みかん栽培における炭疽病対策。効果的な防除方法や有効な農薬を解説
みかんの炭疽病は、果実の傷や日焼け部位から病原菌が侵入することで発生します。潜伏期間が長く、収穫後の貯蔵中にも発病するため注意が必要です。病害による収量低下を防ぐには、土壌の乾燥防止や農薬散布など、防除の徹底が重要です。この記事では、みかんに炭疽病が発生する原因や効果的な防除方法・有効な農薬について解説します。
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みかん栽培で炭疽病を防ぐには、発症する部位や時期について理解しておくことが大切です。まずは、炭疽病の概要や発生原因・多発時期について解説します。
柑橘類 炭疽病 長径8mmの円形病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
極早生や早生温州みかんに被害をもたらす炭疽病とは?
「炭疽病(たんそびょう)」は、みかんをはじめとする柑橘類や梨・桃などの果樹、野菜類や花き類・観葉植物など、多くの植物で発生する病害です。果実や作物だけでなく葉にも発病することから、さび果病・葉枯病と呼ばれることもあります。
病原菌はGlomerella属またはColletotrichum属のいずれかに属する糸状菌(カビ)で、人体に深刻な影響を及ぼす炭疽病菌(細菌)とは異なります。
9~11月に収穫される極早生温州みかんや早生温州みかんでは、果実の日焼けした部分や傷が付いた部分に病原菌が侵入することで発病します。
1~5月頃に収穫される甘夏やハッサク、ブンタンといった中晩柑では果実の表面全体に病原菌が付着して、収穫後も病斑が拡大し続けるのが特徴です。また、葉に病原菌が感染すると病斑が生じて変色・落葉します。
柑橘類 炭疽病の発病葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
炭疽病の発生原因と症状、多発時期
炭疽病は9~10月の降雨時に、枯枝で作られた胞子がみかんの果実や葉に付着することで感染します。病原菌は健全な果実に付着している場合があり、収穫時に発病していなかったとしても、出荷中に発病する場合があるので注意が必要です。
炭疽病の円形病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
果実の成熟期である8~9月に曇天・雨天による日照不足が続くと果皮が軟弱な状態になり、天候の回復後に直射日光が当たった部位に日焼けが生じます。また、果実の日焼けが多発する傾向があるのは、土壌の水分が足りないほ場や細根量が少ない果樹です。
こうして日焼けで傷んだ果皮から病原菌が侵入すると、果実に黒褐色の円形病斑を形成します。病斑が拡大するにつれて果実の腐敗が進み、最終的には落果に至るのです。
炭疽病 病斑は周囲が明瞭な黒褐色
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
日焼けが生じなかった場合でも、果皮に傷が付くと炭疽病に感染する恐れがあります。一方、8~9月の日照時間が長ければ、日焼けに伴い果皮が黄化するものの、炭疽病が発病するケースは少ないでしょう。
また、病原菌の潜伏期間は長いため、収穫時点で発病していなくても選果時や輸送中に生じた傷が原因で炭疽病が発病して、貯蔵中に周囲の果実に被害を及ぼす懸念もあります。
中晩柑の果実では1月頃から褐色~赤褐色の斑点が発生しますが、感染がひどい場合には病斑が涙斑状・泥塊状になる場合もあります。果実にサーモンピンク色の胞子の塊ができたり果皮がコルク化したりするなど、炭疽病は症状が多岐にわたるのが特徴です。
炭疽病の防除対策
toraya / PIXTA(ピクスタ)
炭疽病は栽培中だけでなく収穫後にも感染する場合があるため、幼果期から収穫直前まで、計画的に農薬を利用することで防除効果を期待できます。
乾燥防止や有機質の補給といった土壌管理も、果実の日焼けを防ぐために有効です。果実の日焼け防止などの耕種的防除や農薬を利用した防除対策を紹介します。
耕種的防除方法
