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【2023年版】農業簿記|勘定科目はどう決める? よくある取引例と、設定時の注意点

【2023年版】農業簿記|勘定科目はどう決める? よくある取引例と、設定時の注意点
出典 : bee / PIXTA(ピクスタ)

農産物を扱う農業経営には、独特の資産や支出・収入などがあり、取り扱う作目によっても経営内容は大きく異なります。本記事をはじめ、農業簿記の手引きや事例などから勘定科目の立て方を学び、自分の農業経営に適した帳簿づくりの参考にしましょう。

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個人事業主と青色申告

makaron* / PIXTA(ピクスタ)

青色申告をするためには、農業経営に適した複式簿記「農業簿記」での記帳が必要です。農業には特有の勘定科目も多く、記帳に慣れるまでは仕訳に悩むこともあるでしょう。そこで本記事では、具体的な取引例をもとに仕訳のポイントについて解説します。

※本記事は2024年2月21日現在、国税庁「令和5年分の確定申告に関する手引き等」および「令和3年度 所得税の改正のあらまし」を基本に、一般社団法人全国農業経営専門会計人協会など農業財務の専門サイトへ掲載された情報を参照し執筆しております。詳細はお近くの税務署や公認会計士、税理士にご確認ください。

そもそも「農業簿記」や「勘定科目」とはどんなもの?

複式簿記の土台となる総勘定元帳

CORA / PIXTA(ピクスタ)

「農業簿記」とは農業経営者が利用する会計手法で、農業を経営するうえで行った取引を勘定科目に仕訳し、その増減を記録することです。一般的な簿記と手法は変わりませんが、農業ならではの取引や資産も多いため、農業簿記の勘定科目は一般とは異なります。以下ではまず、農業簿記の勘定科目の特徴と、一般的な簿記との違いをご説明します。

農業簿記と一般的な簿記の違い

青色申告で最高の55万円控除(電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行っている場合は65万円)を受けるためには、企業会計原則でいう「正規の簿記の原則」の要件を満たす複式簿記による記帳が必要です。他方、農業経営においては農業簿記が適切です。

農業簿記と一般的な簿記の最も大きな違いは、取引内容を分類するための勘定科目やその分類に、農家専用のものがある点です。ちなみに「勘定科目」とは、簿記において取引内容を分類するための科目のことで、取引内容を仕訳する際の見出しのような役割を持っています。

そのほか、年度末の棚卸の方法や、成熟した果樹や繁殖豚、搾乳牛など生産物を生み出す生物を資源として管理する方法など、農業だけの特徴が数多くあります。

簿記 勘定科目

もとくん / PIXTA(ピクスタ)

農業簿記における勘定科目の例

農業ならではの勘定科目としては、例えば以下のようなものがあります。

○損益計算書の中で、生産原価の材料費として扱うもの
・種苗費:種籾・種子・苗・種いもなどの購入費用
・素畜費:種付費用や素畜の購入費用
・肥料費:肥料の購入費用

○損益計算書の中で、諸経費として扱うもの
・小農具備品:10万円未満で購入した農機具や備品などの費用
・種付料:乳牛や繁殖牛への種付支払高
・土地改良費:客土や揚排水施設などの整備費用
・水利費:水利組合などに納入する水利の負担金

※確定申告における経費の扱いについてはこちらの記事もご覧ください。

農業経営でよくある取引例と、勘定科目の考え方

続いて、農業経営でよく見られる取引において、どのような勘定科目に仕訳すべきか判断が難しいケースについて、具体的な例を挙げながら解説します。なお、仕訳には色々な方法があり、ここに挙げるものは一例にすぎません。あくまで迷ったときの参考程度に捉えておくとよいでしょう。

JA(農協)へ農産物の販売を委託した

米の集出荷施設

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

農産物をJAに委託販売している場合、先に契約金を受け取ったあと、実際に農産物を出荷した時点で契約金を相殺した残金が支払われる形の取引では、代金の受け取りの時期ではなく、実際に出荷した時点が売り上げの時期となります。したがって、最初に受け取った契約金については、帳簿へは「前受金」という勘定科目として金額を記載しましょう。

収穫した農産物を家族や親戚に配って消費した

自ら生産した米を親戚などにお裾分け

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

自ら生産した農産物を家族で消費したり、親戚などに無償で配ったりした場合は、代金の受け取りがなくても、農産物を消費することで事業としての収益があった扱いとなります。したがって、帳簿へは「家事消費等」という勘定科目として、その農産物を消費した時点の価額、つまり時価に相当する金額を記載しましょう。

