スリップス(アザミウマ類)からトマトを守る!有効な農薬と防除対策
スリップス(アザミウマ類)は、トマトをはじめとした多くの作物に発生する代表的な害虫です。食害自体はそれほど深刻でないものの、トマトでは果実に白ぶくれ症状を引き起こしたり、ウイルス病を媒介したりするため、栽培期間を通して防除対策が必要です。
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トマト栽培で注意すべきスリップス(アザミウマ類)は、主にミカンキイロアザミウマとヒラズハナアザミウマの2種類です。本記事ではこの2種類に絞り、主な生態や被害状況、有効な防除方法について詳しく解説するとともに、成長段階ごとに効果的な農薬を紹介します。
トマト果実に生じる“白ぶくれ症”の原因、スリップス(アザミウマ類)
アザミウマ類は多くの農作物に寄生する吸汁性害虫で、英語名の“Thrips”から「スリップス」とも呼ばれています。寄生植物は雑草も含めて多岐にわたり、トマトでも露地・施設ともに発生しやすい害虫です。
アザミウマ類は種類が非常に多く、近年になって海外から侵入してきた種もありますが、その中でもトマトに寄生するものは数種類に限られます。特に注意が必要なのは、ヒラズハナアザミウマとミカンキイロアザミウマの2種類です。
スリップス(アザミウマ類)によるトマト被害の特徴
ミカンキイロアザミウマ成虫(体長1.4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ヒラズハナアザミウマ・ミカンキイロアザミウマはいずれもトマトに寄生すると、特に新芽に近い部分の葉を吸汁し、その痕が白色や黄色、褐色に変色します。新芽や花、果実のへたも食害を受けます。
変色した葉や新芽をよく観察し、小さな黒い糞や虫が見られることでアザミウマ類の寄生に気づきます。アザミウマ類はいずれも体長1mm程度と小さく、よほど多発しない限り吸汁そのものの被害はそれほど深刻になりません。
ミカンキイロアザミウマによるトマト果実の白ぶくれ症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ただし、どちらのアザミウマ類も特に花を好むので、開花期に成虫が飛来し、花に吸汁や産卵をして子房を傷付けることがあります。その場合は果実に傷が残ったり、果実表皮に付いた産卵痕が白く膨れる「白ぶくれ症状」を起こしたりします。
ほとんどの場合、白ぶくれ症状は果実が大きくなるにつれて目立たなくなります。しかし、症状が深刻になると食害を受けた部分の着色が悪くなり、商品価値が下がる原因になります。
最も深刻な被害は、どちらの種も「トマト黄化えそ病(TSWV)」などのウイルス病を媒介することです。ウイルス病は一度発生すると有効な農薬がなく、防除が非常に困難です。それゆえ媒体となる害虫の防除が、ウイルス病そのものへの予防になります。
黄化えそウイルスに罹病したトマト
佐竹 美幸/PIXTA(ピクスタ)
基本生態と主な発生時期
ヒラズハナアザミウマの成虫は雌1.5mm、雄1.1mmほどで、体色は淡褐色や暗褐色です。周囲の雑草から露地やハウスのトマトに飛来すると、花や新芽の組織内に1つずつ、一晩で約500個もの卵を産み付けます。
孵化した幼虫は、花・葉の表面組織や花粉を食べながら成長し、25℃の温度下では卵が孵化してからわずか10日ほどで成虫になります。成虫は約50日生存します。
ミカンキイロアザミウマも体長は同程度で、体色は冬期には褐色ですが、夏期は名前の通り淡黄色です。ヒラズハナアザミウマと同様に飛来し、一晩で200~300個の卵を産み付けます。
25℃の温度下では孵化後約12日で成虫となり、成虫は約45日生存します。
いずれの種も繁殖力は旺盛で、状況によって両性生殖と単為生殖どちらも行って増え、春から秋にかけて5~6回発生します。
