魅力を最大化するマーケティング施策でリピート客を獲得! 国内最大級のキウイ観光農園の取り組み
東京ドーム3個分の広さを誇る観光農園「キウイフルーツカントリーJapan」その広さや多品種栽培しているキウイを活用した農園活用のアイデアやマーケティングの考え方について、お話を伺いました。
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目次
キウイフルーツカントリーJapan代表 平野耕志(ひらの こうし)さんプロフィール
キウイ観光農園「キウイフルーツカントリーJapan」の2代目。農業短大卒業後はJICA青年海外協力隊として活動し、帰国後は農業を営みつつ、大学院で観光農業マーケティングの研究や、ネパールで震災地復興支援を行う。そして2020年に農園の経営を引き継ぐ。
サステナブルなキウイ栽培を行い高品質なキウイを収穫・販売しつつ、農園内での体験や独自のイベントなどを通して、人々と農業や自然との距離を縮めるためにさまざまな試みを実
践している。
海外に渡ったことで気づいた「日本人の食への認識のギャップ」と「マーケット思考の重要性」
静岡県掛川駅からほど近い茶畑の中に、キウイフルーツカントリーJapanはあります。
父と母が目指した「地域の人々と交流しながら共に創り上げる」観光農園
キウイフルーツカントリーJapanは、父・平野正俊さんが、アメリカでキウイ栽培と出会ったことを契機に立ち上げた体験型の観光農園です。日本ではキウイ栽培がまだ一般的でなかった時代のことです。
父・平野正俊さんと母・平野常代さんは、日本でのキウイ栽培を始めるにあたって、「地域の人々と交流しながら共に創り上げる体験型農業施設」という営農形態をとることを選択しました。
当時は農村で農業をするより、都会に出て就職をする「脱農業」の波が強く、農業の魅力や重要性を見直すことが重要だと考えたのです。
「観光農園ならば、地域の人々と交流し、共に創り上げる農業を実現できるのではないか」と観光農園を主軸とした運営を始めたそうです。
ザンビアで見つけた「命の土台としての農業」
2代目である平野さんは、はじめ積極的に跡を継ぐつもりではなかったと言います。
キウイフルーツカントリーJapan代表 平野耕志さん(以下 役職・敬称略)
地域の人々と交流し共に創りあげる観光農園をめざして日々努力すると母を見て育ちました。
けれども、特に後を継いで欲しいとも言われなかったこともあり、農業高校、農業短大と進学しながらも、「農業」というものがどんな意義を持つものか掴むことができずにいました。
時にはアメリカへ研修に赴き、様々な規模の農家のもとで実態を見学させていただきましたが、どんな農家にも「農業なんて大変なばかりで稼げない。おすすめはしないよ」と言われるばかり。
そんな時、実家で農業研修を受けていた発展途上国からの研修生がイキイキと農業に取り組んでいたことを思い出したんです。
アフリカに行けば、私が農業について抱えるモヤモヤを晴らすことができるかもしれないと思いJICA青年海外協力隊に参加しました。
どのように価値を伝えるか「マーケティング思考」の重要性に気づく
JICAの活動でザンビアを訪れた平野さんは、そこでHIVや結核など病気の予防啓発のための野菜摂取普及活動に取り組んでいきます。
ザンビアではシマと呼ばれるトウモロコシ粉をお湯で練ったものを主食とし、おかずには肉類やトマトが食べられています。しかし、栄養バランスを考えて食事をし、心身の健康につなげようという考えは日本ほど広がっていません。
貧困層に至るほどその傾向は顕著となり、低所得ゆえに栄養バランスを維持できる食事を取ることができず、健康被害が深刻化し生活習慣病にかかってしまったり、治癒可能な病気であっても治療の甲斐なく命を落としてしまう方が少なくないといいます。
平野 生きるためには食事が不可欠です。つまり、食べ物を作ること、農業は命の土台を作ることなんだと、JICAの活動を通して気づくことができました。
また、多様な野菜を食べる習慣がないザンビアの人々に野菜を食べてもらうためには、作物の栽培だけではなく、作物の流通方法や販売方法、消費を促すためにどのように価値を伝えるかという「マーケティング思考」が重要になってきます。
この経験がキウイフルーツカントリーJapanのマーケティングにも大いに役立ちました。
キウイフルーツカントリーJapanオンラインショップ
日本の「食べること」の認識に衝撃を受ける
