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ほうれん草農家として高収入をめざすには? 品種選びから省力化まで

ほうれん草農家として高収入をめざすには? 品種選びから省力化まで
出典 : UenoHiroshi / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草農家の年収(所得)は、周年栽培で高収入をめざすか、露地の秋冬どりで集約的に収入を得るかで変わってきます。この記事では、ほうれん草農家の所得目安や労働時間について紹介し、周年栽培で収益性を高めるポイントについて解説します。

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出荷前のほうれん草

テラス / PIXTA(ピクスタ)

まず、公的機関のデータから、ほうれん草農家の所得や労働時間と、その特徴をみていきます。そのうえで周年栽培における品種選定、施肥設計、収獲・調整の機械化について解説します。

ほうれん草農家の年収は? データから見る収支の目安

農林水産省では2007年まで、品目ごとの収益や作業時間を調べる「品目別経営統計」を実施していました。2007年の調査によれば、露地栽培ほうれん草の1戸当たりの農業所得は平均116.1万円となっています。

露地葉茎菜の経営収支 1戸当たり

出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成

ほうれん草の1戸当たり農業所得は高くないものの、農業所得率は、白ねぎ、青ねぎに次いで高いことがわかります。

自営労働時間をみると、ほうれん草は年間1,404時間で、レタスに次いで多くの時間が投下されていることがわかります。

さらに10a当たりの自営労働時間をみると、ネギ類を除くとほうれん草が最も多く、レタスの約1.6倍、キャベツや白菜の約2.4倍となっています。

露地葉茎菜類の10a当たり自営労働時間

出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成

10a当たりの労働時間が少ないキャベツと、作業別労働時間の構成比を比較すると、ほうれん草は、特に収穫後の調整に時間をとられていることがわかります。

露地栽培 ほうれん草とキャベツの作業別労働時間の構成比

出典:農林水産省「農業経営統計調査 平成19年産品目別経営統計」よりminorasu編集部作成

収穫や調整、出荷の3つの作業だけで全体の約82%を占めることから、ほうれん草は栽培管理よりも、収穫以後の作業に時間がかかることがわかります。

反対に、栽培そのものには時間がかからないため、収穫から調整・出荷までの作業の効率化を実現すれば、より収益性の高い農業へと改善できます。

ほうれん草には育苗の過程がないため、早く次の栽培に移ることができる点にも注目できます。栽培サイクルの回転率を上げることで所得増をめざせるでしょう。

ほうれん草農家が一番儲かる作型は「周年栽培」!?

ほうれん草の露地栽培

kita / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草は収穫までの期間が短く、栽培管理にかかる作業時間が少ないので、各地で周年栽培が導入されています。

作期の短いほうれん草は、一年を通して出荷が可能

ほうれん草は夏播きであれば30~40日、春播きや秋播きであれば40~60日で収穫できる作期の短さが特徴です。ハウス栽培やトンネル栽培を組み合わせれば春から秋までの間に4~5回、またはそれ以上の作付けが可能になります。

ほうれん草は一年を通して需要があるので、出荷先が確保できれば、周年栽培が収益をあげる第一の選択肢といえるでしょう。いかに収穫回数を増やせるか、がポイントになります。

【参考】 ほうれん草の周年栽培を行う農家の経営モデル

ほうれん草の露地栽培・トンネル栽培・ハウス栽培

極楽蜻蛉 / PIXTA(ピクスタ)・kita / PIXTA(ピクスタ)・haruyoshi yamaguchi / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草の栽培が盛んな群馬県が公表している経営指標によると、ハウス栽培での周年栽培は、秋冬どりの露地栽培と比べて収量は5倍、所得は5倍以上、時間当たりの所得も3倍以上となっています。

ただし、年間労働時間は、当然ながら露地の秋冬どりが短くなります。

ハウスやその付帯設備に設備投資して、周年栽培でほうれん草での高収入をめざすか、ほかの作物と組み合わせた営農で、ほうれん草は露地の秋冬どりに集約するかは、個々の農家の経営判断に委ねられます。

群馬県 ほうれん草の経営指標(10a当たり)

作型ハウス
周年
露地
秋冬どり
収量6,000㎏1,200㎏
所得122.9万円23.3万円
生産費387円539円
1時間当たり所得4,005円1,271円
労働時間731時間304時間

出典:群馬県農政部ぐんまブランド推進課運営「ぐんまアグリネット」内「農業経営指標」所収「R2農業経営指標一覧(単位当たり)」よりminorasu編集部作成

ポイント解説! 周年栽培で “稼げる”ほうれん草農家になる方法

ほうれん草 大型ハウス栽培

akitaso / PIXTA(ピクスタ)

周年栽培さえ実施すれば、高収入のほうれん草農家になれるわけではありません。次の3つのポイントに留意し、周年栽培に取り組みましょう。

・作期に応じた適切な品種選定
・土壌分析結果に基づく基肥主体の施肥設計
・負担の大きい「収穫・調整作業」の機械化

それぞれのポイントについて解説します。

作期に応じた適切な品種選定

トンネル栽培 ほうれん草 発芽

earth-treasure / PIXTA(ピクスタ)

春期や秋期の低温期に作付けするほうれん草は低温伸長性に優れた品種を選ぶ、5~7月の日照時間が長い時期には抽苔しにくく、発芽ぞろいがよい品種を選ぶなど、作期に応じた品種選定が大切です。

例えば、早春播きならば、低温伸長性と耐寒性を重視し、春播き~夏播きは晩抽性・耐暑性が選定のポイントになります。

秋播きならば、多収性を重視するか、耐暑性・低温伸長性を重視するかで選定する品種は変わってくるでしょう。晩秋播き~寒じめの場合は、低温伸長性・耐寒性の優れた品種を選ぶことになります。

