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きゅうり農家の収入は?作型別年収・労働時間の目安と、失敗しない経営例

きゅうり農家の収入は?作型別年収・労働時間の目安と、失敗しない経営例
出典 : hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

就農を志すとき、気になるのは年収でしょう。今回は「きゅうり農家」にフォーカスし、露地の夏秋きゅうりと施設の冬春きゅうりにわけて、平均的な収入と費用の構造をひもときます。また、大産地の経営モデルを紹介します。

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きゅうりには様々な作型がありますが、出荷時期によって、露地栽培が主の「夏秋きゅり」と施設栽培が主の「冬春きゅうり」に大別できます。この記事では、それぞれの収支構造と労働時間を統計データから解説します。

きゅうりの作型と「冬春きゅうり」「夏秋きゅうり」の関係

市場や統計では、12月~6月が収穫期のきゅうりを「冬春きゅうり」、7月~11月が収穫期のきゅうりを「夏秋きゅうり」と大別しています。

この区分ときゅうりの主な作型を重ね合わせると、冬春きゅうりの主な作型は、施設栽培の「半促成栽培」「促成栽培」と露地栽培の「トンネル早熟」であることがわかります。

また、夏秋きゅうりの主な作型は「露地栽培」「露地抑制栽培(温暖地)」と施設栽培の「ハウス抑制栽培」であることがわかります。

冬春・夏秋別に都道府県別収穫量ランキングをみると、産地と主な作型の関係がみえてきます。

冬春きゅうりの主な作型は、暖地・中間地の半促成・促成栽培とトンネル早栽培熟が中心、夏秋きゅうりの主な作型は、寒冷地から中間地の露地栽培と中間地から暖地のハウス抑制栽培といえるでしょう。

もちろん、年間通して市場に出回っているきゅうりの作型は、もっと多様です。きゅうりの産地では出荷時期をずらす工夫をしており、さまざまな作型バリエーションがあります。

施設の冬春きゅうり栽培(促成栽培)

tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)

冬春きゅうりの収穫量ランキング(2020年産)

収穫量構成比
宮崎県5万7,000 t20.10%
群馬県3万2,500 t11.50%
埼玉県3万 900 t10.90%
高知県2万3,900 t8.40%
千葉県1万9,500 t6.90%
茨城県1万4,500 t5.10%
愛知県1万 800 t3.80%
鹿児島県8,440 t3.00%
佐賀県8,160 t2.90%
福島県7,380 t2.60%
その他7万 20 t24.70%
全国計28万3,100 t100.00%

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和2年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

夏秋きゅうりの収穫量ランキング(2020年産)

収穫量構成比
福島県3万1,100 t12.10%
群馬県2万3,300 t9.10%
埼玉県1万5,200 t5.90%
北海道1万4,100 t5.50%
岩手県1万2,000 t4.70%
長野県1万1,800 t4.60%
茨城県1万1,000 t4.30%
山形県1万 700 t4.20%
千葉県8,200t3.20%
秋田県8,190t3.20%
その他11万 510 t43.20%
全国計25万6,100 t100.00%

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜) 確報 令和2年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

露地の夏秋きゅうり栽培

tamu1500 / PIXTA(ピクスタ)

きゅうり農家の年収は? 施設栽培のほうが高いが、所得率は露地栽培のほうが高い

農林水産省では2007年まで、「品目別経営統計」という調査を毎年実施していました。少し古いですが、品目別の収支がわかる統計がないので、このデータで、露地栽培の夏秋きゅうり、施設栽培の夏秋きゅうり(主にハウス抑制)、施設栽培の冬春きゅうりの収支を比べてみましょう。

きゅうりの作型別 主な経営指標(一戸当たり・2007年)

露地・夏秋施設・夏秋施設・冬春
作付面積15 a21 a24 a
10a当たり収量8,191 kg5,485 kg14,873 kg
粗収益264.9万円258.1万円798.7万円
経営費87.8万円104.3万円370.1万円
所得177.1万円153.8万円428.6万円
所得率66.90%59.60%53.70%
自営労働時間1,392時間1,465時間3,265時間
収穫期間3~4ヵ月3~4ヵ月8~9ヵ月

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり)」よりminorasu編集部作成

年収にあたる「農業所得」だけをみると、施設栽培の冬春きゅうりが最も高くなって有利にみえます。

しかし、所得率は、露地栽培の夏秋きゅうりより10%以上低く、また、収穫期間が長い分、自営労働時間が長くなっています。

施設栽培と露地栽培では、費用のかかり方が違う!

