BASF We create chemistry

持続可能な農業の新しいかたち|売上高5倍と高い収益性を両立させた「たてお農園」の戦略

持続可能な農業の新しいかたち|売上高5倍と高い収益性を両立させた「たてお農園」の戦略
出典 : たてお農園Facebook

農業人口が大幅に減少する中、「たてお農園」は近隣の農家の土地を活用して耕作地を広げてきました。個人の勘や経験に頼るだけでなく、土壌改良も含めた着実な成果が期待できる栽培技術を積極的に導入。微生物も活用した土作りや植物へのストレスの軽減など、きめ細かな工夫も積み重ねて売上を5倍超に伸ばしています。

合同会社たてお農園 代表 舘尾 雄治(たてお ゆうじ)さんプロフィール

工業高等専門学校を卒業し、東京の企業で13年勤務した後、Uターン就農。北海道上富良野町にある実家の農業を受け継ぐ。2017年、長女の万里子さんもUターン就農。大学農学部での研究経験、企業で得た総務・経理・労務の知識を生かし、販路拡大などにも取り組む。

農家が高齢化する地域で耕作地を増やす

たてお農園

出典:たてお農園 Facebook

地域有数の規模となる農家に成長

北海道中央部の上富良野町は、標高2,000メートルを超える十勝岳の西側に広がり、町の中心の平坦地を囲むように丘陵地が連なっています。

舘尾雄治さんが経営する「たてお農園」も標高400メートル近くの高地にあり、栽培品目はジャガイモ(馬鈴薯)、麦、大豆、かぼちゃ、スイートコーン、ミニトマト(施設栽培)など多岐にわたっています。

4年前からは、酒造メーカーと契約して醸造用ぶどうの栽培にも取り組み、近年はにんにくやニンジンも作り始めました。2022年からは、玉ねぎの栽培を開始し、2019年にミニトマト、かぼちゃ、スイートコーン、大豆の4品目でJGAP認証を取得しています。

農業の担い手が高齢化する中、たてお農園は耕作が難しくなった土地を近隣の農家から借り、30年近くの間に地域有数の規模となる70haにまで耕作面積を広げています。設立当初(2017年)の売上は年間2,000万円程度でしたが、現在は1億円を超えています。

Uターン就農後、実家の農業を改革

舘尾さん(奥列左から2人目)とたてお農園の従業員。社員は道外出身者も多く、年齢は20~30代

舘尾さん(奥列左から2人目)とたてお農園の従業員。社員は道外出身者も多く、年齢は20~30代
出典:たてお農園食べチョクホームページ

舘尾さんが実家の農業を継いだのは30代半ばでした。それまで東京のメーカーで工業製品の開発に携わっていましたが、農業の担い手だった父親が高齢になったためUターンし、就農を決めたそうです。

2017年に長女の万里子さんがUターン就農したのをきっかけに合同会社たてお農園を設立しました。舘尾さんが役員となり、正社員4名(万里子さん含む)、パート社員8名で同農園を営んでいます。

合同会社たてお農園 代表 舘尾 雄治(たてお ゆうじ)さん(以下役職・敬称略) 東京の企業に勤めたのは、実家の農業を継ぐことに前向きではなかったためです。

しかし子どもは私だけでしたから、就職して10数年後、親の面倒をみるためにUターンしました。当時の実家の耕作面積は11haほどしかありませんでした。設備も整っておらず、経営面での努力も必要と感じました。

そこで舘尾さんは「勘や経験だけに頼らず、収益を上げる」という方針のもと、自身が成果を期待できると評価した栽培技術を積極的に導入していきました。高い収益が期待できる品目に変更し、その品質を高めて、収益力の増強を図ってきました。

経営規模の拡大とともに高収益を目指す

pH4台の土壌を改良し、現在もキタアカリを主としたジャガイモ(馬鈴薯)を栽培

pH4台の土壌を改良し、現在もキタアカリを主としたジャガイモ(馬鈴薯)を栽培
写真提供:たてお農園

pH4台の酸性土壌からスタート

就農当時、それまで父親がジャガイモ(馬鈴薯)を作っていた土地の土壌はpH4台と強酸性で、舘尾さんはその改良から始めたといいます。

舘尾 当時、ジャガイモに対して石灰類の施用はタブーとされており父も石灰の施用を控えていたため、土壌が酸性になっており、さまざまな病害が出やすく、またほかの作物も生育不良等が見られることを私は問題視しました。

そこでカルシウム資材を増やしたのですが、最初は父が大反対して大変でした。ジャガイモ(馬鈴薯)を作るならpHを上げては駄目だと言って譲りませんでした。

最終的には、これから農業を担っていく舘尾さんの意見が通り、土壌のpHを上げるよう毎年計画的に石灰などの資材を投入します。

pH4台だった土壌をpH6までに調整するには数年かかりましたが、土壌の改良が進むにつれ、ジャガイモ(馬鈴薯)の細胞壁も強化されて病気が出にくくなり、収穫量も増えました。

舘尾 就農1年目は勉強の意味もあって父と一緒に作業しましたが、2年目からは経営も私に任され、土壌改良のほか、耕作地の拡大、栽培品目の追加など経営を強化していきました。

