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日本のフルーツを世界に! 輸出リンゴのシェア1位の日本農業に輸出戦略を聞く

日本のフルーツを世界に! 輸出リンゴのシェア1位の日本農業に輸出戦略を聞く
出典 : 画像提供:株式会社日本農業

昨今、日本の食料自給率の低下が課題とされる一方で、日本産食品の輸出が少しずつ増えていることをご存じですか? 日本産作物の輸出コンサルティングなどを行う株式会社日本農業代表取締役の内藤祥平さんに、グローバルマーケットにおける日本産作物の可能性について、お話を伺いました。

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株式会社日本農業 代表取締役 内藤祥平(ないとう しょうへい)さんプロフィール

高校時代に出会った農家との触れ合いがきっかけで農業に興味を持つ。アメリカのイリノイ大学に留学し、現地農家の後継者がビジネスとして農業を考える姿に衝撃を受ける。

その後慶應大学を卒業し、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。農業セクターでコンサルティングに携わる。2016年に株式会社日本農業を創業。東南アジアを中心に契約農家から買い取った日本産作物を輸出し、加速度的にシェアを拡大している。

株式会社日本農業 代表取締役 内藤祥平さん

株式会社日本農業 代表取締役 内藤祥平さん

食品の輸入に依存し、輸出額が少ない日本

国内の食料自給率は長年減少傾向にあり、一般消費される食品や食品原料など、多くの部分が輸入に依存しています。

一方、食品生産額に占める輸出額の割合は少なく、農林水産省が発表した「令和3年度 食料・農業・農村白書」によると、令和3年(2021年)の農林水産物や食品の生産額に占める輸出額の割合は全体の2%となっています。アメリカ(12%)やフランス(28%)、イタリア(21%)と比較しても低い水準となっています。

出典:農林水産省「令和3年度 食料・農業・農村白書」第一部 食料・農業・農村の動向「トピックス3 農林水産物・食品の輸出額が1兆円を突破」

日本産食品へのニーズが高まる中で、輸出拡大が進まない米や野菜

諸外国と比較して、食品の輸出額の割合が低い日本ですが、日本の食品は日本在住の外国人からの評価が高く、輸出のポテンシャルは高いといえそうです。

2016年に独立行政法人日本貿易振興機構が発表した「日本在住外国人による品目別日本食品評価調査」では、「健康的」「味がおいしい」「安全性が高い」といった評価を得ていることもわかっています。

中でも、日本産の米を好む人は9割を超えており、トマトやジャガイモ(馬鈴薯)といった野菜も高評価を得ています。

出典:独立行政法人日本貿易振興機構「日本在住外国人(中国、タイ、米国、英国)による品目別日本食品評価調査」

農林水産省が公表した「令和3年 の農林水産物・食品の輸出額」によれば、令和3年(2021年)に、日本の農林水産物・食品の輸出額は初めて1兆円を突破しており、徐々に日本産食品へのニーズは高まっているといえるでしょう。

しかし、その内訳の大部分は加工食品や畜産品であり、米や野菜の割合はまだまだ低く、日本産作物の輸出状況は芳しくないのが実情です。

出典:農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」のページ内「令和3年(2021年)【確々報値】」の項所収「農林水産物・食品の輸出額」

日本産作物の輸出は、新たなビジネスチャンスに!

このような日本産作物の輸出割合の低さを「拡販余地」と考えて、新たなビジネスチャンスを生み出した会社があります。それが株式会社日本農業です。

株式会社日本農業 代表取締役 内藤祥平さん(以下役職・敬称略) 私は、高校時代に自転車で日本各地を旅した経験があります。そのときに知り合った農家の方にご馳走していただいた作物がとてもおいしかったことが、農業に関わろうと思ったきっかけです。

しかし、多くの農家を悩ませているのは「栽培した作物が売れない」という現実です。これを解消するために何ができるのかと考えました。

そこで、内藤さんは日本産作物の輸出に注目したといいます。農家が国内の需要を取り合うのではなく、まだまだ「拡販余地」がある海外に向けて販売していけば、作物が売れないという課題を解決できるのではないか、と考えたのです。

海外にマーケットを広げることで国内の農業を活性化

日本国内では、国産作物の安全性や品質の高さが、需要につながっています。しかし、日本の人口減少や安い海外産作物の流通により、国産作物の国内での販売は、ますます競争が激化していくと考えられます。

前述のとおり、外国人からも高い評価を得ている国産作物の海外輸出が増加すれば、国内で需要を奪い合うのではなく、新たな市場で利益を獲得できる可能性を秘めています。

儲かる農業が実現できれば、効率的な栽培のための設備投資や人員増加も可能になるなど、国内の農業を活性化させる足掛かりとなることが期待できるのです。

海外マーケット進出を成功させる7つのポイント

内藤 国産作物の海外マーケット進出に向けて、販売する作物の策定や販路獲得、販促のためのマーケティング、品質を保つ流通経路の確保など、解決すべき課題は多くあります。

