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斑点細菌病の原因や防除方法は? トマトの病害対策と適用農薬を詳細解説

斑点細菌病の原因や防除方法は? トマトの病害対策と適用農薬を詳細解説
出典 : ykokamoto / PIXTA(ピクスタ)

トマト栽培に当たって注意すべき病害は多数あります。中でも、細菌を病原とする斑点細菌病は発症してしまうと防除が非常に困難で、被害が広がって収量の大幅な減少につながることもあります。正しい予防法や発症した場合の対処方法を知り、早めの防除を心掛けましょう。

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斑点細菌病を防除するためには、播種前から適切な防除対策を取ることが必要です。そこで、この記事では斑点細菌病にスポットを当て、発生の原因や発生しやすい条件や症状の特徴、よく似た症状の病害などを詳しく説明するとともに、有効な農薬などの防除対策を紹介します。

トマトの品質を下げる病害「斑点細菌病」とは?

斑点細菌病は、きゅうりやナス、カボチャ、ピーマン、トマトなどの果菜類をはじめ、多くの野菜類や花きに見られる病害です。それぞれ症状などが異なるので、トマトに発症する斑点細菌症の特徴を的確に把握して、予防や早期発見に役立てましょう。

まずは原因と主な症状、発生しやすい条件について説明します。

斑点細菌病の原因と主な症状

斑点細菌病が進展すると葉が枯れる(ミニトマト)

斑点細菌病が進展すると葉が枯れる(ミニトマト)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

斑点細菌病の病原は、名前が示す通り細菌(バクテリア)で、学名を「ザントモナス ペシカトリア」といいます。この細菌が前年に罹病した植物の残さとともに土壌中、または種子の表面で生存していることが、第一次感染源になると考えられています。

土壌中で生存している病原細菌は降雨や灌水時の泥はねなどによって、トマトの茎葉に付着します。やがて増殖した細菌が気孔・水孔などの開口部や、害虫の食害痕などから内部に侵入して感染するのです。

アブラムシ類やアザミウマ類が繁殖している場合、吸汁の食害痕が侵入口となるため注意しましょう。

斑点細菌病は若葉に発生しやすく、はじめは葉の表面に暗褐色で水浸状の小斑が発生し、周囲が淡黄色になります。小斑は次第に拡大して黒っぽくややへこんだ病斑になり、やがて葉全体が枯死したり、葉の生 長が止まって奇形となったりします。

斑点細菌病 葉表病斑(ミニトマト)

斑点細菌病 葉表病斑(ミニトマト)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

茎に発生すると、はじめは葉と同様の小斑点が発生しますが、やがて少し出っ張った黄白色のかさぶた状になります。果実に発生した場合は、まず白く縁取られた水浸状の小斑点が発生し、やがて拡大して黒っぽくなり、病斑の中心部がかさぶた状に隆起します。

斑点細菌病 葉裏及び茎病斑(ミニトマト)

斑点細菌病 葉裏及び茎病斑(ミニトマト)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

罹病した株からは、水滴を介して細菌が周囲に移動し、徐々に感染が広がります。そのため、降雨が数日続くなど、株が長時間濡れたままになるときは急激に感染拡大することもあり、注意が必要です。

いずれの場合も、多発すると生育が衰えて果実の肥大が悪くなります。さらに、果実に生じた病斑は収穫後も残るため、商品価値が低下し、大幅な収量減につながります。

発生しやすい時期・条件

降雨後のトマト

Tommy & Tammy / PIXTA(ピクスタ)

病原細菌が活発に繁殖・生育する適温は20〜25℃と、比較的冷涼です。また、病原細菌の伝搬には十分な水分が必要なことから、多湿や多雨の条件下で発生が増えます。梅雨が長引くとこれらの条件を満たすことになり、多発する傾向があります。

施設栽培では、晩秋から早春にかけての時期に、多湿になると発生しやすくなります。また、露地の場合、特に抑制栽培においてこれらの条件が揃いやすく、さらに雨に打たれると細菌が飛散して被害が拡大するため、注意が必要です。

気温や湿度以外の発生条件としては、管理作業中に茎や葉を傷つけたり、雨天が続き葉が長い間濡れている状態で芽かきなどをしたりすると、傷口から病原菌が侵入し感染します。なるべく傷を付けないよう慎重に管理作業をしましょう。

また、窒素肥料の過剰施肥によって株が軟弱になると、発症が助長されます。そのため、適切な施肥の管理も重要です。

トマトの「斑点細菌病」と「黒斑細菌病」の見分け方

斑点細菌病と同じく、多湿環境下で発生するよく似た病害にトマトの「黒斑細菌病」があります。葉に水浸状で黒褐色の小斑を生じ、周囲が黄色っぽくなるといった症状がよく似ています。茎や幼果の萼(がく)にも、同様の暗褐色の小斑が発生します。

黒斑細菌病の病原は「シュードモナス ビリディフラバ」という細菌で、伝染経路には不明な点が多いものの、罹病植物の残さからの伝染や種子伝染をする可能性があるといわれています。この点でも斑点細菌病と同じです。

さらに、黒斑細菌病の発生が多い時期は施設栽培で12〜翌年5月、露地栽培では5〜6月で、温度や湿度などの条件も斑点細菌病とほぼ一致します。

しかし、よく観察すると小斑の発生の仕方が斑点細菌病と異なり、この違いが両者を見分けるポイントとなります。黒斑細菌病の場合は小班が葉の縁に沿って生じることや、葉柄に発生すると縦の陥没した条斑になります。これらの点を注意深く確認しましょう。

