましょう。
耕種的防除としては、アブラナ科野菜類の連作を避ける、ほ場の排水性を確保し密植を避ける、マルチシートを活用する、頭上灌水を行わないなどが挙げられます。
農薬による防除では、「ストロビーフロアブル」「ダコニール1000」などの殺菌剤を収穫前の日数を守って散布します。
コナガ
コナガ中齢幼虫(体長6mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真
コナガは体長約6mmで、大きな翅を持った褐色の蛾です。緑色の幼虫が葉裏から葉表の表皮を残して食害し、葉が透けて見えるため収量や品質の低下に繋がります。被害は春や秋に多く発生します。
耕種的防除としては、ほ場周囲の除草を徹底する、防虫ネットをかけるなど対策が挙げられます。
発生した場合は、「アディオン乳剤」などを散布してください。
そのほか、生物農薬の「ゼンターリ顆粒水和剤」「デルフィン顆粒水和剤」などの活用もおすすめです。
ハスモンヨトウ
ハスモンヨトウ孵化直後幼虫(体長1.3mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真
ハスモンヨトウを含むヨトウムシ類は、4~6月頃と9~10月頃に多発する害虫で、冬はさなぎの状態で越冬しています。
羽化直後は葉の裏で群生し、夜間に活動して葉を表皮だけ残して食害するため葉が透けて見え、収量や品質の低下に繋がります。
耕種的防除としては、防虫ネットをかけ飛来を防ぐのが基本です。
発生した場合は、「コテツフロアブル」「アファーム乳剤」などの農薬で防除します。
そのほかの害虫
菜の花(食用ナバナ)に被害をもたらす害虫としては、これらのほかにもキスジノミハムシやネキリムシ類、アブラムシ類などがあり、播種前または播種時に農薬による防除を行います。
それぞれ適用のある農薬は異なります。代表的な農薬を以下に挙げますので参考にしてください。
アブラムシ類・・・「スタークル粒剤」
キスジノミハムシ・・・「フォース粒剤」
ネキリムシ類・・・「ダイアジノン粒剤5 」
作期をずらして安定生産! 大規模化を後押しする品種選定のポイント
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菜の花(食用ナバナ)の出荷方法には、高品質な花蕾を束ねる束出荷、加工用や業務用としてバラや小袋出荷の2種類があります。
加工用や業務用の場合は、大量かつ安定的に出荷することを求められるため、早晩生の品種を組み合わせて収穫期を少しずつずらして作付けます。
大産地の千葉県の農林総合研究センターが2013年から2015年に行った試験研究では、9月初旬から10月初旬まで、ほぼ10日置きに早晩生を組み合わせた複数の品種を播種していくことで、11月から3月まで安定的に出荷できると報告しています
出典:千葉県農林総合研究センター「作付面積の拡大が図れる食用ナバナの安定生産技術」
line / PIXTA(ピクスタ)
菜の花(食用ナバナ)は、暖地の水田裏作に適した作物で、作期をずらしてさまざまな品種を栽培することで、加工用・業務用に大規模生産を行うことが可能です。
水田裏作の新たな導入作物として検討してみてはいかがでしょうか。
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百田胡桃
県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。