なお、品種選定に当たっては、べと病のレースや萎凋病の耐病性についても考慮する必要があります。

作型別にもとめられる特性と、その品種例を挙げますので参考にしてください。

ほうれん草の作型と品種例

作型品種例一般地・暖地の
播種時期
低温
伸長性
耐寒性晩抽性耐暑性多収性
早春まきスーパーヴィジョン1月下旬~2月上旬
春まきハンター2月下旬~3月下旬
春まき晩抽サンホープ3月中旬~4月中旬
春まき
夏まき
ジャスティス3月下旬~8月中旬
夏まきサンホープセブン5月中旬~6月中旬
夏まきミラージュ7月下旬~9月上旬
夏まきタフスカイ7月下旬~9月下旬
秋まきドンキー9月上旬~10月上旬
秋まきハンター9月中旬~10月上旬
秋まき弁天丸9月下旬~10月下旬
秋まきスーパーヴィジョン9月下旬~10月下旬
晩秋まきクロノス10月中旬~12月中旬
寒じめスーパーヴィジョン10月中旬~下旬
寒じめ弁天丸10月下旬~11月下旬

出典:以下資料よりminorasu編集部作成

農林水産省「普及事業ホームページ|生産体制・技術確立支援 手引き(平成30年度~令和3年度)|北陸ブロック」所収 「富山県 施設ほうれんそう栽培における温暖化対策に向けた新技術の確立~普及周年安定生産に向けたほうれんそう栽培マニュアル(暫定版)」

トキタ種苗株式会社
「スーパーヴィジョン」

カネコ種苗株式会社
「ハンター」
「晩抽サンホープ」
「サンホープセブン」

株式会社サカタのタネ
「ミラージュ」
「ドンキー」
「クロノス」

タキイ種苗株式会社
「タフスカイ」
「弁天丸」

土壌分析結果に基づく基肥主体の施肥設計

ほうれん草 ほ場準備

gomasio / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草は収穫までの期間が短いため、追肥はあまり実施せず、基肥主体の施肥となります。ハウス栽培では土壌に雨が当たらないことから、ほうれん草が吸収しない肥料の残効が蓄積し、次作での発芽不良や生育抑制の原因になることがある点に注意しましょう。

そのため、2作目以降は、施肥による持ち込み量から収穫による持ち出し量を差し引いて施肥を実施します。

しかし、計算を丁寧に実施しても、計算どおりの量の成分が土壌に存在するとは限りません。定期的に土壌分析を実施し、分析結果が基準値に近づくように施肥することも必要です。

また、土壌の保肥力や保水力を維持するために、毎年、完熟堆肥を施肥することにも留意しましょう。ただし堆肥の中にも肥料に含まれる成分が重複して含まれるため、基肥を施肥するときは成分量の調整が必要です。

一例として、富山県農業技術課の「周年安定生産に向けたほうれんそう栽培マニュアル」から、ほうれん草1作分の持ち出し量の目安を紹介します。

■ほうれん草1作分の持ち出し量目安(㎏/a)

基肥1作分の
持ち出し量
窒素1.20 kg0.80 kg
リン酸3.10 kg0.36 kg
カリウム1.20 kg1.10 kg
石灰(苦土石灰0.21 kg
苦土石灰20 kg)0.27 kg

出典:農林水産省「普及事業ホームページ|生産体制・技術確立支援 手引き(平成30年度~令和3年度)|北陸ブロック」所収 「富山県 施設ほうれんそう栽培における温暖化対策に向けた新技術の確立~普及周年安定生産に向けたほうれんそう栽培マニュアル(暫定版)」

負担の大きい「収穫・調整作業」の機械化

前述のように、ほうれん草は特に収穫・調整・出荷の作業負担が大きい作物です。そのため、収穫や調整の処理能力を高めることで作業効率が向上し、人件費の削減や作付け面積の拡大につながっていきます。。

収穫機や根切機、調整機などを積極的に導入し、作業効率を高めてみてはいかがでしょうか。

参考に、株式会社クボタの軟弱野菜向けの調整機・収穫機を紹介します。

軟弱野菜調整機

株式会社クボタ Youtube公式チャンネル「軟弱野菜調整機 NC301」

最も時間のかかる調整作業には「軟弱野菜調整機 NC301」が提供されています。根切り・土払い・下葉取りの一連の調整作業を自動化できます。同社調べでは、手作業の2~3倍の高効率ということです。

製品ページ:株式会社クボタ「軟弱野菜調整機 NC301」

同社の「ほうれんそう|調整・包装」ページでは、計測機・包装機も紹介されているので参考にしてください。

ほうれんそう収穫機

株式会社クボタ Youtube公式チャンネル「クボタほうれんそう収穫機 SPH400」

調整に次いで時間がかかる収穫作業については、施設栽培向けの「ほうれんそう収穫機SPH400」があります。4条同時収穫でき、同社調べで手作業の最大10倍程度の効率だということです。

ただし、露地栽培・加工用栽培には使用できず、対応できる品種は品種は立性・極立性のみです。

製品ページ:株式会社クボタ「クボタほうれんそう収穫機 SPH400」

同社の「ほうれんそう|収穫」ページ では、ほ場での鎌などでの根切り作業を自動化する「自走式根切り機」なども紹介されているので参考にしてください。

スーパーに出荷されたほうれん草

sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)

ほうれん草は露地栽培でも所得率は高く、周年栽培の導入と、その効率化によって収益増を期待できます。この記事で紹介した品種選定や施肥管理ののポイント、収穫・調整の機械化の例を参考に、稼げるほうれん草農家をめざしてください。

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林泉

林泉

医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。

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