なお、棚卸資産を自家消費した場合の取り扱いについては、これとは異なります。詳しくは後述します。

持続化給付金など、助成金・補助金を受け取った

助成金・補助金

tsukat / PIXTA(ピクスタ)

2020年には、新型コロナウイルスによって大きな影響を受けた事業者に対し、持続化給付金が支給されました。受給した持続化給付金は、収入として計上申告する必要があります。

持続化給付金は臨時的なものではありますが、経常収益の補填を目的に支給されたものです。したがって、帳簿へは「経常利益」として、「受取助成金等」の区分へ「受取持続化給付金」などの科目で支給額を記帳しましょう。ほかの給付金も受領している場合は、それも合わせて「受取公的給付金」「受取給付金」といった勘定科目にしてもよいでしょう。

そのほか、国からの補助金は「事業外収益」の区分へ、「補助金・奨励金」といった科目を設けて記帳しましょう。また、生産調整にかかる助成金等は、同じく営業外収益として「生産調整助成金等」などの科目で記帳しましょう。

減価償却の対象となるトラクターを購入した

トラクターを購入した新規就農者

mits / PIXTA(ピクスタ)

「減価償却」とは、建物や機械装置、器具備品、車両などの高額な固定資産の取得金額を一度に会計処理せず、その資産の耐用年数期間にわたって、各年の必要経費に分配していく方法のことです。この費用を「減価償却費」といい、以下の計算式で算出します。

【減価償却費の額=取得価額×償却率×使用月数/12×事業専用割合(%)】

例えば、7月1日に100万円の農業用トラクターを新品で購入した場合、勘定科目上は「農業用設備」に該当するため耐用年数7年、償却率は0.143となるため、次のように計算します(事業専用割合は100%と仮定)。

・購入した年:1,000,000×0.143×6/12=71,500円
・2年~7年目:1,000,000×0.143=143,000円

7年目で未償却残高が70,500円になり、8年目は未償却残高が1円になるまで70,499円を減価償却します。なお、減価償却の仕訳には「直接法」と「間接法」があります。したがって、前者の場合は「減価償却費」と「固定資産」として、後者の場合は「減価償却費」と「減価償却累計額」として、それぞれの年の金額を帳簿に記帳しましょう。

みかんなどの果樹やアスパラガスのような多年生植物を植えた

みかんの苗木は「育成仮勘定」に振り替え、成園し生産活動を開始した年に「生物」という固定資産に振り替え

pu- / PIXTA(ピクスタ)・nobmin / PIXTA(ピクスタ)

農業特有の資産として「生物」があります。経理上の資産としての生物には、牛・豚・馬・綿羊などの動物と、みかんやりんごなどの果樹、茶などの樹木、アスパラガス、パイナップルなどの多年生植物が含まれます。そして、これらの動植物が成熟し、生産活動を行っている状態の間に限り、「固定資産」として減価償却を行います。

生産活動ができるようになるまでの生育期間は、毎年度末に果樹などや家畜の育成に使った肥料・農薬・飼料などの費用総計を、まとめて「育成仮勘定」という固定資産に振り替えます。その後、生産活動を開始した年に「育成仮勘定」から「生物」という固定資産に振り替え、同時に減価償却を始めます。

したがって、みかんやアスパラガスの苗を購入した場合は、その代金の勘定科目を「種苗費」とし、成熟するまで毎年その苗の育成にかかった肥料や農薬の代金を年末に割り出して、すべて合わせて「育成仮勘定」という資産に計上しましょう。

年度末の「棚卸」! 農業簿記での帳簿付けはどうする?

ここでは、年度末に行う棚卸作業での記帳方法について、棚卸の意味や具体的な勘定科目の例を挙げながら詳しく解説します。

そもそも「棚卸」とは?