炭疽病の感染リスクを下げるためには、果皮を強化するとともに土壌を改善して、日焼けする果実を減らすことが大切です。
7月下旬から8月下旬にかけて、25~50倍に希釈した「ホワイトコート」(炭酸カルシウム水和剤)を葉面に散布することで果皮の組織が強化され、日焼けの軽減効果が高まります。果皮と果肉が分離する浮皮の発生も抑制でき、輸送中・貯蔵中の腐敗も防止できます。
遅くとも収穫の1ヵ月前までにはホワイトコートの散布を済ませるようにしましょう。炭疽病の伝染源となる枯枝を発生させないように、定期的に剪定・整枝を行うことも効果的です。
マルチ栽培によって水分ストレスを適正に与えると、果樹全体が少ない水分状態に対応できるようになります。
※土壌の養水分をマルチとドリップ灌水によってコントロールするマルドリ方式栽培についてはこちらの記事をご覧ください。
また、有機物を施用することで細根が増えやすくなります。養分・水分の吸収が促進されて、品質向上や果皮組織の強化につながります。注意点として、土壌が酸性化すると発根しにくくなるので、毎年石灰を施用するようにしましょう。
みかんの炭疽病防除で利用できる農薬
みかんの炭疽病を防除するために、幼果期の段階から計画的な農薬の活用も検討しましょう。農薬を使用する際は、ラベルに記載された使用方法を十分に確認し、不明な点はメーカーや普及指導センターなどに問い合わせるなどして適切に使用してください。
【幼果期から果実肥大期にかけて利用できる農薬】
「デランフロアブル」
「デランフロアブル」は、耐性菌が発生しにくく、散布後の耐雨性にも優れているのが特徴です。炭疽病が感染しやすい時期に合わせて、30日程度の散布間隔を取ったうえで予防的に散布します。夏期以降に散布すると、果皮に薬害が発生する恐れがあるので注意してください。
有効成分:ジチアノン42.0%
散布時期:収穫30日前まで
散布回数:3回以内
「ジマンダイセン水和剤」
「ジマンダイセン水和剤」は、胞子の発芽を抑制することで、安定した防除効果を発揮し、農薬への薬剤耐性が発達しにくいのが特徴です。黄斑病・黒点病の同時防除やチャノキイロアザミウマなどの害虫防除にも利用できます。同じ果樹にボルドー液を用いる場合は薬害を防ぐため、7日以上の間隔を開けるようにしてください。
有効成分:マンゼブ80.0%
散布時期:収穫30日前まで
散布回数:4回以内
「オキシンドー水和剤80」
「オキシンドー水和剤80」は、炭疽病だけでなく、黄斑病や黒点病・そうか病の防除にも効果を発揮するのが特徴です。胞子の発芽を抑制する効果があるため、予防的に散布するようにします。
有効成分:有機銅80.0%
散布時期:収穫30日前まで
散布回数:5回以内
【収穫前に利用できる農薬】
「ベンレート水和剤」
「ベンレート水和剤」は、果実の老化を防いだり、果皮の細かな傷を修復したりする作用を持つのが特徴です。低い濃度で利用できますが、耐性菌が出始めているので、「ベフラン液剤25」と混用して、黒腐病などの貯蔵病害と合わせて防除すると効果的です。
有効成分:ベノミル50.0%
散布時期:収穫前日まで
散布回数:4回以内
「ベフトップジンフロアブル」
「ベフトップジンフロアブル」は、炭疽病をはじめ、青かび病・白かび病など、幅広く貯蔵病害の防除を行えるのが特徴です。柑橘の施設栽培にも利用できますが、着色終了前に利用すると着色むらが生じる恐れがあるので注意してください。
有効成分:イミノクタジン酢酸塩15.7%・チオファネートメチル26.2%
散布時期:収穫7日前まで
散布回数:3回以内
藤 / PIXTA(ピクスタ)
みかんの炭疽病は、日焼けで果皮が弱った部分から病原菌が侵入することで発病します。表皮を強化し、日焼けによる被害を防ぐためには、葉面に炭酸カルシウムを散布したり、土壌の水分を適正に管理したりすることが重要です。
炭疽病の感染源となる枯枝の除去や、貯蔵中の腐敗対策として農薬散布することも防除効果を発揮します。耕種的防除と農薬による防除を組み合わせて、収量低下を防ぎましょう。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。