曽我農園<後編>高品質なトマトを確実に栽培し続けるために。曽我農園がICT活用に見る農業の未来とは

新潟県新潟市にある曽我農園は、高糖度かつ話題性の高いフルーツトマト「越冬トマト」の栽培を行っています。栽培データの蓄積やICT技術の積極的な活用により、品質向上だけでなく、生産性向上も実現した農業の秘訣についてお話を伺いました。
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目次
曽我農園代表取締役社長 曽我新一(そが しんいち)さんプロフィール
東京農業大学卒業後、アメリカでの農業研修を経て、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊に参加。コートジボワール共和国やセネガル共和国にて農業技術指導員として活動する。その後フランスでも農業を学び、帰国。
フルーツトマト栽培技術の分析によって「金筋(きんすじ)トマト」を開発し、一般社団法人日本野菜ソムリエ協会が主催する「野菜ソムリエサミット」で金賞を獲得する。コロナ禍の影響を受け「金筋トマト」から「越冬トマト」へとリブランディングを実施し、全国にファン層を広げる。

曽我農園代表取締役社長 曽我新一さん(奥)、曽我千秋さん(手前)
写真提供:曽我農園Instagram
農業の担い手の減少は農地集約だけでは解決できない人的リソース不足の中、農地だけが増える現状
日本の農業人口が年々減少していることは周知の事実です。さらに農家の高齢化や後継者不足もあり、農地を手放さざるを得なくなってしまう農家も珍しくありません。
その結果、農地の集約は徐々に進んでいますが、そこには大きな課題があると曽我さんは語ります。
人的リソース不足の中、農地だけが増える
曽我農園代表取締役社長 曽我新一さん(以下 役職・敬称略) 同じ地域で農業を営んでいる農家の中にも、高齢化により農業を続けることが困難になってしまった方は多くいます。
そういった方が手放した農地を、ほかの農家の方が引き受けることもあります。しかし、人的リソースが足りていない中で農地だけが増えると、単純に農家1人当たりの負担が増えてしまうのです。その結果、過労によって仕事を続けることができなくなる農家もあります。
持続可能な農業に必要なのは、ICT技術の活用
過労によって農業の継続が困難になってしまうと、農家の収入が途絶えてしまい、ますます農業を継続していくことが難しくなります。
曽我 農業人口が減少していく中で、持続可能な農業を営むためには、ICT技術を活用した農業を取り入れることが必要だと考えていました。
栽培方法のデータ化とICT技術によるほ場管理で、トマト栽培を効率化
人的リソースが少ない農家でも、ワークライフバランスを保ちながら農業を続けるために、曽我さんは「栽培方法のデータ化」と「ICT技術によるほ場管理」に取り組んだといいます。
栽培方法をデータ化し、品質向上に必要な条件を分析
「越冬トマト」の前身となる「金筋トマト」の開発段階で、曽我さんは栽培環境を徹底的に分析、栽培状況を細かく記録してデータ化することから始めました。
曽我 実は私自身は、トマトが苦手で食べられないのです。そのため、栽培したトマトの試食は、妻やお客さまに協力していただきました。
試食された方の感想をもとに、栽培方法をブラッシュアップしていくためには、今どのような方法で栽培しているのかを把握しておく必要があります。
そこで、毎日細かくほ場の状況を記録し、その記録をデータ化しました。試食した方の感想とデータを照らし合わせ、品質向上のために必要な条件を分析して生まれたのが高糖度の「金筋トマト」です。

データを元に栽培方法を研究して生まれた「金筋トマト」
写真提供:曽我農園Twitter
「金筋トマト」は、リブランディングにより「越冬トマト」と名前を変えていますが、データ分析を活用した独自の栽培方法は、今も変わらず改良を続けています。
灌水制御システム土壌水分センサーで、効率的にほ場を管理
「越冬トマト」は、灌水量や日照時間などを細かに調整する必要があり、通常のトマト栽培よりも、ほ場管理の負担が大きくなります。
細かなほ場管理を行うからこそ、品質の高いトマト栽培が可能になるのです。その一方、少ない人員で完璧にほ場の管理を行うことは、従業員の負担を増やすことになります。
そこで曽我農園では、「灌水制御システム土壌水分センサー」を導入し、その日のほ場環境に合わせて自動で灌水できるシステムを導入しました。
曽我 機械に頼れる部分は積極的に自動化していくことで、作業効率が向上し、少人数でのほ場管理も可能になりました。
ICT技術を活用しながらも、実際のほ場に足を運ぶことが大切
曽我 灌水制御システム土壌水分センサーの導入により、人的リソースを削減しながら、細かなほ場管理を実現できました。しかし、虫害や病害を防ぐためには、100%機械頼りというわけにもいきません。
そこで、曽我農園では、これまでに蓄積してきた栽培記録のデータや日々のほ場状況をもとに、ICT技術の活用と従業員の手作業によって、作業をバランスよく分担しました。
曽我 従業員の日々のタスクの中に、ほ場環境のチェックと記録を組み込むことで、効率よくほ場管理ができるようになりました。
ICT技術の活用で作業負担は減りましたが、実際にほ場で作物に向き合うことで得られる経験や知識もあります。そのため、従業員には、必ずほ場に足を運び、現場の様子を見るように指導しています。

