肥沃な土地の条件とは? 地力を知ることで叶える効果的な土作りと減肥
日本では、気候や地形の影響を受けてさまざまな土壌が分布している一方、農業生産力を阻害する土壌も多いといわれています。作物の増収を実現するためには、土壌の肥沃度を把握して効果的な土作りに取り組むことが重要です。この記事では日本の土壌の特徴や肥沃な土地の条件、土壌診断の最新技術を紹介します。
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肥沃な土地とは、作物を生産するために必要な水・酸素と養分を供給する力が高い土壌を持つ土地のことです。「地力の高い土地」と呼ばれることもあります。土壌がどのような要素で構成されているか、そして肥沃な土壌はどのような特徴を持っているのかを解説します。
肥沃な土壌の条件とは?
土壌の化学性・物理性・生物性の3つの要素がバランスよく整っていることが、肥沃な土壌と呼ばれる条件です。ほ場の環境や栽培する作物の種類によって、適正な土壌条件は変化します。化学性・物理性・生物性それぞれの特徴を紹介します。
化学性
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土壌の化学性とは、作物の生育や土壌微生物の活動に必要な養分を保持して、適切に供給する機能です。土壌pHをはじめ、陽イオン・陰イオンの組成や交換容量、土壌の酸化還元性などの特性を総称しています。
肥料・養分の吸着力・緩衝作用が高く過不足が生じにくいことや、土壌pHが作物ごとの適正範囲内に保たれていることも化学性の中に含まれます。
物理性
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土壌の物理性とは、水はけや保水性・通気性といった土壌そのものが持つ機能です。土壌の厚みや柔らかさも物理性に含まれます。
土壌の密度は根や作物の生育はもちろん、ほ場での作業効率にも影響します。水はけが良ければ通気性も良いといえますが、農業機械の走行などの人為的な要因で土壌の物理性が変化する可能性もあります。
生物性
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土壌の生物性とは有機物の分解や細菌の増殖といった、土壌内の動物・微生物の働きによってもたらされる機能です。有機物の分解には土壌内の微生物構成だけでなく、化学性・物理性も関連しています。
窒素の形態変化や酸化還元など、土壌が果たす最も重要な役割を担っています。一方、作物に養分を供給する性質と、病害により作物の生育を阻害する性質の両方を持ち合わせているのも特徴です。
土壌を構成する3つの要素
土壌は、無機物である鉱物と有機物である生物・腐植が混ざり合って構成されています。土壌のすき間は、水分や空気で埋められています。鉱物・生物・腐植それぞれの機能や役割について解説します。
鉱物
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鉱物とは岩石の構成要素である無機質の固体で、一次鉱物と二次鉱物に分類されます。英語ではミネラルと呼ばれ、作物・家畜の生理活性にかかわる窒素・炭素・水素・酸素以外の物質です。
粒径が20μ(0.02mm)以上の粗砂・細砂が一次鉱物、0.2μ以下の細粘土が二次鉱物という判定も可能です。また、粒径20~0.2μのシルト・細粘土には一次鉱物と二次鉱物が混在しています。
一次鉱物は、大気や水・熱などの作用で岩石が崩壊して細粒化された鉱物で、石英や長石類・雲母類・磁鉄鋼などが代表的です。物理的な作用で形状が変化しているため、化学組成や結晶構造は細粒化される前の岩石と変わりません。
カリウムやマグネシウムといった、植物や生物が正常な生活機能を営むために必須な元素の供給源として機能しています。
二次鉱物は、砂やシルトの成分が炭酸ガスを含む酸性の水にさらされ、酸化・分解などの化学変化によって新たに生成された鉱物です。層状粘土鉱物をはじめ酸化・水酸化鉱物やリン酸塩・硫酸塩鉱物などで構成されています。
中でも粘土は、アルミニウムとケイ素が溶け出してできた物質です。そのため、二次鉱物を粘土鉱物と呼ぶこともあります。
生物
