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【農業経営に求められる戦略視点とは】シリーズ第2回 農家にとっての「戦場(事業環境)」とは?

【農業経営に求められる戦略視点とは】シリーズ第2回 農家にとっての「戦場(事業環境)」とは?
出典 : ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)

本連載は、普遍的な戦略を考える枠組みを取り上げ、「農業経営の場合は?」の具体例について考えていきます。連載第2回は、戦略を考えるために行う、「戦場(事業環境)」の理解について概要を取り上げます。

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前回のおさらい

前回は、「戦略とはそもそも何か?必要か?」「どのように戦略は立てるか?」について取り上げました。戦略が必要な理由として取り上げた「誰もが制約をかかえている」は、日々の悩みに直結する部分も多く、イメージがつきやすかったかもしれません。

一方、「誰もが競争環境に身をおいている」「ターゲット顧客の絞り込み」等については、「?」と感じた方も少なからずいらっしゃったと思います。日々の業務において、外部環境を意識することは、把握することも難しい要素であるため、見落としがちです。

事業活動の枠組み「戦場(事業環境)」と「武器(戦場)」

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

今回は上記で触れた「顧客」や「競争」等、事業を構成する要素「戦場(事業環境)」について理解を深める回です。

連載について

本連載は、業界普遍的な経営戦略視点を農業に当てはめるとどうなるか?をテーマに十回程度の連載を想定しております。農業には農業独自の商慣習があります。その業界の特徴を理解しつつ、農業経営のあり方を考える視点を提供していきます。

▼前回の記事はこちら

戦場(事業環境)を理解するための基本枠組み「3C」

3C分析

tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)

戦場(事業環境)を理解するための基本要素は、

「市場・顧客(Customer)」
「競争(Competitor)」
「自社(Company)」

の「3C」で構成されています。

自社が売上をあげ利益を出すための条件を満たすために、自社にとって最適化された方法を考えることが「戦略」そのもので、3C分析とは、その戦略を考えるための情報収集の枠組みです。

農業における「3C」分析とは?

農家にとっての「3C」を1つずつ具体的に考察する前に、農業の場合における「3C」分析の全体像を考えてみましょう。

作物が売れるには、シンプルに言えば下記条件を満たす必要があります。

顧客が欲しい作物を、売っている
ほかの農家よりも、高品質で、もしくは、安く、売っている

前述したように、この条件を満たすための最適な方法を考えることが「戦略」です。「3C」の枠組みを使うと自社が置かれた事業環境を俯瞰的にチェックすることができ、戦略を考えるうえでの土台になるのです。

すなわち、

市場・顧客(Customer)⇒顧客が欲しい作物/農産物とは?そもそも顧客は誰か?
競争(Competitor)⇒顧客は買う際にどの農家/作物と比較しているか?

を明確にし、自社(Company)の状況と照らし合わせていく作業です。

次の章では、3C分析に沿って農家にとっての「戦場(事業環境)」について考えていきます。各要素に関する詳細な分析/検討は次回以降に触れます。

▼参考:農業における「3C」のチェックリストの例

農業における3C分析

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

農業における事業環境ーその1. 市場・顧客(Customer)

1. 顧客は誰なのか?

そもそも農家にとっての顧客は誰なのでしょうか? 顧客の理解のために、生産・販売の流れを簡単に整理します。

食品の流通構造

出典:農林水産省「平成30年度 食料・農業・農村白書(令和元年5月28日公表)」よりminorasu編集部作成

このように整理すると、農家における顧客とは、必ずしも消費者だけを指すのではなく、出荷先も顧客であることがわかります。

加えて、出荷先は多様であり、農家の戦略次第で様々な販路が「選択し得る」ことも分かります。販路の変更/多様化/拡大等については、本連載でも今後個別テーマとして触れていきますが、下記記事が参考になるのでご紹介です。

▼参考記事

農協共販から、直売所や自社オンラインショップ、スーパーや外食などのBtoB取引、青果店への卸と市場外流通を増やし売上を拡大していった事例です。対消費者もしくは対事業者向けの販路拡大は売上拡大の潜在性を持つ一方、相応の品質・安定性を求められます。

本記事にある井出トマト農園はデータの記録・活用によって根拠のある品質を顧客へ訴求、顧客の安心感につなげています。

自社の強みをいかした流通戦略によっては、契約栽培による安定収入や、消費者への直接販売による作物の販売価格決定権を握ることもでき、利益拡大につながった事例もあります。

2. 顧客のニーズは何か?

