榊栽培農家が注目されている理由とは? 儲かる秘密や成功事例
農家経営の安定化を図るためには、できるだけ少ない労力で効率的に収益を確保できる作物を栽培することが大切です。近年、そうした観点から榊栽培が注目を集めています。この記事では榊栽培が注目されている理由や成功事例を詳しく解説していくので、休耕地活用や新規就農の品目を探している人は参考にしてください。
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榊は日本において神道行事に欠かせない植物として、昔から一定のニーズがありました。そのため、近年の社会ニーズの変化やコロナ禍などの影響によって花き全体の生産量が落ち込む中でも、安定した需要を維持しています。
また、榊栽培は栽培や出荷にそれほど負担がかからないことから、副収入を得る手段としても注目を集めつつあるのです。
榊栽培農家の実態はどのようなものなのか、注目されている理由や成功事例を解説します。
榊栽培農家が注目されている理由
dual180 / PIXTA(ピクスタ)
榊栽培が注目を集めている理由は、栽培に手間や負担がさほどかからない上に、今後も安定した需要が見込まれているからです。まずは、榊栽培が注目を集めている理由について解説します。
国内で流通しているのはほとんど中国産
榊栽培の現状として特筆すべきことは、日本国内で使用されている榊のほとんどが中国産である点です。
国内で流通している榊の国産割合は、5%から10%程度だと推計されています。
これほどまでに中国産の榊が出回っているのは価格が安いからですが、「飾っておくと水が臭くなる」「葉が落ちやすい」といった品質に対する不満を抱えている顧客が一定数いるのも事実です。
中国産榊の品質の問題は、
・輸送に時間がかかることで葉の傷みが進む
・病害虫が日本に侵入するのを防ぐために薫醸処理を施す必要がある
・品質保持のために冷蔵保存しても、常温に戻したあと長く持たない
などが原因だと考えられています。いずれも輸入品である以上、改善が難しい問題であるため、高品質な榊を求める顧客からは希少価値の高い国産榊のニーズが高まっているというわけです。
出典:樹木医学会 樹木医学研究 第21巻4号(2017年10月)「シキミ・サカキの生産と防除(高知県立森林技術センター)」
通年出荷ができて手間がかからない
榊と呼ばれる植物は、厳密にいうと2種類ありますが、両方とも「榊」として流通しています。
1つは東海地方以南の比較的温暖な地域で生育する本榊(Cleyera japonica)で、もう1つは関東地方以北の一部地域でも生育するヒサカキ(Eurya japonica)です。
nobmin / PIXTA(ピクスタ)・Miizu / PIXTA(ピクスタ)
通年出荷が可能な常緑樹で、斜面や森林でも問題なく栽培でき、一般的な花き栽培に比べて手間がかからないことから、特に中山間地において重要な収入源となっています。
樹高を低く仕立てれば、ハサミとカゴだけで収穫でき、高齢者を中心に副業として選択する農家もあります。
営農型太陽光発電の品目として適している
u.yoshifusa / PIXTA(ピクスタ)
榊は日当たりのあまりよくない斜面や山間部でもよく生長するのが特徴です。
高知県立森林技術センターが2018年4月に公表した「サカキ・シキミの栽培技術向上に関する研究」によると、暗いところで栽培した榊ほど、葉が薄く大きくなることがわかっています。
出典:高知県立森林技術センター「サカキ・シキミの栽培技術向上に関する研究」
こうした傾向は政府も把握しており、将来的に導入が進むことが予想される営農型太陽光発電の主要品目として榊の名前が取り上げられているほどです。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について(2021年3月1日)」(47ページ)
すでに太陽光発電と榊栽培を組み合わせた農業を展開している法人もあるなど、今後の日本農業のニーズに適した品目として期待されていることも、榊が注目を集める要因の1つとなっています。
榊栽培農家は本当に儲かるのか?