しかし、帰国しキウイ農園を引き継いだ平野さんが地元の小学生むけの食育セミナーで講師を勤めた際、衝撃を受ける出来事があったそうです。
平野 少人数ではありましたが、牛乳やスーパーに並ぶ食物がどのように作られて、どのように食卓までたどり着くのかを知らない子供がいました。自然に触れ合う機会の少ない都会の子供たちではなく、自然に囲まれた掛川市で育った子供たちの中にです。
ザンビアでもっと幼い子供たちが自分で肉を捌き、食事を用意する場面を目にしてきただけに、日本の子供たちの食や農業に対する認識に衝撃を受けました。少しでも食べ物や農業への認識を変えていきたいと考えました。
観光農園ビジネスに必要な「ペルソナ訴求マーケティング」
キウイフルーツカントリー内ではキウイ収穫体験のほかに多品種のキウイ食べ放題や、園内でのバーベキューなどさまざまなアクティビティを楽しむことができます。
そのさまざまなアクティビティはペルソナを想定して設計されています。
農園の魅力を知ってもらうための「ペルソナ訴求マーケティング」
平野 収穫だけでなくジャム作り体験や農園内でのバーベキューは先代の頃から実施していましたが、より多くの方にキウイフルーツカントリーの魅力を知っていただくために「ペルソナマーケティング」の手法を取り入れました。
ペルソナマーケティングとは、その商品やサービスのユーザーの人物像を具体的に設定し、その人物に魅力を訴求する方法を考えるマーケティング方法です。平野さんは学生時代からペルソナマーケティングに注目していたそうです。
データ分析をもとに緻密に設定された「ペルソナ」
平野 実際に農園を利用してくださるユーザーの声や、来場者の年齢、グループ構成、居住エリア、またイベント時の集客の傾向などをもとに細かくペルソナを設定しました。
例えば、当園の来場者やイベントへの参加者には、健康志向・自然派志向の30代から40代女性の方の参加率が高い傾向にあります。さらに掘り下げると、そういった方々は既婚者で子供がいることがわかります。
また、これまでの来場者データから、農園に来場されるのは近隣住民よりも少し距離の離れた愛知県からのお客様が多いことがわかります。つまり、日常的に通うというよりも、ちょっとした特別なお出かけの目的地に選んでいただいているということです。
こういったさまざまなデータから設定したペルソナ像は「30代〜40代既婚子持ち女性」「健康志向が強い」「定期的に遠出をする習慣があり、その行き先を決める裁量権を持っている」となります。
こういった要素を持った方に訴求できるよう、農園で開催するイベントやワークショップを企画したり、サービス内容を見直していき、サービス品質向上につなげていくのです。
ペルソナ像は一旦設定したら終わりというわけではなく、毎年の来場者データやユーザーレビューをもとにフィードバックを重ねていく必要があります。平野さんは通常の来場者データだけでなく、イベントに来場するユーザー情報もペルソナ設定の材料とされています。
その結果、先代からの顧客に加えて新規顧客数が増えたそうです。現在キウイフルーツカントリーJapanの売上の6割ほどは通販が占めているそうですが、残りの4割はリピーターも含めた来園客の売上です。
キウイ栽培のクオリティを維持しつつ、来園されるお客様に最適なサービスを継続的に提供していくために、ペルソナマーケティングの手法は役に立っています。
園内で栽培されるキウイをポップでわかりやすく紹介している
消費者が「農業を通して食べることについて考える機会」としてのイベント
ターゲットとなるペルソナに訴求しつつ、農業を通して食べることについて考えて欲しいと考えた平野さんは、農園で既に行っていた農業体験イベントを強化するところから始めました。
平野 作物がどのように栽培されているのかをより多くの方に知ってもらうために、近隣の農家の中から有志を募って農業体験イベントを開催しました。しかし、その集客率は決していい数字とは言えませんでした。
また、同業者同士でイベントを実施するとなかなか新しいアイデアがでず、本業の農作業を優先してしまいがちになるため、運営もスムーズにできないことがありました。
ザンビアの農村での光景から着想を得た異業種コラボレーションイベント
農業体験の集客率を上げるためにどのような対策を練るべきか。平野さんはザンビアでの経験にヒントを得たといいます。
平野 ザンビアの農村で暮らす人々のことを思い返してみると、畑で様々なことをしていたんです。作物の栽培だけではなく、若者の集会、散髪、畑に集まったみんなで賛美歌を歌うこともあります。
