新規会員登録
BASF We create chemistry

農業経営や収益を大幅に変えるドローン活用。農薬散布のみならず「自動飛行や播種、施肥、追肥」も可能に

農業経営や収益を大幅に変えるドローン活用。農薬散布のみならず「自動飛行や播種、施肥、追肥」も可能に
出典 : 写真提供 DJI JAPAN 株式会社

2017年から販売が本格化した農業用ドローン。もともと実用性には高い評価がありましたが、近年さらに進化を遂げ、普及が進んでいます。本記事では、ドローンの進化が農家の作業効率化や収益アップにどう役立つのかについて、農業用ドローンの販売を手がけるDJI JAPAN 株式会社の岡田さんに話を伺いました。

  • 公開日:

記事をお気に入り登録する

加速度的に普及が進む農業用ドローン「次世代農家」と「新規就農した若手経営者」を中心に広がる

従来、農薬の空中散布は無人ヘリコプターによる農薬散布が主流だった日本の農業も、2017年以降になると次第に農業用ドローン(以下ドローン)が使われるようになってきました。農林水産省の調べによると、ドローンによる散布面積は2016年度は684haでしたが、2021年度には11万9,500haと約3.9倍に増えています。

ドローンによる農薬散布面積の推移

出典:農林水産省「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」のページ 所収の「令和3年度 農業分野におけるドローンの活⽤状況(令和3年8月)」よりminorasu編集部作成

ドローンの普及や活用している農家の特徴について、DJI JAPAN 株式会社の農業ドローン推進部 セールスマネージャー岡田 善樹さんに話を伺いました。

成長率は年200%。加速度的に普及する農業用ドローンの現状

ドローンの普及スピードは早く、ドローンを活用する農家には特徴があるようです。

DJI JAPAN 株式会社 農業ドローン推進部 セールスマネージャー 岡田 善樹さん(以下役職・敬称略) 当社でいえば、2017年から販売を始め、累計約10,000台を出荷しています。成長率でいえば、毎年150~200%の割合で出荷が拡大していますので、かなりのスピードで普及が進んでいるのではないでしょうか。

農林水産省は、2019年の時点でドローンによる農薬散布面積を100万haに拡大するという目標を定めています。同年の日本における農地面積が439.7万haのため、日本全体の2割以上が普及対象となっていることがわかります。

ドローンによる農薬散布面積の目標

出典:農林水産省「農地に関する統計」及び「令和3年度 農業分野におけるドローンの活⽤状況(令和3年8月)」よりminorasu編集部作成

主な購入層は「10ha規模のほ場を経営する次世代農家」と「新規就農した若手経営者」

どのような農家がドローンを購入しているのでしょうか。岡田さんによれば、稲作農家が圧倒的に多く、年齢や経営規模にも特徴があるといいます。

岡田 主なユーザー層を調べると、平均年齢が45歳で、規模としては10ha強のほ場を所有している方ですね。農家のあとを継いだ次世代の経営者、あるいは新規就農した若手経営者がメインとなります。

農薬散布ドローン「AGRAS T30」

農薬散布ドローン「AGRAS T30」
画像提供:DJI JAPAN 株式会社

遠くない将来、「無人ヘリを超えるドローン」が登場する。大規模なほ場での活用に期待

ドローンが加速度的に普及した理由は、農作業の負担や作業時間を短縮できることでした。しかし、一つの疑問が出てきます。それは購入層の多くが10ha規模のほ場を所有する農家という点です。どのような理由があるのでしょうか。

岡田 例えば、北海道で大規模経営を行っている農家では、まだ無人ヘリが利用されています。無人ヘリは、ドローンに比べると積める農薬の量が多く、飛行時間も長いことが理由です。現在のところドローンを効果的に活用できるのは、10ha前後が分岐点だと考えている農家が多いのかと思います。