Arthon meekodong / PIXTA(ピクスタ)
ここまで国産榊の注目度が高まっている要因について解説してきました。出荷に手間がかからず、太陽光発電との共存も可能な植物であるという点は、新規栽培品目を探している方にとって大きな魅力になるのではないでしょうか。
しかし、いくら魅力的な品目であっても儲からなければ経営は成り立ちません。そこで、ここからは榊栽培農家の現状について具体的なデータを引用しながら紹介します。
榊の価格は上昇傾向
農林水産省の「令和2年産花き生産出荷統計」によると、2020年産の花きの出荷量は、切り花類と鉢物類が前年比93%、花壇用苗もの類が前年比98%とそれぞれ減少しました。
花きの生産量や卸取扱高は近年減少傾向が続いています。その一方で、榊の流通量は下のグラフの通り安定しており、数量こそ横ばいまたは微減ですが、平均価格は上昇傾向です。
出典:東京都中央卸売市場「統計月報」よりminorasu編集部作成
前述の通り、高品質な国産榊のニーズがより高まっていることが価格上昇の要因だと考えられます。
安定した需要に対して供給は伸び悩んでいる
ただし、国産榊のニーズが高まってきているにもかかわらず、近年は生産が伸び悩んでいる傾向が見られます。
国産榊の生産量は1993年以降急激に減少していました。統計の単位が重量に変更された2010年からを見ると、2016年まで上昇し、最近数年は800~950t程度で推移しています。
出典:農林水産省「特用林産物生産統計調査」の「主要特用林産物需給総括表 非食用」よりminorasu編集部作成
出典:農林水産省「特用林産物生産統計調査」の「主要特用林産物需給総括表 非食用」よりminorasu編集部作成
一方、輸入数量も横ばいあるいは減少傾向が続いていることから、供給量全体が頭打ちになっているのが現状です。
毎年一定の需要があり平均価格も上昇傾向にある中で、国内の生産量が伸びない要因としては農家の高齢化が影響しています。
榊栽培は中山間地で行われているケースが多く、そうした地域では過疎化や高齢化が進んでおり、生産力を向上させるだけの満足な労働力を確保できないケースも珍しくありません。
安定したニーズに対して供給が追い付いていないことが、平均価格上昇の要因になっているともいえます。
出荷までにはある程度の期間がかかる
国産榊に対するニーズは根強く、今後も安定した需要が見込めます。ただし、榊栽培に参入したからといって、すぐに儲けが出るわけではない点には注意しましょう。
一般的に榊は挿し木から初出荷まで4年以上かかるといわれており、参入のためのハードルは比較的高いといえます。
参入障壁の高さは裏を返せば競合が増えにくいということを意味しており、一度参入してしまえばその後は安定した価格で出荷できるという点では有利であるともいえます。
「能登榊」の産地化を図る石川県では、初出荷までの期間の短縮を目的に挿し木増殖の技術開発を行っています。
農林総合研究センター農業試験場では、2009年に大苗挿し木の試験を実施しました。慣行栽培での10cm程度の穂木と、長さ30cm・40cm・50cmの穂木の発根率を比較したところ、30cm・40cmでは慣行と変りないという結果を得られました。
その後も研究は継続しており、早期の収益化実現に貢献することが期待されています。
出典:石川県農林総合研究センター農業試験場 平成21年度研究成果発表会発表要旨 所収「サカキの増殖方法」
榊栽培農家の成功事例
榊の生産・販売に興味を持った方に向けて、榊栽培で成功した事例を2つ紹介します。
彩の榊(東京都青梅市)
株式会社彩の榊では、株式会社ビビッドガーデンの「花チョク」で「世界遺産 熊野古道の榊」を販売している
出典:株式会社PR TIMES(株式会社ビビッドガーデン(食べチョク) ニュースリリース 2020年6月28日)
「株式会社彩の榊」は苗木から生産を始めるのではなく、山の地権者と契約をし、そこに自生している榊を伐採して出荷するというスタイルが特徴です。
もともと花屋を経営していた代表者が顧客から国産榊のニーズがあることを教えられ、近隣の森林組合やゴルフ場などと契約し、榊を収穫して販売したところ品質の高さが評判となりました。
現在では需要に対して販売数量が追い付かないほど好評であるため、苗木を植えての生産も始めています。
また、国が推奨する営農型発電事業にもいち早く目を付け、すでにソーラーパネルを設置したほ場を所有するなど着実に事業を拡大しています。
株式会社彩の榊は、土地付き太陽光発電の販売施工メンテナンスを行う株式会社エコスマイルと農福連携土地付き営農型太陽光発電事業をスタートした
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社エコスマイル ニュースリリース 2021年10月19日)
商人(あきんど)榊生産組合(島根県鹿足郡津和野町)
「商人榊生産組合」が榊栽培に取り組み始めたのは1989年で既に30年以上経ち、色ツヤがよく日持ちのする榊の産地として、中国地方での地位を確立しています。
その特徴は、集落全体で榊栽培に取り組んでいることです。平坦な農地が1%程度という中山間地であり、1989年当時も既に高齢化と人口減少が大きな問題でした。
「大きな里山×高齢者」という組み合わせで生み出せる産業はなにか?と集落で何度も話し合って出した答えが榊の生産でした。生産組合を設立して植栽地の造成を進め、8ha弱・約3万本規模で生産をスタートしました。
市場での評価は高く、生産が追いつかない状況になったため、生産組合加入の門戸を集落以外に拡げ栽培面積を増やしています。
栽培マニュアルを整備したことで、技術や知識を新しい生産者へ渡せるようになり、Iターン就農者も生産組合に加わるようになりました。
参考:JAしまね 広報誌「JAしまねびより」 隠岐地区本部版 2019年1月号「島根のいいもの再発見!!『津和野町 榊(さかき』」
国産の榊のニーズは、品質の高さや日持ちのよさが高まっていますが、供給が追いついていません。
「商人榊生産組合」のように、「大きな里山×高齢者」という組み合わせで産地化に成功しているケースもあり、中山間地にとっては新しいビジネスチャンスといえるのではないでしょうか。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。