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にんにくの反収は?期待できる収入と「儲かる」経営の実現方法

にんにくの反収は?期待できる収入と「儲かる」経営の実現方法
出典 : ぺっぱー / PIXTA(ピクスタ)

にんにくの作付けを検討するなら、まずはにんにく栽培の平均反収を把握して、それに基づく中・長期の経営計画を立てることが大切です。そこで、収量の全国平均や卸売価格から反収を算出するとともに、今後の需要見通しや反収を向上させる工夫について解説します。

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需要が高く、軽作業中心で栽培しやすいにんにくは、水稲と野菜類の栽培を組み合わせる複合経営の作目として、また、輪作や水田転換作目としてもおすすめです。ここで紹介するにんにく栽培のポイントを押さえ、反収アップをめざしましょう。

にんにくの10a当たり収量は? 反収の目安と期待できる収入

にんにくのほ場

taka/PIXTA(ピクスタ)

にんにくを作付けした際の収入の目安として、農林水産省による2020年の「作況調査」や「青果物卸売市場調査」から算出した値を見てみましょう。また、にんにくの主要生産地である青森の経営モデルを紹介します。

最新データで見る、にんにくの反収と粗利益

農林水産省が公表している「令和2(2020)年産野菜の作況調査(野菜)」では、にんにくの作付面積は全国で2,530ha、収穫量は21,200t、出荷量は15,000tとなっていて、10a当たりの収量は全国平均で838kgです。

にんにくの都道府県別 収穫量・出荷量・作付面積

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(野菜)」「確報|令和2年産野菜生産出荷統計(にんにく)」よりminorasu編集部作成

なお、2020年の統計で数値が計上されている都道府県は、北海道と東北、四国、九州に限られています。

一方、令和2(2020)年の「青果物卸売市場調査」では、全国の卸売総数は19,214t、1kg当たりの卸売価格は840円となっています。

にんにくの卸売総数と価格の推移

出典:農林水産省「青果物卸売市場調査」掲載「令和2年青果物卸売市場調査報告」よりminorasu編集部作成
注)総数と総価額から算出される価格は、大臣官房新事業・食品産業部が保有している前年度の地方卸売市場の数量や価額をもとに、主要都市の市場計から推計したもの

これらの調査結果から、次のように10a当たりの収入を割り出せます。

10a当たり収量(838kg)×1kg当たり卸売価格(840円)
=10a当たりの収入 70万3,920円/10a

これはあくまでも計算上の数値であり、工夫次第でさらなる収入を得ている例も少なくありません。

経営収支例】 にんにく生産量日本一、青森県の経営モデル

具体的な経営収支の例として、にんにく生産量日本一の青森県が案内しているにんにく農家の経営収支モデルを、栽培暦のポイントや労働時間と併せて紹介します。

10a当たりの収量を1,000kg、販売単価を1,087円を前提にした経営収支モデルで、粗収益108万7,000円です。ここから経費を差し引いて期待される所得は44万4,105円となり、所得率は41%です。

経費は64万2,895円と試算されており、そのうち種苗費30万6,667円と流通経費21万2,426円がほとんどを占めます。

青森県 にんにくの経営収支モデル

出典:青森県 西北地域県民局地域農林水産部「複合経営に取り組む農家のための『野菜栽培の手引き』(改訂版)について」所収「複合経営に取り組む農家のための野菜栽培の手引き(平成29年3月改訂)」よりminorasu編集部作成

この経営モデルは、同じ国産にんにくでも収量・品質ともに高い水準を期待できることから、10a当たりの粗収益は全国平均より高くなっています。

さらに、青森県福地村のように「福地ホワイト六片種」という最高級品種のブランド化に成功し、大きな収益を得ている例もあります。

このように、栽培を工夫したり、直販や加工品販売などを積極的に行い独自の販売ルートを開拓したりすることで、さらに収益を増やすことも可能です。

なお、青森におけるにんにくの栽培暦は、9月に除草剤散布や土作り、施肥、マルチングなど畑の準備を始め、9月下旬~10月上旬にかけて植え付けを行います。越冬後、茎葉伸長期を経て6月頃に球肥大期、6月下旬~7月中旬にかけて収穫期を迎えます。

