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梨農家は“お金持ち”になれる?期待できる年収と、失敗しない就農方法

梨農家は“お金持ち”になれる?期待できる年収と、失敗しない就農方法
出典 : やたがらす / PIXTA(ピクスタ)

梨のブランド化や園地拡大により、億単位の年商を挙げる梨農家がいます。実際のところ、梨農家はお金持ちをめざせるのか、わかりやすく解説します。また、新規就農時の課題についても解説するので、梨栽培を検討している方は参考にしてください。

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梨農家の農業所得の平均は、214万円ほどですが(農林水産省「平成19年度品目別経営統計」)、経営規模の拡大やブランド化により高収入をめざすことは可能です。どの程度の作業時間が必要になするのか、また就農時の課題についてわかりやすく解説します。

お金持ちのイメージもある梨農家、実際の年収はどのくらい?

単価が高いイメージがある梨

ごんちー / PIXTA(ピクスタ)

農林水産省では以前、「品目別経営統計」という調査を毎年実施していました。この調査では面積当たり、あるいは農家1戸当たりの平均年商(農業粗収益)や経営費などを調べ、全国の農家の経営状況を明らかにしています。

最後に実施された平成19年(2007年)度の品目別経営統計によれば、梨(日本なし)農家1戸当たりの平均農業所得はおよそ214万1,000円でした。

梨(日本なし)農家の農業粗収益・経営費・農業所得

10a当たり農家1戸当たり
農業粗収益59.4万円473.2万円
農業経営費32.5万円259.1万円
農業所得(粗収益ー経営費)26.9万円214.1万円

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 農業経営収支(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

上記の表から、農家1戸当たりの園地面積は平均で約80aと計算できます。さらなる収益向上をめざすなら、園地を拡大して大規模経営を行ったり、経営効率を高めたりすることが必要です。

実際に、梨のブランド化や園地の大規模化を実現している梨農家では億近い年商を挙げ、一般的な会社員以上に稼いでいる方もいます。

梨農家の仕事内容は? 梨の栽培に要する年間作業の例

梨農家として専業で働くこともできますが、ほかの作物を同時並行して栽培したり、加工品の製造など農業とは別の仕事に従事したりすることでも収入を増やすことができます。梨以外の栽培や仕事を行うためにも、梨栽培の年間スケジュールを把握することは欠かせません。

一般的な品種の栽培スケジュールや年間労働時間について解説します。

梨農家が行う主な作業とそのスケジュール

梨の授粉作業

tsukat / PIXTA(ピクスタ)

梨栽培のスケジュールは、品種や地域、気候などによって多少異なります。平均的なスケジュール例を紹介します。

作業内容
4月授粉(花粉付け)
5月摘果
6月袋かけ、ネット張り
7月除草などの管理作業
8~10月収穫、出荷
10~11月土作り、施肥
11~3月剪定、接ぎ木、誘引

出典:東松山市「梨づくりの1年」鳥取県立鳥取二十世紀梨記念館「二十世紀梨作りの暦」よりminorasu編集部作成

作業が多くなるのは4~10月の約半年です。11~3月にも剪定や誘引などの作業がありますが、毎日作業が必要になるわけではないため、梨の栽培以外に仕事を行うこともできます。

梨の袋掛け作業

PIXTA(ピクスタ)

一年の労働時間、目安は「約2,900時間」

品目別経営統計では、労働時間についての調査も実施しています。平成19年度の梨(日本なし)農家1戸当たりの年間労働時間は、平均約2,923時間でした。

同じ果樹であるりんご農家の2,781時間、桃農家の1,223時間と比較すると、梨は作業負担が大きめの作物であるといえます。

主な果樹の年間労働時間

1戸当たり10a当たり
日本なし2,923 h367 h
りんご2,781 h273 h
ブドウ2,071 h455 h
2,070 h186 h
みかん1,929 h236 h
びわ1,685 h370 h
1,425 h224 h
1,223 h284 h
桜桃1,139 h307 h
伊予柑1,112 h145 h

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 分析指標・労働時間(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

作業の内容別に見ると、整枝やせん定、授粉、摘果、収穫などに時間がかかることがわかります。ただし、剪定を主に行う時期は11~3月と長いため、作業を分散すれば、1日当たりの労働時間を削減して無理なく働くことが可能です。

梨(日本なし) 作業別の年間労働時間

作業内容農家1戸当たり10a当たり構成比
全体2,923 h367 h100.0%
基肥48 h6 h1.6%
整枝・せん定788 h99 h27.0%
追肥21 h3 h0.7%
除草・防除209 h26 h7.1%
授粉・摘果307 h39 h10.5%
管理193 h24 h6.6%
袋かけ・除袋591 h74 h20.2%
収穫・調製436 h55 h14.9%
出荷285 h36 h9.7%
管理・間接労働44 h6 h1.5%

出典:農林水産省「平成19年度品目別経営統計 分析指標・労働時間(1戸あたり)」よりminorasu編集部作成

梨の収穫作業

masy / PIXTA(ピクスタ)

梨の剪定作業

東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)

新規就農時、考慮すべき最大の課題は「初収穫までにかかる年数」

梨の苗木を植え付けてから、安定した収穫が見込めるようになる経済樹齢までは早くても3年程度かかります。

これから梨農家として新規就農をめざすに当たって、まずネックになるのは、成園するまで収入を確保できないことといえるでしょう。就農する前に丁寧に計画を立て、初収穫までの時期を乗り切ることが必要です。

また、安定した収穫を得られても、すぐに経営が安定するわけではありません。初期投資を回収するまでに時間がかかるため、収益化を実現するためにはさらに長い時間がかかります。長期的な資金計画を立てて梨栽培を進めることが大切です。

