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宮崎県の農業の特徴と現状は? 移住や就農・営農を支援する“独自制度”を大調査

宮崎県の農業の特徴と現状は? 移住や就農・営農を支援する“独自制度”を大調査
出典 : namio / PIXTA(ピクスタ)

新規就農を希望する人にとって、どこで就農するかは大きな問題です。希望する作物に適した土地であることはもちろんですが、行政や地域が移住者に協力的で、助成などがあれば理想的です。この記事では、農業振興が盛んな宮崎県の農業関連情報を解説しています。

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宮崎県は、全国的にも知名度の高い多くのブランド農産物を持ち、スマート農業など新しい技術を積極的に取り入れながら、行政と農家・農業団体が協力して農業を振興しています。その具体的な取り組み内容と実績を、宮崎県の農業全体の特徴とともに「宮崎農業」として紹介します。

温暖な気候を活かす、「日本のひなた」宮崎県の農業

宮崎県 快晴の都井岬

kazukiatuko / PIXTA(ピクスタ)

九州地方の東部に位置する宮崎県は「日本のひなた」と称するほど日照時間や快晴日数が多く、平均気温も高い温暖な気候に恵まれています。

宮崎県では独自に「ひなた指数」という指標を用いており、これは平均気温、日照時間、快晴日数をもとに算出するものですが、宮崎県はひなた指数で日本一となっています。

県内は山岳地帯が多く76%を森林が占め、農地は9%でその多くは火山性特殊土壌という特徴があります。

県では、積極的に一次産業の振興政策を推進しています。1994年に「みやざきブランド確立戦略構想」を策定して以降、「作ったものを売る」から「売れるものを作る」農畜産業へシフトチェンジし、品質やイメージの向上を図ってきました。

宮崎県では「日本のひなた宮崎県」サイト を立ち上げ、農業と食・観光・移住などの魅力をアピールしている

宮崎県では「日本のひなた宮崎県」サイト を立ち上げ、農業と食・観光・移住などの魅力をアピールしている
出典:宮崎県「日本のひなた宮崎県」サイト

農業においては、温暖な気候を活かした施設園芸を中心に産地づくりに取り組んでいます。その結果、マンゴーやきんかんなどの果樹、ピーマン、きゅうりなどの果菜類を中心に全国トップクラスの収量を上げ、品質も向上して多くの宮崎県ブランドが生まれました。

現在では海外への輸出も積極的に進めており、香港やシンガポールなど、アジアを中心に輸出が拡大しています。北米やヨーロッパに向け新たな販路拡大を図るとともに、輸出に対応した世界基準の産地づくりにも取り組んでおり、輸出額は増加傾向を継続中です。

農業の技術面でも「スマート農業実証プロジェクト」などを実施してスマート農業の普及を図っています。

また、県とJAが共同で経営コンサルティングなどを行う「農業経営支援センター」を中心として農家経営支援システムを構築し、県内の農業人材の育成に取り組んでいます。

このように、宮崎県では農業を取り巻く環境の変化にも柔軟に対応しながら、未来を見据えた農業振興が行われています。

出典:農林水産省「都道府県の農林水産業の概要(令和2年版)」所収「宮崎県の農林水産業の概要」

宮崎県の主要農産物 茶・日向夏・金柑・マンゴー

AYA / PIXTA(ピクスタ)・ララ / PIXTA(ピクスタ)・DREAMNIKON / PIXTA(ピクスタ)・mitch23 / PIXTA(ピクスタ)

データで見る“宮崎農業”の特徴と現状

次に、県内の農業生産の現状について、データをもとに見てみましょう。

農業産出額は全国5位! 生産量上位の品目も多い宮崎県

農林水産省の「令和元年 農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)」によると、宮崎県の農業産出額は3,396億円で全国第5位となっています。

部門別の構成割合を見ると、そのうちの65%は、ブランド牛である「宮崎牛」をはじめとした肉用牛、ブロイラー、豚などの畜産が占め、野菜、米、果実などの耕種は34.1%と全体の3分の1ほどになります。

出典:農林水産省「令和元年 農業産出額及び生産農業所得(都道府県別)

