【桃の新品種】農家がこれから栽培するなら? メリット大の特性別品種一覧
桃は品種改良が活発に行われている果実です。単価が高い時期に収穫できる品種や省力化が可能な品種、特定の地域で生産される品種など、さまざまな特性を持つ品種を紹介します。
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目次
桃は品種改良が活発に行われており、どの品種を選ぶかによって収穫時期や栽培方法が異なります。さまざまな新品種の特徴を紹介するので、新しい品種の導入を検討している方は参考にしてください。
選定のポイントは? 品種改良が進む桃の現状
masy / PIXTA(ピクスタ)musashi / PIXTA(ピクスタ)
桃は、新品種の開発が活発に行われている果実です。既存品種よりも、栽培の効率化しやすさや高収益化といった農家にとってのメリットが大きい特性を持った品種も多く登場しています。
桃は経済樹齢が短く、品種や環境にもよりますが、15~20年程度で新しい樹に更新する必要があります。その際には、次のようなポイントから経営方針を定め、目的に合う新品種を検討してください。
●主力品種が出回る前に出荷できる
●収穫時期を分散し、長期間にわたって出荷できる
●栽培特性が園地の環境や希望の栽培方法に合っている
●食味が良好で市場競争力が高く、高単価が狙える
近年になって品種登録された桃の品種の中から、上記の特徴に合ったものを紹介します。
早期収穫が可能! 高単価を狙える極早生品種
akicya / PIXTA(ピクスタ)
栽培農家の多い主力品種が出回る前に収穫して出荷できると、単価が高くなり、収益性を高めることができます。このような極早生の特性を持った新品種を2つ紹介します。
高糖度で食味も良好な白肉品種 「ひめまるこ」
桃の極早生には「ちよひめ」などがあり、満開から約70日で収穫できます。「ひめまるこ」は、さらに9日ほど早く収穫することが可能です。果実は170gほどと小さめで、果肉は白色で糖度が15%と高く、酸味が少ないので食べやすい点も特徴です。
ひめまるこは2019年に新品種として出願され、2021年に品種登録されました。育成された茨城県つくば市では6月上旬に成熟しますが、つくば市以外にも「ちよひめ」や「はなよめ」を栽培している地域であれば、栽培に適していると考えられます。
なお、ひめまるこという名前は、やや小さくてかわいらしい桃であることに由来します。また、裂果することが少なく、着色も良好なため、無袋栽培が可能です。
やや小ぶりながら食味に優れる黄肉品種 「ひめこなつ」
「ひめこなつ」は開花から収穫までが約60日と、従来の早生よりもさらに10日以上早く収穫できる品種です。
3月中に開花する温暖な場所であれば、5月下旬から6月上旬には収穫できます。梅雨が始まる前に収穫可能なため、雨による品質低下を回避でき、品質と収量が安定している点もひめこなつの特徴です。
ひめこなつは2007年に新品種として出願され、2009年に品種登録されました。果実は120gほどと小さめで、果肉は黄色で糖度は12%超、酸味と渋みがいずれも少なく、食べやすい品種です。
ひめこなつも裂果が少なく、無袋栽培ができます。桃を栽培している地域であれば栽培可能ですが、収穫期が早いため、温暖な地域の露地栽培に適しているといえるでしょう。
暖冬適応から省力化まで。 栽培特性に強みのある新品種
あこたま / PIXTA(ピクスタ)・papilio / PIXTA(ピクスタ)
栽培特性に特徴がある品種としては、暖冬でもよく結実する品種や、花粉が多く受粉樹や人工授粉作業が必要ない品種、無袋栽培が可能な品種などが挙げられます。
以下では、無袋栽培が可能な3品種を紹介します。
東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)
冬の気温が高くてもおいしい実をつける 「さくひめ」
温暖化の影響で西日本の暖地では、低温要求時間を満たせず、結実しにくくなる品種がでてきました。
「さくひめ」は、開花から収穫までに約90日かかりますが、低温要求時間は555時間(茨城県つくば市)と主要品種の約半分と短く、温暖化によって冬に気温が下がらない地域で安定した収量が見込める品種です。花粉があるため受粉樹が不要で、栽培しやすい点もさくひめの特徴です。
