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【きゅうりの仕立て方】収益を最大化する整枝・誘引方法

【きゅうりの仕立て方】収益を最大化する整枝・誘引方法
出典 : TAK067 / PIXTA(ピクスタ)

きゅうり栽培の主流は、長らく「摘芯栽培」でしたが、現在は高度な技術を必要としない「つる下ろし栽培」「更新つる下ろし栽培」が普及し、より効率的な新しい仕立て方も導入されつつあります。この記事では、それぞれのメリット・デメリット、適した品種を紹介します。

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これまで、きゅうりの仕立て(整枝・誘引)の主流は、長い間「摘芯栽培」でした。しかし、摘芯栽培には、熟練の技が必要なことや、収量は確保できるものの秀品率はさほど高くないといった課題があります。そこで高度な技術が要らず、収量・品質を確保できるほかの方法を検討している方もいるのではないでしょうか。

この記事では摘芯栽培の課題を解決する方法として普及している「つる下ろし栽培」「更新つる下ろし栽培」、より効率のよい栽培方法として注目を集めている「つり上げ栽培」と「育苗時摘心2本誘引仕立て法」について紹介します。

きゅうりの仕立て方は主に3種類

きゅうりの仕立て方は主に3種類

きゅうりの仕立て方は、地域や農家個々によって様々ですが、現在の主流は「摘芯栽培」「つる下ろし栽培」「更新つる下ろし栽培」の3種類です。

収量・品質・作業性を高めるためには、作型や品種に応じた仕立て方を選ぶ必要があります。

作型によって適した仕立て方は異なり、どの仕立て方が優れているかを一概にいうことはできません。また「抑制栽培の場合は雌花着生率が高く、側枝発生が緩やかな品種を選ぶ」など、状況に応じた品種の選定を行うことも仕立て方を考えるうえで大切なポイントです。

どの仕立て方を選ぶべきか、それぞれの特徴やメリット・デメリット、適した作型・品種などを具体的に解説します。

きゅうりの慣行仕立て法「摘芯栽培」

定植後、誘引したばかりのきゅうり

kaka / PIXTA(ピクスタ)

摘芯栽培とは、生長点である芽の先端を適当な場所で摘み取ることで、多くの果実を収穫する栽培方法です。

摘芯栽培の整枝・誘引方法

具体的には20節程度を目安に親づるを摘芯して、そこから発生する子づるや孫づるを2節程度で摘芯し、枝数を3本程度に半放任・放任します。主枝1本仕立てで多くの側枝を発生させることで、節数および収量を確保するのが特徴です。

枝数を多く残し過ぎて、徒長や光線不足などにならないようにしなければなりません。樹勢に応じてそれぞれの枝の摘芯を行い、適切な摘葉を行う必要があります。

きゅうり摘芯栽培のメリット・デメリット

摘芯栽培では節間を短くして枝ぶりをコンパクトにすることで、消耗が少なくなるうえにそれぞれの株に日光が届きやすくなります。また、節間の短い枝には葉や花芽が多くつくため同化養分による生産が多くなり、収量が増える可能性があります。

摘芯栽培にはこうしたメリットがあることから、特に1960年代後半から日本のきゅうり栽培の主流になっています。一方で摘芯栽培には熟練したスキルを求められるため、作業負担が大きくなるというデメリットがあります。

節間の目安はあるものの、実際にどの時点で摘芯するかは草勢を見て判断する必要があります。そのため、経営者などの経験豊富な人に負担が集中するケースが多く、従業員や家族などそのほかの人に作業を頼みにくいことが課題となっています。

また、作業負担の大きさに比して秀品率がそれほど高くないのも問題で、特に栽培期間後半で品質低下がよく見られます。収量はそれなりに確保できますが、花芽の位置がバラバラなので収穫時期を見逃してしまう果実も少なくありません。

摘芯栽培に適したきゅうりの品種と作型

収量が増えるメリットを持つ摘芯栽培ですが、長崎県立農業大学校が「まりん」と「ワントップ」の2つの品種を比較したところ、品種の違いによる収量への影響は見られませんでした。

また、熊本県農業研究センターが実施した摘芯栽培とつる下ろし栽培を比べた試験によると、作型が雨よけ栽培の場合は、収量と品質において摘芯栽培が安定的という結果が出ています。

出典:
長崎県立農業大学校「キュウリの仕立て方の違いが生育および収量・品質に及ぼす影響」
熊本県農業研究センター研究報告 第18号所収「施設キュウリ栽培の作業を単純化できる整枝方法」

初心者も取り組みやすい「つる下ろし栽培」

誘引ピンチを使って整枝されたきゅうり

誘引ピンチを使って整枝されたきゅうり
リョウ / PIXTA(ピクスタ)