宮崎県の農業では畜産が盛んではありますが、耕種も負けてはいません。県内農産物の品質を上げて「宮崎産」農産物が消費者に選ばれるように、「みやざきブランド推進本部」を置いて農業者や農業団体と力を合わせながらブランド戦略に取り組んでいます。

「みやざきブランド」の1つ、栄養機能食品表示の「みやざきビタミンピーマン」

「みやざきブランド」の1つ、栄養機能食品表示の「みやざきビタミンピーマン」
出典:株式会社PR TIMES(宮崎県 ニュースリリース 2017年12月13日)

果菜類ではビタミンCを多く含んだ「みやざきビタミンピーマン」、厳選したきゅうりを収穫しながらきれいに箱詰めしてそのままお店に届くので、箱を開くまで人の手が触れるのは1回だけという「ワンタッチきゅうり」などがあります。

完熟マンゴー「太陽のタマゴ」はふるさと納税でも人気がある

完熟マンゴー「太陽のタマゴ」はふるさと納税でも人気がある
出典:株式会社PR TIMES(こゆ財団 ニュースリリース 2021年10月20日)

果樹では全国的に知名度を上げた完熟マンゴー「太陽のタマゴ」、同じく全国的に人気の「日向夏」や甘い大玉きんかん「たまたま」など、多くのブランドが生まれています。

「みやざきブランド」の1つ、糖度が高く生で食べられる「完熟きんかんたまたま」

「みやざきブランド」の1つ、糖度が高く生で食べられる「完熟きんかんたまたま」
出典:株式会社PR TIMES(JA全農の産直通販JAタウン ニュースリリース 2021年12月29日)

みやざきブランドの活躍もあり、宮崎県産の農産物は、きゅうり、ピーマンや果樹など多くの品目で毎年全国トップクラスの収量を上げています。

特に県内の都城市は、肉用牛・豚の畜産を中心に、茶や、サツマイモ(甘藷)やゴボウ、里芋、ラッキョウなどの土もの野菜、きゅうりなどの生産が盛んで全国の市町村別農業産出額は2019年の1位に輝きました。

出典:都城市「都城の農業を紹介します」

都城市のサツマイモ(甘藷)ほ場

こたろう / PIXTA(ピクスタ)

一方、耕地面積や農家数の減少は問題点の1つ

前出の出典を見る限りは、2013年の宮崎県の農業産出額は3,213億円で、最新の2019年まで微増・微減を繰り返しており、それほど変化はありません。

ところが、2020年の「農業センサス調査結果」を2015年のものと比較して農業経営体数を見ると、10ha以上の耕地面積を持つ大規模経営体の数は増加しているものの、全体の農業経営体数や耕地面積は減少を続けていることがわかります。

これまで積極的に農業の魅力を発信し続けてきた宮崎県であっても、農業の人材確保はほかの都道府県と同様に重要な課題といえます。

出典:宮崎県「農林業センサス」
 「2020年農林業センサス結果(確定値)」
 「2015年農林業センサス結果(確定値)」

農業の課題や不安を制度で克服! 宮崎県独自の支援策一覧

宮崎県では、すでに問題点の解消や課題の解決に向け、研修や補助金など多くの取り組みを行っています。その一部を紹介します。

その1. 「お試し就農」で就農希望者と農業法人をマッチング

宮崎県では担い手問題の対策として、県内にある農業法人や認定農業者などの大規模経営体が安定的に雇用確保できるように、関係機関・団体などとともに「農の雇用・労力支援推進協議会」を設置しました。

そして、「みやざき援農」として派遣型の就農研修「お試し就農」を実施しています。この制度は、就農を志すお試し就農参加希望者を募り、一方で県内の受け入れ法人を募集してお互いのマッチングを行い、研修先を決めます。

お試し期間は最大3ヵ月で、1ヵ所の農業法人で最低1ヵ月お試し就農すれば、研修先を変更することもできます。UIJターン者であれば最大6ヵ月間、お試し就農ができます。

お試し就農後は、引き続きその農業法人で正社員として就農することも可能です。就農希望者にとっては農業の現場で実際に農作業に携われるだけでなく、就農先として吟味できるというメリットがあります。