しかし、それも時間の問題でしょうね。ドローンは日進月歩で進化しています。大規模なほ場においても、無人ヘリを超えるドローンが、そう遠くない将来に出てくるはずです。

▼参考資料

令和元年度「スマート農業実証プロジェクト」 ドローンによる作業時間の削減率

出典:農林水産省「スマート農業推進フォーラム2020」所収の実証事業成果の各報告書よりminorasu編集部作成

普及した理由はドローンの実用性アップと性能の進化

ドローンが加速度的に普及した理由は、実用性の向上と性能の進化だといえます。岡田さんの話では、ドローン販売が本格化した2017年当時と現在では、実用性や性能に大きな違いがあるそうです。

農薬散布の実用性が格段にアップ

ドローンの代表的な活用方法として農薬散布が挙げられますが、2017年当時と比べて、実用性が格段に上がっているそうです。

散布できる農薬の種類が増え、実用的になった

岡田 ドローン販売が本格化した2017年当初は、使用が認められた農薬の種類もわずかなものでした。現在は、農林水産省が次々と認可を進めていて、水稲・畑作だけでなく野菜農家や果樹農家にとって、実用性の高い農薬が揃うようになってきています。

例えば、野菜類を対象としたドローンに適した農薬の登録数は、2019年2月時点で38剤だったのですが、農林水産省は2022年度末までに121剤に増やす計画を立てて、進められています。

ドローンに適した農薬登録数の実績と目標

出典:農林水産省「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」のページ 所収の「令和3年度 農業分野におけるドローンの活⽤状況(令和3年8月)」よりminorasu編集部作成

液剤だけでなく粒剤も散布できるようになった

岡田 また、従来は液剤しか施用できませんでしたが、現在は粒剤も散布できるようになりました。施用できる農薬の種類も年々増えているので、数年前に比べれば各段に使い勝手がよくなっていると思います。

自動飛行できるようになり、農作業のほとんどを肩代わりする

現在のドローンは、ほ場を測定してルートをプログラミングすれば、自動飛行で飛び回ります。操縦し続ける必要がないということです。

つまり、散布作業のほとんどをドローンが肩代わりすることになります。これは多くの農家にとって、大幅な作業負担の軽減、時間の短縮になるはずです。

農薬散布だけでなく、播種や施肥、追肥もできるようになっている

農薬散布で主に活用されてきたドローンですが、機能の進化により播種や施肥、追肥もできるようになっています。

岡田 ドローンの機能的進化によって、農作業における「散布」や「播種」といった負担の大きい作業をドローンが行えるようになりました。

例えば、水稲栽培では播種や施肥もドローンが行います。もちろん、発芽後の除草剤散布や夏場の農薬散布、追肥も含めて活用のシーンが広がっています。

「センシング」機能の搭載で「可変施肥」が可能に

ほかにも、生育状況の確認もできるそうです。

岡田 最近は、センシングといって作物の生育状況を色で識別する特殊なカメラ(マルチスペクトルカメラ)搭載の機種が出始めています。

このカメラで撮影すると、ほ場内のどの箇所の作物がよく育っているか、育ちが悪いかが一目でわかるようになります。そのため育ちが悪い箇所に対して、追肥をしやすくなりました。

精密農業・土地管理用ドローン「P4 MULTISPECTRAL」

精密農業・土地管理用ドローン「P4 MULTISPECTRAL」
画像提供:DJI JAPAN 株式会社

「中山間地」や「都市型農業」で本領を発揮するドローンの性能

ドローンの活用は、水稲栽培だけでなく中山間地や都市型農家にも広がっています。なぜなら、進化したドローンの性能は、中山間地の厳しい傾斜地や狭く入り組んだほ場において、本領を発揮できるからです。

中山間地で重労働となる施肥・農薬散布を自動化し、作業負担を大幅に軽減

岡田 ドローンの機能で意外に知られていないのが、複雑な傾斜地の地形を読み取る機能がある点です。先ほど説明した自動飛行と同様で、上空から地形を読み取り、3Dでモデリングし、ルートの設定ができます。