つる下ろし栽培とは、簡単にいうと「特定の子づるだけを伸ばしていく栽培方法」です。摘芯栽培のように、孫づるを伸ばす必要はありません。

つる下ろし栽培の整枝・誘引方法

具体的には、親づるの6~10節にある子づるを4本だけ生長させ、そこから発生する孫づるは全て摘芯した上で収穫します。

親づるは20節程度で摘芯を行い、そのほかの子づるは1節だけ伸ばして果実を収穫したら切り戻し、親づるから伸びたすべての節の収穫後は親づるも含めて不要な部分を摘除します。

上に向かって伸びていく子づるはある程度の高さまで生長したらフックを外して下ろし、花芽の位置が肩の高さになる程度に調整して横に伸ばします。再度つり下げたときに地面に着いてしまう葉があればすべて摘葉して問題ありません。

栽培期間にもよりますが、伸ばした子づるは最大で10メートル程度まで伸びるので、畝の端まで到達したら株を巻くように逆方向に移動させます。

きゅうりつる下ろし栽培のメリット・デメリット

つる下ろし栽培の大きなメリットは、「知識や経験を必要とせず、誰でも作業ができる」ことです。伸ばす側枝を限定するため生長点がわかりやすく、家族や従業員とも作業を分担しやすくなっています。

また、つり下げる花芽を肩の位置にすれば、ひざの高さに果実が実るため収穫しやすくなり、見逃しによるロスも発生しにくいのが特徴です。収量増と側枝の草勢維持による秀品率の高さもあり、農業所得の向上が期待できます。

一方、デメリットは「つる下ろし作業が必要になる」ことです。管理だけを考えると摘芯栽培より合計の作業時間は長くなる傾向にあります。

また、短期多収の摘芯栽培に対し、つる下ろし栽培は初期収量が低いため、栽培期間が短い場合は総収量が低くなる可能性があります。

ほかにも低位葉が接地することによって病害を誘発する可能性があることや、残渣量が多いことも考慮しなければなりません。

ただし、作業分担の調整が容易であることや、秀品率に対する作業時間で見れば省力化されるケースが多いことから、慣行の摘芯栽培よりも効率のよい栽培方法として普及しつつあります。

つる下ろし栽培に適したきゅうりの品種と作型

各節に連続して雌花が咲き、各節ごとに着果する「節成り性」の品種は、集約的な栽培が可能なことから、つる下ろし栽培に適しています。

また、熊本県農業研究センターが実施した摘芯栽培とつる下ろし栽培を比べた試験によると、抑制・半促成の場合は、収量・秀品率・作業の省力化といった面でいずれもつる下ろし栽培のほうが優れているという結果が出ています。

出典:熊本県農業研究センター研究報告 第18号所収「施設キュウリ栽培の作業を単純化できる整枝方法」

注目を集める新仕立て法「更新つる下ろし栽培」

きゅうり ハウス

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

促成栽培の管理方法として注目を集めているのが、更新つる下ろし栽培です。数節伸びた生長点を摘芯し、一番上の脇芽を成長点として誘因・更新する仕立て方法です。

更新つる下ろし栽培の整枝・誘引方法

具体的には、主枝の12節程度を目安に摘芯し、子づるは親づるの5〜7節と10~12節のところから計4本を伸ばしてつる下ろします。

つる下ろしと摘芯を繰り返しながら収穫を行い、さらに孫づる・ひ孫づる・玄孫づる、と更新を繰り返すのが特徴です。栽培終了時には20回程度の更新数が見込まれます。

なお、つる下ろしの本数については、熊本県で4本仕立てと6本仕立てによる比較検証が行われました。

収量では、6本仕立区が10a当り9.4、4本仕立区が10a当り9.8tという結果で大きな差は見られません。一方、生育初期における10a当りの労働時間は、4本仕立区が50.3時間/人、6本仕立区は33.3時間/人と、6本仕立区の方が短い結果となりました。

そのため、6本仕立ての方が優れているという検証結果が示されました。一方で4本仕立ては側枝の揃いがよく、厳寒期の草勢維持につながることも想定されています。

出典:天草広域本部農林水産部農業普及・振興課 運営「アグリくまもと」内「促成きゅうりの栽培管理方法について」

きゅうり更新つる下ろし栽培のメリット・デメリット

更新つる下ろし栽培は、摘芯栽培と比較して管理作業が単純なため、新規就農者でも取り組みやすいことがメリットです。

また、収獲位置が一定のため作業の効率化が図りやすいことと、つるを下ろしながら伸長させることで枝にかかる負担が少なくなり、秀品率が高くなることも利点に挙げられます。