ほ場内に設置されている自動灌水のためのセンサー
写真提供:曽我農園Facebook
人的リソースが少ない農家こそ、ICT技術を導入するべき理由
曽我 ICT技術を取り入れた栽培を実践することで、高品質なトマト栽培の再現性を高めるだけでなく、栽培スキルを高める時間も確保できています。
また、ICT技術の活用により、少人数でも広い農地管理が可能になれば、人的リソースが少ない農家でも、ワークライフバランスを保った営農が可能になります。
持続可能な農業の実現には、ICT技術活用が不可欠だと曽我さんは語ります。
働くときと休むときのメリハリが、農業を継続する秘訣
曽我 さまざまなICT技術を活用することで、高齢農家での作物収穫時の身体的負担を軽減できます。
もちろん、若手農家であっても、心身に負担の大きい農業スタイルを無理して継続していくのは現実的ではありません。
新しい技術を上手に活用し、働くときは働いて、休むときは休めるようなメリハリのある働き方をめざすことが、農業を継続していく体力維持につながるのです。
曽我農園では、看板商品のトマト栽培や加工品の販売だけではなく、アスパラガスの栽培・販売も行っています。
自動収穫ロボットが実用化されることでアスパラガス収穫の自動化が期待される
曽我農園では、トマトの他にアスパラガスの栽培も行っています。アスパラガスは、収穫直後から鮮度が落ちていく作物です。アスパラガスを朝出荷するためには、深夜のうちに収穫作業を行う必要があります。
曽我 おいしい作物をお客さまに届けるためとはいえ、日中の農作業のあと、深夜にアスパラガスを収穫しなければならないとなると、疲労は溜まる一方です。疲労によって農家自身が体を壊してしまえば、結局は農業を継続できなくなってしまいます。
もしこの収穫作業を自動化できれば、農家の負担が大きく軽減されます。アスパラガスの自動収穫ロボットの実用にはまだ課題があると聞いていますが、課題を解決して実用化できるよう、期待しています。
現在アスパラガスの自動収穫ロボットの開発は進められているものの、実装可能なほ場には制限があり、一般的に広く普及できているとはいえません。しかし、一般的なほ場にも対応できるようになれば、持続可能な農業の実現につながります。

曽我農園で栽培されているアスパラガス
写真提供:曽我農園Facebook
「農業体験」の需要に応える施設をめざして
国内に多くのファンを獲得したことで「曽我農園の直売所だけでは手狭になってきた」と曽我さんはいいます。
曽我 まずは、経営基盤を盤石化に向けて、目下奮闘中です。それだけではなく、今まで誰もやったことがないことにも、いずれはチャレンジしていきたいと考えています。
例えば、全国には農業体験ができる施設はたくさんありますが、施設ごとにシステムや料金が異なり、興味はあるけれど気軽に参加しにくいという方もいると思います。
そこで、後継者のいない農地が増えてしまうのなら、その農地を活用し、ICT技術やAIを導入した農業のテーマパークを作りたい、というちょっとした野望を持っています。
海外で実用化されているレジのないスーパーマーケット「Amazon Go」のシステムのように、気軽にほ場に立ち寄って自力で作物を収穫し、自動で精算できる農園ができれば、採れたての作物を購入したいユーザーや、手軽に農業体験を楽しみたいファミリー層にも喜んでいただけると思うのです。
曽我さんのイメージする新しい農業施設は、消費者が農業や国産作物に関心を持つきっかけとなるかもしれません。それこそが、日本の農業が抱える課題解決の糸口になるのではないでしょうか。
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福馬ネキ
株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。