農業体験も、ほ場での栽培だけに囚われるのではなく、もっとさまざまなアプローチができるのではないかと考えました。
平野さんはキウイフルーツカントリーの広いほ場を活用し、異業種とコラボしたイベントを企画するようになりました。
農園内でライブイベントを開催
国民の8割がキリスト教徒であるザンビアでは、畑に人々が集まって賛美歌を歌う場面が日常的にありました。平野さんはこれに着想を得て、広い農園内を活用した数々のライブイベントを企画しています。
沖縄民謡やジャズバンドなどさまざまなアーティストの演奏を聞きながらキウイを楽しんでいただき、特別な時間をお客様に提供したい。そしておいしいキウイはもちろん農業にも興味を持ってもらいたいという狙いがあります。
ライブイベントの様子
出典:キウイフルーツカントリーJapan Facebook
地元のお店が参加する大規模アウトドアイベントを開催
農園内でのライブイベントだけではなく、園内でのピクニック体験や、ダンス教室やキウイテイスティングなどのワークショップ、近隣の雑貨店や飲食店などが出店できる大規模なイベントを企画・開催。
2018年に開催されたイベントのフライヤー
出典:掛川観光情報
イベントを通してキウイフルーツカントリーだけではなく、周辺地域の活性化を図りつつ、イベント参加者は自然と触れ合う接点を増やすことができます。
スポーツブランド企業とコラボし「ナイトヨガ」を開催
スポーツブランド「ミズノ」とコラボしたナイトヨガを定期的に開催。自然と触れ合いながら体を動かすことができるこのイベントは、キウイフルーツカントリーのユーザーだけではなく、健康志向の新規顧客にリーチすることも可能にします。
ナイトヨガイベントの様子
出典:キウイフルーツカントリーJapan Facebook
平野 栽培をする、作物を食べてもらうという方法以外にも農業に興味を持っていただく方法はあります。キウイフルーツカントリーは全部で東京ドーム3個分の広い敷地を持つ農園です。
今までにないほ場の活用法を見つけ出すことで、より多くの方に「農業」との接点を持っていただけるようになるのではないかと思います。
イベント自体が広告となり農園の認知度も高まる
また、さまざまなイベントを開催することで広告効果も期待できるといいます。実際にどれだけの集客率があったかが明確になるため、SNSなどに広告を掲載するより効果を可視化することができたそうです。
事実、異業種コラボ前と比較して、イベント集客率は向上したといいます。
ゴミを出さず、農園内で完結するサステナブルなキウイ栽培
キウイフルーツカントリーではエリア内の湧き水を活用した灌水システムや、園内で飼育している多数の動物を活用して栽培に必要なものを最大限園内のみで調達する栽培方法を活用しています。
サステナブルなキウイ栽培と顧客サービスをリンクさせることで、キウイの品質やサービス品質の向上はもちろん「健康志向が強い」ペルソナへと訴求できるブランディングポイントにもなります。
湧き水から生成されたグリーンウォーターで灌水
園内にある「冒険の森」の奥から湧いてる湧き水は、山を下り、農園入口近くの溜池に流れていきます。園内で飼育されているアヒルや野生の亀がその溜池で生活することにより、植物プランクトン(肥料成分が豊富)が多く生息するグリーンウォーターになります。
このグリーンウォーターをポンプで山の上まで汲み上げることで、重力によって灌水できる循環が生まれます。これにより、広いほ場管理が必要であっても灌水の手間を最小限にすることや、肥料成分の多い水を畑に還元することが可能になります。
平野さんが幼少期に発見したという湧き水スポット
草生栽培によって土壌流出を防ぐ
キウイを栽培しているほ場では、足元の雑草をそのまま残す草生栽培を取り入れています。草の根は傾斜地の土壌流出を防ぎ、光合成によって得られた炭素を土壌にとどめておく土壌炭素貯蓄効果によって、ほ場の質をあげます。
また、必要以上に成長した雑草は、園内で飼育されているウサギやヤギ、ヒツジの餌にもなります。
園内を散策するとのびのびと草を食べる動物たちと触れ合えるので、来場者を楽しませる一つのアクティビティとしての効果も期待できます。
園内に入るとアヒルが出迎えてくれる
食事後に残るものが肥料となる
園内でキウイを食べるだけでなく、バーベキューも可能なキウイフルーツカントリーでは、食事後にでた生ゴミや、バーベキューの灰も全て回収しています。キウイの食べ残しや皮は動物たちの餌となり、動物たちの糞は作物栽培時の肥料となります。