年間労働時間は219時間で、収穫期である6~7月や播種期の10月、また、越冬前の芽出しや芽かき作業のある11~12月が繁忙期です。

青森県 にんにくの収穫・調整作業

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

にんにく農家って今後も儲かる? 国産にんにくの需給動向

今後、長期的に安定した収入を見込めるかどうかは、需給動向をもとに推測するとよいでしょう。参考として、農林水産省の「青果物卸売市場調査(長期累年)」の2020年調査の結果から、「にんにく」および「にんにく輸入」の卸売数量と価格の推移を見てみましょう。

にんにくの価格推移

出典:農林水産省「青果物卸売市場調査」掲載「長期累年(都市類別にみた野菜の卸売数量・価額・価格累年統計)」よりminorasu編集部作成
注)国産の価格は、大臣官房新事業・食品産業部が保有している前年度の地方卸売市場の数量や価額をもとに、主要都市の市場計から推計したもの。輸入は主要都市の合計

2011~2020年の10年間の推移を国産と輸入別に見ると、1kg当たり価格では、国産にんにくが647円から840円、輸入にんにくは244円から331円と、いずれも堅調に価格が上がっています。年によって多少の増減はありますが、長期的に見て上昇傾向にあることがわかります。

さらに、卸売数量の推移を見ると、国産にんにくは22,868tから19,214t、輸入にんにくは9,158tから6,616tと、ともに減少傾向にあります。しかし、国産にんにくは価格が倍以上であるにも関わらず、その減少幅は緩やかであることから、輸入にんにくより国産にんにくの需要が高まっていると考えられます。

にんにくの卸売総数の推移

出典:農林水産省「青果物卸売市場調査」掲載「長期累年(都市類別にみた野菜の卸売数量・価額・価格累年統計)」よりminorasu編集部作成
注)国産の総数は、大臣官房新事業・食品産業部が保有している前年度の地方卸売市場の数量や価額をもとに、主要都市の市場計から推計したもの。輸入は主要都市の合計

国産にんにくの需要が高まっている背景には、近年の食に関する安全意識や健康志向の高まりもあると考えられます。それを裏付けるように、前出の出典「2020年作物統計調査 作況調査」では、対前年比作付面積は108%となっており、にんにくの作付面積は増加傾向にあることがわかります。

稼げるにんにく農家をめざす! 反収アップを叶える3つのポイント

にんにくの需要は安定して高く、複合栽培に適していることからも、工夫次第で反収アップが期待できます。そこで、にんにく栽培にあたって注目すべき3つのポイントを紹介します。

1. 品種選定と種球選び

収穫直後のホワイト六片

ヨシヒロ / PIXTA(ピクスタ)

にんにくには寒地栽培・暖地栽培それぞれに適した品種があるため、栽培地に適した品種を選ぶことが重要です。

寒地に向く品種は「ホワイト六片」や「白玉王」など、暖地に向く品種は「壱州早生」や「上海早生」などがあります。都道府県別に作付けされている主な品種は、北海道や青森の「福地ホワイト」、香川県や大分県の「上海早生」、宮崎県の「嘉定」などです。

また、品種以外に気を付けるポイントとしては、ウイルス病に感染していない、より大きい種球を用いることが良質多収につながります。

2. 追肥を重視した施肥設計

にんにく栽培で重要なポイントは、適切な施肥設計です。特に石灰の施用は収量を大きく左右します。ただし寒地の場合、にんにくは秋に植え付けてから越冬の間、生育が穏やかで、4月までは基肥の窒素吸収量も多くありません。

一方で、りん片分化期以降は吸収量が増えるため、追肥が重要になります。

1回目の追肥を4月上旬に行い、2回目の追肥は、透明マルチの場合はりん片分化期後10日頃、黒マルチの場合はりん片分化期~同後10日頃に行います。全量基肥栽培とする場合は、緩効性肥料を施用するとよいでしょう。

具体的な施肥量は、地域や品種、作付け体系によって異なりますので、自身のほ場環境に近い地域の施肥基準を参考にしてください。ここでは、目安として青森県の施肥基準を紹介します。

青森県のにんにく 施肥基準(10a当たり)

窒素リン酸カリウム
マルチ栽培全量基肥20~25kg20~25kg20~25kg
マルチ栽培基肥10~15kg20~25kg10~15kg
追肥5kg-5kg
露地栽培基肥7~10kg20~25kg7~10kg
追肥10~16kg-10~16kg