日本農業は、これらの課題をどのように乗り越えていったのでしょうか。

ポイント1:現地のニーズに対応した作物を選定

日本農業では、主に中国や台湾、タイなどの東南アジアへの輸出を行っています。

中国や台湾では春節と呼ばれる旧正月の祝いには「赤いもの」を飾る習慣があり、春節にりんごを食べると1年間健康に過ごせるといわれていることから、りんごの需要が高くなります。

また、タイで日本産サツマイモを使った焼き芋が人気ということもあり、ここ数年で日本産サツマイモの需要が高まっています。

このように、各国でニーズの高い作物を調査し、現地のバイヤーや小売店などの販路を開拓していくことが重要だと内藤さんは語ります。

タイや東南アジアで焼き芋が人気となり、サツマイモ需要が伸びている

画像提供:株式会社日本農業

ポイント2:輸出先国の基準で選果を行う自社施設を運営

作物の海外輸出においてネックとなるのがインポートトレランスです。いくらおいしい作物を生産できたとしても、輸出先国の残留農薬基準値を超えてしまうと、輸出できない可能性もあります。

インポートトレランスは国や地域によって基準値が異なるため、輸出先に合わせて作物を栽培、選果する必要があります。

農家の規模によっては、輸出を検討していても輸出先のインポートトレランスを満たした作物の選果作業に、十分な時間を割くことが難しいケースも少なくありません。

そこで、日本農業では自社で選果梱包施設を持つことで、自社ほ場で栽培された作物に加え、契約農家から買い取った作物の選果・梱包作業も受託しています。

各国の残留農薬基準値だけでなく、自社で独自に設定した品質基準を満たした作物を自社ブランド「ESSENCE」の商品として販売しています。

作物を自社選果梱包自社に集め、効率的に輸出先国に合わせた選果作業を行うことで、海外顧客のニーズに対する細やかな対応を可能にしているのです。

ポイント3:梱包やコンテナへの積み込みを工夫し輸送コストを削減

作物の輸出では、輸送コストも課題になります。作物の鮮度を維持しつつ、輸送コストを抑えるためには船便で効率的に作物を輸送しなければなりません。

日本農業では梱包の際に段ボールを使用しています。段ボール内のりんごの積み方を3段積みにしたり、コンテナ内のデッドスペースをなくすために積み込み方法を改善したりなどの工夫を凝らし、1度の輸送でより多くの商品を輸出することでコスト削減を行っています。

ポイント4:日本産作物のおいしさを伝えるセールスプロモーション

ニーズのある作物を輸出するだけでは、日本産の作物の魅力を十分伝えられるとはいえません。

運送コストがかかる分、日本産作物はその国で栽培される作物よりも価格が上がります。そのため、高価格でも購入してもらうためのプロモーションが必要になるのです。

内藤 日本産の作物として、ただ店頭に並べるだけでは現地産のものと差別化できません。差別化を成功させるためには「日本産」として売るだけでなく、消費者に「おいしいから買いたい」と思ってもらう必要があります。

日本農業ではスーパーの店頭に販売員を派遣し、試食してもらうことで日本産作物のおいしさをプロモーションしています。

株式会社日本農業 バンコクでの試食販売の様子

バンコクでの試食販売の様子
画像提供:株式会社日本農業

さらに、日本農業では「日本産作物の魅力」や「品種ごとに変わるおいしさ」を的確にアピールできるよう、販売員向けの研修も行っています。

株式会社日本農業 海外の販売員に向けた販売研修

海外の販売員に向けた販売研修
画像提供:株式会社日本農業

ポイント5:付加価値のついた作物を販売するための徹底したマーケティング

日本産ならではの「おいしさ」や「安全性」など付加価値のついた高価格商品を購入する購買層が、どのエリア・どの店舗で買い物をするかを把握することも重要です。現地に赴き、ターゲットとなるエリアや店舗を調査することで、市場性を正確に把握しターゲット顧客を絞ります。

店頭でのプロモーションと徹底したマーケティングの結果、日本農業のオリジナルブランド「ESSENCE」は輸出先各国で加速度的にシェアを拡大することに成功しています。

ポイント6:栽培効率を上げるためのノウハウを農家に共有

高品質な日本産作物としてのブランドイメージを保ち続けるために、品質維持・向上に向けた栽培研究も欠かせません。高品質な作物を効率よく栽培するため、日本農業では自社ほ場での栽培や、契約農家への技術指導も行っています。

内藤 海外へ輸出する作物の供給量が途絶えないよう、自社ほ場でりんごの栽培を実践しています。

グループ会社Red Apple社と協働して、高密植栽培方式の実証実験を行い、そのノウハウを契約農家向けに指導しています。また、海外で活用されている農業用資材の輸入も行っています。

海外の消費者にも日本産作物の魅力を伝えたい農家や、海外の先進的な栽培技術を取り入れたいと考えている農家に応えることで、海外で評価される作物を栽培し続けることができると考えています。