一方、つる下ろし作業は1~2週間に1度のペースで行う必要があります。収穫量が多い時期は作業が間に合わなくなる可能性があり、草勢が強く脇芽の発生が早い品種に限られる点がデメリットとして考えられます。

更新つる下ろし栽培に適したきゅうりの品種と作型

更新つる下ろし栽培に適したきゅうりの品種としては、「ニーナZ」や「まりん」などが導入されています。埼玉原種育成会のハウス用品種「ニーナZ」「まりん」は、ともにうどんこ病・褐斑病・べと病の複合耐病性を有していることが特徴です。

「ニーナZ」の適作型はハウス全般(促成・半促成・雨よけ・抑制・越冬)で、なおかつ周年栽培が可能です。分枝性が良く草勢バランスも終始安定しており、秀品多収の品種となっています。

「まりん」は「ニーナZ」よりやや作型が限られ、寒い時期の抑制栽培、越冬栽培には適しません。そのほかの作型(半促成・無加温・雨よけ・抑制・晩抑)では、枝がほどよく発生するのが特徴です。「まりん」も「ニーナZ」同様に草勢バランスが安定していて、秀品多収となります。

出典:
天草広域本部農林水産部農業普及・振興課 運営「アグリくまもと」内「促成きゅうりの栽培管理方法について」
埼玉原種育成会「ニーナZ」所収「ニーナZの完全更新つる下し栽培」
埼玉原種育成会「まりん」

収量アップ・省力化を目指すきゅうりの仕立て方

きゅうりの収穫作業

きゅうりの収穫作業
kaka / PIXTA(ピクスタ)

ここまで慣行の摘芯栽培やつる下ろし栽培・更新つる下ろし栽培について、それぞれのメリット・デメリットや適した品種などを紹介してきました。

摘芯栽培の問題点を解決できる栽培方法としてつる下ろし栽培に注目が集まっていますが、ほかにも収量アップや省力化をめざした新しい栽培方法がいくつか考案されています。

ここからは、より効率的な栽培方法として期待されている「つり上げ栽培(子づるつり上げ整枝法)」と「育苗時摘心2本誘引仕立て法」の2つを紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

つり上げ栽培(子づるつり上げ整枝法)

つり上げ栽培は、「摘芯栽培とつり下げ栽培の両方の課題を解決できる栽培方法」です。具体的には、主枝の下段(7~10節)にある側枝1~2本をつり上げ、主枝と同じ高さで摘芯し、そのほかの側枝は摘芯栽培と同じように1節程度で摘芯します。

側枝を横にはわせていく労力がかからないため、つり下げ栽培の課題である「作業時間の長さ」を摘芯栽培と同程度まで短くできると見込まれています。

また、つり上げ栽培では秀品率が向上するうえ、摘芯栽培の課題となる栽培期間後半の品質低下が起きにくいとされているのもメリットです。

注意点としては、摘芯栽培に比べて枝の本数が多くなるので、特に上部で過繁茂になりやすい点が挙げられます。この場合、摘芯や摘葉を適宜行うほか、つり上げる側枝を1本にすることで解決できる場合があります。

出典:
農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター「AgriKnowledge」所収群馬県農業技術センター研究報告 8号「施設キュウリ栽培における子づるつり上げ整枝法」
農研機構「平成22年度「関東東海北陸農業」研究成果情報」所収「施設栽培におけるキュウリの子づるつり上げ整枝法」

育苗時摘心2本誘引仕立て法

育苗時摘心2本誘引仕立て法とは、慣行の摘芯栽培とほぼ同じ収量を得つつ、栽培管理の省力化・単純化を図ることができる方法です。育苗中の3.5葉期に主枝を3節で摘芯し、定植後は主茎の2節または3節で発生した側枝2本を誘引して生長させます。

育苗時摘心2本誘引仕立て法のメリットは、つる下ろし栽培に比べて「収穫時期がやや早くなり、初期収量が増加する」という点が挙げられます。

また、育苗期に主枝を摘芯するため、定植後の管理は誘引する側枝のみでよくなることから、管理・収穫作業時間の大幅な省力化につながります。

この栽培方法を試した高知県農業技術センターによると、特に初期収量が増加する結果が出ています。

出典:研機構西日本農業研究センター1999年度(平成11年度)四国農業研究成果情報「ハウスキュウリにおける育苗時摘芯2本誘引仕立て法」(高知県農業技術センター)


この記事ではきゅうりの主な仕立て方として、従来の摘芯栽培のほか、普及しつつあるつる下ろし栽培・更新つるおろし栽培、より効率的な新手法について、それぞれメリット・デメリットを紹介しました。現在扱っている品種・作型と照らし合わせ、収量アップや秀品率向上のベストな方法を模索してみてはいかがでしょうか。

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中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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