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10年後の農業はどうなる? 課題解決に向けて日本が描く農業の未来像

10年後の農業はどうなる? 課題解決に向けて日本が描く農業の未来像
出典 : Graphs / PIXTA(ピクスタ)

近年、農地の集約や法人化による営農規模の拡大など農業の経営環境が大きく変化しています。スマート農業の導入により、少人数で高収益を実現できるチャンスも訪れました。10年後の農業経営を見据えて、生産だけでなく6次産業化や農業の高付加価値化など、農業経営者として取り組むべき課題について解説します。

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農業従事者が減少する一方で、農家1戸あたりの営農面積は増加しています。農作業の生産性を高めて生き残っていくためには、ICTやロボット技術などの積極的な導入が必要です。まずは、10年後に予想される営農環境の変化について考えてみましょう。

農業人口の減少と大規模化・法人化

大規模経営 農地

HAPPY SMILE / PIXTA(ピクスタ)

農家の高齢化や後継者問題が慢性化するなか、法人化による農地の集約と経営の大規模化、スケールメリットを活かして機械化による経営効率の向上が進むことが予想されます。

農業業界でも、M&Aによる合併・買収の事例も増加傾向です。10年後に予想される農業従事者の減少や、農家・農地の集約による大規模化について解説します。

農業人口の減少と大規模化・法人化

新規就農者は毎年5.5万人前後で推移していますが、50歳以上の人が約65%を占めており農業従事者の若返りに至っていないのが現状です。

一方、自営・専業での農業従事者(基幹的農業従事者)は2015年をピークに減少が続いています。

新規就農者と基幹的農業従事者の推移

新規就農者基幹的農業従事者
2015年6.5万人175.4万人
2016年6.0万人158.6万人
2017年5.6万人150.7万人
2018年5.6万人145.1万人
2019年5.6万人140.4万人
2020年5.4万人136.3万人
2021年-130.2万人

出典:農林水産省「令和3年農業構造動態調査結果」「令和2年新規就農者調査結果」

基幹的農業従事者の年齢分布も確認してみましょう。

年齢層基幹的農業従事者構成比
29歳以下1.5万人1.2%
30~34歳2.0万人1.5%
35~39歳3.1万人2.4%
40~44歳3.9万人3.0%
45~49歳4.3万人3.3%
50~54歳5.0万人3.8%
55~59歳7.1万人5.5%
60~64歳12.8万人9.9%
65~69歳20.5万人15.8%
70~74歳29.0万人22.3%
75歳以上41.0万人31.5%
合計130.2万人100.0%

出典:農林水産省「2020年農林業センサス」

基幹的農業従事者の約7割が65歳以上であることがわかります。

日本人の平均寿命は男性81.64年・女性87.74年(厚生労働省「令和2年簡易生命表」)であり、このままの状態だと2030年には基幹的農業従事者が約90万人となることが予想されています。

専業農家の労働力が約3割減少するため、農業技術の継承や農作業の機械化・効率化が急務です。

大規模経営体の増加

農業従事者の減少に伴い、個人農家の戸数(農業経営体数)も減り続けています。一方、法人の農業経営体は増加しています。

農業経営体数

個人経営体団体経営体
(法人経営体)
合計
2010年164.4万3.6万167.9万
2015年134.0万3.7万137.7万
2020年103.7万3.8万107.6万

出典:農林水産省「2020年農林業センサス」

農家全体が5年間で約30万戸のペースで減少しており、2030年には約40万戸になると予想されています。一方、法人の農業経営体は5年間で4,000法人程度のペースでの増加が続いており、2030年には約4万法人になる見通しです。

農家1戸あたりの、年間の販売額も紹介します。

農産物販売金額 規模別 経営体数

小規模農家
300万円未満
小規模農家
300~1000万円未満
中規模農家
1000~5000万円未満
大規模農家
5000万円以上
2010年115.7万21.7万11.8万1.5万
2015年93.7万18.3万10.9万1.7万
2020年67.6万17.5万10.6万2.1万

出典:農林水産省「2020年農林業センサス」

小規模農家・中規模農家の経営体数が年々減少するなか、年間販売額が5,000万円以上の大規模農家が増加する傾向です。年間1億円以上を販売する経営体も約7,800経営体あるなど、経営規模の二極化が進んでいます。

農地の集約化

農家の経営規模を拡大しても、農地が複数の場所に分散していると農作業の効率化に支障が生じます。栃木県の例では担い手の62%が、農地の分散が経営規模の拡大に向けた課題だと認識しているのが現状です。

出典:栃木県農政部農地整備課 2019年3月発行「農地の利用集積・集約化に向けて~ほ場整備のすすめ~」

農林水産省ではすべての都道府県に農地中間管理機構を設置し、農地バンク事業を通じて、農地の効率的な活用を推進しています。農地バンク事業とは、地域内で分散した農地・耕作放棄地を借り上げて、営農規模の拡大を目指す農家に転貸する仕組みです。

