ほうれん草の白斑病に要注意!特徴や防除法を解説
近年、ほうれん草の「ホウレンソウ白斑病」という新しい病害が発生しているのをご存じでしょうか。ほうれん草は品種が豊富で、低温期から高温期まで幅広いシーズンにわたって栽培できることから全国各地で栽培されています。今回はほうれん草を栽培している農家の方に向けて、ホウレンソウ白斑病の特徴や防除法を紹介します。
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ほうれん草は高温期なら播種から30日程度で収穫でき、周年栽培が可能な作物です。
また、低温に強い品種もあり、日本全国の幅広い地域で栽培されていますが、品質や収量に重大な影響を及ぼす白斑病という病害が広がりつつあることをご存じでしょうか。
この記事では、ホウレンソウ白斑病の特徴や防除方法を解説します。
ほうれん草の白斑病とは?
白斑病は一度発生すると防除が難しい病害なので、まずは、特徴や見分け方を解説します。
ほうれん草の白斑病は一部地域で深刻な被害をもたらしている
ホウレンソウ白斑病は日本国内では2000年に群馬県で初めて確認された比較的新しい病害です。
罹病すると、ほうれん草の葉に黄白色の斑点が生じ、病害の進行とともに斑点の数が増大・融合し商品価値を失います。
※ホウレンソウ白斑病の典型的な症状写真はこちらの資料を参照してください。
農林水産省 植物防疫所「植物防疫所病害虫情報 第107号」所収「最近話題となっている病害虫 ホウレンソウ白斑病(岩手県農業研究センター環境部病理昆虫研究室)」
gomasio / PIXTA(ピクスタ)
特に雨よけ栽培で5~11月ごろにかけて多発し、一度発生したほ場ではその後は毎年のように発生し、経営に大きな影響を及ぼすこともあります。発生が確認されている地域では、罹病株を見つけたら速やかに防除することが大切です。
2021年時点での被害は群馬県以外に北海道、青森県、岩手県で発生が確認されています。それ以外の都府県での発生は報告されていませんが、他の地域でホウレンソウ白斑病の発生が疑われる場合は、農業試験場や行政の農政部署などに相談しましょう。
ほうれん草の白斑病の特徴と見分け方
ホウレンソウ白斑病の病原菌は、ステムフィリウム(Stemphylium)属の細菌です。
初期の症状は葉身に生じる1~2mm程度の黄白色の小斑点で高温時の日焼け症状や農薬散布後の薬害症状とよく似ているため、初期段階での診断が難しいケースも少なくありません。
病勢が進行すると斑点の色が暗緑色~淡褐色に変わり、顕微鏡下では病斑上に特徴的な形の分生子が確認できるようになります。
さらに症状が悪化すると、病斑がそれぞれ融合して大きくなったり、斑点の中央部分に黒色のカビが生じて葉が破れたりするケースもあります。
ほうれん草の薬害
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
白菜やかぼちゃの白斑病とは別物
白斑病はほうれん草以外にも、アブラナ科やウリ科の作物で発生することがあります。ただし、発病の原因となる細菌は作物によって異なるため、防除法も違う点には注意しましょう。
例えば、ウリ科に属する「カボチャ白斑病」の病原菌は、プレクトスポリウム・タバシヌム(Plectosporium tabacinum)です。「ハクサイ白斑病の病原菌は、シュードサーコスポレラ・カプセラエ(Pseudocercosporella capsellae)でほかのアブラナ科作物にも寄生します。いずれもホウレンソウ白斑病を引き起こす細菌とは異なります。
ハクサイ白斑病 発病葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
現状ではホウレンソウ白斑病の病原菌のほうれん草以外への感染や発病は報告されていません。
ほうれん草の白斑病|防除方法
ほうれん草には多様な品種がありますが、残念ながらホウレンソウ白斑病に抵抗性を持った品種はまだ開発されていません。
ホウレンソウ白斑病の生態や伝染経路についてはまだ不明点もありますが、現時点で有効な防除方法を紹介します。
前作で多発したほ場には農薬散布が有効
ホウレンソウ白斑病に効果のある農薬として挙げられるのが、「アリエッティ水和剤」「アグロケア水和剤」「コサイド3000」の3つです。
岩手県農業研究センターの試験では、前年または前作でホウレンソウ白斑病が発生したほ場で、それらの農薬を播種7日後から7日間隔で3回程度散布すれば被害を軽減できるという結果が報告されています。
コサイド3000の散布は高温時において葉焼け症状、収穫間際では葉の汚れにつながって商品価値が低下する恐れもあるため、あくまでも初期防除として活用しましょう。
また、アリエッティ水和剤は農薬登録上、使用回数が「収穫前日まで2回以内」となっている点にも気を付けてください。
出典:岩手県農業研究センター「岩手県におけるホウレンソウ白斑病の発生とその防除」
耕種的防除
残念ながら、ホウレンソウ白斑病を予防する耕種的防除の体系は確立されていないのが実情です。また前述した通り、ほうれん草の主要品種のなかにホウレンソウ白斑病に抵抗性または強い耐病性を持つものはまだ開発されていません。
そのため、いかに次作へ発病の原因となる細菌を持ち越さないかが耕種的防除のポイントになります。
アメリカではホウレンソウ白斑病が種子伝染するという報告も上がっていることから罹病残さで細菌が生存し、次作の伝染源となる可能性が指摘されています。そのため、収穫後の残さは速やかにほ場外へ持ち出してしっかり処分しましょう。
トマト大好き / PIXTA(ピクスタ)
ホウレンソウ白斑病は、ほうれん草の商品価値を損ない、収益に大きな影響を与えます。発生を確認したら速やかに農薬散布し、収穫残さをしっかり除去しましょう。
国内での発生地域は限られていますが、未発生の地域でも発生が疑われたら、農業試験場などに確認してください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。