1. 顧客は誰なのか?」が見えたら、次の質問は「2. 顧客のニーズは何か?」です。顧客が多様であるのと同様、顧客ニーズも様々です。食味や鮮度であることもあれば、価格であることもあるでしょう。年間出荷量の安定性もあるかもしれません。

3. 対象顧客はたくさんいるか? 増えそうか?

3つ目の質問は、「3. 対象顧客はたくさんいるか?増えそうか?」です。少し補足すると、顧客の人数だけでなく、単価にも注目します。対象とする市場規模の大きさ(価格×数)を確認します。

下記は、今回は補足程度の扱いですが、市場・顧客をもう少しマクロな視点で見ることも、市場分析に含まれます。下記のような要素が代表的です(カッコ内は一例)。

食習慣(世界的な食文化の西洋化シフト、肉消費量増に伴う飼料需要増、等)
政策・規制(関税の規制緩和)
技術革新(スマート農業等、手間のかかる管理・作業の自動化)
地球・社会環境、等(世界的な人口増・中間所得層拡大による農作物の需要増、温暖化)

世の中にある市場レポートは、マクロ環境ついて調査して終わり・・・というものが多いようです。もちろん使い方によっては参考になるのですが、皆さんが自身の経営で考える際にマクロ環境だけ見ても「だからどうする?」の解は見えてきません。

「顧客」を具体的に考えるところから始めた上で、その参考材料としてマクロ環境も見るのが良いと私は考えます。

農業における事業環境ーその2. 競争(Competitor)

さまざまな農家の野菜が並ぶスーパーマーケット

node / PIXTA(ピクスタ)

一般的に一番見落としがち(というかイメージがつかない)のが競争視点ではないでしょうか。この記事を読んでくださっている皆様にとっても、一番「?」と思うのが競争だと思います。

1. あなたの顧客に作物を売ろうとする、ほかの業者はだれか?

競争環境に関しては、前述の「市場(Customer)」を先に理解しておくと整理しやすいです。競争環境を明らかにする第一の質問は、「あなたの顧客に作物を売ろうとする他業者はだれですか?」です。

そのため、前の項で述べた「顧客が誰なのか?どういうニーズをもっているのか?」を先に明らかにしておくと、競争環境も理解しやすくなります。

2. 特に強い事業者(もしくは地域)はだれか?なぜ強いのか?

競争環境を理解する上で答えるべき次の質問は、「特に強い事業者(もしくは地域)はだれですか?なぜ強いのですか?」です。

強い事業者とその理由を知ることによって、対象とする市場における一般的な勝ちパターンの一端が見えてきます。

▼参考記事

本パートの「競争」に限らず、「市場・顧客」についても様々な示唆がある記事ですが、ここでは「競争」観点でカットネギの自社加工・直接取引に注目します。

ネギは他作物と比べれば、消費者の需要が安定している作物です。こと京都は、九条ネギが高単価かつ需要の変動リスクが少ない作物である利点を活かして、加工業者としての役割も担う選択(リスクを選択する)をしました。

この選択は、加工を担う卸売業者が競争相手になります。

こと京都は、加工場の整備、販路の確保等の創意工夫等によって競争に対応。そして、生産と加工双方を担うことによる価値を顧客に提供、対価として大きな利益をあげています。

以上が、競争環境を見る上での基本的なチェックポイントです。

競争相手は地元農家だけではない

加えて、補足程度にご紹介すると、競争は、顧客を獲りあっている地元農家以外との間にも起こり得ます。

例えば、他産地や海外からの輸入品はもちろんのこと、仕入先である資材メーカーが農業を始める場合もあるかもしれませんし、一見異業種の製造業/建設業が保有工場や土地を活かして農業に参入することもあり得ます。これらは競争環境を少し俯瞰してみることによって見えてきます。

あまり毎日敏感になりすぎる必要はありませんが、足元をすくわれないよう、定期的に「今までにない競合が現れていないか?」とチェックするようにしましょう。

農業における事業環境ーその3. 自社(Company)

自社(Company)を見る際は、視点が細かくなりすぎないことが重要です。「社員同士の人間関係に課題がある」「機械の調子が悪い」など、課題を挙げようとするときりがないほどでてきます。

日々の運営において大事なことではあるのですが、本分析においては、ここまで見てきた「市場」「競争」環境の中で「自社」はどう戦っているのか?の事業視点で見るようにしましょう。