農家さんによっては、農地を測量してルートをプログラミングして飛ばすまで、すべて自分で行っている方もいます。プログラミングはお使いのパソコン上でできますし、設定方法がわからない場合は代理店がレクチャー対応を行っています。

プログラムができれば、ドローンが自動で中山間地のほ場を飛び回り、施肥や農薬散布を代行してくれるというわけです。傾斜が厳しいミカンやリンゴのほ場、棚田などをわざわざ上り下りする必要がなくなります。

岡田 設定した自動航行ルートは繰り返し使えるので昼夜を問いません。例えば、日の入りが早い中山間地で、夕方の涼しい時間にドローンで施肥や農薬散布ができるようになります。

斜面での農作業は重労働です。それが理由で、農業離れや後継者の不在、新規就農が少ないなどの問題が起きているといえるでしょう。そのため、岡田さんは「中山間地の農家をはじめ、多くの方に進化したドローンの性能を知ってほしい」と語ります。

中山間地の美しい棚田

中山間地の美しい棚田
画像提供:DJI JAPAN 株式会社

コンパクトで機動性の優れたドローンが、無人ヘリを使えない都市型農業で活躍

ドローンの進化は、都市型農家にも活用の場を広げているそうです。

岡田 都市型農家の場合、住宅地の中にほ場があるので、無人ヘリによる農薬散布はドリフトの懸念があって使えません。自ら散布ノズルを使って農薬散布を行うしか方法がありませんでした。

しかも、住宅地の中で飛び地のようにほ場が点在している場合は、さらに面倒です。あちらこちらにあるほ場を歩き回るだけでも大変ですが、それが夏の日中ともなれば汗だくの重労働になります。

しかし、ドローンの特徴は、コンパクトであることと、機動性に優れていることです。ドローンを飛ばして農薬をほ場一枚分まいて、軽トラに積んで100m離れたほ場に移動して農薬散布する。というような活用ができるのです。

自動飛行で効率よく農薬散布を行えるため、その間は体を休めたり、ほかの仕事に時間を使えます。また、害虫が飛び回る夜間を狙って農薬散布ができるなど、便利に使えます。

ドローンが経営に与えるメリットは、「収益増加」と「ライフ・ワーク・バランスが整う」こと

水田でのドローンによる農薬散布

水田でのドローンによる農薬散布
画像提供:DJI JAPAN 株式会社

ドローンの活用は、農家の作業負担を減らすだけではなく、大幅な作業時間の短縮につながります。それが経営に与えるインパクトは大きいと岡田さんは話します。

ドローンによる作業時間の短縮により、経営や販売を強化できる

ドローンの機能をフル活用することで、農作業の時間を大幅に短縮し、経営や販売の強化に時間を使えるようになります。これにより、収益を増やしたり、ライフ・ワーク・バランスも整えられます。

岡田 極端な例をいえば、先ほど述べた播種から施肥、農薬散布、追肥に至るまですべてドローンが行うので、稲刈りまで一度もほ場に入らないという農家さんもいます。

つまり、これまで農作業に費やしていた一日の大半の時間を、別のことに使えるようになるわけです。販売ルートや人脈をつなぐ開拓営業に充てることができますし、自身の余暇に充てるなど、ライフ・ワーク・バランスを整えることもできます。

ユーザー様からは、「6次産業化への挑戦やそのための研究、あるいは経営者としての企画立案やマネジメントに集中できるようになった」という声をいただくこともあります。

事例「ドローンにより農作業の負担が軽減し、会社勤めと農作業を両立できた」

岡田 ある方は農家の長男で、平日はサラリーマンとして働き、土日に農作業を行っている状況でした。土日に疲れた体を癒せず一日中、水田を歩き回るのはとても大変な作業ですよね。

そこで試しにドローンを活用したところ、時間がかかって重労働だった農作業を自動で行ってくれるので、身体的な疲労が軽減され、会社勤めと農作業の両立ができるようになったとおっしゃっていました。