さくひめは2016年に新品種として出願され、2018年に品種登録されました。果肉は白色で、果実の重さは250g程度、糖度は12~13%で酸味が少なくて食べやすい品種です。
日川白鳳に比べると果皮の一部に緑色が残りやすいですが、落果や核割れが少なく、比較的栽培しやすい傾向にあります。ただし、開花時期が早いため、晩霜害のリスクがある点には注意が必要です。
なお、さくひめの名前は一般的な品種よりも開花時期が早いことに由来します。
出典:農研機構
「品種詳細 さくひめ」
「プレスリリース (研究成果) 西南暖地に向く早生モモ新品種「さくひめ」」(2017年6月28日)
無袋栽培でも高い外観品質を保つ 「つきかがみ」(黄肉品種)
「つきかがみ」は茨城県つくば市では4月上旬に開花時期を迎え、収穫時期は8月下旬です。6月頃に収穫となる桃もある中、かなり遅めといえるでしょう。また、花粉があるため人工授粉が不要で、なおかつ樹勢が強くて栽培しやすい点も特徴です。
つきかがみは2010年に新品種として出願され、2011年に品種登録されました。果肉は黄色で、果実の重さは350g程度と大きく、糖度は13~14%、酸味は「黄金桃」よりやや少なく食べやすい品種です。
桃を栽培している地域であれば、つきかがみを栽培できます。果皮の荒れが少ないため外観品質が良く、無袋栽培が可能な点もつきかがみの魅力です。
出典:農研機構
「品種詳細 つきかがみ」
「プレスリリース 大果で食味の優れる黄肉モモ新品種「つきかがみ」」(2010年10月27日)
袋掛けを省略可、リレー出荷の中継ぎを担う 「つきあかり」(黄肉品種)
「つきあかり」は4月上旬に開花し、7月下旬から8月上旬に収穫される品種です。同じく黄色果肉の主要品種である「黄金桃」よりも2週間ほど早めに収穫でき、収穫時期が異なる桃を栽培している農家では、リレー出荷の中継ぎを担います。
つきあかりは2008年に新品種として出願され、2010年に品種登録されました。果実の重さは250g程度、糖度は14%と高めで酸味が少なく、味が安定していることが特徴です。
東北から九州まで、桃を栽培している地域であればつきあかりを栽培できます。微細な裂果が生じることはありますが、深刻な状態に陥ることは少なく、無袋栽培にも適しています。
株式会社キタデザ(北村笑店) / PIXTA(ピクスタ)
各地域での開発状況は? 桃の生産地別・最新品種情報
労力を軽減できる品種や極早生、リレー出荷向きなど、さまざまな特徴を持つ桃の新品種が開発されてきました。また、桃の生産地において近年開発された新品種も少なくありません。
続いて、該当地域のみで生産されることが前提となっている新品種をいくつか紹介します。
taka / PIXTA(ピクスタ)
山梨県: 梅雨期の栽培性に優れる「夢みずき」&極早生品種「ひめっこ」
山梨県では、桃の収穫時期が梅雨期と重なることが多く、味や着色が劣化するという問題を抱えていました。
2011年に新品種として出願され、2013年に品種登録された「夢みずき」は収穫時期が7月中旬から下旬とやや遅く、梅雨期と重なりにくい品種です。果実は350g程度と大きく、果肉は白色で比較的味が安定しています。
広く栽培される白鳳と比べると収穫時期がやや早く、並行して栽培しても作業が重なりにくい特徴もあります。ちなみに、夢のようにみずみずしいことからその名前がつきました。
また、2010年に新品種として出願され、2012年に品種登録された「ひめっこ」は、果実が175g前後と小ぶりではあるものの、6月中旬から下旬に収穫できる極早生です。果肉は緑がかった白色で、果肉繊維と果汁が多い品種です。
ひめっこも白鳳と比べて収穫時期が早く、並行して栽培しやすい品種です。小玉で可愛らしい様子をお姫様に例えたことから、その名前がつきました。
出典:山梨県「山梨県果樹試験場研究報告 第13号」所収
「モモ新品種‘夢みずき’」「モモ新品種‘ひめっこ’」
福島県: 果実品質に優れる早生品種 「ふくあかり」
