【大豆の施肥設計】水田転作で押さえておくべき追肥の時期や栽培管理のポイント
作物の品質向上や収量増加をめざすには、作物に適した肥料を、適切なタイミングで施すことが重要です。この記事では、大豆栽培農家に向けて、施肥設計の考え方と追肥の時期と方法について解説します。
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施肥は作物に適した肥料を適切なタイミングで施さないと、十分な効果を期待できません。この記事では大豆栽培農家に向けて、追肥を中心に栽培管理のポイントを解説します。
大豆の水田転作における施肥設計の重要性
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
大豆は日本各地で栽培されていますが、その多くは水田からの転作で栽培されています。その背景には、大豆が政府の方針として土地利用型作物として位置付けられており、長年にわたって水稲の生産調整における作付けが推奨されてきたことがあります。
しかし、水田を利用した大豆栽培は、ほ場条件によっては順調な生育が期待できないケースがあるのも事実です。
その要因としては「地力の消耗」が挙げられます。一般的に水田を大豆栽培用に転換したほ場では有機物の分解が急激に進みやすく、地力の激しい消耗によって満足するほどの生育が見込めない場合があります。
そうしたほ場では、堆肥などの有機物を投入し、地力の向上に努めることが重要です。堆肥の入手が難しい場合には、前作の稲わらや麦わらをすき込むのもよいでしょう。また、雑草についても結実前であれば、すき込むことで有機物資源となります。
ただし、わらについては堆肥よりも分解が遅いうえ、大豆の生育に重要な窒素を微生物が吸収してしまう点には注意が必要です。そのため、必要に応じて窒素を補う施肥を別途行ったほうがよいケースもあります。
大豆は平成30年(2018年)産から播種前入札取引が本格的に実施されるなど、市場からはこれまで以上に安定した収量と品質が求められています。
消費者はもちろん、卸売業者などの市場関係者から高い評価を受ける大豆を生産するためにも、適切な施肥についての理解を深めておきましょう。
▼国産大豆の需要についてはこちらの記事をご覧ください。
大豆作の適切な施肥設計(施肥基準)
大豆などの畑作物にかぎらず、一般的に作物の生長には3つの欠かせない要素があるとされています。それは窒素・リン酸・カリウムで、大豆栽培においても重要な要素です。
ほ場に含まれている養分量によって適切な施肥量は変わりますが、基本的にはそれらの要素を補うような基肥の投入を心がけましょう。
あくまでも一例ではありますが、福井県が作成した資料によると、10a当たりの施肥量は窒素成分が2~3kg、リン酸が9kg、カリウムが12kgとなっています。
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」内「福井県 施肥の手引き」所収「Ⅳ 麦・大豆等の土づくりと施肥対策」
また、大豆の良好な生育には石灰成分の施用も大切です。石灰成分が減少し、pHが下がると収量が減少するだけでなく、しわや裂皮粒が発生しやすくなったり、病害にかかりやすくなったりする恐れがあります。
大豆の生育に適している土壌酸度はpH6.0~6.5ですが、何の対策も施さないでいると、降雨などの影響によって徐々に酸性に近づくので注意しなければいけません。
出典:財団法人日本土壌協会「土壌診断によるバランスのとれた土づくり Vol.2 土壌診断結果の見方」、JA全農肥料農薬部「なるほど土壌診断ガイド」、新潟県「新潟県における土づくりのすすめ方(平成17年2月作成)」内「土壌の基礎知識(2)」などよりminorasu編集部作成
新潟県農林水産部の資料によると、10aのほ場でpHを1.0上げるのに投入する炭酸石灰の目安は、沖積砂質土壌では60~100kg、黒ボク土では230~265kgとなっています。
出典:新潟県「【農業技術・経営情報】大豆・麦・そば:大豆ほ場の酸性土の矯正について」
なお、大豆は出芽から生育初期にかけて肥料焼けを起こしやすい作物です。側条施肥は生育不良や収量減につながる恐れもあるので、基肥の施用は全面全層を基本にしてください。
大豆作の増収のカギを握る追肥のポイント
大豆栽培は基肥のほかに、追肥の施用方法やタイミングも重要です。追肥に関する適切な知識を身に付けて、増収かつ高品質な大豆の収穫をめざしましょう。
追肥の時期と施用方法
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
大豆は根粒菌によって大気中の窒素をアンモニアに変換する窒素固定ができる作物です。そのため、追肥による窒素分の補給は不要と考えられていた時代もありました。
しかし、大豆の子実肥大には多量の窒素が必要になるのも事実で、収量の安定には開花期から成熟期における追肥が重要になることがわかってきました。
10a当たりの具体的な施肥量の目安は、福井県作成の資料によると「窒素成分5~10kg」ですが、岩手県の農作物技術情報では、「硫安10kg、窒素成分2~3kg」とされています。
それでも生育が悪い場合は、開花期の2週間後から2週間おきに3回を目安に、尿素溶液の葉面散布を行うのも1つの方法です。その際は濃度1.5%、10a当たり100Lを目途に散布しましょう。
出典:
農林水産省「都道府県施肥基準等」内「福井県 施肥の手引き」所収「Ⅳ 麦・大豆等の土づくりと施肥対策」
岩手県「いわてアグリベンチャーネット」内「農作物技術情報 第5号 畑作物(令和2年7月30日発行)」
また、培土と同時に緩効性の肥効調節型被覆肥料を追肥すると作業回数が増えず、省力化にも貢献します。なお、適切な施肥量については、土壌の状態や大豆の生育状況によって変わるため、それらをよく確認したうえで適宜調節してください。
培土期追肥が効果的
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培においては窒素成分だけでなく、培土期にリン酸を追肥すると増収が望めます。特に関東以北の冷涼な気候の地域では、低温によりリン酸の可給化が遅れがちです。