株式会社日本農業 高密植栽培方式による効率的なりんご栽培を実証

高密植栽培方式による効率的なりんご栽培を実証
画像提供:株式会社日本農業

ポイント7:輸出ハードルが高い作物は現地で栽培

海外に需要がある作物であっても、輸送に時間がかかってしまう以上、輸出が困難な場合もあります。日本産のイチゴは海外で高い評価を得ている作物の1つですが、鮮度を保ったまま輸出することが難しい作物でもあります。

内藤 イチゴの栽培適温は17℃から20℃ほどと低いため、タイなどの亜熱帯地域での栽培は困難になります。そのため店頭に並ぶイチゴの多くは輸入品です。

タイ国内では、日本のイチゴは「安心・安全でおいしい」と人気です。しかし、日本からの輸出の場合、輸送コストを考えると、船便でイチゴを届けることになります。船便はコストを抑えられる反面、輸送にかかる時間が長くなります。

イチゴは長期保存に向かない作物なので、鮮度のいい日本産イチゴをタイで販売することは簡単ではありません。日本産の品質価値と輸送コストによって高価格帯での販売となるため、自然と購買層は富裕層に限られます。

内藤 どうにか日本のイチゴのおいしさを、幅広い人に伝えることができないかと考えた私たちは、タイ北部のチェンマイという、比較的気候が穏やかな地域でイチゴ栽培の実証実験を始めました。

株式会社日本農業 チェンマイにあるイチゴ栽培のハウス

チェンマイにあるイチゴ栽培のハウス
画像提供:株式会社日本農業

現地栽培と輸出販売によって期待されるシナジー効果

タイ国内で日本産と同じクオリティのイチゴを栽培することができれば、日本産と並ぶおいしさのイチゴを消費者に届けることができます。輸送コストも抑えられるため、価格を抑えて販売することで、中間層への販売が見込めます。

タイで栽培した日本のイチゴのおいしさを広く知ってもらうことができれば、日本産イチゴに興味を持つ消費者が増えるかもしれません。普段は日本産イチゴをなかなか買えない消費者でも、晴れの日や特別なイベントのある日には購入してもらえる可能性が高まります。

国産作物と同じ品質の作物を海外拠点で栽培することは、その国の消費ニーズに応えるだけではなく、日本産作物の魅力を幅広い購買層に伝える効果も期待できるのです。

株式会社日本農業 タイでのイチゴ生産 栽培や梱包は現地スタッフが行う

栽培や梱包は現地スタッフが行う
画像提供:株式会社日本農業

海外輸出によって作物のロスを解消

日本農業では海外に向けて高品質な国産作物を出荷する一方、国内では需要が少ない商品の輸出も行っています。その一例が、小玉りんごの輸出です。

日本でりんごといえば中玉から大玉のものが好まれる傾向にありますが、海外では低価格で購入できる小玉りんごの人気も高いそうです。

内藤 国内でも小玉りんごの販売は行われていますが、主流とはいえません。中にはサイズが小さいために、規格外になってしまうりんごもあります。

国内では規格外となってしまう小玉りんごの販売先として、海外輸出という選択肢が増えることは、作物ロスを減らすことにもつながるのです。

今後の課題は「知的財産」の保護

海外に拠点を設けて生産や販売を行うとなれば、危惧されるのは日本産作物のブランド価値の根元となる栽培技術や品種改良技術といった「知的財産」の流出です。

日本産作物のブランド価値を維持し、知的財産の盗用を防ぐために、国内の技術や品種改良された種苗の情報は国内だけに留めておきたいと考える農家も少なくありません。

増加する偽物の日本産食品

株式会社NTTデータ経営研究所の2016年の報告によれば、育成者の権利保有者の8.4%が海外流出を経験しており、中国のインターネット販売大手で販売される日本産食品の55%は偽物だと推定されています。

出典:農林水産省 農林水産政策研究所 「セミナー開催案内等(平成28年度)」所収 株式会社NTTデータ経営研究所「国内外の農産物等における知的財産を保護する制度や科学技術に関する比較分析」

ライセンス制にすることで、農業品種知的財産の管理・保護をめざす

ノウハウの流出による損失を防ぐために、内藤さんは「ブランド価値を守るためにも、ライセンス制にして農業品種知財管理を行うべき」と語ります。

内藤 農業生産ノウハウや登録品種など、農業に関わる多くの人が積み重ねてきた知的財産が無断で流出してしまう事件が多く報告されています。言い換えれば、それだけ価値のあるノウハウを日本の農家は持っているということです。

国内で蓄積してきた栽培ノウハウを商標登録したり特許申請したりすることで、万が一流出したときに権利を主張できるようになります。

また、海外の農協とロイヤリティ契約を結ぶ形でノウハウを共有することができれば、日本の技術やブランド価値を守りながら、マネタイズすることも可能になります。

国によって対応は変わるので、日本農業では輸出・販売のサポートだけでなく、輸出知財管理にも力を入れています。

国内市場のみならず、海外にも視野を向けることによりターゲット市場を広げていくことで、これからの日本の農業はさらに大きく発展していくのではないでしょうか。

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福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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