降雪による流亡を加味してpH調整

ただ、上富良野町は11月頃から4月頃まで地表が雪に覆われ、1日の気温差、年間の気温差も大きい地域です。屋外で農作業が始められる時期には、投入した石灰が流出するなどでpHが0.2ほど下がります。舘尾さんはそれを念頭に置き、土壌を調整しています。

耕作地を見切れなくなった近隣農家の土壌改良も数年がかりで

舘尾さんが就農した直後の1995年(平成7年)、上富良野町の農家戸数・農家人口は594戸・2547人でしたが、20年後の2015年(平成27年)には257戸・641人と大幅に減少しています。

出典:上富良野町の世帯数・人口・農家戸数・農家人口・認定農業者数

※総世帯数・人口は、各年3月31日現在の住民基本台帳による
※農家戸数・農家人口は平成12年までは「農業基本調査」、平成17年からは「農林業センサス」による
出典:上富良野町「第8次上富良野町農業振興計画」よりminorasu編集部作成

これには、農家の高齢化が大きく起因していました。

そのため、舘尾さんのもとには就農当初から、畑の面倒を見切れなくなった近隣の農家から、自身の畑を借りてもらえないかという相談がしばしば持ち込まれていたそうです。

舘尾 どの畑も、それまでの栽培品目や栽培方法によって土壌の性質が異なり、かなり偏った状態で、うちの畑と同様、数年かけて改良が必要な状況でした。土壌改良の時間がとれるのは、秋まき小麦の収穫を終えた8月から雪が降る11月の初旬までです。

その間に私と家族で手が回るのは10haが限界で、今年はこのエリアから始めて、来年はあちらに着手と、5年くらい先を見越して改良を進めていきました。

土壌改良と品目変更で収益力を増強

収益性を高めるため、拡大した耕作地ではスイートコーンなどを栽培

収益性を高めるため、拡大した耕作地ではスイートコーンなどを栽培
出典:たてお農園Facebook

土壌改良とあわせて、小麦がほとんどだった近隣の耕作地の品目を、より収益が見込めるものに変更していきます。かぼちゃ、スイートコーンのほか、安定した収穫量が期待できる施設栽培としてミニトマトも始めています。

土壌改良を続けた効果は、収量が増え、実のつき方がよくなったことから実感できたと舘尾さんはいいます。

光合成が盛んに行われ栄養分が全体に行き渡るようになったことで、艶やかな葉が大きく伸びるようになり、以前より味がよくなったといいます。

新たな栽培技術を積極的に導入して品質を向上

このほか、舘尾さんは意欲的に栽培に取り組む農家との情報交換やメーカーからの情報提供などをもとに、新たな栽培技術も積極的に導入しています。その中には農薬や肥料とは違った働きかけにより、収量増に役立っているものもあります。

納豆菌などの微生物で土壌を豊かに

例えば、納豆菌をはじめとした微生物を土壌に加えると、土壌の微生物を活性化し、作物が育ちやすい環境を整える効果があるといわれています。

舘尾 納豆菌をニンジンの栽培に使う話を農家同士の研究会で聞き、当農園ではハウス栽培のミニトマトに応用しました。

定植前、苗に納豆菌液を吸わせたのですが、吸わせなかったものと比べて明らかに生育がよくなっています。このほか根張りをよくする、根を病害から守るなどの効果に期待できる微生物も、いくつかの畑で試しています。

堆肥を入れるだけでは土壌が豊かになるとはいえず、微生物の働きで分解が進むことで、より栽培に適した土になると舘尾さんはいいます。

また、秋に麦殻を土中に入れるときも、微生物を一緒に入れると早く分解が始まり、春の播種後に分解が始まって、土壌が窒素不足になるといった状況が避けられるといいます。

このほか、かぼちゃなどでは雌花の分化を促す薬剤を用いて着花数を増やし、収穫量を3割ほどアップさせています。

作物にストレスを感じさせない栽培管理を

たてお農園では微生物を使う以外にも、作物がストレスを感じにくいような栽培を工夫して、品質や収量の向上を目指しています。

葉が重なりにくいよう育てたミニトマト(施設栽培)

葉が重なりにくいよう育てたミニトマト(施設栽培)
出典:たてお農園食べチョクホームページ

舘尾 例えば、ミニトマトの誘引では向きをそろえて、葉同士がなるべく重ならないように気をつけ、かぼちゃでは実が小さい段階から茎が絡まないようそろえています。

新たに設備を買うとコストや慣れるまでの時間が必要ですが、こうした手間の積み重ねは今すぐできるように工夫します。ストレスを軽減することで品質や収量が確実に向上したため、現在もこうした工夫を続けています。

JGAP認証取得を契機に農園を成長させる

食の安全や環境保全への取り組みを示すJGAP認証を取得

こうした工夫で育てた作物の魅力、食の安全や環境保全に取り組む同農園の姿勢を、舘尾さんは取引先や消費者に分かりやすい形で提示したいとの考えから、JGAP認証の取得を目指しました。