なお、キャベツや大根などのアブラナ科野菜全般に発生する黒斑細菌病もあり、これは病原細菌の種類が異なります。防除方法や農薬を混同しないように気を付けましょう。

ほかに、トマトに発生する「斑点病」も、ほぼ同じ条件でよく似た小班を発生する病害です。こちらは糸状菌(かび)を病原としています。はじめに若葉ではなく下位葉に発生する点や、症状が進行すると葉に生じた病斑の中心部に穴が開く点で斑点細菌病と異なり、見分けられます。

斑点細菌病からトマトを守る! 効果的な5つの防除対策

斑点細菌病の防除の基本は、予防と早期発見・早期防除です。具体的な5つの対策を紹介します。

1.無病種子もしくは消毒済みの種子を用いる

トマトの自家育苗 ポットへの鉢上げ後

akira / PIXTA(ピクスタ)

斑点細菌病は種子伝染する場合があるため、基本的に無病種子を購入しましょう。自分で種子を採取する場合は、50℃で25分間の温湯浸漬消毒などの方法で種子消毒を行ってから使用するとよいでしょう。

また、自家育苗する場合は、種子だけでなく育苗ポットなどの資材や農具も十分に消毒し、培土には消毒済みの市販品を使用するとよいでしょう。どうしても培土を畑から取る場合は、後述する方法で消毒し、その後堆肥をすき込むなど、入念な準備が不可欠です。

苗を定植する前には葉や茎をよく観察し、感染していないことを確認してから本圃に移植してください。

2.温度と湿度の管理を徹底する

トマト栽培ハウス 循環扇 温湿度管理

hamayakko / PIXTA(ピクスタ)

斑点細菌病の病原細菌は、比較的冷涼で多湿という条件下で多発するため、防除には温湿度管理が欠かせません。特に施設栽培においては、適度に換気をして温湿度の調整をしましょう。

また、施設栽培で湿度を上げずに室温の低下を防ぐには、マルチ栽培をして加温する方法が有効とされています。

一方、露地栽培では、畝を高くしてほ場の排水をよくしたり、密植を避けて風通しをよくしたりして多湿にならないように管理してください。

泥はね防止マルチや雨除け栽培を検討する

トマトの雨除けハウス栽培

Ystudio / PIXTA(ピクスタ)

泥はねを防ぐことは、斑点細菌病の発病や被害拡大の抑制に有効です。施設栽培・露地栽培を問わず、できるだけ泥はねを防ぐように株元灌水に心掛けましょう。

特に露地栽培においては、マルチをかけて泥はねを防いだり、水滴がかからないように雨除け栽培をしたりするのもよい方法です。

発病株は速やかに取り除き、ほ場外で処分する

どんなに慎重に予防しても、感染・発症してしまうことがあります。病変があれば早期に発見できるように、日頃からほ場をよく観察することが大切です。

発病株は放っておくと被害が拡大し、全体の収量が大幅に低減します。発見したら速やかに該当箇所をすべて取り除き、ほ場外へ持ち出して処分してください。

また、取り去った罹病株の様子や病斑をよく観察し、病害を正確に特定することも、適切な防除に必要なポイントです。

発病してしまうと、農薬などで病害そのものを治療することは困難です。細菌の密度を下げて感染拡大を防ぎ、被害を最小限に抑えることが重要です。

被害ほ場では、次の作付け前に行う土壌消毒も有効

トマト栽培ハウスの耕転

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

過去に発病株が発生したほ場では、丁寧に前作の残さを取り除いたとしても、細菌が残る可能性があります。細菌の密度が高くなると発生リスクも上がるため、同じ斑点細菌病に感染するトマトやピーマン、ウリ科作物の連作を避けるようにしてください。

どうしても連作を続けざるを得ない場合や、発生が多発するほ場の場合は、収穫後、前作の土を普段よりも深くすき込み、表層に新しい土を入れるとよいでしょう。

被害がさらに大きい場合は、土壌消毒を行うと効果的です。土壌消毒には土壌消毒剤を用いて燻蒸消毒する方法や、夏場の気温の高い時期に十分灌水した後、透明のビニールで覆って2〜3週間ほどそのまま熱を閉じ込める太陽熱消毒があります。

なお、どちらの場合でも、土壌消毒した後は有用な微生物などもほとんど死滅しているため、十分な堆肥などを投入し、土壌中の有効菌を増やして地力を回復する必要があります。そうすることで、病害が発生しにくい土作りができます。

ハウスの太陽熱消毒

ハウスの太陽熱消毒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

トマトの斑点細菌病に適用のある農薬の例

斑点細菌病の防除には、発生する前に農薬を2週間に1回程度、予防散布すると効果的です。万一発生してしまった場合には、罹病した葉や茎と、その周囲の土などをこまめに除去しながら、7〜10日の間に2〜3回程度の散布を行うとよいでしょう。

なお、2022年5月現在、トマト・ミニトマトと斑点細菌病に登録のある農薬には、「カッパーシン水和剤」や「カスミンボルドー」があります。これらの農薬を実際に使用する場合は、その時点での登録を必ず確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。

地域によって農薬の使用に決まりがある場合にも、その決まりを守ってください。

なお、トマトとミニトマトはそれぞれ別に登録されるため、どちらか一方しか登録されていない場合があります。正確な登録を確認するよう注意しましょう。

農薬登録情報提供システム

トマトの栽培に当たっては、高品質で安定した作物の生産と収益向上のために、収量を大幅に低減させる病害を防除することが重要です。

トマトの斑点細菌病も、防除対策をすべき病害の1つです。正しい方法で予防をしながら、ほ場をよく観察して早期発見に努め、発病を発見したら速やかに対応できるように、日頃から防除に備えておきましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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