梨栽培においては、樹の仕立てによって成園するまでの年数が変わる点に注意しましょう。

梨 慣行の平棚仕立て

蕎麦喰亭 / PIXTA(ピクスタ)

現在主流となっている「平棚仕立て」は、成園化まで8~12年程度といわれています。そのため、成園化までの年数を短縮する仕立て方が各産地で開発されています。

例えば、大分県が開発し普及を推進している「流線形仕立て」では、収量の増加速度が早く、約3年で成園並みのを収穫が確保できます。

流線形仕立てでは10a当たり100本ほど栽培できるため、面積当たりの収益性が高いことも特徴です。樹形が単純なため作業性が高く、慣行の仕立てと比べると収穫や剪定に時間がかからず、労働時間の短縮を図れる点も注目すべきポイントといえます。

出典:大分県 農林水産部 農林水産研究指導センター 農業研究部 果樹グループ「研究Now」所収「成園まで12年かかったナシ栽培が3年で可能に ~新規・企業参入にも朗報~(平成24年10月22日発表)」

流線形仕立てのほかにも、滋賀県の「低樹高栽培」(5年目で成園並みの収量を確保)、福島県・栃木県・神奈川などが開発した「ジョイントV字樹形」(改植3年目からの収益化)など成園化までの年数を短縮するための新しい仕立て方が開発されていますので、自治体の農政部署や農業試験場などに尋ねてみるとよいでしょう。

出典:
滋賀県農業技術振興センター「技術情報・手引き・マニュアル」のページ所収「ナシ低樹高栽培の手引き」
福島県農業総合センター「農業総合センター技術マニュアル」のページ所収「ナシのジョイント V 字樹形による早期成園化技術導入マニュアル」
農林水産省 農林水産技術会議「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」所収「栽培中断園地における果樹の早期復旧に向けた実証研究 ~ナシのジョイントV字樹形の導入による早期成園化技術(ポスター)」

梨農家として失敗しないために! “成園を引き継ぐ”という考え方

成園までに時間がかかること、初期投資を回収するまでにも時間がかかることを考慮すると、新規に梨農家として就農することは難しいと判断する方がいるかもしれません。しかし、成園化している園地を引き継ぐことで、時間的あるいは経済的な課題を解消できることがあります。

初期投資の負担を抑えるなら、「園地の継承」も視野にいれよう

成園化して収穫を迎えた梨園

やたがらす / PIXTA(ピクスタ)

これから梨農家として就農しようと考える方もいる一方で、高齢化などによる廃業や規模縮小を検討している梨農園も少なくありません。

それらの園地では、農機具なども含めてまとめて事業を引き継いでくれる後継者を募集していることがあります。これから梨農家をめざすのなら、何もないところから園地づくりを行うのではなく、既存の園地を継承するという方法も検討できるかもしれません。

技術研修後に園地を紹介! 愛知県豊田市の支援例

愛知県豊田市では、梨農家としての研修を終えたあと、園地の紹介も受けられる「桃・梨専門コース」を実施しました。コースは2年間で、1年目は農業大学校において流通や農業経営、農業簿記などの基礎を学びつつ、市内の果樹農家の園地などで実践研修を行います。

2年目は同じく果樹農家の園地における実践研修に加え、自己管理園地が与えられ、栽培管理に取り組みます。また、独立に向けて専門家のアドバイスも受けられるため、2年間で梨農家としての基礎を習得することが可能です。

研修後、将来的にも豊田市内で農業経営を行いたいという意思があれば、果樹農家や地域の人々との信頼を得た上で、園地を継承することができます。

出典:豊田市ホームページ「桃・梨専門コース」

豊田市以外にも、全国的に廃業農家は多くあります。すぐに経営できる園地を探したいなら、自治体に相談してみてはいかがでしょうか。

【関連コンテンツ】 参考にしたい、梨農家の経営事例

梨の栽培を始めるに当たって、ほかの梨農家の事例が参考になります。例えば、個人ではなく法人として経営する方法もあります。法人化することで多くの梨農家が協力し、より大規模に、より高い経営効率を実現できるようになるケースもあるのです。

多くの梨農家が協力すれば、一人ひとりが持つ知識や経験を共有でき、梨の味や収穫時期にこだわったブランド化を実現することも可能です。

実際に、法人化したことで大規模な運営が可能になり、仲間たちとの協力のもと、予約販売だけでも完売するようなブランド梨を独自に開発した事例もあります。以下の記事では法人化とブランド化を両立させた事例を紹介しているので、参考にしてください。

梨農家として成功するためには、法人化が条件となるわけではありません。実際に小規模の農家として経営し、利益効率を高めることで収益性を向上した農家もあります。

以下の記事では、実際に園地に出ることなく、経営面から小規模農家をバックアップした事例です。大学と大学院で農業を学び、研究開発職としてメーカーに就職した経歴により培ったスキルと経験を、梨農家の経営効率アップに活かしています。

梨農家の農業所得の平均は、農家1戸当たり約214万円ですが、大規模化、ブランド化、収穫時期が異なる品種を並行して栽培するなどの工夫をすることで、収入を増やすことができます。

新しい仕立て方を導入することで、成園までの時間を短縮しながら、面積当たりの収量アップを図ることも可能ですし、廃業や規模縮小を検討している農家から園地を継承することで園地を拡大することも可能です。

また、複数の梨農家と協力して法人化することも、経営安定や収益率アップにつながります。ぜひ紹介した情報を参考に、より効率性の高い農業をめざしてみてはいかがでしょうか。

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林泉

林泉

医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。

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