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土壌を構成する生物は、土壌微生物と土壌動物に分類されます。有機物として、絶えず土壌内に供給されているのが特徴です。
土壌微生物は、有機物の分解や窒素固定・脱窒作用など農業上重要な作用を担っています。細菌(バクテリア)や放線菌・糸状菌(かび)・藻類が1gの土壌に8~40億ほど存在するといわれており、土壌動物よりもはるかに多い量となっています。
肥沃な土壌でも荒野でも大差ない量の微生物が存在しており、環境の変化に速やかに順応しながら土壌を作り出しています。
土壌動物も物質の循環や植物遺体の分解に関与しています。ミミズ・ダンゴムシなどの大型動物やダニ・線虫・クマムシといった中型動物、アメーバなどの微小動物に分類されています。
摂食・排泄・運動を通じて土壌微生物に影響を与え、前述した肥沃な土壌となる条件(物理性・化学性・生物性)を生み出しているのです。
腐植
出典:帯広畜産大学「有機物の分類と役割とは?:腐植物質も土の化学性や物理性に大きく影響」、タキイ種苗株式会社「2018 タキイ最前線 春種特集号 最近よく耳にする腐植酸について教えてください」よりminorasu編集部作成
腐植とは、動植物の遺体が分解される途中で土壌にとどまった高分子化合物で、団粒の形成に必要不可欠な成分です。団粒は、土壌の粒子が陽イオンや粘土鉱物(二次鉱物)・有機物などの働きによって結合して形成されます。
団粒構造ができることで、土壌の通気性や透水性といった物理性が良好になり、根の伸長を助ける役割を果たします。
化学性の面では腐植の分解によって、窒素・リン・カリウム・マグネシウムなど作物の生育に欠かせない成分を放出します。養分の保持能力は粘土の数十倍といわれているほか、水素イオンの吸収・放出によって土壌pHを安定化させているのが特徴です。
また、腐植に含まれるキレート化合物が土壌内の活性アルミニウムと結合し、リン酸の肥効を高めるとともに重金属を可溶化して養分の有効化を促進します。
さらに、生物性の面では土壌動物や微生物に栄養源・エネルギー源を供給して、窒素固定菌をはじめとする有用生物の増殖を助けています。
つまり、腐植は肥沃な土壌づくりに欠かせない要素なのです。
日本の土壌の種類と特徴
日本の気候は温暖多雨で四季の変化もはっきりしているため、多様な植生が育まれています。加えて、降雨による岩石・火山噴出物の浸食や地形の影響によってさまざまな土壌が生成されているのが特徴です。日本の土壌の主な種類や特徴について解説します。
黒ボク土
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黒ボク土とは腐植の集積によって生成された、火山噴出物に由来する土壌です。北海道や東北・関東・九州に広く分布しており、分布面積は国土面積の約31%に当たります。また、黒ボク土の約50%が畑地として利用されています。
黒ボク土は容積重が低いため透水性・保水性が良く、養分の供給が持続的しやすいのが特徴です。
一方、黒ボク土に含まれる火山ガラスから放出されるアルミニウムの量によっては、強酸性の土壌になる可能性があります。また、リン酸の吸着力が高いため、施肥設計に当ってはリン酸の欠乏を防ぐ工夫が重要です。
褐色森林土
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褐色森林土とは、ブナ林・ナラ林などの森林帯の下で発達しており、有機物の含有量が少ない土壌です。全国の山地・丘陵地に広く分布しており、北海道・東北地方では洪積台地にも分布しています。
分布面積は国土面積の約30%に当たり、普通畑や果樹園地として利用されています。
褐色森林土は温暖湿潤気候下で生成され、母材が非石灰質なので土壌pHが4~6と低めです。塩基飽和度も低いため、粘土や鉄の移動・集積は不明確といわれています。近年では山地・丘陵地の開発が進んでいる関係で、褐色森林土が減少する傾向も見られます。
黄色土
黄色土とは、赤黄色土のうち鉱質土層(B層)が黄色みを帯びている土壌です。本州の中位・高位段丘や西南日本・南西諸島に広く分布しており、分布面積は国土面積の約10%に当ります。多くは水田として利用されますが、普通畑や果樹園地としても利用されています。