リン酸は花や子実の生育を活性化させる役割を持つ要素であり、不足すると収量が減少する恐れが高まるので気を付けましょう。
農研機構の東北農業研究センターが培土期にリン酸を10a当たり10kgほど施用した試験では、主茎長や分枝数などに変化は見られませんでしたが、さやの数が増えたことによって増収につながるという結果が出ました。
従来からリン酸の葉面散布によって収量増に効果があることは知られていましたが、培土期のリン酸追肥でも同様の結果が得られるようです。
出典:農研機構 東北農業研究センター「東北農業研究 第65号 平成24年12月」所収「培土時のリン酸施肥が大豆の生育収量に与える影響」
もともと、大豆栽培では除草や倒伏防止などを目的に中耕培土を行うほうがよいとされています。その際に、過リン酸石灰などを用いて必要な栄養素を施用すればそれほど大きな作業負担にはならないはずなので、大豆の収量が少ないとことで悩んでいる方は試してみるとよいでしょう。
長雨による生育不良は窒素追肥で解消
:田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
大豆は湿害に弱い作物であるため、梅雨や秋の長雨シーズンなどで長期間にわたって降雨が続くと、著しく収量が減少することがあります。
窒素による追肥は、長雨が原因で生育不良になっている大豆の生育を回復させ、収量の向上に貢献する場合もあることは知っておきましょう。その参考になる資料が福岡県普及指導センターが2014年に行った試験です。
当該試験を行った年は、平年対比で329%もの降雨があった、きわめて雨の多いシーズンでした。一般的にはそれほどの降雨量があった年は減収になりがちです。
しかし、10a当たり2kgの窒素追肥を行ったところ、ほとんどの試験ほ場で粒数が増加し、12~31%も増収したという結果が報告されています。
窒素の施用量が10a当たり2kgと4kgの試験ほ場で大きな差はなかったことから、追肥量の違いによる影響が明確でない点には留意しなければいけません。その一方で、窒素追肥は大豆栽培農家にとって大きなリスク要因である、長雨への対処法の1つになりえることは覚えておきましょう。
出典:福岡県農林試験場「大豆生育期間中の長雨対策としての窒素追肥の効果」
施肥設計と共に知っておくべき大豆作で重要な栽培管理のポイント
大豆栽培においては、排水不良による湿害や温暖化の進展による高温障害による減収リスクもあります。最後に、それらの対策法を紹介しますので、施肥設計とあわせてチェックしておきましょう。
排水対策で湿害を回避
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
水田からの転作で大豆を栽培する際に、特に問題になりがちなのが湿害です。大豆は湛水に弱い畑作物であるうえ、梅雨のシーズンに生育初期を迎えることから、湿害による被害を受けやすいことが知られています。
湛水状態に陥った大豆は根が酸素不足になって生育不良を起こし、最悪の場合では枯死にいたります。そうした湿害を回避するには、播種前にあらかじめ十分な排水対策をほ場に施すことが重要です。
福井県の資料では、「額縁排水溝」「暗渠(あんきょ)」「圃場内排水溝(明渠・めいきょ)」を組み合わせた排水対策が推奨されています。
作業内容は、まずほ場内に水分が溜まらないように、額縁排水溝を施工して地表面の水を早期に排水する体制を作ります。そして、サブソイラなどを使用して暗渠と直交方向に補助暗渠を施工し、最後に条間を考慮しながらほ場内排水溝(明渠)を施工するといった流れです。
この排水対策は麦作においても有効なことから、輪作を行っている方は積極的に導入を検討してください。
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」内「福井県 施肥の手引き」所収「Ⅳ 麦・大豆等の土づくりと施肥対策」
高温対策で乾燥による減収を回避
大豆は湿害に弱い一方で、高温による乾燥状態が長く続くことでも減収する場合があります。乾燥状態による減収は開花期以降によく見られ、降雨量が少ない年や残暑の厳しい時期には、必要に応じて明渠や畝間を利用した灌水を行ったほうがよいケースもあります。
灌水を実施する目安は、「晴天が1週間以上続いている」「土壌に水分がなく、白くなっている」「大豆の葉が日中になると立ち、裏面が見える葉が半分以上ある」といった状態になったときです。
そのような状態になっていたら、土壌や作物が乾燥しすぎている可能性があるので、「朝または夕方の涼しい時間帯」に灌水してください。
ただし、水をほ場に入れっぱなしにすると、かえって湿害の原因になる可能性もあります。そのため、「ほ場の大きさによっては様子を見ながら数日に分けて徐々に灌水を行う」「畝間に水が入ったら速やかに排水する」といった点に気を付けながら実行することが大切です。
rara / PIXTA(ピクスタ)
大豆栽培において品質向上や収量増加を達成するためには、施肥設計が重要にです。特に水田からの転作で大豆を栽培する場合は、必要に応じて有機物や石灰窒素、リン酸などを施用するとよいでしょう。
ただし、作物の生長に必要な栄養素は作物の生育状況や生育ステージ、ほ場の状態によって異なります。
大豆栽培農家の方は、今回紹介した内容を参考にほ場にあった施肥設計を考え、大豆の収量増加や品質向上を実現させてください。
愛知県 都築様
■栽培作物
米・小麦・大豆
▷記録の蓄積による作業効率化
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▷記録の蓄積がないことで、作業や計画の効率化が図りにくかった
▷紙のマップで管理していた雑草防除などの作業効率が大幅にアップした
▷写真付きのメモを残せるので、ほ場で異変を後で振り返りやすくなった
▷タスク入力ができることでPDCAサイクルが回しやすくなった
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。