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近郊農業とは? 日本の都市部での出荷状況や今後の可能性を解説

近郊農業とは? 日本の都市部での出荷状況や今後の可能性を解説
出典 : trikehawks / PIXTA(ピクスタ)

都市近郊農業は小規模経営だと思われがちですが、栽培の効率化によって販売金額を伸ばす農家もみられます。農地そのものが防災空間・緑地空間として機能するなど、持続可能な循環型社会を構築していくうえでも近郊農業は重要な役割を果たします。この記事では、都市近郊農業の実態や農家・地域にもたらすメリットを紹介します。

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都市近郊農業には輸送コストの削減や鮮度の高い農作物を出荷できるメリットがあり、多様な担い手を確保できる可能性にも注目されています。まずは、都市近郊農業の考え方について解説します。

都市近郊農業とは?

都市 郊外

和尚 / PIXTA(ピクスタ)

都市近郊農業とは市場や大消費地に近い都市近郊で、野菜や花き類など消費者のニーズに合った農作物を生産する経営方法です。近郊農業または都市農業と呼ばれることもあり、地産地消の取り組みとしても注目されています。露地栽培だけでなく、農作物を通年出荷するために施設栽培を行う農家も少なくありません。近年では農作物の供給以外でも、農地そのものが緑地空間・防災空間などとして地域コミュニティに組み込まれ、都市農地の保全を求める意見も高まっています。消費者に近い目線で農業経営を進められるわけです。

都市近郊の範囲

都市近郊の範囲は、中心となる都市から1時間~1時間半ほどで行き来できるエリアをさし、特に首都圏・中部圏・近畿圏は三大都市圏といわれています。例えば東京23区を中心に考えると、茨城県牛久市・埼玉県所沢市・千葉県君津市・神奈川県小田原市までが都市近郊にあたり、広範囲にわたるのが特徴です。
なお、農林水産省の農業地域類型では、都市型地域を次のように定義しています。

・可住地に占めるDID(人口集中地区)面積が5%以上で、DID人口が2万人以上または人口密度500人以上の市区町村
・可住地に占める宅地等率が60%以上の市区町村

都市近郊農業の成り立ち

都市近郊農業の経営体数は全国の1割弱を占めており、都市の重要な産業としても位置づけられています。

高度経済成長に伴う宅地開発需要に対応するため、昭和43年に新都市計画法が制定されましたが、市街化区域内の農地は農業振興の施策から外されました。一方で、都市政策の一環として農地保全に取り組む自治体もみられました。

平成3年の生産緑地法の改正では、三大都市圏の特定市にある農地を「宅地化する農地」「保全する農地」に区分する制度が導入されました。保全する農地は生産緑地として指定され、最低30年以上の管理が義務づけられましたが、長期的な農業施策を実施できるようになったのです。

農産物を供給する機能を向上させるとともに良好な都市環境の形成をめざすため、平成27年に都市農業振興基本法が制定されました。さらに平成28年には都市農業振興基本計画が閣議決定され、都市部の保全する農地に対しても農業振興施策が講じられるよう方針が転換されました。

令和4年以降は生産緑地の指定が順次解除されるため、都市部の農家にとっては農地拡大のチャンスとなる可能性があります。

都市近郊農業の実態と課題

都市 水稲

keite.tokyo / PIXTA(ピクスタ)

全国的には農地の集約や法人化によって1経営体あたりの営農規模が拡大傾向にある一方、都市近郊農業では営農規模が小さめです。その中でも、作物の栽培方法などを工夫して年間販売金額が500万円以上の農家もみられます。都市近郊農業の実態や経営上の課題について解説します。

都市近郊農業の実態

令和元年時点での都市近郊農業の経営耕地面積は1経営体あたり平均66aで、全国平均の約2割にとどまります。地方都市では広い農地を確保しやすいですが、三大都市圏では宅地化が進んでいるため、まとまった農地を確保しにくいのが現状です。

都市近郊農業では経営体の55%が年間販売金額100万円未満で、中には販売金額ゼロの経営体もみられます。一方、施設栽培で野菜栽培を通年化したり年間の収穫回数を増やしたりすることで、経営体の17%が年間販売額500万円以上を実現しています。実際に、主要都市では全国平均に比べて野菜の農業産出額の割合が高いです。

出典:農林水産省「都市農業をめぐる情勢について(令和4年1月)」

都市近郊農業では兼業農家が多く、販売ルートも多様化しているのも特徴です。例えば東京都練馬区では、令和2年8月時点で区内の農家421戸のうち専業農家は5戸、第2種兼業農家(農業収入が全収入の49%以下)は398戸です。販売ルートも市場出荷にとどまらず、自宅販売・無人販売機や飲食店・医療福祉施設への直販など多岐にわたります。体験農園やマルシェ・朝市での販売事例もあり、地域コミュニティ内での販売実績が多いのが特徴です。

出典:練馬区農業委員会「農業経営実態調査による調査結果(令和3年6月)

都市近郊農業の課題

都市近郊農業の経営課題の一つとして、固定資産税や相続税の負担の重さがあげられています。特に三大都市圏の特定市では、生産緑地の指定を受けていないと農地の固定資産税が宅地並みに課税されるため、税額が大幅に高くなります。相続税についても納税猶予制度の対象外となり、20年農業を継続しても納税は免除されません。生産緑地では相続税の納税猶予が適用になるものの、生涯にわたって農業を続ける条件が設けられています。