黄色土は赤色土と同様に有機物の蓄積が少なく、塩基溶脱作用を受けているため、土壌pHは4.5~5.5と低めです。粘土の含有量・密度が多いので透水性・保水力が低く、多雨・乾燥時には収量低下を招く懸念もあります。
土壌の肥沃度を高めるためには、土壌pHの矯正や有機物の補給・排水対策が必須です。
灰色低地土
灰色低地土とは、地下水の上昇や灌漑水によって土層が水で飽和された結果、還元状態になって灰色に変色した土壌です。
河川の周辺をはじめ、扇状地や海岸・河岸・谷底平野などに広く分布しており、分布面積は国土面積の約14%に当ります。河川氾濫により堆積した土砂などが母材のため、土壌の肥沃度が高いのが特徴です。
灰色低地土は低地土の一種で、主に水田として利用されています。地下水の影響で発達した膜状の斑鉄層が、地表下50cm以内の部分に現われます。透水性がやや悪いので、水田の転作の際には排水対策が必要です。
土壌診断の方法と最新技術
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従来の土壌診断では土壌に含まれる水分・養分が作物ごとに適正かどうかを測定して、土壌管理や肥培管理につなげることが主な目的でした。土壌診断の一環として、ほ場の特徴や肥培管理に関する課題などのインタビューが行なわれる場合もあります。
土壌pHや可給態リン酸の割合といった化学性は明らかになる反面、有機物の状態など土壌の生物性の確認は困難でした。土壌診断で推奨肥料や目安の施肥量を提案してくれるものの、肥沃な土壌づくりは農家の経験に頼らざるを得ないという課題もありました。
土壌の生物性を見える化して、客観的な指標をもとに肥沃な土壌づくりにつなげるために開発されたのが「SOFIX(Soil Fertile Index)」という技術です。
SOFIXは立命館大学生命科学部の久保幹教授らによって開発された土壌診断技術で、「土壌肥沃度指標」と呼ばれています。
SOFIXでは土壌中の生物の活性に着目し、総細菌数や窒素循環活性・リン循環活性などによって土壌の生物性・化学性・物理性を総合的に評価します。
測定項目に対する相対的な位置や不適正な値が出た場合の原因も示されるので、現状の課題を把握した上で土壌改善に取り組めるのが特徴です。
SOFIX農業推進機構「田畑の土壌診断と土作りをサポート」
AI解析による土壌管理システムで地力を最大化
BASF Agricultural Solutions YoutTube公式チャンネル「【xarvioくんの解説 長編】xarvio(ザルビオ)フィールドマネージャー」
近年ではスマート農業を導入する農家が増加傾向で、リモートセンシングでほ場の地力を見える化するシステムも多数登場しています。
「xarvio® FIELD MANAGER(ザルビオ フィールドマネージャー)」は、ほ場ごとの土壌・作物の特性や人工衛星からの画像・10日先までの気象予報などをAIで解析する栽培管理支援システムです。
BASF Digital Farming GmbH(ドイツ・BASFデジタルファーミング社)の製品で、日本国内ではJA全農と協働でサービスを展開しています。2021年4月時点では水稲・大豆を対象にサービスが提供されており、対象作物の追加も予定されています。
AI解析された地力ムラ・生育ムラをマップ上で確認して、追肥の可否や追肥量をきめ細かく判断できるのが特徴です。作物の生育や病害リスクの分析にも対応しており、最適な防除時期・収穫時期も提案してくれます。対応する農機による、農薬・肥料の可変散布も可能です。
将来的には全農が開発・運営する営農管理システム「Z-GIS」との連携も予定されており、ほ場の状態を効率的に把握して地力の最大化につなげられるでしょう。
肥沃な土壌は鉱物や微生物・生物の作用によって構成されます。化学性・物理性・生物性のバランスが取れていれば、作物の生育に必要な養分が適切に供給され、水分や土壌pHも適正に保たれます。
近年では土壌分析によって土壌の肥沃度をデータ化して、施肥管理や土壌改善に活用できるシステムも登場しています。土壌分析の結果を踏まえて、肥沃度の高い土壌に改善していくことが増収のポイントです。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。