「ふくあかり」は2013年に新品種として出願され、2016年に品種登録された桃です。糖度が12~14度以上と甘味が強く、果実の形が優れています。
7月下旬に収穫される早生ですが、早生品種にしては果実が250~300gと大きいことも特徴です。苗木は福島県内でのみ配布され、現在普及活動中です。
出典:
福島県「福島県オリジナル品種」 所収「オリジナル新品種(モモ)「ふくあかり」について」
福島県「種苗法の一部改正について」 所収「県オリジナル登録品種ごとの取扱い」
農林水産省「品種登録ホームページ|登録品種データベース|ふくあかり」
岡山県: 「白皇」、「白露」が栽培開始。試験中の新品種も
「岡山PEH7号(白皇)」と「岡山PEH8号(白露)」は2014年に新品種として出願され、2016年に品種登録されました。いずれも2015年から岡山県内で栽培されています。
白皇、白露とも、清水白桃より糖度が高く、白皇の果実は白色で、種の周りは濃い赤色、繊維が少なく、糖度が16~17%と高いことも特徴です。一方で白露は果実が400g超と大きく、果肉は白色、糖度は15度前後と高めです。
また、2018年に品種登録された「岡山PEH9号」は果実が240gほど、糖度が安定して高い品種です。結実不良が少ないため、栽培しやすいことも特徴といえるでしょう。
出典:
岡山県 農林水産総合センター 農業研究所「平成26年度試験研究主要成果」 所収「「白鳳」と同時期に成熟する中生のモモ新品種「岡山モモ17号」の育成」
岡山県「育成品種一覧と現在登録のある品種・商標の紹介」所収「白 皇 (R)(はくおう)」「白 露(R)(はくろ)」
株式会社日本経済新聞社「日本経済新聞 中国・四国」(2017年10月26日)「「白皇」「白露」 岡山、桃の新ブランド2種 19年以降本格出荷」
株式会社産業経済新聞社「産経新聞」 (2017年10月31日)「岡山白桃新品種、「白皇」「白露」に 清水白桃しのぐ糖度、新ブランド期待」
岐阜県: 主力品種の中間時期に収穫できる 「飛騨おとめ」
「飛騨おとめ」は2012年に新品種として出願され、2013年に品種登録された桃です。
8月中旬~下旬に収穫できるため、岐阜県の桃農家で主力品種となる白鳳と「昭和白桃」の中間時期に収穫できます。平均果重は320gと大きめで、糖度が16%以上と高く、甘味の強さも特徴です。
出典:岐阜県中山間農業研究所「研究成果|平成25年度」所収「大玉で糖度が高く食味が優れるモモ新品種「飛騨おとめ」」
nakaphoto / PIXTA(ピクスタ)
【参考情報】 桃の品種特性は“台木”によっても変化する
特筆すべき強みのある桃品種を紹介しましたが、同じ品種でも台木によってその特性が変化することに注目しましょう。例えば、低温要求量が少ない「オキナワ」を台木とすると、「おはつもも」を台木とする場合よりも低温要求の時間が少なくなる傾向にあります。
また、「ひだ国府紅しだれ」を台木とする場合は、おはつももよりも桃の樹の主幹障害が発生しにくくなるという報告もあります。健全な樹体生育を維持するためにも、検討してみてはいかがでしょうか。
そのほかにも、「ネマガード」を台木にすると樹冠拡大が早く、早期多収性が向上するという報告もあります。ひだ国府紅しだれは樹冠拡大がやや遅いですが、幹の断面積当たりの収量が多くなるため、生産効率が向上します。
桃の品種ごとの特性だけではなく、台木にも注目することで収穫時期や収量などを制御しやすくなります。
複数の品種の桃を栽培する場合には、リレー出荷がうまく機能するように収穫時期をコントロールする必要があります。適切な品種と台木を選び、効率性の高い栽培をめざしましょう。
▼桃の多品種栽培などについては、こちらの記事もご覧ください。
桃は毎年多くの新品種が誕生しています。外観や糖度、果汁の多さなどが異なるだけではなく、極早生や早生、無袋栽培が可能な品種など、さまざまな特徴がある桃も多く開発されています。地域ごとに開発された桃もあるため候補として検討できます。
また、台木によっては生産効率や収穫時期をコントロールしやすくなるため、併せて検討されてはいかがでしょうか。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。