同じようにバーベキューの灰や炭も栽培時に肥料として活用ができます。園内で食事をしたとしても「ゴミ」が出ることがない仕組みが出来上がっているのです。
園内ではヤギやアヒル、ポニーなどの動物がのびのびと暮らしている
バーベキュー場=温室と灰と炭の肥料成分としての活用、と燻煙での害虫予防
バーベキュー設備が整えられている「なかよしハウス」内は、自然と熱がこもりやすくなり気温が高くなります。このエリアで温暖な気温を好む品種のキウイを栽培することで、来場者にバーベキューを楽しんでもらいつつハウス内を温暖に保つことができます。
この他、敷地内に太陽光発電パネルを設置することで、電力自給率向上に向けた取り組みも推し進めているそうです。
ハウス内で咲くキウイの花
地元の子供たちの声から生まれた「冒険の森」
広い敷地面積を誇るキウイフルーツカントリーですが、初めから全てのエリアを効果的に活用できていたわけではありません。キウイやほかの作物を栽培するほ場や茶畑の他に、雄大な自然がそのまま残されたエリアもありました。
そのようなエリアをどのように活かすべきか、地元の子供たちに実際に遊んでもらって意見を募ったと言います。
平野 ペルソナとして設定している30代から40代の既婚子持ち女性が子供と一緒に来園されたと考えた場合、その子供の年齢は大体小学生から大きくても中学生くらいだと推測できます。
地元に住む同年代の子供たちに楽しいと思っていただける設備を整えることで、来場されるお客様のお子様にも楽しんでいただける新たなアクティビティを提供することができます。
順路の途中にある倒木も子供たちにとっては恰好のアスレチックスポットになる
大自然の迫力を味わうことができるターザンロープや、ツリーハウスがある冒険の森エリアを通る際には古い山道がそのまま残された順路を通ります。
この順路は地元の子供たちの「順路に手すりをつけたりしないほうが楽しい」という声を聞き、特別な手を入れることなく残してあると言います。
一見通りにくい道ですが、来場される子供たちにも好評なことに加え、足場が悪い道であることを利用したハイキングイベントの開催にもつながっています。
また、敷地内にある耕作放棄地となった茶畑を活用し子供用のアクティビティを新設するなど、新しい試みにも挑戦されています。
映画「となりのトトロ」を彷彿とさせる子供向けアクティビティ
耕作放棄地に子供一人がやっと通れる広さの通路が広がる迷路のようなスポットでは、家族連れで来場された方の子供たちや、地元の子供たちが遊べるようになっています。
ゴールには広いスペースとベンチがあるそうですが、大人の体格では通路を通れずゴールにたどり着けないことから、子供たちが特別感を持って遊ぶことができる場所になっているそうです。
キウイフルーツカントリーJapanでは地域の子供たちにこのような子供向けアクティビティを無料で解放し、いつでも気軽に自然と触れ合える場所となっています。
将来の新規就農者へのアプローチ
中高生向けのアプローチ
平野さんのJICAでの活動からヒントを経た農業イベントの実施や、マーケティングの手法、さまざまなアクティビティが楽しめる園内施設が注目され、最近では学生の修学旅行先として選ばれることもあるそうです。
平野 コロナ禍での修学旅行先としてキウイフルーツカントリーに来てくれる学校の多くは、関東都市圏にある高校です。当園を見学することで、学生たちは栽培体験だけでなく農業界の抱える後継者不足問題や、地域の過疎化問題などに触れることができます。
また、オンラインでも農業や自然に触れる機会を創出するために、試験的ではありますが中学生向けにリモートでキウイや甘夏みかんの収穫体験セミナーを実施しました。
収穫した農産物は参加した学生の自宅へ配送。ご家族様にも収穫したキウイを楽しんでいただけます。
農業マーケティングの重要性を伝える既存就農者向けセミナーを実施
平野さんはこの他にも就農を志す女性向けの農業マーケティングセミナーの実施など農業界の抱えるさまざまな課題を解決するために講演活動を行っています。
より多くの方が農業を身近に感じることができれば、日本人の食に対する認識を改めるだけでなく、巡り巡って未来の農業の発展につながるのです。
まずはどのように農業や作物に興味を持ってもらうか。顧客を獲得した後は、どのようにリピーターとして定着させていくか。「マーケティング思考」を身につけることによって、農場経営における幅広い課題解決が可能になるのではないでしょうか?
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