なお、後継者の農業経営を引き継ぐ場合は、農機具など土地以外の事業用資産の贈与税・相続税の全額を納税猶予する制度が設けられています。令和5年度までに承継計画を税務署に提出する必要はありますが、市街化区域内の農家も対象です。持続的な農業経営をめざすために農業の承継を検討するのも、課題解決の1つの方法です。

都市近郊農業のメリット・役割

農作物 直売

yasu / PIXTA(ピクスタ)

都市近郊農業は農作物の供給だけでなく、地域の農業体験や交流活動の場としても注目されています。三大都市圏では、都市部の農地を残すべきと考える人が7割にのぼっています。都市近郊農業のメリットや、街づくり・地域コミュニティにおける農家の役割について解説します。

物流コストを抑え新鮮な農作物を供給できる

都市近郊農業では農作物を短時間で市場や納入先に輸送できるため、物流コストを削減できるだけでなく鮮度保持にもメリットを発揮します。

例えば、北海道・九州から首都圏までの野菜の輸送はトラックで20時間ほどかかります。鉄道や船舶も利用されていますが、輸送距離が長くなるほど運賃は高くなりがちです。都市近郊農業では消費地の中で農作物を生産するため、輸送時間が大幅に短縮されます。鮮度が高い状態で市場に入荷できるため、鮮度落ちによる卸値の下落や廃棄のリスクも軽減されます。物流コスト削減との相乗効果で、農家の収益も改善するでしょう。

生産地と消費地が近いため、農協や市場以外にも販路を拡大しやすいのも都市近郊農業の特徴です。ほ場・自宅や地域の直売所で農作物を販売する農家が多く、生産者の見える化や鮮度の高さから消費者にも支持されています。教育機関や幼稚園・保育園・医療福祉施設では地元産の食品を積極的に使用したいというニーズもあり、給食向けに直販する事例も増加傾向です。

農業体験や交流活動の場として地域貢献できる

都市近郊農業は農作物の供給にとどまらず、農家と消費者が交流する場としても機能しています。都市部の農家との交流が、地方でのアグリワーケーションやU・Iターンで就農するきっかけになる可能性もあり、地域貢献だけでなく地方の農業を発展させる効果も期待できます。

農業体験を希望する都市住民は多く、市民農園の開設数は増加傾向です。近年では、農業のプロからアドバイスを受けたいというニーズもあり、農業指導付きの市民農園も登場しています。高齢者や障害のある人が農作業を通じて地域との交流を図る福祉農園や、児童・生徒を受け入れて農業や食育への理解を図る学童農園を開設する事例もみられます。多様な人材の確保にもつなげることができ、後継者対策にも有効です。

農家と消費者が連携して持続的な農業経営をめざす、地域支援型農業(CSA)も注目されています。消費者が農家に1年分の農作物の代金を前払いする仕組みで、農家にとっては経営の安定につながるのがメリットです。消費者に対しても、交流のある農家から安心できる農作物を手に入れられるという付加価値を提供できます。

防災空間としても機能する

農作物を栽培しているとはいえ、農地は建物が密集する都市部にとって貴重な空き地です。災害時には緊急避難場所や給水場所・仮設住宅の建設用地としての役割を果たし、農作物の収穫期であれば食料の供給を視野に入れた対応も可能です。火災時の延焼を防いだり、洪水の被害を緩和したりする機能もあります。都市の安全を確保する機能に着目して、農家と自治体・農協が防災協力農地の協定を結ぶ動きが進められています。

緑地空間として地域住民に安らぎをもたらす

都市部の農地は、地域の緑地空間・水辺空間としても機能しています。建物が与える圧迫感を和らげ、住民に安らぎとうるおいをもたらしています。農地から広く周囲を見渡せるため、防犯効果も期待できるでしょう。国でも住環境の保全を重視しており、地域の需要に応じた住宅の供給を促進する一方で、農地の保全にも留意する考え方を示しています。生産緑地としての農地の存在が、宅地開発の秩序を保っている一面もみられます。

環境保全の一助となる

農地は市街地と比べて風通しが良く、気温もやや低くなるためヒートアイランド現象が緩和され、熱中症などによる住民の健康リスクの軽減効果も期待されています。地域としての冷房使用量も節減できるため、二酸化炭素の排出量の抑制効果も期待できます。また、農地では土壌が露出しており、大雨の際にほ場で雨水を一時的に蓄えて徐々に地下水として浸透させ、洪水を防止する効果もあります。農地は天候の急変に伴う影響を和らげ、住環境を守る一面も持っているのです。

都市 緑地

G-item / PIXTA(ピクスタ)

都市近郊農業では農家1戸あたりの経営規模は小さいものの、栽培方法の工夫や販売ルートの多角化などによって高収益を実現している農家もみられます。栽培場所が大消費地に近いため、物流コストの削減や高い鮮度を保持できるのもメリットです。

都市の農地を緑地空間・防災空間として街づくりに活かせる他、農業体験などを通じて地域コミュニティを活性化し、農作物の販売拡大につなげられる可能性も秘めています。さらに令和4年以降は、生産緑地の指定解除を希望する農家から農地を買い取り、営農規模を拡大できる可能性があります。都市近郊での農業経営も、農家の1つの形といえるでしょう。

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舟根大

舟根大

医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。

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