草刈りロボットは決して安価なものではないため、慎重に導入を検討する農家も少なくありません。しかし、近年では位置情報や作業履歴を活用できる機種も開発されており、作業可能な範囲も広いためコストパフォーマンスは優れています。

除草作業の自動化によって生まれた余力・人員を別の農作業に振り向けられるため、農業の生産性向上にも効果を発揮します。

まず、農業で草刈りロボットを導入するメリットとして、主に以下の3つが挙げられます。

除草作業の省力化

ロボット草刈機はリモコン操作や自律走行で運転できるため、除草作業の省力化につながるのがメリットです。除草作業の省力化で生まれた余力を別の作業に振り向けられるため、収益拡大のチャンスも生まれるでしょう。

さらに、斜面からの滑落や飛散物による負傷、高温下での熱射病などのリスクも回避でき、作業者の労働環境の改善にもつながります。

近年では農業の担い手や農繁期のアルバイト不足が深刻化していますが、作業員が足りない状態でも除草作業を実施できるので作物の病害虫リスクの軽減にも効果的です。

耕作放棄地や荒廃農地の除草作業が可能

大地爽風 / PIXTA(ピクスタ)

草刈りロボットを導入すると、作業者の立ち入りに危険が伴う場所でも安全に除草作業を行えます。耕作放棄地や荒廃農地でも除草作業が可能なため、農地再生の目的でも活用されています。

ロータリー耕耘で除草すると、雑草の種子が土壌に埋め込まれ、農地再生後に雑草に悩まされる事例も見られます。しかし、草刈りロボットの場合は土壌表面の雑草だけを刈り取るため、種子を土壌に埋め込むことなく処理でき、雑草対策の効果が高まります。

さらに雑草対策の効果を高めるためには、草刈りロボットで除草した後に除草剤の散布や大型プラウによる反転耕を実施するのがポイントです。

位置情報や作業履歴のデータ活用が可能

草刈りロボットの機種によっては、RTK-GNSS（位置情報データによって基準地から現在位置を特定する技術）で高精度な位置情報を取得したうえで自律移動が可能です。ほ場の外周にエリアワイヤーを張って、作業エリアを指定できる機種もあります。

また、画像認識機能により、樹木などの障害物の位置や草刈りが済んだ場所を検出して高精度かつ効率の良い除草作業を実施できます。

さらに、作業履歴のデータを活用して適切な除草時期を予測し、除草を行うことで、病害虫の発生リスクの軽減を図ることも可能です。

草刈りロボットは作業者の負担軽減はもちろん、作物の鳥獣被害の防止にも効果を発揮します。ここでは、除草作業の省力化のために草刈りロボットを導入した事例を紹介します。

水田畦畔斜度45度に対応。軽量化と手頃な価格を実現

過疎地での農業ロボット実証実験のお披露目会開催のご案内
出典：株式会社PR TIMES（信濃ロボティクスイノベーションズ合同会社 ニュースリリース 2021年11月1日）

長野県農業試験場では水田畦畔管理の省力化をめざし、株式会社牛越製作所や芝浦工業大学などとの産学連携によりラジコン草刈機「かるずらー KZ-05」を開発しました。

従来の刈払機では振動が人体に影響を与えるため、作業時間の制限もあり、十分な作業ができないことや、斜面での除草に伴う作業者への負担の大きさが課題でした。

「かるずらー KZ-05」は最大45度の水田畦畔斜度、草高60cm程度までの除草に対応でき、除草の安全性と精度の向上を実現しています。

作業時間は刈払機での作業の3割程度まで短縮され、草刈性能も刈払機より高く、自走式斜面草刈機と同等です。また、機器の重さは65kgで、軽トラックで運搬できます。

価格は130万円（税別）と、導入コストも低めに抑えられています。現在、市販化モデル「カルズラーデラックス KZ-05」が長野県内の代理店を通じて販売されています。

製品ページ：株式会社牛越製作所「かるずらーKZ-05」

出典：
農林水産省 関東農政局「 スマート農業｜スマート農業フォーラム202｜スマート農業機械マッチング on the Web｜草刈機：リモコン草刈機 カルズラーDX（（株）牛越製作所）」
同ページ所収のカタログ「リモコン式水田畦畔草刈機「カルズラーDX」の開発と特徴（長野県農業試験場・（株）牛越製作所）」
一般社団法人システム情報制御学会 学会誌「「システム／制御／情報 65巻12号」所収「水田畦畔管理の必要性と長野県における水田畦畔草刈機の開発について（長野県農業試験場・芝浦工業大学・明石工業高等専門学校）」

