土壌分析はなぜ必要か? メリットや診断方法、項目の見方を解説
「今までと同じように栽培しているはずなのに、なぜか生育が悪い」という場合は、土壌に問題があるのかもしれません。今回は作物の生育によい環境を整えるために必要な、土壌分析について、専門機関に依頼する場合の方法を掘り下げて解説します。
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作物の生育には土壌の養分バランスが大切です。前作の影響を考慮した施肥や土壌改良資材の投入を考えるのが基本ですが、投入量の判断に迷うこともあるでしょう。そんなときには土壌分析を行って、客観的な数値を把握することをお勧めします。
この記事では土壌分析が必要な理由からメリットおよび診断方法まで幅広く解説していくので、土作りに悩んでいる方は参考にしてください。
土壌分析の目的とメリット
土壌分析を行うことで土壌の状態を客観的な数値で把握できるようになります。それによってもたらされるメリットは大きく、JAや自治体なども定期的な土壌診断を勧めるようになってきました。
まずは土壌分析の目的とメリットをしっかり理解しておきましょう。
施肥量の最適化と品質・収量向上
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土壌分析を行う目的の1つは土壌の養分状態を把握することで施肥量の最適化を図り、作物の品質や収量の向上につなげることです。
土壌養分の必要量は作物によって異なる上、前作や気候などの影響で毎年のように変化します。
土壌分析を実施して養分バランスを把握し、投入量を調整すれば収量の安定化につながるのはもちろん、過剰な施肥を避けることでコストの低減にも貢献するでしょう。
また、複数のほ場で同じ作物を栽培すると、ほ場ごとの品質や収量にバラつきが出てしまうことがあります。
そうしたときは各ほ場で土壌分析を行って結果を比較すれば、「なぜ品質や収量にバラつきが出るか」の原因を突き止めることもできます。土壌分析をすることでほ場ごとの土壌養分を一定に保ちやすくなり、品質の平準化にも貢献するはずです。
栽培で問題が発生したときの課題発見
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作物の生育に養分は欠かせませんが、多いと肥料やけが発生し、少ないと生育不良を起こします。
生育状況を見ながら施肥量を調整しているつもりでも、長年栽培を続けることで徐々に土壌の養分バランスが崩れ、問題が発生するケースは珍しくありません。特に栽培の効率化を重視し、連作の繰り返しや施設での促成栽培を行うと、土壌の養分バランスが偏る傾向にあります。
前作の施肥量や土壌の様子だけで土中にどの程度養分が含まれているかを確認することは難しいこともあります。
土中に含まれる養分を数値で示してくれる土壌分析を活用すれば、「何が足りないか」または「何が多すぎるか」を客観的に把握できるので、施肥量の調整が容易になります。
また、定期的な土壌分析を行うことによって、栽培で問題が発生したときの原因の早期発見や栽培トラブルの予防につながります。
土壌分析の方法
土壌中のpHやEC(電気伝導度)など個別の項目については簡易キットで個人が調べることもできますが、定期的かつ総合的な土壌分析を望む場合は専門的な機関に依頼するのが基本です。
専門機関に依頼すると費用が高くなりがちなので、「どうやって検査するのか」や「何がわかるのか」を知りたい方もいらっしゃるでしょう。そこで、ここからは土壌分析の具体的な依頼方法について解説します。
検査する土壌の採取方法
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土壌分析で正確な診断を受けるには、適切な土壌採取(サンプリング)が重要です。サンプリングで心掛けたいのは、ほ場の複数地点で均一にバランスよく土壌を採取することです。
採取方法にはいくつかの種類がありますが、一般的にはほ場を対角線で結び、その線上の土壌をバランスよく採取する方法が実施されています。
採取した土壌は混和後に1週間程度乾燥させ、土を細かく砕く調整を行ってから検査機関に提出するというフローが一般的です。
土壌分析の検査項目
土壌分析の方法には化学性診断・物理性診断・生物性(微生物)診断という3つの種類があり、依頼する機関によってどの分析方法に対応しているかは異なります。それぞれで検査する項目も異なるので、土壌分析の検査項目の詳細についても知っておきましょう。
化学性診断
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化学性診断は土壌の性質や養分含有量、塩基バランスなどを調べる最もポピュラーな診断方法です。施肥量の参考になる数値も多いことから、土壌分析といえば化学性診断をイメージする人も多いでしょう。
具体的な検査項目は依頼する機関によって異なりますが、土壌の酸性度を調べるpHや塩類濃度の指標であるEC、作物の生育に深くかかわる交換性カリウムおよび有効態リン酸などが挙げられます。また、オプションで陽イオン交換容量(CEC)や微量要素などを調べてもらえることもあります。
物理性診断
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物理性診断は土壌の状態が根に適した環境であるかどうかを判断する分析方法です。具体的には、作土の厚さや気相・液相・固相といった三相のバランス、土壌の硬さなどを調べます。
化学性診断に比べるとあまり認知度は高くありませんが、土壌に問題が発生しているほ場にどれだけ施肥で養分を調整しても根本的な問題は解決しないことから、分析結果はとても重要です。