条件がよければ10回以上発生することもあります。特に5~6月と9~10月に多く、乾燥を好むため梅雨明けにも増加しますが、高温になる7~8月は減少します。ハウスの場合は冬期も繁殖を続けます。
トマトのほかにもナス・ピーマン・きゅうり・イチゴなどの果菜類や、菊・ガーベラなどの花き類など、多くの作物に寄生します。ミカンキイロアザミウマは、このほかみかんや桃などの果樹類にも寄生する特徴があります。
宿根アスター ミカンキイロアザミウマの被害花
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
スリップス(アザミウマ類)に効く農薬と、選択のポイント
アザミウマ類には、防除に効果的な農薬が複数あります。ただし、アザミウマ類全般に適用のあるものや、特定の種類に限られるものなどがあるため、種類を特定して適した農薬を使用しましょう。
なお、本記事で紹介する農薬は2022年4月28日現在、トマト・ミニトマトとミカンキイロアザミウマ・ヒラズハナアザミウマ、またはアザミウマ類に適用のあるものです。ミニトマトは登録や適用の条件などが異なる場合があるため、以下サイトからご確認ください。
農薬登録情報提供システム(農林水産省)
また、実際の使用にあたっては、必ず使用時点の登録を確認のうえ、ラベルをよく読み用法・用量を守ってください。地域に農薬の使用についての決まりがある場合は、それにも従いましょう。
アザミウマ類を効率的に防除する農薬の選び方
sasuke / PIXTA(ピクスタ)
アザミウマ類の化学的防除においては、発生状況や害虫の生育ステージに応じた農薬の選択がポイントです。
ほ場やその周辺の害虫発生状況を確認し、ハスモンヨトウやオオタバコガなど他害虫の発生も懸念される場合は同時に防除できる農薬、天敵資材を投入する場合は天敵に影響なく使用できる農薬を選びます。
このように、アザミウマ類だけに着目するのではなく、総合的な防除体系を考慮して農薬を選択しましょう。それにより、効果的・効率的な防除が期待できます。
また、アザミウマ類は生育のサイクルが短く、薬剤抵抗性が発達しやすいため、同系統の農薬の連用は避け、異なる系統の農薬を複数用意してローテーションを組んで使用しましょう。
【発生状況別】 トマト・ミニトマトに適用のある農薬例
トマトまたはミニトマトに登録のある農薬を、使用状況別に紹介します。
育苗期後半から定植時に防除する場合
akira / PIXTA(ピクスタ)
育苗中や本圃定植の際には「ベリマークSC」を灌注したり、「プリロッソ粒剤」を株元散布したりするとよいでしょう。どちらも根から成分を吸収して効力を発揮するため、薬剤が周囲に広がりにくく、安全かつ効率的に使用できます。
ベリマークSCは、コナジラミ類・アブラムシ類・ハモグリバエ類などのほか、オオタバコガ・ヨトウ類・コナガ類などのチョウ目害虫まで、ブリロッソ粒剤はコナジラミ類・アブラムシ類・アザミウマ類・ハモグリバエ類と、それぞれ広範の害虫に効果があり、同時防除が可能です。
育苗中や本圃定植の際には「ベリマークSC」を灌注したり、「プリロッソ粒剤」を株元散布したりするとよいでしょう。どちらも根から成分を吸収して効力を発揮するため、薬剤が周囲に広がりにくく、安全かつ効率的に使用できます。
ベリマークSCは、コナジラミ類・アブラムシ類・ハモグリバエ類などのほか、オオタバコガ・ヨトウ類・コナガ類などのチョウ目害虫まで、ブリロッソ粒剤はコナジラミ類・アブラムシ類・アザミウマ類・ハモグリバエ類と、それぞれ広範の害虫に効果があり、同時防除が可能です。
チョウ目害虫やダニと同時防除する場合
トマト オオタバコガ幼虫の茎内侵入
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