地域との話し合いの推進や手続きの簡便化といった課題は浮上しているものの、新規就農を支援する一面もみられます。自治体と連携して、水利・排水対策などとセットで農地の区画整理を実施するケースもみられます。

2019年には農地の集積率が56.2%に達しており、2023年までに農地集積率を8割にする目標も設定されています。仮に目標が未達だとしても、毎年1%前後のペースで集積率が上がっているため、2030年には農地の集積率が65%前後に達すると見込まれています。

農地の集約によって農作業の機械化やスマート農業が推進され、生産コストを抑えながら持続可能な農業経営を目指せるようになります。

※農地の集約についてはこちらの記事もご覧ください。

集落営農からの法人化へ移行

農業経営の大規模化や農地の集約に伴い、集落営農組織から法人化した上で農業経営を持続させる動きも高まりつつあります。

農家の高齢化や後継者不足で懸念される、耕作放棄地の解消策の1つとしても注目されています。集落単位で農事組合法人を立ち上げる事例もみられますが、後述する6次産業化など経営の多角化を目指して、農家が単独で株式会社・合同会社化する事例も少なくありません。

法人化によって社会的信用度が高まり、金融機関の融資が受けやすくなることで設備投資や農地を拡大する資金を得やすくなるのがメリットの1つです。従業員を雇い、作物の栽培技術などのノウハウを組織的に共有できれば、作物の質を高めて市場での価値も高めていけるでしょう。

国が農家の法人化を支援する動きがみられる一方で、小規模農家や家族経営の農家ならではの小回りの良さにも注目されています。

前述したように、2020年時点で個人経営の農家が100万戸以上ありますが経営規模が小さい分、化石燃料などの外部資源への依存度が低いのが特徴です。作物の栽培で使用する農薬を厳選するなど、農家それぞれの価値観で食の安全を守る取り組みもみられます。

スマート農業の進展

ドローンの農業利用

kazuki / PIXTA(ピクスタ)

ICT技術や農業用ロボットの性能が向上しており、スマート農業の導入を検討する農家が増え始めています。内閣府が推進する「Society 5.0」でも、IoTやAIといった最新技術でビッグデータを分析して農業の生産性を高める取り組みが始まっています。スマート農業の10年後の姿について予測してみましょう。

ICTやロボット技術などの先端技術

情報機器や通信回線、各種ソフトウェア・プログラムなどのICT技術を農業に取り入れることで、農作業の大幅な省力化が実現します。ロボット技術も高度化しており、農業用機械はもちろん、人の作業負荷を軽減するアシストスーツにも応用されています。

GPSや制御装置を搭載した自動運転トラクターなどの農作業機械が実用化されており、2021年時点では有人監視での自動作業が実現しています。将来的にはAI(人工知能)による制御で無人運転が可能になり、遠隔監視による省力化が実現するでしょう。

大型機械の導入が難しい作業場面でも、作業する人がアシストスーツを着用して体への負担を軽減できます。収穫作業や重量物の持ち上げ時などで効果を発揮するため、作業中の事故リスクの減少だけでなく、農業は重労働だというイメージからの脱却も期待できるでしょう。

解析した遺伝子情報をもとにピンポイントで突然変異を起こさせるゲノム編集技術を用いた品種改良も行われています。遺伝子解析は大型コンピューターで行うため、品種育成の期間を大幅に短縮できます。多様化する市場ニーズに対応した品種改良により、農作物の付加価値向上につながるでしょう。

Society 5.0の農業分野における実現

内閣府では、人とモノをネットワークでつなぐIoTという技術を活用して、知識や情報を共有して新たな価値を生み出す「Society 5.0」を推進しています。

農業分野でも、収集・蓄積した気象情報や作物の生育情報などを、収穫量の設定や作業計画に反映させる取り組みが始まっています。農作業に関する情報もデータに残せるため、ノウハウ共有にも効果を発揮するでしょう。

収穫目標の実現に取り組む例では、ドローンに搭載したセンサーを通じてほ場の情報を把握し、作物の生育情報を見える化する技術も実用化されています。生育不良の場所にピンポイントで施肥することで、肥料代などのコストを削減できるだけでなく作物の品質のばらつきを減らせるのがメリットです。

市場情報や消費者の嗜好などの情報をビッグデータで入手・分析し、営農計画に反映させることで食料の安定供給や消費の活性化にもつなげられます。

農家と消費者・流通関係者とをアプリなどのコミュニケーションシステムでつなぎ、それぞれの立場で得た情報を分析することでニーズに合った農作物の栽培を検討できるようになります。その結果、フードロスを未然に防ぎ、作物の価格の安定化にもつながるでしょう。

JAにいがた岩舟 スマート農業事例ザルビオのデータ活用で、収量20%増加と営業指導を効率化

JAにいがた岩舟
時田様、山田様、今様

■管内耕地状況
水田耕地面積:5,755ha
水稲作付面積:4,798ha

導入の目的

▷ブランド米として収穫量と品質を向上させるための追肥効率化
▷営農指導員の育成期間の短縮化

課題・悩み

▷面積が大きく、砂地が多いことから、肥料がうまく効きづらい土地があり、強風が吹く地帯であるため、稲が綺麗に育たないことや生育が停滞することがある。
▷管内では高齢化が特に進んでおり、若手への指導が急がれている。