農業法人にとっては研修という形で労働力を確保できるうえ、そのまま就職につながれば安定した人材確保になるというメリットがあります。

お試し就農のこれまでの実績は、例年45人前後の就農希望者が25~35法人で研修を受け、うち20人前後が正式雇用につながっています。また、未経験の人であっても、毎年研修を受けてから数名が自営就農しています。

2020年実績では、それまでの倍近い90人が51法人で研修を受け、51人もの人が正式雇用されました。

出典:宮崎県「農の雇用・労力支援推進協議会」運営「みやざき援農」ホームぺージ内「お試し就農」

その2. 農家・就農希望者双方のニーズを満たす「短期就労」&「援農隊」

同じく農の雇用・労力支援推進協議会が行っている「短期就労」は、文字通り短期間だけ農業に携わる仕事がしたい人と、繁忙期などの一定期間だけ人を雇いたい農家をマッチングする制度です。

ダブルワークやアルバイトとして短期間だけ働きたい人や、農家として独立する前に実際の仕事を少しだけ体験したい新規就農希望者などのニーズを満たすことが期待されます。

定植や収穫など一時的に人手が必要となる時期に、地域の人材を集結し「援農隊」として労働力の確保が困難な地域の農作業を手伝う制度もあります。まずは農作業というものを少しだけ体験してみたいという人は、気軽に利用するとよいでしょう。

その3. 効率的な情報収集を支援! 充実の「就農者向け研修施設」や「就農フェア」

宮崎県ではきゅうりやピーマンなど特産の野菜を中心に、品目別の技術研修が受けられる研修施設が県内に複数あります。施設の一覧が「みやざき援農」のホームページ内にあり、市町村・取扱品目で研修先を選べます。

宮崎県「農の雇用・労力支援推進協議会」運営「みやざき援農」ホームぺージ内「宮崎県内の研修施設」

年に数回、都内で新規就農希望者向けの就農フェアも開催されています。こちらもみやざき援農のホームページに情報が掲載されます。

宮崎県「農の雇用・労力支援推進協議会」運営「みやざき援農」ホームぺージ内「就農フェア」

2019年 宮崎県は、株式会社マイナビと共同で宮崎県での就農に興味のある人を対象にしたイベントを実施。このほかにも大都市圏で就農フェアなどを積極的に展開している。

2019年 宮崎県は、株式会社マイナビと共同で宮崎県での就農に興味のある人を対象にしたイベントを実施。このほかにも大都市圏で就農フェアなどを積極的に展開している。
出典:株式会社PR TIMES(株式会社マイナビ ニュースリリース 2019年11月14日 )

その4. 宮崎県への移住を後押しする、独自の支援金制度も

最後に、宮崎県へ移住し、県内で農林漁業への就業や事業継承をしたり、選定企業に就職したりする場合に支払われる「宮崎県移住支援金制度」について紹介します。

支援金を受けるための具体的な要件は、事業を実施する市町村によって異なりますが、大まかには次の通りです。

転入前の10年間のうち、宮崎県外に通算5年間通勤・在住していた
宮崎県内に移住し住民票を移す
宮崎県内で農林漁業や医療福祉事業に就業、または対象の企業の求人に応募・就職、または事業継承など、定められた就業をする


これらの条件を満たす場合、申請を行って適格となれば単身者には60万円、2人以上の世帯には100万円が支給されます。

出典:
宮崎県「移住促進」ページ
宮崎県移住ポータルサイト「あったか宮崎ひなた暮らし」内「宮崎県移住支援金制度」

2022年3月の「日本のひなた宮崎フェス」では、「宮崎県の移住支援策」もプレゼンされた

2022年3月の「日本のひなた宮崎フェス」では、「宮崎県の移住支援策」もプレゼンされた
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(宮崎県 大阪事務所 ニュースリリース 2022年3月4日)

県内全体で農業を振興したり、新しい制度や技術を積極的に取り入れたりと、さまざまな支援をしている宮崎県は、新規就農や将来的な農業法人の起業を志す人にとっては理想的といえるでしょう。

温暖な土地で宮崎県が生み出したブランド農産物を育てながら、「ひなた暮らし」をしてみてはいかがでしょうか。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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