では、施設栽培は何に費用が多くかかっているのでしょうか。

きゅうり 作型別の費用構造の違い

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり)」よりminorasu編集部作成

費用構造を比べてみると、面積や収穫量・出荷量に連動して変わる、種苗費や肥料・農薬、栽培資材、包装・荷造り費用などは、同程度の割合です。(変動費)

しかし、施設栽培は、ほぼ固定でかかる費用(人件費や光熱動力、農機や施設の減価償却など)の割合が高く(固定費)、その分、所得率が低くなっていることがわかります。

施設栽培の冬春きゅうりは、施設の減価償却やその施設を動かし環境を維持する光熱動力費の負担が大きいので、一定以上の売上(粗収益)が確保できないと、赤字になるリスクがあります。

一方、露地栽培の夏秋きゅうりは、簡易な施設で始められるので固定費はあまりかからず、小規模でも利益をだしやすいといえます。

しかし、夏秋きゅうりは「旬」野菜であり、相場の影響を受けて売上(粗収益)が想定より大きく下がるリスクを抱えています。

年間労働時間は露地栽培のほうが短い。1時間当たりの収量は施設栽培のほうが高い

最初に触れたように、自営労働時間は、収穫期間が長い分、施設栽培の冬春きゅうりが一番長くなっています。さきほどは1戸当たりの数値でしたが、10a当たりでみても、施設栽培の冬春きゅうりの労働時間は、露地栽培の夏秋きゅうりの約1.8倍です。

では、収穫量 1t に対してはどうでしょうか。収穫量 1t のために要する時間を計算すると、施設栽培の冬春きゅうりは、露地栽培の夏秋きゅうりの約8割ですんでいます。

すなわち、同じ面積で同じ労働時間をかけるなら、施設栽培の冬春きゅうりのほうが、収量が高いということです。環境制御装置の導入などで単収をあげる努力が各産地でされている結果といえるでしょう。

きゅうりの作型別 10a当たりの自営労働時間(2007年)

露地・夏秋施設・夏秋施設・冬春
収穫期間3~4ヵ月3~4ヵ月8~9ヵ月
10a当たりの
収量
8,223 kg5,485 kg14,871 kg
10a当たりの
自営労働時間
932時間713時間1,374時間
1t 当たりの
自営労働時間
113時間130時間92時間
1時間あたりの
収量
8.8 kg7.7 kg10.8 kg

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸当たり)」よりminorasu編集部作成

きゅうりの露地栽培と施設栽培、どう選ぶかはあなた次第

ここまでの内容をまとめると、露地栽培を選ぶか、施設栽培を選ぶか、両方で周年栽培するかは、志す農業の姿で決まってくるといえそうです。

経営の特徴:露地栽培の夏秋きゅうり
収穫期間が限られており、年間労働時間は短い
年収は大きくなりにくいが、所得率は高い
軽い設備投資で始められ、営農開始後の固定費の負担は小さい
損益分岐点が低く、小規模でも利益をだしやすい
市場出荷の場合は相場が下がると赤字になるリスクがある

経営の特徴:施設栽培の冬春きゅうり
収穫期間が長く、年間労働時間は長い
露地栽培より高い年収を期待できる
設備投資に資金が必要で、営農開始後の固定費の負担は大きい
従って、損益分岐点が高く、黒字化には規模が必要
規模に応じた目標収量にとどかないと赤字になるリスクがある

施設栽培と露地栽培のどちらが儲かるとは一言ではいえません。実際には、施設栽培と露地栽培を組み合わせて周年出荷することもできますし、夏秋きゅうりにしぼって、ほかの作物と複合経営する場合もあります。

軽い設備投資で限られた期間に集中して出荷するのがよいか、設備投資は重くても長期どりで安定して出荷するるのがよいか、きゅうり農家としてどう稼ぐかを、自身の用意できる農地や資金、調達できる労働力と見合わせて検討する必要があります。

より高い収益を上げるには? 夏秋きゅうり・冬春きゅうり、それぞれの経営モデル

前項までの分析をみると、露地栽培で、より利益を上げるには、まず面積当たりの収量をあげること、そして、市場出荷以外の販売単価が変動しにくい販路を開拓したり、栽培の工夫で出荷時期を少しずらすといった工夫が必要になるでしょう。