2019年にミニトマト、かぼちゃ、スイートコーン、大豆の4品目がJGAP認証を得ることができました。

舘尾 将来的にはニンジン、玉ねぎ、ジャガイモ(馬鈴薯)などでもJGAP認証の取得を考えていますが、現状では、取引先の開拓でJGAP認証を強く求められることがなく、経営への貢献度は未知数です。

ただし、食品安全や環境保全を重視する取引先もありますから、そうした部分での信頼は高まったと感じています。

JGAP認証をネット直売でのアピール材料に

JGAP認証の手続きは、信州大学農学部を卒業した長女の万里子さんが主導となりました。自らJGAP指導員の資格を取得し、認証を受ける準備を進めました。

さらに認証取得と前後して、たてお農園ではインターネットでの直売も始めています。従来の販路は農協がほとんどでしたが、万里子さんは、直販を通じてより多くの消費者にアプローチしたいと数年前から考えていたそうです。

合同会社たてお農園 舘尾 万里子(たてお まりこ)さん(以下役職・敬称略) 当農園の取引先は9割以上が農協で、数年前から販路の多様化のために直売を検討していました。

しかし、地元のスーパーはすでに取引農家の枠が満杯で、新規参入は難しい状況。そこでインターネットでの直売に変更したのですが、その中でも減農薬 などに興味を持つ消費者が多い直販サイトなら、JGAP認証やストレスを軽減した育て方などがアピール材料になると考えました。

同農園の直販は2020年から始まったばかりで、売上は全体の数%ほどに過ぎません。しかし、「安心、安全で美味しいものを」といった生産者のこだわりを消費者と共有できる点に、万里子さんは手応えを感じているといいます。

舘尾(万) 例えば、旬の野菜の詰め合わせボックスが届いて箱を開けたときに、感動してもらいたいと思い、野菜の彩りや内容量などにインパクトがあるようにと考えて詰めています。さらに初出荷の前は全品目について食味調査を行うなど、鮮度と味でも消費者にアピールできるよう工夫しています。

旬の野菜詰め合わせボックスの例。箱を開けたときに彩りよく見えるよう工夫

旬の野菜詰め合わせボックスの例。箱を開けたときに彩りよく見えるよう工夫
出典:たてお農園食べチョクホームページ

消費者からの問い合わせはスマホで早めに対応

ネット直販の問い合わせは、万里子さんを含む2人の担当者が対応しますが、日中は屋外で農作業をしながら空き時間をみての対応となるため、スマートフォンを活用しています。

2人のうちどちらか早く応えられる方が対応するなど、消費者になるべく早くレスポンスするよう心がけているそうです。

舘尾(万) ネット直販のサイトはいくつもありますが、むやみに拡大せず、生産者のこだわりに興味を持つ消費者が注目するようなサイトに絞って展開する予定です。北海道から全国へ、少しでも多くの消費者に野菜を届けたいと思っています。

たてお農園の野菜の購入はこちらから
 たてお農園オンラインショップ
 たてお農園 食べチョクホームページ

働きやすい環境のもとで農業を続けていく

業務整理、人材育成にも役立ったJGAP認証

また、たてお農園では合同会社になった2017年以降、正社員の採用も進めてきましたが、その人材育成の面でもJGAP認証は役立っています。

舘尾 JGAP認証の取得には食品安全や環境保全以外に、農場経営管理や労働管理、人権・福祉への取り組みも求められます。

これらを一つひとつ整理し、当農園の社員やパート社員と共有する中で日々の業務の整理や見直しができ、労働安全の再点検などを行ったことで作業も効率化できました。農薬をどこにどれだけ使ったかも、以前は私が記録したノートだけが頼りでしたが、今は誰でも在庫管理ができるよう情報共有しています。

「作業に使う道具はどこに何が置いてあるか」「次の工程は何をすればいいか」などが認証準備の過程で誰にとっても明確になり、資料としてまとまったため、経験の浅い社員も仕事がしやすく、先輩社員による指導の時間も減ったといいます。

個人の負担を軽減して働き続けられる農園に

合同会社になる前は舘尾さんと妻の2人が農作業の中心で、朝から深夜まで毎日働き詰めだったと振り返ります。

しかし社員が増え、2人に集中していた作業を任せることができるようになって、今は18時頃には作業が終わるので楽になったと舘尾さんはいいます。

JGAPに準拠した南瓜の生産

出典:たてお農園 Facebook

たてお農園の色鮮やかな野菜や上富良野町の季節の移り変わりの中での農作業の様子を、是非SNSでご覧ください。
 たてお農園 Facebookページ
 たてお農園 Instagram

これまでのたてお農園の発展を見ると、近隣農家の農地を引き受けて規模拡大を図りながら、地域農業の持続に貢献していくには、働く個人の負担を軽減して働き続けられる環境を整えることも重要だということが、みえてくるのではないでしょうか。

山辺孝能

山辺孝能

熊本県立濟々黌高等学校、西南学院大学文学部卒業。企業で教育機関の学生募集広報などに携わった後、1995年からライターとして活動。プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスとなる。現在の主な業務は教育、金融、医療、IT、農業などの分野での広報・コミュニケーションツールの企画・制作。

おすすめ