「棚卸」とは、年度末に資材や商品の在庫を確認し、それぞれの金額を計算して帳簿に記載する作業のことです。物品売買をする企業でも在庫確認のため棚卸が行われていますが、その場合、対象は販売する「商品」といった勘定科目だけです。

しかし、農業においては収穫前後の農産物だけでなく、生産資材や育成中の作物・家畜など、さまざまな状態の在庫が存在するため、一般の簿記もより棚卸が複雑で、次項でご紹介するように多くの勘定科目に分かれます。

棚卸時の記帳方法と科目の例

購入して未使用の肥料は「棚卸資産」

tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)

農家における棚卸の対象は「棚卸資産」という勘定科目になり、主に以下のような項目が含まれます。

・原材料:購入した肥料や飼料、農薬、動物薬、農機などに使用した燃料、ビニール・敷料などの消耗品
・仕掛品:栽培中・生育中で未収穫の農作物や、飼育途中の未成熟の畜産などに用いた費用の科目別累積額
・農産品:収穫はしているものの未販売の玄米や野菜、果実、花卉(かき)、植木といった未販売分

上記の原材料・仕掛品・農産品の3分類は、棚卸資産の個々の科目を分ける一例です。市町村ごとに作成した帳簿の手引きや、企業が作成・販売している会計ソフトによって、どの科目をどう分類するかは異なります。燃料や消耗品、収入印紙などを「貯蔵品」という括りにしたり、分類せずにすべてを「棚卸資産」として一括管理したりする方法もあります。

このように、勘定科目の設定や細部の分類はある程度自由にでき、「こうでなくてはならない」というわけではありません。会計の意味を理解せずに項目だけ分けようすると難しいので、例に当てはまらない資産などがあってもふさわしい分類ができるよう、それぞれの科目の意味や括りをきちんと理解することが大切です。

なお、農家が棚卸資産である農産物や消耗品を自家消費した場合は、その消費量に対し、当該棚卸資産を使用した時点での時価を基準に、当該棚卸資産の仕入れ価格以上、かつ通常販売価格のおよそ50%以上の金額を対価として、確定申告をしましょう。

記帳開始時が肝! 勘定科目設定の注意点

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

勘定科目を細分化しすぎると経理処理が煩雑になる

前述した通り、農家の経営内容は扱う作目や経営方針などによっても大きく異なり、一律の勘定科目ですべてに当てはめることは困難です。そのため、勘定科目はある程度自由に設定できます。

しかし、事前によく計画せずに科目を設定してしまうと、あとから変更することが非常に難しく、一貫性がなくなってしまい資料としての価値も下がります。記帳を始める前に、十分に科目やその分類を検討することが大切です。以下では、勘定科目を設定する際の注意点をご紹介します。

勘定科目を細分化しすぎるのはNG

費用や収益が発生するたび、個別に科目を上げたくなってしまうかもしれませんが、勘定科目を細分化しすぎると、記帳作業や経営分析などの作業が煩雑化するため、あまりおすすめできません。

例えば、費用科目として一括りにせず、生産原価・販売費および一般管理費・事業外費用に区分するなど、経営上管理しやすい形で分類整理してみましょう。そのほうが内容を理解しやすく、経営分析や確定申告の際などもスムーズに作業できるでしょう。

なお、分類する際には、費用と収益、債権と債務とを同一科目にしないなど、各科目の意味や用途をきちんと理解して適切に分けることが重要です。

一度設定した勘定科目は原則として変更しない

事業成績の変化を見るためには、共通の勘定科目における年次間の比較が必要なため、一度設定した勘定科目は極力変更すべきではありません。それを避けるためには、あとから変えるつもりでとりあえず項目建てしたり、仮に一時的な分類をしたりせず、記帳前に将来を見越した勘定科目を設定しておくべきです。

分類に迷ったら、税務署や税理士へ相談を

勘定科目の設定によって、確定申告の内容に少なからず影響が出ます。農家の経営内容がそれぞれ異なるように、勘定科目の内容も農家によって違うのは当たり前です。今回ご紹介した勘定科目の例や考え方は、あくまで参考情報として捉えておきましょう。

また、地域のJAや市町村が公開している手引きや、インターネットなどで同じ作物を扱っている農家の農業簿記の例を探して、参考にするのもよいでしょう。それでも、「この場合はどうすればいい?」と不安に思うこともあるかもしれません。そのときは、1人で無理に判断しようとせず、最寄りの税務署や税理士に相談してみるのがおすすめです。個人事業主として、信頼できる税理士を身近に見つけておくと安心でしょう。

農家にとって信頼できる税理士がいると安心

Ushico / PIXTA(ピクスタ)

農業簿記の勘定科目は、他業種に比べて非常に独特で複雑です。しかし、それぞれの科目同士の関わりを確認しながら適切に分類することで、見やすくわかりやすい帳簿の作成が可能となり、確定申告や経営分析の効率も格段に上がります。

何より農業簿記について理解することは、自身の経営状況を理解することにつながり、有効な経営戦略には欠かせない知識です。苦手意識を克服し、散らかった書類を整理整頓する感覚で、勘定科目の分類をしてみましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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