果樹園の下草刈りで活用。夜行性動物による被害がなくなる副次的効果も

鳥取県倉吉市のJA鳥取中央 倉吉梨生産部は、果樹園内の除草に草刈りロボットを活用して作業の省力化と安全性の向上をめざしています。

梨の栽培管理作業が多岐にわたるため、作業の効率化が課題でした。一方、除草作業は軽作業であるものの、梨のジョイント栽培を導入しているほ場では樹・柱が多数存在するため、作業の安全性の確保も重要です。

草刈りロボットを導入することで、下草刈りをはじめとするほとんどの除草工程を無人化できました。また、草刈りロボットの自動運転により夜間の除草も可能となり、副次的効果としてほ場周辺での夜行性動物による被害も減少しました。

出典：
農林水産省「農業新技術活用事例（令和3年度調査）」所収「ロボット草刈機の導入によるジョイント栽培梨園の下草刈刈り省力化の実現（鳥取県）」
鳥取県「中部総合事務所｜農林局｜倉吉農業改良普及所｜果樹園へのロボット草刈機導入について動画を作成しました！」

草刈りロボットは、農業機械メーカー各社からさまざまな製品が販売されています。ここでは、代表的な草刈りロボットの特徴や価格の目安を紹介します。

クローラ型ラジコン草刈機　RJ705「神刈」（株式会社アテックス）

価格の目安：約400万円
特徴：最大45度の傾斜地での除草が可能で、除草時の石の飛散も大幅に軽減。ロボットの移動時は電動、草刈時はエンジン駆動のハイブリッド仕様で、作業効率の良さと経済性の両立が図られている

製品ページ：株式会社アテックス「RJ705 / RJ705-W（防水プロポ仕様）ハイブリッドラジコン草刈機」

ラジコン草刈機　ARC-500（株式会社クボタ）

メーカー希望小売価格：1,487,200円
特徴：最大法面角度は40度で、角度に応じて車輪が自動で山側を向くため作業時の安定性を確保できる。エンジンの負荷に応じて燃料の噴射量が自動制御され、パワーと燃費のバランスが取れた機種

製品ページ：株式会社クボタ「ARC-500 クボタラジコン草刈機」

電動リモコン作業機　スマモ（株式会社ササキコーポレーション）

価格の目安：約200万円
特徴：走行ユニットと草刈アタッチが分離しているため、ほ場の形状や障害物の有無に応じてアタッチを交換して効率良く除草作業を実施できる。本体の高さは約40cm、法面傾斜角は最大60度なので狭い場所や急傾斜地でも安全な作業が可能

製品ページ：株式会社ササキコーポレーション「電動リモコン作業機スマモ」

動力カートリッジ切替式草刈機　RAYMO（サンエイ工業株式会社）

価格の目安：非公表
特徴：ほ場環境や用途に応じて、バッテリー駆動とプラグインハイブリッド（PHV）駆動を選択可能。PHVカートリッジを利用した場合は最大8時間まで稼働でき、広いほ場でも除草中の給油・充電の手間が省けるのが特徴

製品ページ：サンエイ工業株式会社「草刈機・茎葉裁断機」所収「ラジコン草刈機　Raymo レイモ」

リモコン式草刈機　AJK600（三陽機器株式会社）

メーカー希望小売価格：1,767,700円
特徴：4輪駆動による走破性能の高さと11.8馬力の高出力エンジンにより、平坦地はもちろん傾斜地でも安定した作業効率を発揮。前進・バックどちらでも除草作業ができる分、作業時間の短縮にもつながる

製品ページ：三陽機器株式会社「草刈機ラインナップ > AJK600」

ラジコン式斜面対応草刈機　Spider（ソフトバンク株式会社・株式会社レンタルコトス）

価格の目安：非公表
特徴：4輪駆動を維持しながら360度方向へ移動できるので、ほ場の形状や障害物の状況にかかわらず高い作業効率を発揮。車体を90度に傾斜できるため、メンテナンスもスムーズに行える

製品ページ：株式会社レンタルコトス「ラジコン式草刈機　スパイダーシリーズ」

ロボット草刈機　KRONOS MR-300（和同産業株式会社）

メーカー希望小売価格：583,000円（充電ステーションセット込み）
特徴：エリアワイヤーで区切った範囲内であれば、最大3,000㎡まで除草作業が可能。充電1回当たりの最大作業時間は1時間。自動で充電ステーションに帰還して充電する機能があるので作業効率の低下を防げる

製品ページ：和同産業株式会社「ロボモア（自動走行無人草刈機）KRONOS」

草刈りロボットの導入により、ほ場の除草作業の省力化や安全性の向上が期待できます。エリアワイヤーやRTK-GNSSを活用した自動運転に対応した機種も開発されています。

これまで草刈りに必要だった作業員を別の農作業に振り向けることで、人手不足対策や収益力向上に寄与できる点も、草刈りロボットの特徴です。また、耕作放棄地や荒廃農地の再生にも草刈りロボットを活用する事例もみられます。