人間の病気に例えると、化学性診断による施肥量の調整が「薬による病気の治療」であるのに対し、物理性診断は「そもそも病気をしないような生活習慣の見直し」にあたるイメージです。
土壌分析を依頼するときは化学性診断だけでなく、物理性診断の申し込みも検討しましょう。
生物性(微生物)診断
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まだ画一的な分析方法は確立されていないものの、近年注目を高めつつあるのが生物性(微生物)診断です。具体的には土壌に含まれる菌類などの微生物の種類や量を調べることによって、病害虫のリスクを診断します。
例えば、根に無数のコブができて養分の吸収を阻害するネコブセンチュウ類や、病徴が進むと枯死にいたる青枯れ病菌の密度などを調べることが可能です。
ただし、診断には専門的な技術が必要になることから、検査できる機関は限られるようです。
キュウリのネコブセンチュウ被害根
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
土壌分析結果の見方と活用方法
分析結果がどのような形で示されるかは依頼する機関によって異なりますが、その多くは表形式やレーダーチャートを用いて視覚的にわかりやすく整理されています。そのため、初めて土壌分析を依頼する人でも分析結果の見方がわからなくて困ることはないでしょう。
例えば、JAの土壌分析結果はpHやEC、交換性カリなどが表で示され、適正範囲内であるかどうかが一目でわかるように工夫されています。また、2回目以降の分析では前回の結果も表示されているため、以前と比べてどの程度土壌が改善したかを判断しやすくなっている点もメリットです。
どの機関へ依頼するにしても、当該地域の土壌診断基準値との比較や診断コメントから塩基バランスやpHなどを考慮し、目標値に近付くように施肥量の過不足を調整するのが土壌分析の基本的な活用方法になります。中には、分析結果をもとに施肥設計まで提示してくれるサービスもあるので、必要に応じて利用してみるとよいでしょう。
土壌分析を依頼できる機関と料金
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ここからは「土壌分析の有用性は理解できたものの、どこへ依頼すればいいかわからない」という方のために、土壌分析を受け付けている代表的な機関を2つ紹介します。
JA全農
JA全農はJA全農全国土壌分析センターにて、化学性診断の土壌分析を受け付けています。
組合員なら最寄りのJAに問い合わせれば利用できるので、気軽に申し込んでみましょう。また、組合員以外の方でも、JA全農全国土壌分析センターへメールで問い合わせれば利用できる場合があります。
診断できる項目はpHやEC、可給態リン酸(有効態リン酸)、交換性カリなどです。一般的な土壌分析で診断される項目は網羅されているうえ、組合員には分析結果に加えて土壌を改良するのに必要な施肥量の目安となる処方箋も作成してくれます。
費用は8,900円(以下、税抜き)かかりますが、普段からJAを利用している人なら、土壌分析後に営農指導員と相談しながら土作りに励める点は大きなメリットです。
また、土壌だけでなく、堆肥(15,000円)や水耕培養液(原水:9,000円)も診断してくれるので、気になる方は問い合わせてみましょう。
みらい蔵(みらいぞう)
「株式会社 みらい蔵」は化学性診断だけでなく、物理性診断まで行っています。
費用は化学性分析のみなら5,500円(以下、税込)、化学性分析と物理性分析の両方を依頼する場合は7,700円です。
また、施肥設計を自分で行う自信がない方に向けて「ソイルマン」というサービスも提供しています。
ソイルマンは土壌の化学性と物理性の両方を改善する施肥設計を提案してくれるサービスで、インターネット接続可能なパソコンやスマートフォンなどがあれば、ほ場からでも閲覧できるのがメリットです。
利用にあたっては土壌分析とは別に費用がかかりますが、興味がある方はチェックしてみてください。
自分で行う簡易的な土壌分析も組み合わせるのがおすすめ
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専門的な分析に沿ったアドバイスをもらえるのは、土壌分析を機関に依頼する大きなメリットです。しかし、機関に依頼するには費用がかかり、サンプルを送ってから結果が出るまでに時間もかかります。そのため、頻繁に依頼するのはあまり現実的ではありません。
そこで、専門機関への依頼は数ヶ月置きにし、その間は自分で実施できる簡易的な土壌分析を行い、結果を両方みて施肥などの判断をするのもおすすめです。
市販されている土壌分析キットのなかにはpHや硝酸態窒素だけでなく、アンモニア態窒素、有効態リン酸、石灰、 苦土などを自分で検査できるものもあります。商品によっては数千円台から購入可能で、機関に依頼するより安くすむ場合がある点もメリットです。
機関に依頼する土壌分析と自らが行う簡易的な土壌分析のそれぞれのメリットを組み合わせながら、上手に使い分けましょう。
※土壌pHの測定方法についてはこちらの記事をご覧ください。
土壌分析を行ってほ場状態をしっかり把握することで、作物の生育に最適な土作りにつなげられます。その結果、高品質・多収量の実現に近づき、農業所得向上に貢献することが期待できます。
まずは、お近くのJAなど、土壌分析を行っている機関に相談して情報収集することから始めてみてはいかがでしょうか。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。