つまり、対象としている市場(例:県内の卸業者)において、「自社はどの顧客に対して売れているのか?」「なぜ売れるのか?」「儲かっているか?」が主たる確認事項になります。

次のような枠組みで、「業界内における自社の現在地」を整理できると理想的です。

「業界内における自社の現在地」の整理

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

「セグメンテーション」のところでは、何を2軸で整理すればよいか非常に頭をつかうところです。軸は2つだけとも限りません。

しかし、「市場」「競争」見た上で、「自社と競合の違いを説明する軸は何なのか?」を自分自身で考えることは極めて重要です。正解は1つではありません。是非、皆様には考えていただきたいポイントです。

▼参考記事

本記事では、「観光農園スタイル」の選択が候補にあった中で、ブルーベリーとの出会いがスタイルを決定づけた事例ですが、ここでは、作物としてブルーベリーを前提とした際の「市場」「競争」に注目します。

ブルーベリーは、味のみならず健康面でも付加価値を訴求しやすく、加えて、ジャム・スイーツ等加工の用途も広いようです。つまり市場の需要は一般消費者、加工業者など、幅広くありそうです。

他方、競争については、海外品との競争への対応が重要になるように見受けられます。限定される収穫期間や収穫に必要な手間の観点から価格で勝つのは難しそうです。

これらの事業環境からすれば、ブルーベリー市場において海外事業者に勝つには、海外事業者ができないポジショニングを築くことが重要です。

「観光農園スタイル」は理に適っていた部分が多い選択と言えます。

・加工品よりも作物そのものの品質の差で勝負するため、一般消費者と付き合う
・収穫手間も体験として付加価値に変える、など

もちろん「観光農園スタイル」は天候リスク、観光市場における競争など、様々な対応が必要であり誰もが成功するわけではありません。ブルーベリーファームおかざきは、立地に優れることに加えて、様々な観光農園としての工夫をされています。

上述の通り、事業環境における「自社」を整理したうえで、「事業を続けるための資源は確保できているか?」についても重要な質問として確認します。

ここで言う資源は、「ヒト・モノ・カネがあるか?」という視点で確認します。この資源の確保状況は「売れる・儲かる」を持続するための切実かつ重要なテーマであります。本連載では後半に採り上げる予定です。

枠組みを使う際に見落としがちな「動的視点」

事業環境の変化を見渡すイメージ

tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)

ここまで、市場・競争・自社を理解するために確認すべき質問を見てきました。最後に、上記3C全ての要素に共通する注意点を挙げます。

それは、「今後はどうなるか?」を常に問いかけることです。

3Cに限ったことではないですが、経営における枠組みの多くで見受けられる欠点は、過去や現時点の一時点の静止像を捉えがちな点にあります。しかし、当然ながら市場も競争環境も自社の状況も今後変化し、また、確実に予測することは不可能です。

だからこそ、どのような方向性に向かっていくのか?という意識で見るようにしておくと、変化が起こった際の対応力がまるで違います。抑えのポイントとして意識しましょう。

第2回「農家にとっての『戦場(事業環境)』とは?」のまとめ

ここまで読んでくださりありがとうございました。第2回は、戦略を立案するうえでの重要な視点「戦場(事業環境)」について、農業と関連付けながら採り上げました。戦場(事業環境)の見方をまとめると次の通りです。

戦場(事業環境)は
市場・競争環境を俯瞰的かつ動的に見た上で
自社がおかれている現在地を
市場・競争環境に照らして相対的に
みる


次回は、戦場(事業環境)の具体テーマとして、販路について考えます。

▼連載第1回はこちら

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minorasuをご覧いただきありがとうございます。

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ご回答ありがとうございました。

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農地の所有地はどこですか?

栽培作物はどれに該当しますか? ※販売収入がもっとも多い作物を選択ください。

作付面積をお選びください。

今後、農業経営をどのようにしたいとお考えですか?

いま、課題と感じていることは何ですか?

日本農業の持続可能性についてどう思いますか?(環境への配慮、担い手不足、収益性など)

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

芳賀正輝

芳賀正輝

株式会社コーポレイトディレクション マネージングコンサルタント。 東京工業大学工学部卒。同大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。工学修士(経営工学)。外資系化学メーカーBASFコーティングス株式会社、株式会社星野リゾートを経て、現在に至る。

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