一方、施設栽培で、より利益を上げるには、大規模化して全体の収量をあげるとともに、環境制御システムを導入し、1時間当たり・面積当たりの収量をあげ、それにかかるコストを出来る限り下げることが考えられます。

この項では、夏秋きゅうり、冬春きゅうり、それぞれの大産地の経営モデルを紹介します。

夏秋きゅうりの単収をアップしていく、福島県の経営モデル

福島県 夏秋きゅうりの栽培、出荷

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

福島県では、就農支援情報サイト「ふくのうー福島県で農業しよう!」で、夏秋きゅうりの雨よけ長期どり栽培の経営モデルを公表しています。

作型は、3月中旬 播種、4月上旬 定植、5月下旬~11月中旬 収獲、作付面積は20aのモデルです。

露地栽培ですが、雨よけなのでパイプハウスとその付帯設備(井戸や配管、電気工事)が必要で、軽トラックや動力噴霧器、畝立て機などあわせて、1,090万円の設備投資を想定しています。(トラクターは賃借)

単収ごとの収支を示しており、平均的な単収 10a当たり 10,000kgで農業所得は179万円、14,000kgまで上げられれば、同じ20aでも、351万円になることがわかります。

福島県の雨よけ長期どり 夏秋きゅうりの経営モデル

出典:福島県 就農支援情報サイト「ふくのうー福島県で農業しよう!」「代表作物の経営指標|きゅうり」よりminorasu編集部作成

さらに「将来の目標」として、作付面積を40aまで増やし、人を雇い入れて、単収 15,000kgの場合を示しています。その場合、粗収益1,800万円、農業所得 700万円となっています。

出典:福島県 就農支援情報サイト「ふくのうー福島県で農業しよう!」「代表作物の経営指標|きゅうり」

施設栽培のステップアップをめざす、佐賀県 JA伊万里の経営モデル

きゅうり 無加温ハウス栽培

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

施設栽培の冬春きゅうりの経営モデルとして、佐賀県のJA伊万里(伊万里市農業協同組合)の例を紹介します。

この経営モデルでは、きゅうり部会「胡青会」で技術の研修などで栽培技術を身に着け、「空きハウスを借りての無加温ハウス栽培」→「加温ハウスでの周年栽培」→「環境制御装置を導入したハウス栽培」とステップアップしていくことをを想定しています。

JA伊万里 施設栽培きゅうり 経営モデル

出典:農林水産省「普及事業ホームページ|普及活動事例|協同農業普及事業の成果事例(令和3年度)」所収「佐賀県 キュウリの栽培技術支援と経営の安定」よりminorasu編集部作成

この経営モデルは、佐賀県が、2018年度~2020年度の普及活動の重点プロジェクトとして、JA伊万里と協力して取り組み、モデル農家の経営分析を詳細に行ったうえで導き出されています。

目標として、JA佐賀のきゅうり部会「胡青会」20戸の農家のうち、5戸が所得400円万以上を達成し、所得が10%以上アップする農家が3戸以上になることをめざしました。

実際に、所得400万円以上の農家は4戸でしたが、2020年は11戸に増えました。また、もともと、所得400万円以上だった農家も粗収益が伸び、3戸が10%以上のアップとなったとのことです。

出典:農林水産省「普及事業ホームページ|普及活動事例|協同農業普及事業の成果事例(令和3年度)」所収「佐賀県 キュウリの栽培技術支援と経営の安定」

きゅうり 大型ハウス栽培

kaka / PIXTA(ピクスタ)

きゅうりには、様々な作型があり、周年出荷されています。収穫期間が短く所得率が高い、露地の夏秋きゅうりで集約的に稼ぐか、設備投資は重いけれど高い単収・高い所得をめざして、冬春きゅうりを中心にするかは、個々の農家がどのような農業の姿をめざすかによって変わってくといえるでしょう。

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姫路弥由

姫路弥由

ビジネス、金融、不動産、ライフスタイル等、幅広いメディアにライターとして携わる。現在も月20本前後のライティングと、電子書籍の執筆を担当。調理師免許を保有していることから、食材についての関心が高く、農業分野にも執筆の幅を広げて活動しています。

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