成果

▷生育マップを元にドローンでの追肥を行うことで、収量が20%UP。例年6.5俵のところ、今年では8俵。
▷地力マップや生育マップにより、追肥のタイミングや追肥量の判断の確実性が上がった。
▷ザルビオのデータやAI分析を活用することで、通常5年ほどの経験が必要とされる営農指導が、3年ほどに短縮。

詳しくはザルビオサイトへ

持続可能な農業のために経営者に求められること

情報収集 高付加価値

Scharfsinn / PIXTA(ピクスタ)

営農規模の拡大やスマート農業の推進に対応しながら持続的に農業経営を続けるためには、積極的な情報収集が必要不可欠です。慣行にとらわれない新技術の導入や農家のブランディング、6次産業化による収益体質の強化も、農家の生き残りの重要な鍵となるでしょう。農業経営者に求められる、3つの考え方について解説します。

積極的な技術導入・情報収集

来年、そして10年後も農業経営を続けるためには、前述したような最新技術を農作業に取り入れ、作業の省力化を進めていくことが大切です。事業や販路の拡大を検討する際も、農業関係者以外からも幅広く情報を収集し、市場への訴求方法やタイミングなどを慎重に見極めるようにしましょう。

新しい技術や機器の導入には多額な費用がかかりがちですが、国や自治体から補助金・助成金を得られる可能性もあります。農業経営のあり方を見直すチャンスにもつながるため、農協などの営農団体や自治体に経営改善について相談するのも有効です。

セミナーや勉強会に参加するのも、農業経営に関する正しい知識を身につける効果を発揮します。似たような経営課題を抱える農家と情報交換できる可能性もあるでしょう。

高付加価値化による事業拡大

作物自体をブランド化して付加価値を高めることで、生産以外にもビジネスを拡大するチャンスが生まれます。

例えば、JAつがる弘前では一部のリンゴ品種を機能性表示食品として販売、「プライムアップル」として消費者に新たな価値をアピールし始めました。青森県は従来からリンゴの産地として知られていますが、付加価値の向上を通じて産地自体の再認識・ブランディングにつながる可能性もあります。

JAつがる弘前「機能性表示食品 プライムアップル」

長野県松本市のように、自治体ぐるみで農産物のブランディングを推進する事例もみられます。調理方法の提案も、消費者が作物の魅力を再認識するきっかけとなり、付加価値の向上につながるでしょう。

農協への出荷に加えて、直売所やインターネット通販での販売も作物の付加価値を高めるには有効な方法です。農家の名前を表示して野菜・果物を販売し、知名度の向上を目指す農家も少なくありません。後述する6次産業化への足がかりになる可能性も秘めています。

6次産業化による販路拡大

6次産業化

こしあん / PIXTA(ピクスタ)

作物を市場に出荷するだけでなく、加工品を販売したり収穫などの体験を提供したりする6次産業化も販路拡大には有効です。

ニンジン農家の例では、規格外のニンジンをジュースやミートソースなどに加工して、独自のブランドで販売する方法が考えられます。果樹農家を中心に、収穫体験や食事・スイーツなどを楽しめる観光農園を運営して消費者の「コト消費」につなげる事例も数多くみられます。

自治体や企業と包括協定を結んで、地域の活性化や新商品の開発・農産品のブランディングに乗り出す事例も増えています。通年で収益を得るチャンスにもつながり、農業経営の安定にもつながるでしょう。

6次産業化で成功して知名度を獲得している農家も多いため、新規参入にあたっては斬新なアイディアが求められます。

また、InstagramなどのSNSによる情報発信も農家の知名度を高め、販路拡大のきっかけにつながることも考えられるでしょう。農業以外の市場動向にも目を向け、新たなビジネスにつなげる起業家精神も農業経営者には求められます。

農業 事業 拡大

Ushico / PIXTA(ピクスタ)

2030年には農業従事者・農業形態ともに2020年の半分以下になることが予測されています。現状の生産力を維持するためには、農地の集約やスマート農業の推進といった農業経営の効率化が急務です。農家の法人化が進む一方で、最新技術を駆使すれば家族経営の農家でも大規模農家と遜色ない生産性を実現できる可能性があります。農家が生き残っていくためは、6次産業化や農家自体のブランディングなど、持続可能な農業を目指す経営戦略を立てていくことが大切です。

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minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

よろしければ追加のアンケートにもご協力ください。(全6問)

農地の所有地はどこですか?

栽培作物はどれに該当しますか? ※販売収入がもっとも多い作物を選択ください。

作付面積をお選びください。

今後、農業経営をどのようにしたいとお考えですか?

いま、課題と感じていることは何ですか?

日本農業の持続可能性についてどう思いますか?(環境への配慮、担い手不足、収益性など)

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

舟根大

舟根大

医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。

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