出典:農林水産省「都道府県施肥基準等」掲載「青森県|健康な土づくり技術マニュアル」所収「【露地】3施肥基準」よりminorasu編集部まとめ

3. 機械化による作業効率の向上

にんにくの機械収穫

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

にんにくの作付けを始めるに当たっては、可能な限り機械化することを前提に、大規模化をめざすのも収量アップに有効です。

にんにく栽培では、畝立てから収穫まで機械化一貫体系が確立されており、導入することによって大幅な省力化を実現できます。

ただし、一貫体系の導入にはかなりの設備投資が必要なため、一戸の農家では少なくとも1.5ha以上の大規模経営でない限り、コストがかかりすぎてしまいます。

そこで、数個の農家が共同で導入したり、JAが農家にリースしたりしているケースもあります。一例として、富山県南砺市のJAなんとの取り組みを紹介しましょう。

JAなんとでは、ヤンマーホールディングス株式会社の「畝立同時施肥マルチロータリー」「乗用型にんにく植付機」「にんにく収穫機」をJAが購入し、農家にリースしています。

導入前の2012年に行った試験では、機械化による省力化として、10a当たりの作業時間に対し、以下のような実績を得ました。

「施肥・畝立てマルチ」作業時間:慣行の12.0時間から1.6時間に減少
「植付」作業時間:慣行の84.0時間から9.9時間に減少
「収穫」作業時間:慣行の74.0時間から10.0時間に減少

にんにく 機械化体系導入による作業時間の短縮効果

出典:公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会「新稲作研究会|成績検討会(平成24年度)」所収「にんにくのうね立て・マルチ・植付け及び収穫用機械の導入による省力・機械化一貫体系の確立(富山県砺波農林振興センター担い手支援課)」よりminorasu編集部作成

さらに、10a当たりの作業時間全体では、慣行作業が344時間であるのに対し、機械化体系では196時間と、大幅な省力化が可能なことがわかりました。リースを活用すれば、1ha以下の小〜中規模農家であっても機械化一貫体系を導入できます。

なお、機械で省力化できない、収穫後の乾燥前後に行う調整作業にも多大な作業時間がかかるため、この部分の省力化が今後の課題です。

もう1つの事例として、従来の産地ではなかった岐阜県恵那市において、2010年からにんにく栽培に取り組み、機械化による大規模経営で成功を収めた「農業生産法人 有限会社東野」の事例を紹介します。

同社では、代表取締役の伊藤仁午さんが地元で増加していた休耕田を再生したいと考え、継続して収益を上げられる作物として選んだのがにんにくでした。

そして、大規模経営を前提に、収穫作業と調製作業を分けて省力化・効率化を考え、パワーハーベスタとルートシェーバーを導入しました。

機械の導入に当たっては、規模や目的に合わせ、人材とのバランスを考えながらトータルで判断し、導入することが大切だと伊藤さんは考えました。

2010年に3.5haから始めたにんにくの作付けは、翌2011年に7.5ha、2012年に10ha、2013年には15haと順調に面積を増やしました。

にんにくの販路はインターネットや電話による直販や、イベント等での販売と契約販売など、自力で開拓しています。さらに、第6次産業の認定を受けてさまざまな加工品を作り、統一デザインのパッケージで売り出してブランド化にも成功しています。

有限会社東野のホームページ

出典:ヤンマーホールディングス株式会社「営農PLUS|営農情報|国産ニンニクの需要増加に合わせて、新たな「産地」をつくる!」内「栽培、加工、販売までを展開、地域貢献とビジネスを両立」(伊藤 仁午様 岐阜県恵那市 農業生産法人 有限会社東野 代表取締役)

出荷前のにんにく

はな / PIXTA(ピクスタ)

にんにく栽培は、2020年現在、国内でも限られた地域でしか行われていません。

各産地では高品質な品種の開発や、機械化一貫体系を活用した大規模化が進んでおり、大きな収益を上げている事例も見られます。また、小規模であっても、複合経営の1つとして比較的取り組みやすい作物と言えます。

ほ場の規模に合わせてにんにく栽培を取り入れ、気候に適した施肥と栽培法を工夫し、反収アップに取り組んでみましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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