ドローンの普及が進んでいけば、こうした兼業タイプの農業経営者が増えてくるのではないでしょうか。それだけではなく、農業を長く続けていく上でドローンの活用は、必要不可欠になるといえそうです。

農業の社会問題「農業離れ」「後継者の不在」「重労働という新規就農のハードル」を解決するドローンの価値

ドローンの実用性や機能の向上は、日本農業の社会問題である「農業離れ」「後継者の不在」「重労働という新規就農のハードル」の解決にもつながります。

ワーク・ライフ・バランスが整い、余裕が生まれる

岡田 ドローンには日本の農業離れを食い止める一助としての期待が高まっていると思います。ドローンを使うことで時間的、体力的、心的にも余裕が生まれ、「農業が楽しくなった」という声をお寄せいただいたユーザー様もいます。

そうして、これまで定着していた3Kのイメージを払拭できれば、後継者の育成や、あらゆる業界の参入も活性化するはずです。

また、有能な人材を求め経営拡大を図りたい農業経営者にとっても、「当社ではドローンを有効活用し、社員のワーク・ライフ・バランスを考えた農業を行っている」ことを情報提供できれば、さらに有利に採用を進めることができるのではと考えています。

「農業離れ」「後継者の不在」「重労働という新規就農のハードル」の解決につながる

ワーク・ライフ・バランスを整えることは、「農業離れ」「後継者の不在」「重労働という新規就農のハードル」の解決につながります。

さらに、離職率が下がれば、優秀な人材が無理なく働き、成長し、経営の一部を肩代わりできるようになります。その結果、経営者は事業拡大に集中したり、事業継承もスムーズに行えるようになるなど、持続的な活動と発展が期待できるようになります。

農業用ドローンのさらなる可能性。収益アップや経営拡大につながる「可変施肥」の研究

今後、進化が期待される技術として「可変施肥」があると岡田さんはいいます。

岡田 「可変施肥」は、先程も紹介したセンシングという特殊なカメラを応用し、ほ場のそれぞれの箇所の生育状況に応じて散布量を自動制御で変える技術です。

この技術がさらに進化すれば、ドローンを使って作物の質や収量を上げることができるようになります。そうして収益を上げて経営拡大を図り「儲かる農業を活性化させる」ことが、ドローンの最終的な目標であるといえますし、今後の機種開発においては、そのことがコンセプトになると思います。

ドローンの進化と有効活用は、農業の社会問題を解決し、会社の成長や進化につながっていることが見えてきました。今後、どのような機種が開発され、活用の幅が広がるのでしょうか。日進月歩の進化に期待したいと思います。

DJI JAPAN 株式会社について

DJI JAPAN 株式会社は、グローバル市場でドローンやカメラ技術を展開するDJIの日本法人です。農薬散布、肥料施肥で利用する農業ドローンは2017年から販売展開し、使いやすく優れた安全性能が評価を受け、日本で普及が進んでいます。

DJI JAPAN 株式会社 農業ドローン推進部 セールスマネージャー岡田 善樹さん

DJI JAPAN 株式会社 農業ドローン推進部 セールスマネージャー岡田 善樹さん
画像提供:DJI JAPAN 株式会社

DJI JAPAN YouTube公式チャンネル「DJI JAPAN 最新農業ドローン『AGRAS T30』『AGRAS T10』新製品発表会」

記事をお気に入り登録する

minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

よろしければ追加のアンケートにもご協力ください。(全6問)

農地の所有地はどこですか?

栽培作物はどれに該当しますか? ※販売収入がもっとも多い作物を選択ください。

作付面積をお選びください。

今後、農業経営をどのようにしたいとお考えですか?

いま、課題と感じていることは何ですか?

日本農業の持続可能性についてどう思いますか?(環境への配慮、担い手不足、収益性など)

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

松崎博海

松崎博海

2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。

おすすめ