チョウ目の害虫と同時防除をしたい場合は、アザミウマ類の登録に加えて、オオタバコガとハモグリバエ類にも登録のある「スピノエース顆粒水和剤」や、さらにハスモンヨトウやトマトサビダニ、コナジラミ類にも登録のある「マッチ乳剤」などがおすすめです。
また、ミカンキイロアザミウマに登録があり、オオタバコガやナミハダニ、トマトサビダニに登録のある「コテツフロアブル」や、前項で紹介したベリマークSCなども広範の害虫に効果があるので、目的の害虫に合わせて選びましょう。
天敵や訪花昆虫への影響の少ないものがよい場合
akira / PIXTA(ピクスタ)
カブリダニなどの天敵や、ミツバチ・マルハナバチなどの訪花昆虫への安全性が高く、IPM(総合的病害虫・雑草管理)プログラムにも組み込める農薬を使いたい場合は、前述のベリマークSCやプリロッソ粒剤が適しています。
また、ミカンキイロアザミウマとハスモンヨトウ、オオタバコガ、モグリバエ、コナジラミ、トマトサビダニなど多くの害虫に登録がありながら、天敵などには影響の少ない「カスケード乳剤」もおすすめです。
併せて実施したい、スリップス(アザミウマ類)の耕種的防除対策
アザミウマ類には農薬が有効ですが、薬剤抵抗性を持ちやすいので、前述したように同系統の農薬の連用を避ける必要があり、周囲の作物など、ほ場の状況によっては十分な使用回数を得られない場合もあります。
また、アザミウマ類は花を好むため、花き類や雑草などの発生源が近くにあると次々に再侵入されてしまい、農薬の効果が出にくい場合があります。
そのような場合は、併せて以下のような耕種的防除も行うことで、より大きな防除効果を得られます。
飛来を阻止する“シルバーマルチ”
トマトの施設栽培 畝はシルバーマルチ、通路は防草シート
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アザミウマ類は反射光を嫌う性質があるため、シルバーマルチを張ることで忌避効果が期待できます。アザミウマ類だけでなく、アブラムシやナモグリバエなどの害虫の飛来も同時に抑えられます。
さらに、シルバーマルチは地温上昇を防ぐ効果が高いため、特に施設栽培における高温になりすぎるリスクを軽減します。
発生・繁殖を防ぐ“雑草防除”
ほ場周辺の雑草は、アザミウマ類など害虫の温床となって繁殖を助長するため、こまめに防除する必要があります。周囲の雑草を放置したまま農薬を散布しても、害虫の避難場所となってまた戻ってきてしまうため、防除効果が低減します。
特にシロツメクサは、アザミウマ類だけでなくアブラムシ類やハダニ類など他害虫も寄生しやすいので注意しまそう。
アザミウマ類に負けないトマトを作る“適切な施肥管理”
sasuke / PIXTA(ピクスタ)
アザミウマ類の防除をする一方で、害虫の被害やウイルスに負けないよう、しっかりした草姿・草勢を維持することも大切です。偏った養分で植物体が弱ると、アザミウマ類など病害虫の被害を拡大させやすくなります。
そうした事態を避けるためには、窒素過剰による徒長を防ぐのがポイントです。窒素は作物の生育に欠かせない成分ですが、過剰に与えては逆効果です。土壌診断をしたり、こまめに作物の状態を観察したりしながら、適切な施肥管理を行いましょう。
窒素過剰のほか、夏場の乾燥や高温も株を弱らせ、病害虫に侵されるリスクを高めます。露地・ハウスのどちらもトマトが極端な環境変化にさらされないよう、灌水や換気など日頃の管理を徹底することが防除の基本です。
▼トマトの夏季の温度管理についてはこちらの記事をご覧ください。
スリップス(アザミウマ類)はどこにでもいる一般的な害虫ですが、繁殖力が旺盛なため短期間に増殖し、深刻なウイルス病を媒介することもあり注意が必要です。
ほ場周囲の繁殖源となる雑草を放置せず、こまめに管理しながら適切に農薬を使用し、密度を低く抑えることで被害を防ぎましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。